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千影、兄を連れて行く

作者:カッツォ


 夢を見ていた。
 とても奇妙な夢だ。
 見渡す限りのマグロに囲まれて、1人でボイスパーカッションの練習をしている夢。
 これって、夢占いだとどんな結果が出るんだろう……なんて、思っていた。
「やぁ……兄くん……」
 そこに、千影が現れた。
 今さら驚くつもりもない。
 俺の夢が作った千影か、本物の千影か。
 どちらにせよ、ここに突然現れたって何の不思議もないのだから。
「さぁ……行こう……」
 俺の手を引き、空高く舞い上がっていく。
 下を見ると、マグロがどんどん小さくなっていくのが見えた。
「行くって、どこへ?」
「夢の中へ、さ……」
 聞こえ始めた井上陽水の声をBGMに、さらに空高く昇る。
 でも、ここってもう夢の中だろ?



「う……」
 最初に感じたのは、暑さだった。
 おかしい……今は3月……暖房をつけた覚えもない……
 自分の状況を確認すべく、ゆっくり目を開けていく。
「やぁ……兄くん……お目覚めかい……?」
 千影の顔が目の前にあった。
 が、驚くべきはそんなことではなかった。
 赤、赤、赤。
 血の赤、マグマの赤、赤オニさんの赤。
 真っ赤っかだった。
「……どこですか?」
「地獄……」
「さっきのは、やっぱ夢じゃなかったのかよ……」
「もちろん……」
「っていうか、『夢の中へ、さ……』じゃなかったのかよ!」
「まさに、夢のようなところだろう……?」
「夢も希望も無いところの代表格だ!」
「まぁまぁ……せっかくだから……観光でもしていこうじゃないか……」
「せっかくだからってお前、無理矢理連れてきといて……」
 っていうか、何の脈絡も無しにいきなり地獄ってどうよ……
 なんて言いつつも、千影について行くしかない俺。
 だって、帰り方がわからないんだもの……



「まずは……軽く山登りでもしようか……」
「……なぁ、千影。これが、噂に名高い『針の山』ってやつか?」
「そうだよ……」
「俺、結構勘違いしてたわ」
「フフ……最初はみんなそう言うよ……」
「思ってたより……だいぶ高い」
 上を見上げるが、頂上は見えない。
 俺、せいぜいその辺にあるビル程度だと思ってたんだけど……
「確か……3777メートルだったかな……」
「富士山より微妙に高いんだ……」
「じゃあ……行ってみようか……」
「行くって、行くの!?」
「……? おかしなことを言うね……地獄に来たんだから……当たり前だろ……?」
「そ、そうなのか?」
「あぁ……地獄で最も有名な観光スポットの1つさ……」
「観光客って、普通いねぇだろ」
「そんなことはない……ほら……たくさん登ってる……」
「ありゃホントに地獄へ落ちた人だろうが!」
「同じようなものだよ……」
「全然違うって! 俺まだ生きてるよ!」
「……フフ」
「おい! フフってなんだ、フフって! え、俺、生きてるよな!?」
「まぁ……気にしないでいこう……」
「死ぬほど気になります! ホント、死ぬほど!」
 実は死んでましたオチなんてシャレにならなすぎる……



 ぶっちゃけ、『針の』山っていうのはどうってことなかった。
 靴もはいてたし。
 むしろ、純粋に山登りが……
「さぁ……山登りで汗をかいた後は……血の池でリフレッシュ……」
「うわ〜、すごいリラックスできなさそ〜……ってか、お前汗かいてないし。なんで? 一緒に登ったのに……」
「ここも……観光名所の1つだよ……」
「豪快に無視ですかい。まぁいいや。ここはさっきよりはマシっぽいな。血の池ったって、気持ち悪いだけだろ?」
「ちなみにこの池には……肩こり……腰痛……リウマチなどの効果がある……」
「へぇ、なんか地獄っぽくないところだな。まぁ、血だけど」
「じゃあ……行ってらっしゃい……」
「? おい、なぜ背中を押す?」
「……てい」
「いでっ!?」
 千影に背中を蹴られ、顔面からダイブ。
 同時に、やはりここが地獄であることを悟った。
「あぢぢぢぢぢぢぢ!」
「ちなみにここの水温は……62度に設定されてるんだよ……」
「熱い熱い熱い! 現実的な熱さで熱いって! どうせなら300度とかにしてくれた方が諦めつくわ!」
「冗談……そんなのに人間はつかれないよ……」
「なんでそんな微妙に良心的なんだ! これでも十分無理だ!」
「だいたい……血液の沸点はそんなに高くないよ……」
「今さらそんな科学的なこと言ってんじゃねぇ!」
 言いながらも必死に出ようとしてるんだが、この血(?)がドロドロしてて進みにくい。
 しかも、ゾンビみたいなやつらが足を掴んできやがる。
 顔も腐っててどんな風かわかんないし、かなり怖い……
「ほら兄くん……混浴だよ……もっよ喜ばないと……」
「なにぃ!? ここって混浴だったのか!?」
「フフ……何を今さら……そんなに女性に囲まれて……」
「どいつが女かわかんねぇよ!」



