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 それは、生まれた時からの絆
 それは、永遠に続く絆
 だがそれは、時に高い高い壁となる
 少女は思う
 何故こんな絆を持ってしまったのか、と

 しかしそれは、決して切れることの無い絆
 やがて少女は思うだろう
 この絆を持ててよかったと…


生まれた時からの絆 〜春歌〜

作者:カッツォ


「大丈夫かい? 春歌?」
「はい……申し訳ありません、兄君さま……」
 そう言う春歌は、本当にすまなそうな顔をしていた。
 ベットに横たわったままで、心なしかいつもより弱々しい印象を受ける。
「いや……」
 その傍らには兄。
 笑顔を浮かべてはいるが、多少複雑な表情だ。
 事の始まりは、1日前にさかのぼる……



「セイ! ヤァ!」
 それは、薙刀の道場に行く日のことだった。
 『兄君さまにお仕えする、立派な大和撫子となること』
 それを目標とする彼女の、修行の1つである。
 だがその日は、何か違和感があった。
 練習を始めたばかりなのに、妙に体がだるい。
「春歌さん? 大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です……」
 心配してくれる師範の声も、どこか遠くに聞えるようだった。
「調子が悪いのなら、今日は帰っても……」
「いえ、大丈夫……」
 そう言おうとした瞬間、足から力が抜けていった。
 師範が何か言っているのはわかったが、聞き取ることはできなかった。
 やがて、それすらも聞えなくなった……

 春歌が倒れた。
 その知らせは、すぐに兄にも届くこととなる。
 兄がそのまま病院にすっ飛んでいったのは言うまでもあるまい。
 原因は過労。
 薙刀の他に、剣道、柔道、茶道、華道、着物の着付け、料理教室に裁縫、etc……
 1日に1つではすまない程の習いものをしていれば、それもうなづけることである。
 命に別状はないものの、しばらくは安静にしているように、とのことだった。
 その結果が、今の状況である。



「あ、そろそろ夕食の仕度をしなくては……」
「いや、今日は僕がやるから。春歌はおとなしく寝てな」
「しかし……」
「春歌」
 普段は少し頼りなさそうに見える兄だが、今のその目には逆らえそうになかった。
 春歌は、諦めたようにコクリとうなずく。
「大丈夫だよ。春歌が来る前は、ずっと1人でやってたんだしね」
 そう言って軽く笑うと、兄は春歌の部屋を後にした。

*     *     *


 春歌は妹であるが、ずっといっしょに暮らしていたわけではない。
 2人が同じ家に暮らし始めたのは、3年前。
 それまで、春歌はドイツに暮らしていたし、兄は日本で1人暮らしをしていた。
 2人が離れて暮らすのは、春歌が生まれた時からずっとの事。
 母方の祖母がドイツに暮らしていたため、春歌の出産はドイツでのものになった。
 本当にすぐ帰ってくる予定だったから、兄は日本の親戚の家に預けられていた。
 子供に長旅は辛いだろうとの、両親の判断だった。
 しかし、両親は春歌を生んだ直後に亡くなった。
 当時幼かった兄は、1人日本に取り残されることとなる。
 幸い、当面生活に困らないだけの財産を残してはくれたが、その辛さは想像に余る。
 その状況下で特にグレることもなく成長したのは、親戚に恵まれていたと言えるだろう。
 しかし、決して幸せとは言いがたい人生だった。
 春歌は春歌で異国の地に取り残されたわけだが、こちらは祖母によって育てられた。
 その時の教育により、『大和撫子』を目指す人格が形成されたそうだ。
 遠い所にいる、見たこともない兄に想いをはせ、それを守ろうと心に決めた。
 それは無意識のうちに、もう家族を失いたくないとの思いがあったのかもしれない。

 そんなこんなで十数年。
 ある時、運命の日は訪れることとなる。
 当時、春歌13歳。
 全くの独断、予告も無しの行動だった。

「初めまして、兄君さま」
「……初めまして、春歌」
 春歌を見据え、兄は軽く笑う。
 2人、初めての邂逅。
 互いに、顔すらも知らない存在だったはずなのに。
 しかし、なぜかそうだとわかった。
「これから、よろしくね」
 そして、抵抗無く受け入れることができた。
 今になって思えば、自分でも少し不思議なことではある。

*     *     *


「どう?」
「あ、はい。とっても美味しいです」
「ふふ……こう見えても、料理の腕には定評があるからね」
 世間的に見れば、早すぎる程早く1人暮らしを始めた兄。
 周りに迷惑をかけまいという、年齢にそぐわないほどの気遣い方だった。
 その状況が、彼に腕を磨かせる原因になったのだろう。
 実際、掛け値なしにその料理は美味しかった。
 春歌に、さらなる精進を決意させるほどに。
 もっとも、この状況においては良いことではないかもしれないが。
「そういえば、兄君さまの料理をいただくのは初めてですね」
「あぁ、そうか。ずっと春歌が作ってくれてたもんね」
 食べ終わるまで、ずっと兄は春歌を見つめていた。
 微笑んでいるのは、彼なりの気遣いだろうか。
 その視線を感じながら、春歌も終始はにかんでいた。
 しかしその表情は、とても嬉しそうでもあった。

