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マジックスクールライフin熱海

序章「猫と世界と魔法の日常の起源」

作者:miyukiさん


突然だが、そこの君に聞きたい。
「魔法の使える高校生になりませんか?」
こんな手紙が届いたら君はどう対処するだろうか?
見なかったことにして捨てるであろうか?
興味本位で連絡先の電話番号に電話するだろうか?
人それぞれ違った対処をすると思うが、少なくとも、まともに取り合おうとはしないはずだ。
それは何故か?魔法なんてものを信じてないからだ。超能力を信じてない奴に超能力を学びませんかといっても無駄なように魔法を信じていないものに魔法を学びませんかといっても取り組む奴はまずいない。
そして、俺もまた「魔法」という存在を否定する人間だ。というか、基本的に証明されてないこと以外は信じない。友人が心霊写真だと騒いでも俺は特に見向きもしないし、ここは幽霊が出るといわれる通りを平気でつかう。
もちろん科学万能なんてことを信じてるわけでもないが、とにかく万人に受け入れられていること以外信じる気にならないだけだ。
そんな俺のもとに一通の手紙が届いた。内容は冒頭で述べたとおりだ。もう少し詳しく言えば、この手紙にはこんなことが書かれていた。
「めくるめく夢の力、魔法。その力も君も手にしてみないか?この手紙の届いた君はその素質を持つ、選ばれしものだ。われわれと一緒にその才能を開花させよう!!
普通科コース、魔法特化コースの二種類のコースがあるから将来は普通の大学に行きたいという君も安心!普通科コースでも魔法の授業は充実!三ヶ月で基本魔法を習得!さあ、舞台は整った。あとは一歩の勇気だ。君の来校を心より願っている」
そしてその後、
「入学説明会についての詳しい日程、場所などを連絡したいので下記番号に連絡ください。
0120-・・・・・・・」
と書かれてこう締めくくられていた。
「※この手紙は素質のある貴方にだけ読めるようにかかれてあります」

はっきり言おう。俺は初めこの手紙を読んだとき警察に連絡しようかと思った。また新手の架空請求が出回ってますよ、と。しかし特に請求されてないということに気づき受話器を置いた。
まあ、いろいろ突っ込みどころがあって「突っ込み仙人」と自称している俺ですら突っ込みきれないが。三ヶ月で基本魔法習得?ここは駅前留学か。一歩の勇気?いるようなところを宣伝するな。エトセトラエトセトラ・・・。
しかしこれらを差し置いても突っ込みを入れたいのは学校があるのが熱海ということだ。熱海。温泉等で有名なあの熱海。

そして最終的に俺がとった行動というのは次の日学校に持っていって友人との話の種にでもしようかということだった。はっきり言ってここまでふざけきった内容なら笑いにでもできるかと思ったからだ。

しかし、ここから、この手紙を受け取ったこの日から、俺は一歩づつ、確実に変な高校生活に向かって直進していった。


はぁはぁ。あ、言っとくけど息を荒げてるからってエッチなことしてたわけじゃない、そこの健康な男子諸君。まあ、俺としてもこんな状況よりはソッチの状況を心の奥底から望むが、残念、色っぽさとは無縁だ。
・・・ったく、なんだってんだ?
畜生、あの手紙は俺にとって、厄介ごとでしかなかった。

俺の名前は風間 龍(かざま たつ)。今年、まあそれなりの高校に入学を希望している中学三年生だ。先日、結局三年間やり続けた陸上部を引退し、のんびり受験生って言うのをはじめた。といっても、この時期はまだみんな気楽なもんで特にめちゃくちゃ勉強してるって奴はいない。あ、一人いる。でも、まあ、彼女は例外みたいなもんだ。ま、つまりそんな熱心じゃない学校の受験生。まったりとした暮らしをすごしていた。

