午後1時過ぎ。
雨はお昼前にやんでいた。
昼ごはんを食べた花穂は一人で湖畔の前に立っていた。
朝の四葉の言葉が頭から離れないでいた。
とても信じたくない内容だったからだ。
加藤と院長先生の安否も気になる。
今日は朝から転ぶし事件は起こってるしですでに疲れきった感がある。
「はぁ」と小さくため息をついた。
その花穂の後ろからゆっくりと足音が近づいてきた。
振り向くとそこにはもう見慣れた人が立っていた。
「ミカさん…」
「どうかしたの? 元気なさそうだけど?」
権藤は笑顔で花穂に話し掛けるものの花穂の表情は浮かないままだ。
「まだ…加藤さんは帰ってこないんですか?」
「え…あ、あぁ…。そのことか…」
権藤は花穂が暗い理由が加藤のことと理解した。
だから努めて笑顔で明るく接しようと考えた。
「大丈夫だって! すぐに帰ってくるからさ」
「……うん」
「……暗いなぁ…。そうだ! 気晴らしにちょっとそこまで散歩にでも行かない?」
「え…?」
「いいからいいから」
「う、うん…」
権藤は元気のない花穂を半ば強引に散歩に誘った。
そしてその後ろから二人とは違う影がついていっていた。
「どう? 少しは元気になった?」
「うん…」
二人は診療所から少し離れた見晴らしのよい高台まで来ていた。
高台から見下ろした景色は絶景で、木々についた雨の雫がキラキラと光ってとても幻想的だ。
しかしそんな景色を前にしても花穂の表情は硬かった。
「う〜ん…。そうだ、少し私と話でもしようか?」
「え? …別にいいですけど…」
「よし。それじゃ…私と最初にあったときにさ、外で何かしてたじゃない。アレって何をしてたの?」
「最初…あっ、あの時は探し物をしてたんです」
「探し物? あんな夜中に?」
「うん。小さくて細い棒のようなものを…」
「何で?」
「え?」
何故か必要に花穂たちが何をしていたのかを気にしてくる権藤。
いつの間にか言葉に感情がこもってなくなっているようにも感じられた。
そしてその時花穂はあるものを見て、あの時の状況をハッキリと思い出した。
あるものとは権藤の胸ポケットに入っている通常サイズよりも小さくて細いシャーペン…。
そして木から落ちる原因になった(と考えられる)頭に当たったものは……まさしく『ソレ』だった。
そして木を登ってるときに偶然見えた光景も思い出してきた。
あの時……花穂は誰かが部屋の前で何かスタンガンのようなものを持っている光景を見た。
しかしそれは夢だったか暗かったから見間違いだった程度で忘れていた。
そしてドンドン鮮明に記憶がハッキリしてくる。
あの時、あの場所で、ギラギラとした鋭い眼光で部屋の前にいたのは…。
「どうかしたの?」
「あっ…」
権藤が一歩花穂に近づいてきた。
同じように花穂は一歩後ろへ後ずさる。
さらに権藤が近づいてくる。
花穂はドンドン後ろへ追い込まれていく。
「あ!?」
そして高台の端、人が落ちないように設置されてる手すりまで追い込まれた。
この手すりを越えると、人の足では登れそうにない急な坂道になっている。
運が悪ければ死んでしまう可能性もある、いわばちょっとした崖のようなものだ。
「どうかした?」
「!?」
すぐそこまで権藤は迫ってきていた。
もはや笑顔は完全にない。
前からそうだったような…そう思わせるような顔だった。
「どうしたの? もう逃げないの? 逃げないと…」
花穂その無表情な権藤から多大な恐怖を感じ、震えている。
そして限りなく感情のない声で権藤は言った。
「逃げないと……死ぬわよ」
「雨降り権藤が犯人デス」
「「えっ!?」」
四葉が犯人と思う人物…それは権藤だった。
加藤のことで失意に沈んでいた二人に別の不安が襲った。
「ど、どういうこと四葉ちゃん!」
「私にも理解できません…説明してください四葉ちゃん!」
「お任せクダサイ!」
四葉が得意げにしかしどこか悲しげな表情を浮かべて言った。
しかしその四葉よりも悲しく不安な表情なのは鞠絵だった。
「まずはトリックからお話しマス。トリックは簡単で、あの女の子にお話したトリックの応用デス」
「女の子……あぁ、扉を壊すと一緒に殺してしまうというものでしたよね?」
