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衛、風邪をひく

作者:カッツォ


 10月17日、部屋で静かに読書をしていた。
 と、近づいてくる騒がしい足音。
 見るまでもなく、我が妹だとわかる。
「あにぃあにぃ! 大変だよ!」
「どうした?」
「風邪ひいた!」
「……誰が?」
「ボクが!」
「って、めちゃめちゃ元気じゃねぇか!」
「だって、熱が37.8度もあるんだよ!」
「む、確かにちょっとあるな……平熱は何度くらいかわかるか?」
「38.2度ぐらい」
「高っ! むしろ今の方が低いじゃねぇか!」
「息もゼイゼイするし……」
「さっきまで走ってたからだろうが! ……って、なのに体温下がってんの!? どういう構造してんだよ!」
「寒気もするよ」
「そろそろ寒くなってきてんのに半袖はやめろって! そして、まず汗を拭け!」
「鼻水も出るんだ」
「お前、この時期は毎年花粉症だろうが!」
「もう! とにかく風邪ひいたんだよ!」
「はぁ……? で、お前は結局どうしたいんだよ!」
「寝る!」
「じゃあとっとと寝てこい!」
「おうよ!」
 そして、衛は異様なテンションのまま部屋を出て行った。
 最後に少し顔を覗かせ、
「今年の誕生日プレゼントは、あにぃの心のこもった看病でいいよ」
 そう言った。
 何なんだ、いったい……?



 次の日、衛は本当に風をひいた。
 昨日の意味不明なテンションは、やはり風邪をひいていた証拠だったのかもしれない。
 あんな初期症状見たことも聞いたこともないが……
 それにしても、全人類が風邪をひいてもあいつだけは無事だと思ってたんだがな。
 しかし、そんな衛に感染する風邪はさすがに強力。
 43度の熱を筆頭に、常人では既に死んでそうな症状が色々出ている。
 さっき様子を見に行った時には、さすがの衛もおとなしく寝ていた。
 皆勤賞を狙っている衛にとって、今日が創立記念日だったことは不幸中の幸いだろう。
 ま、俺は欠席なわけだが……
「望みどおり、心のこもった看病をプレゼントしてやるか……」
 呟いて立ち上がった時
「あにぃ……」
 少し離れた所に衛が立っていた。
 全く気付かなかったのにも驚いたが、それよりも身体が心配だ。
「おい、ちゃんと寝てないと……」
「あにぃは、いっつもボクを子ども扱いするけど……」
「は?」
「ボクはもう、立派なチルドレンなんだぁぁぁぁ!」
「子供じゃねぇか! しかも複数形かよ! お前、今度英語の成績ちゃんと見せてみろ!」
 わけのわからんことを言いながら殴りかかって来る衛。
 俺は、ツッコミを入れつつ何とかそれを避けきった。
「ボクの盲腸を返せ!」
「わけわかんねぇよ!」
 なんとなく、いつもより衛の運動能力が高い気がする。
 パンチのスピード、踏み込みの強さ、どれをとってもプロボクシングで通用しそうな勢いである。
 やはり風邪の影響か……どんな風邪だ。
 虚ろな目で殴りかかってくる衛は、その威力もあってかなり怖い。
 だが、なんとかそれも避けきった。
「フフ……だてにお前を同じ遺伝子は受け継いでないぜ」
 衛ほどじゃないが、運動神経には自信がある。
 妙に速いとはいえ、直線の攻撃だけなら避けきれる……はず。
「だから消火器は嫌だって言ったんだ!」
「何の話だよ!」
「ミカンは暖めると酸っぱくなるんだって!」
「だからどうしたんだ!」
「ボクだって好きでスポーツやってんじゃないよ!」
「いや、好きでやってんだろうが!」
 ……ヤバイ。
 運動不足の俺では、衛との体力差がありすぎる。
 特に、叫びながらの運動は予想以上に体力を消耗した。
 どう考えたって俺の方が先にバテるな……
「あにぃはどうしてあにぃなのさ!」
「お前より先に生まれたからだ……よ? うぉあ!?」
 おもいっきり転んだ。
 バテるとか以前の問題だったな。
 どっちにしろ、俺もここまでか……?
「リンゴが食べたぁぁぁぁぁい!」
「勝手に食ってろ!」
 覚悟を決め、ギュッと目を瞑る。
 ……が、少し待ってみても衝撃は来ない。
 代わりに、ポスッという感覚。
 うっすらと目をあけてみる。
「……お?」
 衛の拳は、ちょうど俺に触れた所あたりで止まっていた。
「おっと!」
 そのまま倒れていくのを、慌てて受け止める。
「……衛?」
 呼んでみるが、返事はない。
 穏やかな呼吸を繰り返しているだけだ。
 あれだけ運動したのにそれもどうかと思うが……
 っていうか、結局何しに来たんだ?
「まさか……」



