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「なぁ……この状況、どう思う?」
「どうって言われても……なぁ?」
「うん……どうなんだろう……」
 自分達しかいない教室で、3人は大きな溜息をついた。


Wild Wind

第8話 病魔

作者:カッツォ


 時は、本日の朝まで遡る。
 彗は、いつも通り学校の用意をしていた。
 そこへ、いきなりの落下物。
 確認するまでもなく、四葉である。
「あぅぅ……」
「……どうした?」
 四葉が落ちてくることはさして珍しいことでもないのだが、今日はどことなく様子がおかしい。
 何というか、覇気が足りない気がした。
「ゴホッ、ゴホッ……」
「なんだ、風邪でもひいたか?」
「そうかもしんないデス……」
「どれ、ちょっと見せてみ」
 四葉を引き寄せ、額同士をつける。
 咲耶にでも見られたら部屋ごと消滅させられそうな光景だが、幸い誰にも目撃されることはなかった。
「結構あるっぽいな……今日は学校休んで寝てろ」
「ハ〜イ……」
 さすがに素直な四葉の背中を見ながら、あいつでも風邪ひくのか……などと、結構失礼なことを思った。
 が、すぐに事態はそう簡単なものでもないらしいことに気付く。
 まずは白雪が
「ケホン……にいさま、なんか風邪ひいたみたいですの……ケホ、ケホン」
「なんだ、お前か。学校、休むか?」
「そうしますの……ケホン」
「ゆっくり休めよ……それと、あんまり俺の味噌汁に咳入れないでくれ」
 続いて咲耶。
「お兄様……何だか身体がだるいの。悪いけど、学校に連絡入れといてくれる?」
「あ、あぁ。わかった」
 鈴凛。
「授業料はもったいないけど……今日は無理っぽいわ」
 春歌。
「申し訳ありません、ワタクシが風邪をひくとは……」
 こんな調子で、衛以外の全員が風邪をひいたらしいと言い出した。
 疑問を感じつつも2人だけで登校するが、その謎はさらに深まる。
 そう早い時間でもないのに、教室には誰もいなかったのだ。
 やがて別のクラス・学年から政樹と衛がやってきて、現在に至る。