あの手紙が届いた次の日、俺はその手紙を友人に見せたんだ。
「どーよ?わらえるっしょ」
友人はしばらく手紙を眺めていたがやがて顔を上げて俺に向かってこういった。
「いや、笑えるとか言われても・・・なんもかいてないじゃん?」
俺は当然耳を疑った。
「は?いやほら、ここに書いてあるじゃん」
「いや、いやいやいや。・・・・ってははぁ、なるほど」
「?」
「あれだろ?俺がああ、書いてある書いてあるって行った瞬間、『んなもんねーよ』って叩き落す気だろ?ったく、今更そんな手に引っかかんねーよ」
「・・・・あ、ああ、そうなんだよ。ちぇ、ばれたか」
そういう俺には友人が白紙という手紙の上に昨日見た文字が確かに見えていた。

あれから、周りにいた友人何人か、家族に聞いて回ったが誰一人として見えるものはいなかった。

おかしい。奇妙だ。そう俺が感じ、何かしらの確信を得るのに時間はいらなかった。その至った確信というのがこの手紙は何かしらの方法で『俺にしか見えないように書かれている』というありえないような確信だ。通常物質が目に認知されるのはそれが太陽、蛍光灯などの光を反射し、その反射のときにそれ特有波長だけを反射して目に入ることで認知される。俺以外の人間がこの手紙の文字を見えないということで考えられる可能性は二つ。・・・しかし、そんなことが可能なのか?
あ、いけない、いつもの癖が。くそ、柄じゃないってのに、こんな物理的に物事を捉えるなんて。
ん?何でそんな高校でやるような物理の内容を知ってるのかだって?まあ、かいつまんで話すと近所にすんでた二つ上の先輩と俺は仲がよかった。名前は雪摩っていうまあ、ありていに言ったら変な人だ。その人が物理大好き人間で高校で習った物理ってのを毎週毎週俺に語ったわけ。で、まあ、多少はそういうことに興味のあった俺は知識として吸収した、そういうことだ。
「すんでた」と過去形にしたのは別に間違ったわけじゃない。今年頭の三月に突然失踪したのだ、俺に当てた一つの手紙だけ残して。まあ、家族ももとよりいない人だったから旅にでもでたんじゃないかという安直な考えで近所の住人は片付けた。実際そうしてもおかしくない人だったが・・・。
とにかく先輩の教えてくれたことも無駄じゃなかったわけだ、と思いたい。不意に何かしらの視線を感じた。嫌な予感がして窓を開ける。外はすでに暗くなっていた。六時ぐらいか?そんな時間、いや、時間は関係ないか、とにかく窓の向こう側には屋根の上に立っている青年がいた。しばらく対峙していたが、やがて向こうが口を開けた。
「不思議に思ってるみたいだね、手紙のこと」
俺は押し黙ったまま。
「さて、雪摩さんの後輩君だっていうしそろそろ手紙のからくりを物理的には理解してるんじゃないかな?」
「!雪摩先輩を知ってるのか?」
「ああ、まあ僕も先輩のチームの一員だからね」
「・・・・俺の考えはこうだ。可能性は二つ。一つはこの文字が発している波長がこの手紙と同じく限りなくほとんどの色を反射することで白くなり、後ろの白と同化してしまっているということ。しかしその場合逆に俺にはすべての光を反射せずに黒く見えているということが納得いかない。もう一つはこの文字が俺だけに見える波長を吸収してるってこと。つまり、他の人にとって不可視光線であるからもとより吸収しようが関係なく俺にとっては見えるから黒く見えるって事だ。確かに人によって不可視な色が存在することはある。そういう点ではまだ、こっちのほうが納得がいく」
その説明を聞くと青年はうれしそうに拍手をして、
「すごいすごい。さすがだね、そこまで考えるなんて。ちなみに正解は後者だ」
「・・・いったい、どんなからくりなんだ?」
すると、青年はちょっと困ったような顔をした後いった。
「どんな、って言われてもね。書いてあっただろ?魔法だよ」
「ふざけんな!!そんなもんあるか!」
やれやれといった顔で青年はかぶりをふった。そして、
「かたくなだね、まあ、先輩から聞いてたけど。でもまあ、その先輩が来て欲しがってるんだから来てくださいよ」
「・・・先輩が?」
何を言ってるんだ。あの『この世のすべてを物理で証明してやる』といっていた先輩が行くはずが・・・・あるな・・・。
「ま、入学説明会の資料ぐらい請求してよ。あれフリーダイヤルだしさ」
そういって彼は闇の中に消えた。彼とともに彼が放っていた謎の圧力も消えた。
疲れた。
・・・ったく、先輩め・・・。

