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魔界での旅

作者:堕天使シュベルトさん


 妹達と暮らし始めて1週間。兄はその個性豊か過ぎる妹たちと暮らすことがどれだけ大変かということがわかった。いや、もとから大変だとは思っていたのだが、予想以上の疲れが彼の体にきているのだ。

 妹達がやってきたその日、とりあえず自己紹介を行うことにした。それはもちろん兄は誰が誰かを知るためでもあった。しかもそうすることで他の妹たちも名前を知ることができると考えて行ったのだ。
 しかし、兄の思惑通りに事は進まなかった。というのも彼女達はお互い知っていたのだ。よくよく話を聞いたら、年に何度か会っていたらしい。つまり知らないのは兄だけだったのだ。

(何で僕だけ仲間外れみたいな状態なんだ。父さん、母さんの馬鹿やろう!!)

 兄は心の中で泣いた。
 何はともあれその日は穏やかに過ごし、妹達も家になれるために家の中を一通りまわった。
 ただ1つ、兄は疑問に抱く事があった。それは自己紹介が終えた後にそれぞれの部屋に行くとき、みんながみんな家の見取り図を出して部屋に向かったのだ。
 妹の1人(確か四葉だった気がする)の見取り図を見たとき、僕が使ってる部屋のとなりが赤いペンか何かで塗られていた。

「あのさ、四葉ちゃん」
「ちゃんはつけなくていいってさっき言ったデス兄チャマ」

 そう言えばさっきそんな事を全員に言われたなぁ、などと考えながら彼は続けた。

「ああ、ごめん。それより、この赤い場所って何?」
「ここが四葉の部屋デス」
「ああ、そうなんだ。でもこれって父さんが勝手に決めたの?荷物届いた時もこんな見取り図が入った封筒が渡されてさ」
「部屋は前に皆が集まったときにみんなで決めたデス」

 四葉が答えたように、兄の妹たちは荷物を家に送る前にどの部屋を使うかをゲームをして決めたのだ。というのも誰もが兄の隣の部屋を選んだからだ。その結果四葉がすぐ横の部屋、廊下をはさんだ兄の横の部屋が亞里亞ときまったのだった。

(僕ってもしかして何にも決める権限ないのかも・・・)

 部屋といい、今回一緒に住むと決まったことといい、兄にはまったくの発言権がない事を知ってどこか悲しくなった。

 

 

 

「・・・兄くん・・・生きてるかい・・・?」

 そんな声が聞こえたと思って兄は目がさめた。

「うー――ん、今のは千影かい?」

 そう言って兄は周りを見る。だが

うわ―――!!ここどこ?!

 さっきまで千影の部屋にいたと思っていたのに、いつのまにか草原の中にい横たわっていた。

「そこは・・・魔界だよ・・・兄くん」
「魔界?!ってお前どこにいるんだよ!!」

 そう、声はするがまったく千影の姿は見えないのだ。

「私は・・・私の部屋にいる・・・。私は・・・部屋から兄くんの様子を・・・水晶玉を通してみているのだよ・・・。それで兄くん・・・とってきてもらいたい物があるのだ・・・」

 兄は現在の状況を認識するのに少々時間がかかった。そして彼はわかった。

「つまり千影、おまえは僕に何かをとりに行かすためにあのわけのわからない模様の上に立たせたんだな」

 しばらくの沈黙の後、千影はなんのためらいもなくこう言ってきた。

「とってきてほしいもの・・・それはマンドレイクなんだよ・・・兄くん・・・」
「話し聞けよ千影!ってマンドレイク?!