「風邪、流行ってるのか?」
「いや、そういうレベルやないやろ」
「ほとんど人いないもんね〜」
「ほとんど……って、他にも人はいるんか?」
「うん、所々にいたよ。でも、学校で10人ちょっとじゃないかな……」
「圭ちゃんも休みみたいやしな……」
「ウチの妹も、衛以外全員だ。明らかに異常事態ってことだな」
 そんな中、いきなり教室のドアが勢いよく開いた。
 3人の視線が一斉に集まる。
 その視線を受けるのは、長い黒髪を後ろで束ねた、大人の色気漂う美人のお姉さん。
 彗と圭の担任、小野響子(おの きょうこ)である。
「なんだ、岡井、昇神妹、お前らこのクラスじゃないだろ」
「……この状況見て、第一声がそれッスか?」
 言われて、ちょっと室内を見回してみる。
 その顔に、「おや?」という表情が浮かんだ。
「学級閉鎖か……そういや、職員室にも誰もいなかったな」
「いやアンタ、そういう問題やないやろ! ってか、気付くの遅っ!」
「学級閉鎖というか、学校閉鎖だな。よし、お前ら帰っていいぞ」
「そっか……じゃ、帰ろっか?」
「そうだな。そういうことなら仕方ない。せっかく学校に来たのにアレだが」
「いや、お前らも素で帰ろうとすな!」
 政樹が1人で奮闘する中、再び教室のドアが開いた。
 今度は4人の視線が集まる。
「なんだ、まだこんなにいたのか」
「……うわぁ」
 政樹が思わず声を漏らす。
 いろんな意味を含んだ「うわぁ」である。
「お前……何?」
「俺か? 俺はこの世の全てを病ませる者、ウィル様だ!」
 政樹に問われ、そいつは名乗った。
 だが、聞きたかったのはそんなことではない。
 真っ黒な身体に、ものすごく悪い目つき。
 頭からは太い触覚のようなモノが生え、手には大きなフォークのようなものを持っている。
 よくある、バイキンを絵にしたやつそのままである。
 明らかにツッコミ所は満載なはずだが、政樹以外は全員シリアスモードに入っていた。
「おやおや、よく見りゃ風紀委員の隊長さんもいるじゃねぇか」
「ここらで流行ってる風邪、お前のせいか?」
「フフ……そう思うか?」
「いや、あからさまやん」
 ツッコミを入れつつも、とりあえず戦闘体勢に入る。
 ウィルと名乗ったディファー、彗はとっくにやる気満々だ。
 同時に動こうとしたその時、
「おい、お前ら」
 小野の声で、全員がつまづきかけた。
「……何ですか?」
「教室、壊すなよ?」
「…………善処します」
 政樹がいる時点で無理っぽいなぁ……と思いつつも、彗は曖昧に返事した。
 再び三者が構えをとる。
 最初に動いたのは政樹。
「エクスプロー……」
   ゴン!
 が、動いた直後に止められた。
 止めたのは、小野響子がいつの間にか持っていたハンマーである。
「何するんスか……」
「そりゃこっちのセリフだ。教室壊すなって言ってるだろうが」
「どないせいっちゅうんですか」
「素手で戦え、素手で。ガラス一枚でも割ったら承知しないからな」
「結構無茶言いますね……」
 ブチブチ言いながらも、今度は肉弾戦の構えをとる。
 そのままほとんど間を置かず、敵に走り出す。
「今度こそいくでぇ!」
 出されたパンチをウィルは軽い横跳びで避けた。
 直後、息を大きく吸い込み、すごい勢いで政樹に向かって吐き出した。
「なっ……?」
 身体から力が抜けていくのを感じた。
 頭が重く、息苦しい。
「……政樹?」
「フフフ……俺様特製の菌を吹きかけてやったのさ。街にばら撒いたのは効かなかったようだが、この至近距離で大量に吸い込めば……」
 アゴで政樹を指す。
 すでに立っているのも厳しいらしく、壁に身体を預けている。
「何かオレ、最近こんな役ばっかやない……?」
 それでも余裕はあるようだった。
「っ!! やべぇ!」
 突然、彗が突風を発生させた。
 机が飛び、窓が全て割れる。
 何の前フリも無しだったため、衛と響子は大きくよろめいた。
「わわ! 何なの、あにぃ!」
「昇神! 教室を壊すなって言ってるだろうが!」
「そんな場合じゃないですよ!」 
 だんだん、風が弱まっていく。
 そして、再び教室内はほとんど無風状態になった。
「無駄無駄。お前らはもう感染済みなんだよ。だいたい、風で菌を防げるわけないだろう」
「チッ……」
 彗が膝をつくのとほぼ同時に、響子も座り込んだ。
 二人とも、苦しげな息を吐いている。
「しくじった……な……」
「ホンマやねぇ……」
 立つことぐらいはできるだろうが、大きな攻撃ができる程の体力は残っていない。
 次の行動に考えを巡らせるが、頭がボーっとするせいで思考もまとまらない。
 そんな中、やけに元気が声が響いた。
「あにぃ!? みんな、どうしたのさ!」
「衛……?」
「お、お前! 俺の菌がきいてないのか!?」
「は? 何が?」
 困惑した顔で、衛が聞き返す。
 本気でわかっていない顔である。
 余裕だったウィルの表情が、一変して険しくなる。
「なら、もっときついのをくらわせてやるよ!」
「うわ!?」
 一気に間合いを詰め、衛の目の前にウィルが現れた。
 さっきよりも、さらに激しく息を吹きかける。
「はぁ……はぁ……どうだ! さっきの10倍は強力なやつだぜ!」
「もぅ……変なことしないでよ、気持ち悪いなぁ……」
「のぇ!? 今のでも効いてないのか!?」
 ガーンと、ウィルは大きく口を開けた。
 普通なら即死ものの菌を、30人分はあびせた。
 にも関わらず、衛は咳をする様子すらない。
 衛のハテナ顔が、余計に神経を逆なでするらしい。
「ちくしょう! おちょくりやがって!」
「だから何がさ」
「こうなりゃ……俺が直接行ってやる!」
 言いながら、ウィルの身体がどんどん小さくなっていく。
 やがて姿は見えなくなり、声だけが聞えるようになった。
「ははぁ! 行くぜ!」
「?」
「ははぁ! 行ったぜ!」
 今度の声は、衛の体内から聞えた。
 衛の口から別の声が聞えるという、何とも妙な光景だ。
「うわ、気持ち悪〜……自分の中から声がする……」
「フフ……今度こそ覚悟しやがれ!」
「だから……何が?」
 この期に及んで、まだ状況がわかってないらしい。
 緊張感の無い顔で、1人首をかしげる。
 その間にも、実況中継のように体内から声は聞えている。
「あ、あれ?」
「?」
「お、おい! 何だこりゃ!」
「?」
「あ、やべぇ……」
「?」
「ぐ……ぐわぁぁぁぁ!」
「……?」
 衛の身体から、突然断末魔の声のようなものが聞えた。
 当然、衛のものではない。
 直後、彗たちの身体がすっと楽になった。
「なんや? どうしたんや?」
「う〜ん……こりゃたぶん……」
「たぶん、何や?」
「衛の身体が敵を倒したんだろう。この菌は、奴が死ねば消えるもんだったらしいな」
「身体が?」
「風邪の菌とかが入ってきても、普通は白血球とか抗体とかがやっつけるだろ? それと同じだ」
「同じって……ディファーやろ?」
「体内に入った異物、って点では同じだ」
「いや、だからって……」
「あぁ……尋常じゃない抵抗力だけどな」
「?」
 ちらっと衛に目をやると、まだ首をかしげていた。
 結局、最後まで何が起こったのかわからなかったらしい。
 こんなのにやられた相手も、何となく浮かばれない感じがする。