その日から一週間、俺の周りでは不思議なことが起こり続けた。先生の髪型がアフロになってる。猫が人語を操る。百円ショップで三百円の商品が売っている。最後のはこじつけだが・・・。
先生のアフロは全員に見えていたが猫のほうは周りの人間が驚いてないのを見る限り俺にしか聞こえてない。
「まあ、つまり一生なんてはかないってことがわかったかな?」
で、何故か俺の隣にいる。
「何で俺んちを知ってるんだよ」
「ふ、猫の言葉を介する人間をほって置けるか」
答えになってない。この猫はおそらくあの青年が置いていったものだろう。他の猫がしゃべるのは聞いてないから。
どうあっても彼は、そして先輩は俺に魔法学校に来て欲しいらしい。しかし、先輩はわかってないな。俺には親がいるんだぞ?どう納得させたら魔法学校に行かせてもらえるってんだ?

「ん〜、問題ないんじゃない?」
初めに現れた日から二週間後、あの青年は再び現れた。そして俺が投げかけた先ほどの疑問をその言葉で一蹴した。
「問題ないってなぁ・・・・。ありまくりだろ!!」
「いやいや」
「じゃあ言ってみろ。どう説明したら両親が納得するんだよ」
「そのまま言えばいいじゃない。魔法学校に入学したいですって」
でた!やっぱりか。こいつ(おそらく魔法学校にいる奴は全員)こちらの常識が通用しない。
「あのなぁ、魔法なんてもん信じてもらえるか!!その上俺は行きたいとも思ってないし魔法なんてあるとも思ってない」
「やれやれ想像以上に頑固だね。あれだけ不思議な現象を体験してまだ信じてないのかい?」
やっぱりこいつの仕込みか。
「担任の髪をアフロ、猫がしゃべる、百円ショップに三百円の商品・・・」
それもお前の仕業かい!!
「・・・・・えーとそれぐらいかな」
彼があげた十個程度の出来事のうち一、二個はわからなかったもののそれ以外は確認できるものだった。
「これだけしても信じてもらえないとなると、どうも、ああするしかないみたいだね」
そういいながら青年は表情を厳しくした。
「極力まだあれを見せたくはなかったけど・・・仕方ないか」
「おい、何の話・・・」
「明日夜十時、君の学校の校庭に来てくれるかな?」
そういう青年の顔はどこか現実離れした緊張感を伴っていた。
「・・・わかった」
何故か反論できずに俺はそう答えてしまっていた。

「まああれだ、人間の中にはピーナッツ入り柿の種のピーナッツを嫌うものがいるらしいが、俺はそれは邪道だと思うわけだ。なぜなら・・・」
なにやらよくわからないことを演説している例の猫を無視して俺は考えにふけっていた。あれってなんだ?そんなに見せたらまずいものなのか?しかも俺に魔法の存在を信じさせるほどの現象・・・。
「・・・・というわけだ。わかったか、青年よ」
とりあえず猫の講義は終わったらしい。そんな猫は放置して俺はさらに考えをめぐらせていった。

あとから思えばなぜすっぽかさなかったのだろうかと思う。別に絶対に行かなければならないという義務はなかったはずだし、大していきたいとも思ってなかったはずだ。・・・また魔法を信じる気も・・・。
ともかく、いろいろありすぎて疲れていたんだろう、俺も。だから俺は行っちまった、夜の校庭に。・・・魔法の存在を信じざるを得なくなるあの場所に・・・。

