それは、生まれた時からの絆
それは、永遠に続く絆
だがそれは、時に高い高い壁となる
少女は思う
何故こんな絆を持ってしまったのか、と
しかしそれは、決して切れることの無い絆
やがて少女は思うだろう
この絆を持ててよかったと…
作者:カッツォ
可憐には、大好きなお兄ちゃんがいます。
優しくって、かっこよくって……と〜っても素敵なお兄ちゃんなの。
お兄ちゃんが嬉しければ可憐も嬉しいし、お兄ちゃんが辛ければ可憐も辛い。
例えば、ずっと前にお兄ちゃんが病気になった時。
その時は、病気の事なんてよくわからなかったけど、苦しそうなお兄ちゃんを見ると可憐も辛かった。
いっぱい看病して、心からお祈りしました。
お兄ちゃんが治った時は、とても嬉しかった。
例えば、お兄ちゃんの受験の時。
邪魔にならないように、でも精一杯応援しました。
お兄ちゃんから合格の知らせを受けた時は、お兄ちゃん本人よりも可憐の方が喜んでたりしました。
可憐にとって、お兄ちゃんは一番大切な人です。
それは、9月22日のことだった。
毎年可憐の誕生日には、兄は色々なことをしている。
プレゼントはもちろん、どこかに連れて行ったり、とにかく可憐の喜ぶことをした。
だから毎年可憐は、誕生日の前日などは、楽しみで仕方ないといった感じだ。
その日も、そんな風だった。
他の事はあまり手につかず、ずっと窓の外を見ている。
「……………………」
ふと、無言で我が家を見つめている男がいるのに気づいた。
長い黒髪を持った、とても綺麗な顔の男だった。
その目は優しそうで……だが、見ていると不思議な気分になってくるような、そんな瞳だった。
男の方も可憐に気づいたようで、窓を見上げて少し微笑んだ。
彼女もそれを返そうとして……
「え……?」
なぜか涙がこぼれた。
慌てて拭ったが、次に見た時には、もう男はどこにもいなかった。
「すまない……」
ふいに、耳元でそんな声が聞えた。
振り返るが、もちろん誰もいない。
だがそれに対して、別に恐怖の感情はなかった。
なぜかはわからない。
ただ……無性に不安になった。
「なんだろう、いったい……」
無意識に、もう1粒涙が流れた。
「そうか……」
そのことを兄に話すと、彼は小さくそう呟いた。
いつもなら、「大丈夫だよ、可憐」と優しく微笑む場面だ。
少し緊張した表情は、可憐の不安を余計に大きくする。
「可憐」
「ん?」
「明日の誕生日、めいっぱい楽しもうな」
「あ……う、うん」
ようやく兄は笑った。
だが、その笑顔はいつもと違って……
どこが違うのかはわからないが、それはさらに不安を大きくした。
もう、不安は押し潰されそうなほど大きくなっていた。
結局、そのまま誕生日の朝を迎えた。
だが今の彼女は、あの不安は的外れだったように思っている。
そんな不安が吹き飛ぶほど、今日という日が楽しい。
一緒に大きな公園を歩き、他愛ないことを話し、笑い合って……
別に特別な事をしてるわけではないが、心から楽しかった。
兄はいつも忙しく、こういうことがめったにできないということもある。
ただ可憐は、兄となら毎日やったって楽しいと思うのだろうが。
「うふふ……」
「ん? なに?」
「楽しいな〜って思って」
「はは……公園でそんなに楽しめるなんて、可憐は安上がりでいいね」
そう言って、彼は微笑んだ。
それを見ると、ますます楽しくなってくる。
もう、不安なんて一欠片も残っていない。
こんな時間がずっと続けばいい……そう思った。
たとえどう思おうと、時は平等に流れていく。
辺りはもう赤い世界に変わってきていた。
もうすぐ終わってしまうのは悲しいが、夕焼けの公園はとても綺麗だった。
あと少しだけ、こうして並んで歩いていたい……それが、今望む最高だ。
「あ……」
いつの間にか、あの男がいた。
長い黒髪と、不思議な瞳。
すぐそこにいるのに、全く気づかなかった。
「……そろそろだ」
「はい……どうもありがとうございました」
「お兄ちゃん?」
昨日話していた時には、何も言っていなかった。
だが、明らかに彼は兄の知り合いらしい。
そういえば……と、話の後、兄の態度が少し不自然だったことを思い出した。
ふいに、兄が話を切り出す。
「可憐。ずっと前に、僕が重い病気になったのを覚えてるかい?」
「え? あ、うん……可憐が小さい頃のだよね? 確か、命の危険もあったっていう……」
「そう、ちょうど10年前の今日だ。命の危険どころか……僕はあの時、一度死んだ」
「……え?」
頭の中が疑問符でいっぱいになる。