「しかし、今回は結構危なかったな〜」
「あぁ。この前敵の大将も出てきたし、そろそろ向こうも本気なのかもな」
「本気……にしてはアホやなかった?」
「いや、ボスがアレだしな……」
「……そういやさ、街中が病気になってたのに、何で一部だけが無事やったんやろうな? オレらとか」
「やっぱ、抵抗力が強かったんじゃねぇの?」
「そうだな。私も、身体は昔っから丈夫な方だ」
「先生……また、唐突に入ってきましたね」
『ククク……確かに半分はそうだ』
「!?」
 突然、声が聞えた。
 それはさっきまで聞えていた声……間違いなくウィルの声だ。
 全員……衛以外全員の顔に、再び緊張が走る。
「生きてたのか!」
『もうすぐ消えるけどな……でも、その前に質問に答えてやろうと思ってな』
「あ?」
『親切だろう?』
「何を……」
『いいか? 俺の菌が効かない人間は2種類だ。1つは、さっき言ってたように抵抗力の強いヤツ。もう1つは……』
「もう1つは?」
『もう1つは……バカだ。よく言うだろ? バカは風邪ひかないって』
「……は?」
『クククク……お前らはどっちだろうなぁ!?』
 それっきり声は聞えなくなった。
 突然の爆弾発言に、訪れるしばしの沈黙。
「……私は、昔っから身体が丈夫な方だ」
「お、俺だってそうですよ!」
「ちょ、何でそこでオレ見んねん!」
 数秒後、一気にうるさくなった。
 ギャーギャーいっている頃、少し離れた所。
 衛だけが、ずっと首をかしげていた。
「……なんかボク、セリフ少なくない?」










あとがき

(作):作者 (政):政樹

(作)「どうも、カッツォです」
(政)「政樹で〜す」
(作)「いやぁ、W・Wも盛り上がってきましたね」
(政)「ホンマにそう思っとるん?」
(作)「……すみません、大嘘かましました」
(政)「やっぱり自分でも思ってなかったんかい」
(作)「たぶん、最後まで盛り上がらないでしょうね」
(政)「ずっとこんなノリかい」
(作)「恐らく」
(政)「何やねん、それ」
(作)「まぁ、たまにはそんなのがあってもいいでしょう」
(政)「っていうか……」
(作)「さぁ、ここで恒例の次回予告!」
(政)「おぉ、覚えてたんか……っていうか、オレが何か喋ろうとしたんは無視かい!」
『ついに正体を表した真の敵! そして彗達の前に、新たな強敵が立ちふさがる! 次回W・W第9話、四天王(仮)』
(政)「前回とほとんど同じ!? 題名しか変わってないやん!」
(作)「ダメですか?」
(政)「あかんわ!」
(作)「仕方ないですねぇ……」
『出たぞお約束の四天王! 今までとは比べ物にならない敵に、彗達はどう立ち向かうのか! 次回W・W第9話、四天王(仮)』
(政)「あんまり変わってない気もするんやけど……しかもやっぱり(仮)やし」
(作)「ま、その辺は気にしない。じゃ、いつものやつ頼む」
(政)「え? もうやんの? 今日はえらい早いな」
(作)「たまにはそんな日があってもいいでしょ」
(政)「まぁええけど。感想はモチロン、お前ふざけてんちゃうぞ! ってもんまで、何でもいいんで送ってくださいね〜!」
(作)「次回も、よろしくおねがいしま〜す!」





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