夜十時。当たり前だがその校庭には部活する生徒の姿はない。ただ、静寂と闇だけが広がっていた。今日は新月、よって月明かりもなくその分暗い。そこにいるのは俺・・・・・と猫だけ。まだあの青年は来ていなかった。
「フム、時に青年よ。こんな時間にここで部活でもするのか?青春だな」
猫は勝手なことをいっている。とりあえず無視している。
相変わらずの静寂、猫の声以外は。もうすぐ十五分はたとうかというのに青年は一向に現れない。呼び出しておいてどこかから俺の姿を見て笑っているのかもしれない、そんな考えもよぎった。
十時半。さすがにイラついて帰ろうかと思っていたそのとき、猫がふといった。
「しかし青年、ここで青春するのは危ないと思うぞ。特に今日は」
少し不審に思った俺は聞き返した。
「なぜ危ない?ここは特に危険なものはないぜ?」
「この空間が危ないのだ。ましてや今日は新月、ということは・・・」
そこで猫の話は終わった。というか終わらざるをえなかった。
突然、ものすごい光と共に俺と猫の前方5メートルの空間が裂けたのだ。空間が裂けた、そうとしか言いようがない。何もなかった空間に切れ目が入ったのだから。
「まずいな青年。一刻も早くここから逃げたほうがいいと思われる」
猫はあせっているのか、落ち着いてるのかよくわからない声でそういった。いっぽう俺は逃げなければということを頭は理解しても体はいうことを聞かないでいた。くそ、ここで俺の人生おしまいか?
そう思ったとき不意に体を後方に引っ張られた。
「危ないですよ。まあ、緊張で体が動かないってことはよくあることですけどね」
俺の体を引っ張った人物はいうまでもない、あの青年だった。
「すみませんね、少々遅れてしまいました」
青年は大してあくびれた感じもなくいった。
「いったい、これは、・・・・なんなんだ?」
「そうですね、さしずめ、世界の亀裂といったところでしょうか」
「世界の・・・・亀裂?」
「そう、まあ、あんまり話をしてる場合じゃないんで仕事が終わったあとに詳しくは話します」
そういうと青年は青年が世界の亀裂と呼んだものに向かって手をかざしながら呪文のようなものを唱えだした。
「われここに空間をつむぎて壁をなす。空間をつかさどりし精霊ディメンスよ、我が呼びかけに答え砕け散りし空間に壁を成せ」
青年が呪文のようなものを唱え終わると亀裂は一度まばゆい閃光を放ったかと思うと何事も無かったかのように閉じた。ふぅとため息を一つつくと青年は改めて俺のほうに向き直ると言った。
「これで魔法の存在を信じてもらえるかな?」
「・・・・」
「どうやら混乱してるみたいだね」
「当たり前だ。なるほどと納得できるやつがいたら見てみたい」
「フム、その通りだね」
青年はなるほどといった感じでうなずいた。
「では、いろいろ説明していこうか」
「・・・・・」
「まあ、信じられないようなことばかりいうけど限りなく真実を話すからそのつもりで聞いてよ。まず、初めに、この世界はとっくの昔に終わりを迎えている」
「・・・・・・はぁ?」
「ああ、わかる。僕も初め聞いたときは何を言ってるんだと思ったよ。世界はそこにあるじゃないかってね。でも、やっぱりこの世界は終焉を迎えているんだよ」
「・・・・・」
よくわからないがとりあえず青年の話を聞いたほうが早そうだ。俺は静かに聞くことにした。
「世界が終わりを迎えているのになぜこの世界は存在するのか?その答えは、まあ、言ってみれば魔法に集約されるわけだ」
「・・・・」
「20世紀初頭、ある人物が当時の物理学では解明できないような現象を確認した。まあ、わりかし名前と理論名だけは有名だと思うから知ってると思うけど、あのアインシュタイン博士だ」
「相対性理論ってやつか」
「そ、それ。それによってアインシュタイン博士はそれまで科学者が信じていたエーテルの存在を否定したんだけど、エーテルとは他の未知の要素が存在することを発見していたんだ」
「・・・・それが魔法というわけか?」
「まあ、当たらずとも遠からず。実際彼が発見したのは現在僕たちの間ではマテリアと呼ばれる物質だ。まあ、魔法を構成する上での元になるものだね。ともかく彼はそれを発見したにもかかわらず発表しなかった。なぜだと思う?」
「馬鹿にされるからか?」
「それもあるだろうけど、彼は実際物理学でこの世は解明できると信じていた。それが物理学的には存在してはいけない要素が存在したんだ。自分自身で否定したかったんだと思うよ」
「・・・ではなぜお前たちはその存在を確認できている?」
「そこがこの話の味噌になるってわけ。実はアインシュタイン博士はその後この世界が数十年の間に終わることを確認した。みずから否定したがったマテリアを使うことによってね。そこで彼は悩んだ末、一人の友人にマテリアの存在を語ることにした。それが僕らの学校の創始者ってわけさ」
「・・・まあ、筋は通ってるな」
「その後二人の話し合いで崩れそうな世界をある法則をもって安定させようと考えた。そこで生まれたのが魔法ってわけさ。まあ、物理学を信じるアインシュタイン博士にとって見れば魔法の存在はそれこそ悪魔の法則。皮肉ってそうなづけたんだろうね。ともかく二人の考えは成功し、この世界は安定を取り戻したってわけだ」
「・・・・大体の話は読めた。さっきのは世界が崩壊に向かう予兆か」
「鋭いね。そう、まさしくその通り。二人が安定させたはずの世界は残念ながら不完全な安定を得たに過ぎなかった。結果、さっきのような亀裂が世界中で発生するに至った。そこでようやく僕らの学校が登場するわけ。創始者は亀裂を閉じさせる力を持つもの、つまりマテリアを操ることのできるものを育てることを考えた。そのものたちがいれば亀裂が生じてもさっきのように消すことができるからね。そして生まれたのが僕たちの学校ってわけさ」
「なぜ完璧な安定を得られなかった?」
「まあ、そのころの魔法が不完全だったというのもあるけど何よりほんらいの自然な姿、つまり崩壊という姿に向かう流れがあるからかな。詳しいことはまだよくわかってないけどね」
「・・・・」
「どうかな、今話したことが現在の世界の大体の流れと魔法の概要なんだけど」
「・・・・」
俺は自分の中でいろいろと考えていた。はっきり言って常人なら信じられないようなことをいわれてそれを信じろと突きつけられていたわけだ。正直、いつもの俺なら信じるとか言う次元の前に話を聞きすらしなかっただろう。しかし話を聞いたのは実際に世界の亀裂っていうものを目の前で見たからだろう。あんなもんは少なくとも俺の今まで生きてきた世界では存在しえないもの。それに対して新しい概念を持ち込むのは当たり前といえば当たり前だからだろう。
しばらく考え込んでやがて俺は口を開いた。
「・・・・正直、まだ信じられない」
「フム、そんなに魔法というものを否定したいかい?」
「魔法だけじゃない。あんたが今話してくれたことすべてが信じがたいことだ。でも少なくとも世界の亀裂って現象と世界が崩壊に向かってるっていうことだけは信じる。目の前で起こってしまったんだからな、それに準じることが少なくとも起きてるんだろう」
「なるほどね」
「・・・とにかくいっぺんにいろんな情報がはいってきて頭が混乱している感じだ」
そう伝えると青年は一度大きく息を吐き出し、
「まあ、しかたないか」
そういって背中を向けた。
「まあ、そうだね、一週間、考えてみなよ。で、一週間後、僕はもう一度くるよ。入学資料をもってね。それが最後、そこで君が行かないって言うなら僕たちはあきらめるよ。先輩にも伝える。それでいいかな?」
「・・・・ああ」
「うん、じゃあ、僕は帰るとするよ。じゃあね」
そういって青年は闇の中に姿を消した。亀裂も青年も消えた後、真夜中の校庭にはただ静寂と闇だけが広がっていた。
「フム、とにかく我輩としては早急に帰って寝たいものだ」
猫だけがすべてに関係なく自己というものを貫いていた。