兄が一度死んだなんて話は、聞いたことがない。
仮死状態にでもなって、そこから蘇生したということだろうか。
だがそんな珍しい事があったのなら、既に誰かから聞いている可能性が非常に高いはずだ。
「ま、医学的にはずっと生きてたことになるんだろうけど。僕の魂は……確かにその日、持っていかれることになっていた。そこにいる天使によってね」
兄が向いた方向に立っているのは、もちろん長い黒髪の男だ。
否定するでも肯定するでもなく、ただ無表情に立っている。
「何を……」
言っているの? と続くはずだった言葉は、男の言葉によって遮られた。
「あの時……彼の魂を連れて行こうとしていた私は、とてもピュアな祈りを聞いた。小さな少女の祈りだった。大きな想いが込められていた。掟を破ることにはなるが……私は、少女の願いを叶えることにした」
「で、僕は今ここにいるってわけさ」
最初は、意味がよくわからなかった。
ただ、この人の言っていることは嘘じゃない……確かにそう思える何かがあった。
普段なら決して信じないようなことも、素直に受け入れる。
もしかすると、それは彼が天使である証なのかもしれない。
「小さな少女って……可憐?」
「そう。つまり僕は、可憐のおかげで、今生きていられるってわけさ。本当の意味でね」
意味を理解していくにつれ、嬉しさが込み上げてきた。
自分の祈りが、兄を救った……
自分が兄を助けられた……
そう思うと、とても嬉しかった。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「おいおい、何で可憐が礼を言うのさ」
「あ、そうだね。あはは……」
「……ありがとう、可憐」
「うん……」
最初、彼をを見て涙が出たのも、昔を思い出したからなのかもしれない。
そう思ったが……今見ても、妙な不安を感じる。
「ねぇ。でも、どうして天使さんはここにいるの? 10周年のお祝いでもあるの?」
兄は少し微笑んだまま、天使は無表情のまま、少し時が流れた。
やがて、天使が口を開く。
「それは……」
「いえ、僕が言います」
「お兄ちゃん?」
天使の言葉を遮った兄は、一呼吸置いてから再び話し始める。
その顔には、いつもの微笑が浮かんだままだ。
「結論から言おうか……僕は今日、本当に死ぬ」
「え……?」
「10年前、僕の前に現れた天使は言った。『10年後の今日、もう一度迎えに来る。それまで、悔いのないように生きろ……』ってね」
「………………」
「結局人間、悔いを残さないなんて無理だろうけど……僕はこの10年、満足に生きたって思う」
頭の中が混乱して、何も言えなかった。
言葉は理解できたが、その意味はバラバラになって頭に入ってくる。
ようやく発した言葉は、叫びに近いものだった。
「なんで……なんでそんなこと笑って言えるの!? 死んじゃうんでしょ!? ねぇ!」
「ま……10年あれば決意も固まるさ」
「10年間……そんな思いで生きてきたの? 自分が死ぬ日を知ってて……それでも、可憐に優しく笑ってくれてたの……? そんなの、悲しいよ……お兄ちゃんは、辛くなかったの……?」
「ん〜……まぁ、辛い時もあったけどね。でも、僕はよかったと思う。可憐とすごした10年間、楽しかった。可憐は……僕が、あのまま死んでた方がよかったのかな?」
「そんなことない! 楽しかった……楽しかったよ、すっごく……」
「じゃあ、これでいいんだよ」
「嫌だよ! お兄ちゃんと別れるなんて……そんなの嫌!」
涙が止まらなかった。
泣きながら叫んだ。
少しの沈黙の後、暖かい感触。
兄が、そっと抱きしめてくれていた。
「どうやったって……永遠に一緒にいることは、できないんだよ……」
「でも……」
「だから、僕は幸せ。本当より、10年も多く可憐と一緒にいられたから」
「……うん」
「それにさ、あれだよ。僕は、君の心の中に生き続ける……ってやつ?」
「うん……」
「時々思い出すだけでも……可憐が僕のことを覚えててくれればさ、それで僕の存在は消えない。僕が確かに存在した証になる」
「うん……忘れないよ……絶対……絶対……」
「……あ、そうそう。最後に渡すものがあるんだ」
「?」
「……誕生日おめでとう、可憐」
銀のハートがついた、綺麗な細工のあるロケット。
それを、可憐の首にかけた。
「いつか大切な人ができた時、その人の写真を入れるといい」
そう言って。
「可憐の大切な人なんて……お兄ちゃん以外にはいないよ……」
ロケットを見つめ、そう呟いた。
それは誰に言うでもない、本当にただの呟き。