 自分の言った事について反応を見せなかった千影につっこみを入れようとしたとき、千影の言ったとってきてほしいもの事を理解した。
 マンドレイクといえば、よくゲームの中にも出てくる薬草(?)で、引っこ抜くときに出す声(音?)を聞くと死んでしまうという品物だ。

「そうマンドレイク・・・。次に行う実験で必要なんだ・・・。なのに・・・今切らしてしまっていてね・・・。仕方なく採りに行かなくてはならないんだが・・・私は今日咲耶くんとの約束があるから・・・。だから兄くん・・・君に採ってきてもらいたいんだ・・・」
「ちょっと待て千影。お前、俺を殺したいのか?!」

 どこから聞いているのかはわからないがとりあえず兄はまわりに叫ぶ。

「大丈夫だよ・・・兄くん・・・。兄くんに渡したロザリオを持って抜けば大丈夫だよ・・・。それじゃ・・・私は行かなくてはいけないから・・・」
「ちょっと待て千影!ここにいる以上仕方ないから採ってくるけど、そのマンドレイクってどこにあるんだよ。それに僕はどうやったらもとの世界に戻れるわけ?」
「忘れる所だった・・・。兄くん・・・君が今向いてる方向に山が見えるだろ・・・」
「ああ、見えるよ」

 確かに前方に結構高そうな山が見えている。よくよく見ると雲を突き抜けている・・・。

「・・・そのふもとにあるよ・・・」
「それじゃ帰り方は?」
「マンドレイクを引き抜いたらロザリオに向かって話し掛けてくれ・・・。私が気づけば・・・こっちで兄くんを転送するから・・・」
「千影がもし気づかなかったら?」

 再び沈黙。今度のはさっきの沈黙よりも嫌な感じがする。 「・・・そんな心配はしなくて大丈夫だよ・・・兄くん・・・。それじゃまた来世・・・」
「ちょっと待て!今来世って言っただろ!僕をかってに殺すな!!」

 兄は叫ぶがそれ以降は千影の声がまったく聞こえなくなった。
 仕方なしに目の前に聳え立つ山のふもとにあるはずのマンドレイクを採りに歩き出した。

 そのころ千影は

「・・・咲耶くん・・・何なんだいその写真は?」
「これ?四葉が今日撮ったお兄様の写真なのよ。見る?」
「・・・そうだね・・・ちょっと見せてもらおうかな・・・」

 その返事を待ってたかのように咲耶は千影に写真を見せる。
 写真を見た直後、千影はゆでたこのように顔を赤くして
「・・・セミヌード?!・・・」
 っと、その写真がどんな写真なのかを呟いてしまった。

「千影、顔真っ赤よ。これぐらいで顔赤くしてどうするのよ」

 そういう咲耶も微妙に顔を赤くしていた。もっとも、千影ほどではないが。

 そういえば先ほど咲耶を呼びに広間に言ったとき花穂や白雪といった小学生組みと可憐と衛、それに四葉は顔を真っ赤にさせていたのを思い出した。もっとも、その場にもうすでにいなかった鈴凛や鞠絵、春歌がどんな風な顔になっていたかはわからないが。

「さあ買い物行くわよ!!」

 写真を懐にしまった咲耶は、千影の手を勢いよく引いて玄関へとまっしぐらに早歩きで向かった。
 誰が見ても今日の彼女はハッスルしている。

 

 

「そうか、お前も大変だな」
「ありがとう。でも君も大変なんでしょ?」
「まあな。お互いたくさんの妹を持つと大変だな」
「まったくだね」

 兄は隣を歩いてきているケルベロスと仲良くしゃべっている。
 なぜこんなことになったのか。それは30分ほど前をさかのぼらなければならない。

 30分ほど前、ちょうど兄が歩き出した直後、ケルベロスが突然彼の目の前に現れたのだ。

「うわ?!あ、頭が3つある狼?・・・それってもしかしてケルベロス?!」
「ほう、俺の種族を知っているのか、人間よ。なら話が早い。俺の家族の糧になってもらうぜ!」

 そう言ってケルベロスは即座に三つの顔から炎を噴出す。

「うわ――!!ちょっと待てケルベロス!!」

 兄は炎を何とかよけてケルベロスに呼びかける。

「どうした。命が惜しいのか?」
「あたりまえだろ!何でいきなり殺されなきゃなんないんだよ」
「それはお前がここに来たからだよ、人間」
「ここに来たから?何でそんな理由で殺されなきゃなんないんだよ!」
「この魔界は人間の侵入を完全拒否した、お前たちから言わせれば特異な世界だ。通常ではここに人間が現れることはない。もし現れるとしたら、そのものは自分の力を試すため、もしくは自分の力を伸ばすため試練としてここに来るのだ。まあ例外はあるがな」
「僕はそんな理由でここにきたんじゃない。って言うか、勝手にここに送られたの」
「送られた?誰にだ?」

