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亞里亞、お菓子の家を欲しがる

作者:カッツォ


 我が家には、2種類の電話がある。
 1つは通常回線。
 もう1つは、亞里亞宅からの特別回線だ。
 亞里亞からの電話が確実にとれるようにと、じいやさんが置いていった。
 なんと、通常回線が話し中なら、それを切って亞里亞回線に切り替えるという優れものだ。
 その電話が、今日も大きな音で鳴り始めた。
 3コール以上で亞里亞が泣き出すため、慌てて受話器をとる。
 だが聞えてきた声は、幼い少女の声ではなく、若い女性の声だった。
「もしもし、兄や様ですね?」
「え? あ、はい。じいやさんですか?」
「えぇ。今日は、兄や様に折り入ってお願いがあるのです」
「はぁ……何ですか?」
「実は、亞里亞様がですね……」
 その瞬間、もの凄く嫌な予感がした。
「あの、このまま電話切ってもいいですか?」
「その場合、我が特殊部隊が全力でお迎えに上がります」
「わかりました。聞きましょう」
 特殊部隊……前に一度だけ来たことがある。
 いきなりハンカチ口に当てられ、気が付けば目の前に亞里亞がいた。
 あの時は2日ほど頭がクラクラしたままだったなぁ……
 奴ら、薬の分量間違えたんじゃなかろうか……
 そもそも、『全力で』お迎えに上がるって何だよ……
「で、結局何なんですか?」
「えぇ……実はですね、亞里亞様が『お菓子の家が欲しい……』などと申されまして……」
「あぁ……なんか言いそうですね……」
「さらにですね、『兄やが作ったのじゃなきゃヤダ』などとおっしゃられるもので……」
「あぁ、それも言いそうですね……って、俺っすか!?」
「はい。時期も丁度いいので、できれば亞里亞様のお誕生日にプレゼントしたいと思っています。お願いできますでしょうか?」
「いや、そんな無茶な……」
「材料などや、諸費用は全てこちらが負担いたしますので」
「そういう問題でも……」
「確かに、無茶だとは思います。私どももそう思い、こっそり自分達でお菓子の家を作ろうとしました。でもしばらくたった日、亞里亞様はおっしゃらたのです。『兄やが作ったのじゃなきゃヤダって言ったのに……』と」
「……なんでわかったんですか?」
「さぁ……スタッフは全て、亞里亞様と会うことの無い者ばかりを選んだはずなのですが……」
「千里眼かよ……」
「まぁとにかく、やはり兄や様に作っていただく他ないようなのです」
「はぁ……」
「先程も申しましたように、費用は全てこちらが負担しますし、補助スタッフもおつけします。ただし、作ること自体は全て兄や様の手でやっていただくことになりますが」
「亞里亞の誕生日って10日後ですよね? 無茶があるんじゃ……」
「亞里亞様のためなら……スタッフ一同、不可能を可能にしてみせます!」
「……俺の意思は?」
「では、頼みましたよ。明日の朝、屋敷へお越しください。そこで詳しい説明をいたしますので」
「え、あ、ちょっと!」
 切れた。
 俺、まだ返事してないんだけどな……
 まぁ、どうせ断ったって特殊部隊が来るんだろうが。
 どっちにしても拒否権は無いわけですか……



 次の日、俺は亞里亞邸に向かった。
 眠らされて着くよりは、自分の足で行った方がいい。
 今度こそ目覚めないかもしれないし……
「ようこそいらっしゃいました。こちらへ……」
 俺を迎えてくれたのは、じいやさん……と、100人ほどの人だった。
 老若男女、見た感じいろんな人が集まっている。
「あの……この方達は?」
「お菓子作り、設計など、各分野のプロフェッショナルです。今回のスタッフですよ」
「スタッフ……すごい人数っすね」
「兄や様のお食事係などもいますから。あと、医療班なども」
「医療班?」
「えぇ。兄や様には、10日間不眠不休で作業にあたってもらいますから」
「え゛ぇ!? いや、それは死にますって!」
「大丈夫ですよ。私が原寸大東京タワーチョコを作った時など、32日間休み無しでしたから」
「じいやさんホントに人間ですか!? え、っていうか原寸大東京タワーチョコ!?」
「とにかく、時間がありません。行きましょう」
「いや、普通の人間はそんなことできませんって! 俺、明後日からテストですし! ねぇちょっと、聞いてます!?」
 じいやさんに引きずられ、豪華なリムジンに乗り込んだ(放り込まれた)
 昔は1回乗ってみたいと思っていたが、こんな形でその願いが叶うとは……
「……で、それは何のつもりですか?」
 ヘッドホンとアイマスクを取り出したじいやさんに聞いた。
 ……Jプロデューサー?
「ここから先は、国の機密に関わりますので」
「どこで作るつもりなんですか!」
「無理言って、小泉さんに貸してもらいました」
「小泉さん!?」
「まぁ、彼には貸しがありますから。比較的簡単に承諾していただけましたけどね」
「あんたら、一体何者ですか!?」
 そんなこんなで、俺の人生最も過酷な10日間が始まった……