あれから三日たっただろうか。相変わらず俺はなんでもない日常を過ごしていた。学校に行き、友人と適当に話して、わらって、家に帰ってきて、多少勉強して寝る。普通の受験生の生活ってやつをやっていた。頭の隅ではどうするかを決めないといけないとはわかっていたが日常を過ごすことで普通ってやつを維持しようとしているだけかもしれない。
そんなときに猫が語りかけてきた。
「・・・・・であるわけだ。わかったか?」
「はいはい」
「ふむ。・・・・ところで、結局どうするつもりなんだ?」
「・・・・・・」
「まあ、我輩としてはどちらでもかまわないのだが、一応、その、主人の行く末ぐらいは知っておきたいからな」
「ははは、主人か・・・」
「その、なんだ、いってみたらいいとおもう」
「うん?」
「その、な。うれしかったのだ、我輩としては」
「ん?何の話をしてるんだ?」
「我輩は見たとおり猫である。それゆえ人と会話をすることは相成らん。我輩と同種である猫たちは我輩の話など聞こうともしてくれない。我輩はいつも一人でぶつぶつとつぶやいていなければならなかった。それをあの青年がたとえおぬし限定だとしても人と会話することのできる能力を与えてくれたのだ。我輩は感動した。初めておぬしと会話したときは震えたよ。そんな能力を与えられる能力を身につけられるようになるなら、いってみてもいいんじゃないかと思うわけである」
猫は何か照れくさいようなものを隠すような口調でそう語った。しばらく沈黙。
「・・・・そういや、お前名前あるのか?」
「初めに名乗ったはずだがな。まあ、いい。クシュリスという」
「・・・クシュリス、か。いい名だな」
「うむ、我輩も気に入ってる」
俺はいったいどうすべきなのだろうか?猫―クシュリスの言葉を当てに行くべきなのだろうか?それとも何事も無かったかのように日常に戻るべきなのだろうか?
「最後はおぬしが決めることじゃ」
クシュリスは俺の心を見透かしたような調子でそういうと窓から外へと出て行った。そうだよな、俺の進む道だからな、俺が決めないと。誰かがそういったからじゃなく、俺が。