 妹にここに勝手に転送されたとはさすがに恥ずかしくて言えない兄は、危機的状況にも関わらず、その事を言うのをためらってしまった。

「・・・ちょっと言うのは恥ずかしいな・・・」
「言わないのならば今すぐ糧にする」
「ああ、言うよ、言うよ。僕の妹にだよ」

 振り落とされようとするケルベロスの爪を見て、それまで以上に危機感を感じた兄がしぶしぶ、それでいてあわててそう答えた。

「妹?」
「そうそう」

 そう言って兄はケルベロスに今日起きた出来事をしゃべった。

「なるほど。妹にマンドレイクを採らされにここに転送させられたのか。わかるぜ、おまえの気持ち」

 そう言ってそのケルベロスは合計6つの目から涙を流し始めた。

「わかるのかい、僕の気持ちが?」
「ああ、俺には痛いほどわかるぜ」

 そう言ってそのケルベロスも身の上話をし始めた。話によると彼にも妹が8人と弟が2人いるらしい。

「弟のほうはまだいいんだ。あいつら、俺の辛さがわかってるみたいだからよ。でも妹のほうがな」

 そう言ってケルベロスは遠いほうを見るような目で空を見る。少し赤い空を。

「あいつら俺が寝てるときに夜這いかけてくるし、料理はうまいときもあるんだが、何を間違えたのかトリカブト混ぜたときがあってな。あの時は生死の境目を見たって言うのに、次の日に残ったからって同じ物出してきてよ。食べなかったら火ふいてくるから仕方なしに食べたけど、結局また死にかけたし」

 ケルベロスの体験談を聞きながら兄も思い出していた。
 それはみんなで一緒に住むことになった●月△日の夜。咲耶と春歌が別々に夜這いをかけてきたのだ。

「僕は一人で寝たいんだよ!」

 そう言ってその日は何とか追い出したが、時々みんなが寝静まったころにやってくるときがある。そんなときはたいてい兄もなぜか寝ていない。彼の第6感が「今夜危ないぞ」と教えているのかもしれない。
 それだけではない。●月△日の次の日、なぜか四葉に兄のその日のスケージュールがばれていた。まあもっとも特にすることがなかったのだが。四葉になぜ知っているのかを聞いてみると

「四葉は名探偵デス。いつも兄チャマの事をチェキしてるからわかるのデス」

 と返答された。ちなみにチェキとはcheck itつまり兄の観察(兄はすでに物扱いになってるが)のことらしい。
 そのときは特に気にもとめなかった兄だったが、盗撮などは日常茶飯事にやられ、時々クローゼットの中に四葉がいたり、着替えの最中に現れたり、部屋をいつのまにか探索されていたりっと兄なりに身の危険を感じて四葉にチェキ禁止を言おうとしたとき

「兄チャマは四葉にチェキされるの嫌デスか?」

 と上目遣いに涙目で言われて禁止と言えなくなってしまった。
 だから現在も四葉のチェキへの対抗策を考えている。

 とそんな事を思い返していると

「お前と俺はどうやら似たもの同士のようだな」
 とケルベロスが言ってきた。

「そうだよ。だからさ」
「ああ、お前は喰わねえぜ。ついでにいっしょにマンドレイク採りに行ってやるぜ」
「本当に?ありがとう」
「なーに、似たもの同士だからな。いいってことよ。」