「あ゛ぁ……色々死ぬかと思った……」
「リフレッシュできたかい……?」
「できるか! ……いてて。なんか、さっきから肩とか腰とか、あちこちの骨とかが痛いんだけど……」
「言っただろう……? 肩こり……腰痛……リウマチなどの効果があるって……」
「効果って……治るんじゃないのかよ!」
「なんせ地獄だからね……」
「クソ……完全に騙された……」
「まぁまぁ……次も楽しい所だよ……」
「『も』ってお前……で、どこ?」
「駅の券売機で千円札がなかなか入らない地獄……」
「名前長っ! っていうか、なんだそれ!?」
「今なら無料お試しキャンペーン実施中……」
「普段金とってんの!?」
 無料であろうが有料であろうが、結局強制参加させられる俺。
 そこは、まさに名前の通りの地獄だった。
 ただ、駅の券売機に千円札が入らないだけ。
「ほら、兄くん……後ろの人が待ってるよ……」
「あ、すみません。もうちょっとで入りそうなんで……って、地味すぎるわ! 確かに嫌だけど!」
「身近な地獄シリ〜ズ……」
「シリーズ!?」
「まだまだあるよ……コンビニで箸をもらうの忘れる地獄……」
「どうやって食おうかすごい悩むんだよな」
「カレーコロッケだと思って食べたらカボチャコロッケだった地獄……」
「なんつうか、心構えが違ってくるよね。カレーとカボチャじゃ」
「妹の携帯が自分のより微妙に最新型地獄……」
「微妙に敗北感が……」
「ウォーリーが全然見つからない地獄……」
「凄いイライラしてくるんだ」
「猫に話し掛けているのを人に見られた地獄……」
「これはだいぶ恥ずかしい」
「テスト前日に教科書持って帰るの忘れた地獄……」
「どうせ持って帰っても大して勉強しないんだけど、無いとなるとどうも……」
「新品で本を買った次の日に古本屋で同じのが売っていた地獄……」
「1日待てば半額以下で買えたのに……」
「年賀ハガキのくじで切手シートすら当たらない地獄……」
「なんか、自分のクジ運の無さに逆に笑えてくるんだよ」
「ネットで自分の名前調べたら変なサイトが出てきた地獄……」
「何となく嫌な感じ……って、いつまで続けるんだよ! 長すぎ! 凄い微妙だし!」
「他、数え切れない程の地獄があるよ……」
「……全部行くの?」
「もちろん……」
「嫌すぎる!」
 でも、全部行かされました。
 ホントに、リアルに嫌でした。
 


 どれほどの時間がたっただろうか。
 もうそろそろ、俺が廃人になるのも時間の問題って感じになってきた。
 だが、ようやく千影も帰る気になったらしい。
 さすが千影、生かさず殺さずを心得てやがる……
「兄くん……今日は楽しかったよ……」
「あぁそうかい。俺は死にそうだったよ……って、そういや忘れてたが、俺ってちゃんと生きてるよな?」
「もちろん……次に目覚めればベットの中さ……」
「目覚めれば?」
「おやすみ……兄くん……」
「おい!? なんで金属バット持ってそのセリフなんだよ!?」
「素敵な誕生日を……ありがとう……」
「え?」
 聞き返そうとした瞬間、頭に激しい衝撃が。
 フェードアウトしていく意識の中、ちゃんと目覚めてくれることを祈る。
「プレゼント……大切にするよ……」
 最後に、そんな言葉が聞こえた。


「……いて」
 目覚めると、本当にベットの中だった。
 後頭部の痛みが、さっきまでのことが現実だったことを物語っている。
 まだ少しボーっとする意識で、時計を確認する。
 3月6日の、午後10時。
 デジタルの時計は、静かにその時を表示していた。
「ほとんど丸一日経ってるな……」
 唐突すぎるとは思ったが……誕生日、ね。
 自分の誕生日に地獄とは、なんともあいつらしいな。
 苦笑いしながら机に手をつく。
 昨日まで確かにそこに用意しておいたはずのプレゼントも、いつの間にかなくなっていた。
「別にこっそり持っていく必要もないだろうが」
 ま、そこもあいつらしいかな。
「さて、今日のうちに直接おめでとうを言いに行ってやるか」
 歩き出そうとするが、できなかった。
 というか、机についた手が離れない。
「な、なんだ?」
「フフ……プレゼントのおかえしだよ……」
「あ、千影。誕生日おめでとう」
「ありがとう……」
「で、おかえしって?」
「うっかり接着剤で手と机をくっつけちゃった地獄……」
「そんな『うっかり』ありえねぇだろ!?」
「じゃ……私はこれで……」
「うぉい! 結局最後までそのネタかよ!」





あとがき
どうも、カッツォです。
今回の『身近な地獄シリーズ』は、ほぼ全て私の体験談です。
別に、地獄って程苦しくもないんですけどね(笑)
しかし今回は、微妙に繋がりの部分でテンポが悪かったですね。
反省せねばなりません。

さて、今作で、このシリーズも半分となりました。
いやはや、ホントに早いもんですね。
前回のシリーズも、「もう最後?」って感じでしたし、今回もあっという間でしょう。
あと半分も、全力投球でいきたいと思います。
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。




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