「答えのほうを、聞かせてもらえるかな?」
約束した一週間後、青年はやってきた。心なしか少し緊張したような顔つきだ。
「・・・めちゃくちゃ迷った。正直、三日ぐらいは問題から逃避して日常を過ごしてた」
「・・・うん、しかたないさ。いわば人生を決めるような選択だからね」
「・・・・・いくよ」
「え?」
「行ってやるって言ってんだ」
「え、ああ、そうか、はは、よかった」
青年は緊張した面持ちをといて少し笑った。
「いやー、よかった。断られると思っていたから」
「まあ、それはいいんだが、入学して欲しいって希望してきたんだから後は任せてもいいんだよな」
「ん、ああ。もちろん。入学手続き、住居、お金。すべての条件はこちらで用意させてもらうよ」
「それと、両親の説得だ」
「ああ、もちろん、任せてくれ」
そうしてその日俺の高校生活、人生、そして世界の行く末が決まった。ああ、あとクシュリスの行き先もか。

その後入学までの流れ、段取り、手続きの仕方などの説明をして青年は帰っていった。あ、結局名前聞いてねーや。まあ、いいか。入学したらあうこともあるだろ。
説明を聞くのに疲れたので青年が帰ったあとすぐに風呂に入り布団へともぐりこんだ。うとうとしかけたころにクシュリスが話しかけてきた。
「その、一つだけ聞きたいことがある」
「んーー?」
「我輩のせい・・・か?」
「何が?」
「入学するって事なのだが」
「いや、確かにきっかけではあったけど、最後は自分で決めたよ。だから、・・大丈夫だよ」
「そうか・・・・。それを聞いて安心した」
「はは」
「ふふふ。さて、今日は月がきれいだ。見てくることにする。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
クシュリスは窓から外へといった。その後、どれぐらいして俺が眠ったのかはわからないがとても心地よい睡眠だった。


初めにあの手紙が届いてから半年。俺は熱海に来ていた。正直不安で仕方がない。
これからこの熱海でひとりで暮らせるだろうか?見知った友人も両親もいないこの土地で。
「安心しろ、主よ。我輩がいる」
俺の不安を察したのだろうか、クシュリスがのんきな声で言ってくる。だから俺ものんきな声で答えた。
「不安なんかねーよ。ちょっと緊張してるだけだ」
「ふむ、ならいい」
ここから俺は歩き出す。今までと違った日常の中へ。


ここまでのあとがき
な、なんじゃこりゃあああああああ、っていうほどしょぼいです。もとい長いです。
こうしてカッツォさんのところにおくらせてもらってるわけですが自分のページにも乗せとります。
ご意見ご感想は僕のページの掲示板かメールのほうにお願いします。


miyukiさんへの感想はこのアドレスへ
yukimamikoto@hotmail.com


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