「どこっすか、ここ……」
 見渡す限りの草原で、大きな溜息をつく。
 日本にこんな場所あったんだ……
「まぁいいです。それより、どんな感じに作ればいいんですか?」
「はい。それに関しては、この図面をご覧になってください」
 大量の紙を手渡された。
 素人でもわかるように作られた図面らしい。
「あの……これ、何ですか?」
「ですから、図面です」
「……やたら多い気がするのですが? お菓子の家って、絵本に出てくるようなやつじゃないんですか?」
「亞里亞様に、そのようなみすぼらしいものをプレゼントしろと? ご冗談を」
「みすぼらしいって……」
「私たちが作るのは、原寸大バッキンガム宮殿です」
「でかっ! それ、お菓子の城じゃないですか! そんなの作るんですか!?」
「そうです」
「10日で!?」
「無論です」
「俺1人で!?」
「当然です」
「死にますって!」
「その通りです」
「その通りなんですか!?」
 もともと無茶だとは思っていたが、ここまで無茶だとは……
 っていうか、無茶とかそういう次元じゃないだろ……
「さぁ、早く始めましょう。急がないと間に合いません」
「急いでも間に合わない気がするんですが……」



 そこから先のことはよく覚えていない。
 とりあえず、本当に10日間不眠不休だった。
 時々意識が途絶えたりしたが、その度にじいやさんが何かを注射してくれる。
 その瞬間眠気がふっとび、気分がやたらハイになるのだ。
 じいやさんは『栄養剤です』とか言ってたけど、絶対違うだろ……
 これが終わった後普通に暮らしていけるのか、かなり不安だ……



 で、10日後。
「うわ、ホントにできちゃったよ……」
 自分で作ったものを見上げ、おもわず呟く。
 まさか完成するとは……
 どうやら、俺も普通の人ではなかったらしい。
「ていうか、死にそうなんですけど……」
 10日間寝ないのはもちろんのこと、食事も全然とっていない。
 じいやさんは『この注射さえしていれば大丈夫です』なんて、笑顔で言ってたが……
「ふぅ……ようやく完成しましたね」
「……じいやさん、元気そうですね」
「えぇ、それが何か?」
「いえ……」
 じいやさんに至っては、ドーピング(?)すらしてないはずなのに……
 ずっと俺と一緒にいたから寝てないはずだし、水分補給してる所すら見てない気がするんだが……?
「さ、兄や様。急いで亞里亞様に連絡を。もう2日ですよ」
「あ、あぁ。そうでしたね」
 とりあえず思考を中断し、亞里亞に電話をしに行くことにする。
 かなり気になる所ではあるが、せっかくの苦労が水の泡になっちゃかなわんからな。
 携帯はなぜか圏外だったので、少し離れた所にある電話まで移動した。
「はい……」
「お、亞里亞か? えらいな、自分で電話に出られたか」
「あ、兄や……」
 久々に聞く亞里亞の声。
 あ〜、なんか癒される……
「兄や?」
「ん? あぁ、ごめん。え〜っと、だな。今日、亞里亞の誕生日だろ? プレゼントがあるんだ」
「ホント?」
「あぁ、だから……え〜……」
 一旦受話器を離し、じいやさんに小声で尋ねる。
「あの、ここってどこですか?」
「それは言えないと最初に言ったはずですが?」
「いや、だって亞里亞に場所言わなきゃ……」
「でしたら、『ところてん』とお伝えください」
「は? ところてん?」
「えぇ。亞里亞様は、お菓子と兄や様のこととなると尋常ならざる能力は発揮されますので。地名なども、最初はお菓子の名前で覚えさせるんです」
「それって意味あるんですか……? あったとしても、ところてんって……そもそも、ところてんってお菓子っすか?」
「それよりほら、早くしないと亞里亞様が泣いてしまいますよ?」
「あっと、そうだった」
 そこで、急いで受話器を戻す。
「兄や……どうしたの?」
 じいやさんの言葉通り、亞里亞は泣く寸前だったらしい。
「いや、何でもない。それよりさ、亞里亞。今から……ところてん? に来てくれないか?」
「うん、わかった……」
 ホントにこれで通じるのか……
「じゃあ、待ってるから」
「うん……すぐ行きます」