*     *     *


「兄君さま、お食事の仕度ができましたよ」
「ん、ありがと」
 同じ家に暮らし始めてから数日。
 2人は、驚くほど早く打ち解けあった。
 否、最初から溝などなかったようだった。
 それは、互いが孤独の寂しさを知っていたからか。
 とにかく2人は、ずっと昔からそうであったように仲が良かった。
 兄妹というよりは、新婚の夫婦のようではあったが。
 ただ春歌は、時々わけもなく悲しそうな表情をすることがあった。
 いや、もちろん理由はあったのだろう。
 兄が、それに気付けなかっただけで。
 兄に見られると、その表情はすぐに笑顔に変えられた。
 しかし、どこか無理のある笑顔だった。
「どうかしたの?」
 そう聞いたことは何度もあった。
 しかし、決して答えが返ってくることはない。
 ただ、曖昧な笑顔が浮かべられるだけだった。

*     *     *


「……申し訳ありません、兄君さま…」
 食事を終えてしばらく、春歌が小さく呟いた。
 しばらくの沈黙の後、兄もやや小さい声でそれに答える。
「どうして……謝るのかな?」
「兄君さまに、ご迷惑をおかけしてしまって……」
「……ふむ……僕は、そんなに頼りないかな?」
「いえ、そういうわけでは!」
 顔には、微笑が浮かべられている。
 しかし、その目にはどこか厳しさが含まれていた。
「ねぇ、春歌。春歌がこっちに来た直後、いろいろとあったみたいだね」
「……え?」
「その歳で兄が好きだなんておかしい。今時そんな考え方してるなんて変だ。女の子のくせに強いなんて。エトセトラ、エトセトラ……」
「………………」
「桂子ちゃんに聞いたんだ。ハハ、こんなことにも気付けなかったなんてね。今更こんなことを言うのも…と思って、今まで言わなかったんだけど……」
 その口調は軽かった。
 まるで、他愛ない雑談をしているかのように。
 ただ、その瞳に込められた感情は、息苦しい程に重かった。
「僕は、そんなに頼りないかな?」
 もう一度、同じことを問う。
 浮かべられた微笑は、悲しみを表しているようにも見えた。
「僕は、春歌ほど強くないけどさ。頼ることもできない? 支えにもなれないのかな?」
 声は、いたって穏やかだった。
 不器用だから。
 優しすぎるから。
 感情を抑えることが上手くなった。
 感情を伝えることが苦手になっていた。
 ただ、春歌にはそれで十分だった。
「ワタクシは……ただ……」
「僕に迷惑をかけないように……って?」
「……………」

 ずっと、不安だった。
 いきなり押しかけてきた自分を、あっさりと受け入れてくれた。
 それは、とても嬉しいことだった。
 自分の心から、孤独が消えていくのを確かに感じることができた。
 夢のようだとさえ感じた。
 でも……それだけに、突然拒絶されることだけが怖かった。
 きっともう、孤独に耐えることはできないだろうから。
 本当に夢のように消えてしまったら……もう……

 ずっと昔。
 自分も同じことを思ったことがあった。
 今まで、とてもお世話になった。
 でも、ずっとそのままじゃいけないと思った。
 迷惑をかけちゃいけない……
 そして自分は…自ら孤独への道を歩む。
 今でも、それが間違った選択だとは思っていない。
 でも、春歌は同じ道を歩んじゃいけない。
 歩ませたくない。
 だって……

「僕は、迷惑だなんて思わない。迷惑かけられたって、嫌いになんてならない。春歌が好きだから」
「兄君さま……」
「泣きたい時は泣いてもいい。その時は、肩でも胸でも貸してあげる。弱みだっていっぱい見せて欲しい。きっと、僕にだって守れるものがあるはずだから」
「……………」
「僕は、春歌といっしょに生きていきたい……そう思うからね」
「…………ありがとうございます」
 張り詰めていたものが切れたように。
 ただ一粒、こぼれた涙。
 その時、涙と共に流れた感情は、何だっただろう。
 もう、不安なんてあるはずもなかった。

「それに……今日ぐらいは、僕が世話を焼きたかったしね」
「……? 『今日ぐらい』と申しますと?」
「あは、やっぱり覚えてなかったか。今日はね、5月16日なんだよ」
「…………覚えていてくださったのですね…」
「当然。大切な日だからね」
 5月16日。
 春歌が、この世に生を受けた日。
 きっとその日から、2人の絆は始まった。
 そして今日、この日は新たな記念日となるだろう。
 新しい2人が生まれた日。
 新しい絆が結ばれた日。 
 5月16日は、2つの記念日になった。


「兄君さま! ワタクシ、一生ついて……いえ。共に歩んでいきますわ!」
「あぁ、いっしょにいこう。誕生日おめでとう、春歌」  
 

 
 
 
 
 


あとがき
どうも、カッツォです。
はぁ……まぁ、スランプというか何と言うか……
ダメだ、違和感が拭い去れない。
所々に不満が残ってしまいましたね……
前回と微妙に似てるような気もしますしねぇ。
1つ1つのピースはそう悪くなかったと思うのですが……全体の中心がイマイチでしたね。
しかも、今回もラストは表現しきれなかった感じがありますし……
春歌は私の中ではかなり上位の妹のはずなのですが。
まぁ、まだまだ修行が必要ってことですね。
でも、シスパラ投稿時よりは多少よくなったかな?(1日しかたってませんけど)
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。




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