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花穂、料理する

作者:カッツォ


「お兄ちゃま、お兄ちゃま」
「ん?」
「今度の花穂の誕生日にね、花穂、お料理したいの!」
「……マジで?」
「? うん」
「い、いや……普通逆じゃないかな? そう、俺が花穂のために誕生日特別メニュー作ってやるよ」
「う〜ん、それもいいんだけど……やっぱり、お兄ちゃまに花穂の料理を食べてほしいの」
「……決意は固いのか?」
「え? あ、うん」
「絶対?」
「う、うん」
「……わかったやってみろ」
「やったぁ! 花穂、頑張るね!」
 ……今年の誕生日プレゼントは、俺の命か。



 ガシャンガシャンという音が、数秒おきぐらいに聞えてくる。
 たぶん、我が家の皿は既に半分が壊滅状態だろう。
 だが、そんなことは問題ではない。
 次に壊れるのは俺の命かもしれないのだから……
 結構ありえるだけに、かなりリアルな恐怖だ。
 「お兄ちゃまは入ってきちゃダメだよ」なんて言うので、俺はここで待つことしかできない。
 と、凄く不穏な声が聞えた。
「え〜っと、お塩は……」
 ……まさか、今時塩と砂糖を間違えるなんてオチじゃねぇだろうな。
 そっと、台所の様子を窺ってみる。
「って、うぉい! ちょっと待てや!」
「あ、お兄ちゃま、入ってきちゃダメだよ〜」
「そんな場合じゃねぇ! お前、何入れようとしてんだ!」
「え? お塩だけど?」
「ドクロマークの書いてある塩があってたまるか!」
「あれ? これってお塩のマークじゃないの?」
「どこをどうすればそう思える!?」
「てへ、間違えちゃった」
「いや、可愛い仕草でカバーできるレベルじゃないだろ!」
「もぅ、いいからお兄ちゃまは向こうに行っててよ」
「今のかましといて言うセリフか!?」
「大丈夫だから、お兄ちゃまは待っててくれればいいの」
「だから、たった今大丈夫じゃなかっただろうが!」
 と言いつつも、どうも花穂の言うことは断れない俺。
 仕方なく台所を出る。
 しかし、あんな薬がなんでウチにあるんだ……



 とりあえず危機は1つ回避できたが、同時に今がもの凄く油断できない状況であることも判明した。
 次に何をやらかすのか、全く予想できないところが恐い……
「キャアァァァァァァ!」
「!?」
 台所から、断末魔の悲鳴のようなものが聞こえた。
 だが、あれはたぶん花穂の声じゃない。
 他に人なんていないはずなんだが……
「花穂、何かあったのか!?」
「あ、お兄ちゃま、だから入ってきちゃダメだって……」
「入らざるをえない状況を作るなっての! で、今のは何?」
「今のって?」
「悲鳴だよ。何か、もの凄ぇ声が聞こえたぞ?」
「あぁ、それならあの子の声だよ」
「あの子?」
 花穂の指差す先を見る。
 1つの鉢が置いてあった。
 そこから、ひまわりぐらいの大きさの植物が生えている。
 が、当然この空間に存在する以上ただの植物じゃない。
「……人面草?」
 しかも、ちょっと俺似?
「……これ、何?」
「人面草だよ」
「いや、そんな素で答えられても……何に使うんだ?」
「もちろん、料理にだよ」
「……料理? これを? 食うの? 俺が?」
「ちょっとこの子がかわいそうだけど……」
「そんなもん食わされる俺の方がかわいそうだっての!」
「でも、お兄ちゃまのためだし」
「俺のためを想うなら、頼むから入れないでくれ!」
「頑張って、とってもおいしくするからね!」
「聞いてますか!?」
「だからね、お兄ちゃまは向こうでもうちょっと待ってて」
「あ、いや、ちょい待ち。もう1つ聞きたいことがある」
「なぁに?」
「……あれは何だ?」
 最初に入ったときから、もの凄く気になってたものがあった。
 考えないでおこうと思っても、勝手に視界に入ってくる。
 なんかトリカブトの根っことか、マムシ干しとか、コウモリの羽とか、そういうのに見えるんだが……
「え〜っとね、トリカブトの根っこでしょ、マムシを干したやつでしょ、あと、コウモリの羽とかかな」
「大正解!?」
「近くのスーパーで安売りしてたから」
「だからって買うな! っていうか、どういう地域だこの辺は!」
「体にとってもいいんだって」
「……まさか、それも料理に入れるのか?」
「もぅ、お兄ちゃま、そんなわけないよぉ」
「そ、そうか。そうだよな、ははは……」
「ミキサーでジュースにするんだよ」
「余計気持ち悪いわ!」
「体にとってもいいんだって」
「それ以前にそんなもん飲めるか!」
「大丈夫だよ。スッポンエキスと青汁で味付けするから」
「エグさ倍増!?」
「体にとってもいいんだって」
「体によければいいってもんじゃねぇだろ! っていうか、それは明らかに毒物だろ!」
「さ、お兄ちゃまは向こう行っててね」
「……今のうちに遺書作っといた方がいいかな……」