「あにぃ、よくわかったね。ボク何も言ってないのに」
 リンゴを剥いて持っていってやると、衛はそう言って驚いた。
 やっぱり最後のセリフだけを言いに来たのか……
 相変わらず行動の意味がわからんな。
 だが本人に意識はなかったようなので、とりあえず「あぁ、まぁな……」と答えておいた。
「それにしてもさ、ボクは風邪ひくの初めてなんだけど……」
「なにぃ!?」
「え?」
「お前、風邪ひいたことないの!?」
「う、うん。たぶん」
「なんつう体だ……」
 そういや、俺も衛が風邪をひいた姿を見るのは初めてな気がする……
 ん? ってことはだな……
 もしかしてこれは特別な風邪じゃなく、衛にとっては普通の風邪のひき方なのか……?
 ……もっと衛生面には気をつけることにしよう。
「……で、だから風邪をひくのは初めてなんだけどさ。結構気持ちいいもんなんだね」
「は? 気持ちいい?」
「うん。なんか、運動した後みたいな爽快感があるんだ」
「へぇ……」
 まぁ、あんだけ暴れりゃな……
 普通、風邪の時に運動しても爽快感はないと思うが。
「誕生日に風邪をひけるなんて、最高のプレゼントだね」
「いや、普通逆だろ」
「それに……さ。あにぃに看病もしてもらえたしね!」
「……ま、リクエストされたしな」
 本当は今日、サイクリングにでも行こうと思ってたんだが。
 まぁ、結局本人は喜んでるようだからいいけど。
「あのさ、あにぃ……」
「ん?」
「あの……ありがとう」
「何が?」
「だからさ、色々してもらっちゃって。あはは……こんなにしてもらえるんなら、時々は風邪をひくのもいいかな?」
「はは……」
 風邪で赤い頬をさらに赤くする衛は可愛かった。
 だが残念ながら、俺はそれ以上に思う。
 もう二度と風邪はひくな、と……

「他にも何かしてほしいことはあるか? 今なら誕生日特別セール中だからな。何でもしてやるぞ」
「ホント!? じゃーね……え?」
 そこで、衛はカクンと首を垂れた。
 少し虚ろな目で、顔から表情は消えている。
「衛? どうした?」
 顔を覗き込もうとした瞬間、衛の目がキュピーンと光った……気がした。
「チューリップなんて大嫌いだぁ!」
「うぉわぁ!?」
「プリンが食べたぁぁぁぁぁい!」
「その状態にならなきゃ言えねぇのかよ!」



 結局、衛の風邪は次の日には完治した。
 だが代わりに俺は、次の日から骨折やら何やらで入院する羽目になったのだった……
「あにぃ、鍛え方が足りないんだよ」
「誰のせいだよ!」









あとがき
どうも、カッツォです。
というわけで始まりました、新BDSSシリーズです。
シリーズ名は『妹、誕生日を迎える』です。
予告してた通りギャグですね。
しかしまぁ、1作目から微妙なものを……(汗)
とりあえず、最初のやりとりだけを思いついた時点で書き始めた作品です。
それ以降は、病院に行って滅茶苦茶やるとかいう案もあったんですけどね。
結局、この辺で落ち着きました。
なんというか、これはBDSSなんでしょうか?(殴)
というか、まずこの題名はどうなんだろう?(死)

とにもかくにも、一年間このシリーズで頑張っていきたいと思いますので、お付き合いよろしくおねがいします。
次回からはもうちょっとマシなもの書けるように努力しますので……(汗)
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです……




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