 そう言ってマンドレイクを採りに歩き出した。
 ちなみにこのケルベロスの名前をアレスと名乗った。昔いた戦いの神からとった名だそうだ。

「それにしても、マンドレイクは人間が採ろうとしても採れない代物だぞ」
「ああ、それね。大丈夫。妹がこれもって抜けばいいって言ってたし」

 そう言って十字のロザリオをアレスに見せる。

「なるほどな。この十字のロザリオからは魔力を感じるな。こいつがマンドレイクの叫び声を吸収してくれるみたいだな」

 途中ちょっとしたことが起こったが、何とかマンドレイクがあるところまでたどり着き、そしてマンドレイクを手に入れることができた。

「それじゃお前もがんばれよ」
「うん。君もね」

 そう言ってアレスはもと来た道を戻っていった。

「それじゃ僕ももとの世界に戻るとしようかな」

 そう兄は呟いてから、ロザリオに向かって

「千影、マンドレイク採ったぞ」

 っと言ってみたのだが、数分間無駄に時間が流れても何の反応もない。

「おい、千影!聞いてるのか!」

 今度は怒鳴って言ってみる。すると、怒鳴ったかいがあったのか

「・・・うるさいな・・・兄くん・・・そんなに怒鳴らなくても・・・聞こえてるよ・・・」

 やっと千影の声がどこからともなく聞こえてきた。

「ほら、マンドレイク採ったぞ。だから早く戻してくれよ」
「・・・わかったよ・・・。それじゃ・・・ロザリオを・・・掲げてくれないか・・・」
「こう?」

 兄がロザリオを掲げて数十秒後、兄はそこから消えた。

 

 

「兄くん・・・兄くん・・・」

 魔方陣の中で倒れている兄を千影が揺さぶり、それによってようやく兄は目を覚ました。

「うー―ん、って、ここは?」
「・・・私の部屋だよ・・・」
「あれ?今までのは夢?」
「夢ではないよ・・・兄くん・・・。手を見てごらん・・・」

 そういわれて自分の手を見る。そこには魔界で採ってきたマンドレイクが握られてあった。そしてもう片方の手には千影が渡してくれたロザリオを握っていた。

「おお!あれは現実か!」

  兄はできれば夢であったと思いたかったらしい。しかし、現実にマンドレイクとロザリオを持っているのだ。そう考える事はもう出来ない。

「・・・それじゃ・・・これはもらっておくよ・・・」

 そう言って千影は兄の手からマンドレイクをとる。

「それじゃ、もう行っていいんだよな?」
「・・・いいよ・・・」

 千影の返事を聞いてから兄は部屋を出て行こうとドアのノブに手をかけたとき

「・・・あの・・・兄くん・・・」

 後ろから呼ばれて兄は振り向く。

「なに?」
「・・・今日は・・・ありがとう・・・」

 千影が顔を少し下にかたむけ、地面を見ながらそう言っている。どうやら少し恥ずかしいようだ。
 兄は千影の意外な一面を見たような気がし、千影には自分がそう思った事をばれないように気をつけて

「ああ、別にいいよ」

 少し笑ってそう答える事にした。

「それから・・・四葉くんのことは・・・あまり怒らないでやってほしい・・・」
「四葉のこと?」

 千影が意外な事をいったなんて思ったことにつっこまれるかと思っていた兄だったが、彼女の言ったことにそのとき兄は理解できず、首をかしげる事しかできなかった。

「覚えてないんだったら・・・それでいいんだよ・・・。それじゃ・・・また後で・・・」
「ああ、うん。それじゃまた後でね」

 兄は千影の言ったことが少し気になっていたが、千影がビーカーやポットなどをどこからともなく取り出して何かをし始めたので、千影の部屋から退出する事にした。

写真奪回へ

 

あとがき

 「魔界への旅の直前」の続きとなるこの「魔界での旅」。いかがでしたでしょうか?
 「魔界への旅の直前」の続きっと言うわけで、この作品もシスパラで掲載させていただいている作品の1つで、誤字や書式を少し変えたものを掲載させていただいているわけです。
 この話はこれで終わりではなく、この後に「写真奪回」というものがあり、3つで1つの作品となっております。ただし、「写真奪回」は「魔界への旅の直前」と「魔界での旅」となぜかちょっと違う感じです。具体的に言いますと、我ながらギャグを何とかいれれたと思われる作品になっているはずです・・・。はずって言うのがまたなんとも・・・。
 っと言う事で、続きの「写真奪回」も読んでいただけるととっても嬉しいです。

 ご意見ご感想、誤字脱字などの指摘などがありましたら、メールでのご連絡でよろしくお願いしますm__m
 それでは〜☆


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