 ついにこの時が来た。
 器に盛られた物体は、見たこともないような色をしている。
 自然界に存在しないのはもちろん、人の手でも作れない色のような気がする。
 思ったより臭いがしないのは助かったが、食材の特定は不能。
 っていうか、たぶんほとんどが俺の知らない物体。
 他にも色々挙げたい所はあるが、きりが無いので省略。
 1つはっきり言えることは、さっき遺書を作っておいてよかったということだ。
「……一応聞いておくが、これの料理名は?」
「あれ? 見てわからないかなぁ……ちょっと形が崩れちゃったしね。一応、スイートポテトなの」
「うそぉ!?」
「本見て作ったんだけど、やっぱり上手くいかないね。てへへ……」
「ちょ、ちょっとその本見せてくれるか?」
「いいよ? はい」
「………………本は普通じゃねぇか! どうやったらこの異次元物質ができるんだ!?」
 そして、お前はスイートポテトを何だと思ってるんだ?
 憶測だが、たぶんこれ、イモは入ってないと思う。
「さ、召し上がれ」
「……………………」
 はしを持つ手が震える。
 ……いやいや、見た目に反して味は美味いというパターンかもしれないじゃないか。
 …………これに限って、億に一つもありえない気もする。
「……いただきます」
 覚悟を決め、物体を口に入れる。
「……………………」
 まずいとか、そういう次元を凌駕している。
 そもそも、これは本当に俺の舌が感じている味なのか?
 それすらもわからない。
 体の中に何かが侵入して来る気がする。
 脳は、もう危険信号を発する元気も無いらしい。
 自分が今、生きているのかどうかすらもよくわからない。
 変にはっきりしている意識の中、自分が椅子から転がり落ちるのがわかった。
「あれ? お兄ちゃま、どうしたの?」
「……そうだ、花穂。渡すものがあったんだ」
「なに?」
「ほい……誕生日プレゼント……」
「え!? いいの?」
「まぁね……」
「……開けても、いい?」
「あぁ……」
 自分でも驚く程はっきりと喋れたが、どうやらここまでらしい。
 もぅ、口も動かせそうにない。
「わ、カチューシャだ!」
 あぁ、そういや買い溜めしてた砂糖がもう切れかけだっけ……
 サボテンも、そろそろ水あげないと……
 明日、新聞の集金だったな……
 でもなんかもう、どうでもよくなってきたなぁ……
「ありがとう、お兄ちゃま! 大切にするね!」
「……ぐふ」






あとがき
どうも、カッツォです。
今回はかなりギリギリでした。
現在もう6日の夜、ヤバイ……(汗)
なんだかんだで、このシリーズももう4分の1が終了です。
う〜ん、早いですねぇ……
今年はどこまで書けるかちょっと不安なんですが(汗)、残りもよろしくおねがいしますね。
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです……




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