「じゃあ、僕はもう行くから……」
「うん……」
やがて、兄は背を向けて歩き始める。
これで……もうホントにお別れなんだ……そう思うと、やっぱり涙が溢れてきた。
「……もういいのか?」
「えぇ……すみません、10年も待ってもらっちゃって」
「気にすることはない。天界における無限の時間に比べれば、そんなものは一瞬だ」
「ありがとうございます……」
「……行くか」
「はい……じゃあ、可憐。元気で」
少し振り向いてそう言い、また背を向けた。
もう涙が止まらなかったけど……可憐は、全力で叫んだ。
口癖になる程いつも言っていて……一番大切な言葉……
「……お兄ちゃん! 大好き!」
兄は立ち止まった。
そして、ゆっくり振り向き……
「僕もだよ、可憐……」
涙を流しながら……でも、優しい笑顔。
何よりも大好きだった、『お兄ちゃん』の最後の笑顔だった。
お兄ちゃんは、天使さんと一緒に消えていきました。
帰ってみると、お兄ちゃんは10年前もう死んだことになっていました。
お兄ちゃんの部屋だった所は、物置になっています。
お兄ちゃんの持ち物だってほとんど無く……あっても10年前のもの。
ロケットに入れる写真もありませんでした。
でも……可憐は、確かに覚えています。
それが、お兄ちゃんの存在した証。
だから、可憐は忘れません。
ずっとずっと……お兄ちゃんの存在した証であり続けます。
あれから、ちょうど1年が過ぎた。
可憐は、1年前と同じように夕暮れの公園にいる。
この1年、泣かないように頑張ってきた。
きっとそれが、兄の望むことだと思うから。
それに、自分の中の兄にはいつも笑顔を向けていたいから。
でも……
「今日ぐらいは、泣いていいよね……?」
1年ぶりの涙を流した。
1度出た涙は、もう止まらない。
1年前と同じように、ずっと流れ続ける。
でも……優しく抱きしめてくれる人は、もういない。
日が暮れるまで……暮れても……ずっとずっと、泣き続けていた。
「どうかしましたか? お嬢さん」
「え……?」
突然後ろから聞えた声。
それは、夢なのか、幻なのか……
夢や幻でもいいから……もう一度、その胸に飛び込みたかった。
「……っ……お兄ちゃん!」
「おっと……」
確かにさわれた。
しっかりと抱きしめてくれた。
笑顔を……もう1度見せてくれた。
「お兄ちゃん……本当に、お兄ちゃん……?」
「もちろん。あの天使さんのおかげさ……」
1年前のあの後、天使は言った。
『私たちの役目は、人の魂を天界に運ぶことだ。だがそれよりも重要な役割は、人を幸せにすることだ。……少年よ、行くがいい。彼女を幸せにできるのは君だけだ』
そして今日、彼は再びここに舞い戻った。
1人の少女を、幸せにするために……
「感謝しなくちゃね。『気にすることはない。天界における無限の時間からすれば、10年も100年も一緒だ』なんて言ってたけどさ。やっぱごまかすのに苦労したんだろうね。1年もかかっちゃったよ」
「じゃあ……もう、ずっと一緒にいられるの……?」
「やっぱり、永遠には無理だけどね。少なくとも、今度は決まった期限付きじゃない……」
「うん……うん……」
まだ、涙は止まらなかった。
でも……さっきまでとは違って、苦しくなかった。
優しく抱かれて……それは幸せな涙だった。
「おいおい、1年ぶりだっていうのに、泣き顔しか見せてくれないの?」
兄はからかうように言う。
可憐は顔を上げ、輝く笑みを浮かべた。
そして言った。
あの日と同じように……大切な言葉を……
もう、二度と言えないと思っていた言葉……
「お兄ちゃん……大好き!」
あとがき
どうも、カッツォです。
今作で、このBDSSシリーズも終了となりました。
いや、1年がたつのは早いもんですね。
このシリーズ、色々と制約を設けてやってました。
見てすぐわかるものから、私以外にはわからないものまで。
しかし最後なのにというか、最後だからというか、今回は色々とそれを破ってます。
まぁ、何はともあれ、これで最後です。
これが成功したかどうかは、読者の皆様の判断にお任せしたいと思います。
さて、今後についてですが、とりあえずBDSSは書いていきたいと思います。
今のところ、ギャグシリーズを考えてます。
よろしければ、また読んでやってくださいね。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです……
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