「ふぅ……これでよし、と。そういや、亞里亞はここまでどうやって来るんです? やっぱでっかい車ですか? それともヘリとか?」
「それはですね……」
「来たよ、兄や……」
「……うぇ!?」
 突然背後から聞えた声に、慌てて振り返る。
 控えめな、でも嬉しさがにじみ出ているような笑顔があった。
「……じいやさん、俺が来た時より大分早い気がするんですが?」
「そうですね」
「……亞里亞、ここまでどうやって来たんだ?」
「亞里亞、1人で歩いてきたの……えらい?」
「あぁ、えらいえらい……じいやさん、ここって、歩いて10秒で来れる距離なんですか?」
「ですから亞里亞様は、お菓子と兄や様のこととなると尋常ならざる力を発揮なりますので」
「そうっすか……」
 深くは考えないようにしよう。



「そうそう、それよりプレゼントだよ」
「うん……」
 嬉しそうな笑顔を、さらに嬉しそうにする亞里亞。
 その手をひいて、少し移動する。
 例の城には、いつの間にかでっがいシートがかけられていた。
 俺がいない間に、スタッフの皆がやってくれたらしい。
「じゃあ、行くよ」
「うん」
 目の前に垂れ下がっている、『引いてください』と書かれた紐を引っ張る。
 シートが一気に取り去られ、たくさんの風船が飛んで行った。
 わずかな時間でここまでの仕掛けを作るとは……さすがって感じである。
「わぁ……」
 控えめなアクションだが、少し驚き、とても喜んでいるのは表情からわかった。
「どうよ?」
「……ありがとう、兄や」
 亞里亞の笑顔を見ると、ふっと気が緩み、意識が遠くなった。
 その笑顔を見るために、10日間頑張ったんだよ……



「ん……」
 気がついても、さっきと同じ場所だった。
 あまり寝た気はしない。
 眠気も、寝る前とほとんど変わらず残っている感じがする。
 だが目の前にあった城が消えているので、かなり時間はたっているのだろう。
「お疲れ様です、兄や様」
「じいやさん……」
 いつの間にか、傍らにはじいやさんが立っていた。
「あの……俺、どのくらい寝てました?」
「そうですね……2分ほどだと思います」
「え? 2分?」
 てっきり、2日は経っていると思ったが……
「いや、でも、城が……」
「ごちそうさま、兄や」
「2分ほどです」
「……マジで?」
 俺の10日間の苦労は、たった2分で腹の中に収まったと?
 ていうか、物理的にどうやったら、あんだけのもんが腹に入るんだ?
 ……常識なんて、考えるだけ無駄か。
「兄や……」
「ん?」
「おかわり」
「……無理」






あとがき
どうも、カッツォです。
というわけで、新BDSSシリーズ第2弾。
BDSSなのに、亞里亞の出番が異様に少ないです(死)
3分の1ぐらいしか出てないかも……
しかし、ここまで長くなるとは思いませんでしたよ。
このシリーズは、短めのギャグでいこうと思ってたのに……
じいやさんが思った以上に曲者でした。
そんな感じでこのシリーズ、この先どうなるか全くわかりません(殴)
こんなものですが、あと10ヶ月、暖かく見守ってやってください……
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです……



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