「そうデス。「鍵を開けてくれ」と言ってあの珍しい鍵穴に鍵を挿してもらう、そして鍵の先がこちらに来たときに電気を発するもの、そうデスね……スタンガンとかデショウか? これを鍵の先にくっつけるだけで、金属で出来た鍵は電気を通し、心臓病を患ってる院長先生は……。昨日は偶然にも雨が降っていて湿気がいつもよりも多かったデスからね、通電もしやすくなってマシタし」
「ふぇ…、花穂わかんない…」
「…………」
電気によるショック死。
昨日女の子に話したトリックの応用とは、銃とスタンガンの凶器の違いだけといったところだろうか。
またまた花穂には理解できない話だったようだが、鞠絵には理解できたようだ。
「あっ、鍵先に黒い点のようなものがついていました。これは院長先生の指先についていた火傷とは違うようで、鉛がついていたそうデス。まぁ、鍵を落とすためにシャーペンか何かで押し落としたんデショウ」
「シャーペン? あの小さな鍵穴にですか?」
「…覚えてないようデスね」
「え?」
覚えていない…のではなくあまりにそれが見慣れたものだったからだろう。
そして次に四葉は権藤が犯人だとした理由を話し始めた。
「………時間デス」
「時間?」
「そこで目を回してる花穂チャマ」
「へ、花穂?」
「幽霊の現れたのは何時頃デスか?」
「えっと、確かね……1時だったかな?」
「じゃ、加藤さんが最後に院長先生を見たのは?」
「1時?」
「四葉たちが加藤さんに見つかったのは?」
「1時過ぎってことになるのかな?」
「帰りに幽霊は見マシタか?」
「え…? う〜ん…そういえば見てないような…」
鞠絵は四葉の言いたいことがわかった。
昨日の巡回当番は権藤。これは本人が言っていた。
しかし時間が変わったばかりで、権藤が勘違いしていた可能性も…。
「ちなみに、権藤さんが新しい定刻どおりに巡回に行ったのを西村さんが見たそうデス」
「西村さんが…?」
「はい。いつもよりも呼吸のテンポが早くて、歩きも荒々しい権藤さんを」
「えっ? そんなにわかりやすかったの?」
「花穂ちゃん、違いますよ。西村さんは……耳が良いんです」
「え?」
鞠絵は泣きそうな表情だが小さな笑顔でぽつりと言った。
西村の耳の凄さをこの中で一番知っている鞠絵だからこそ、この情報は一番効いたようだ。
花穂にはその理由がわからなかったが…。
「逃げないと……死ぬわよ」
ジリジリと権藤がにじり寄ってきた。
花穂の足はもう恐怖で動かない。
権藤が感情のない目で花穂を睨み続けている。
そしてその距離が後数歩に迫ったところだった…。
「花穂チャマの貞操ピ〜〜ンチ!!!」
「違うよっ!? じゃなくて!」
「お、危機的状況でもツッコミをいれられるほど成長したんデスね。花穂チャマにキングオブツッコミ王の称号を与えマス!」
「嬉しくないよ!!」
一気にさっきまでの緊迫した雰囲気が一変、和やかというか馬鹿げた雰囲気に変わった。
突然目の前に現れたのは四葉だけではなかった。
悲しげな表情を浮かべる鞠絵。そして…。
「加藤さん……」
「…………ミカさん」
こちらもさっきの無表情から一変、明らかに動揺している権藤。
加藤は重要参考人として連れていかれていたはず。
それが目の前にいる、ということだけに驚いてるようでもなさそうだ。
「さて、と。事情聴取のお時間デス」
「それは違うんじゃ…」
「「……………」」
四葉の小粋な(?)ギャグにも反応せず、加藤と権藤は気まずそうに黙っている。
反応されなかったことにショックを受けたのか、やや沈んだ声で始めた。
「えっと…まず、動機についてデスが…。恋ごころデスね」
「はやっ!? 四葉ちゃんが決めちゃっていいのっ?」
「西村さんから聞きました。二人が会ってるときの息遣いが違うそうデス」
「西村さんって凄いんだ…」
「え〜…四葉たちが会った女の子が加藤さんの妹さん。未確認情報によると、妹さんの手術代を院長先生が高額請求しているのでは、とのことデス。まぁ、それが動機かと」
「全部四葉ちゃんが説明しちゃったよ!?」
「「……………」」
「…………チェキ…」
「…………ちょっと寂しいかも…」
二人の息のあったコンビネーション(打ち合わせなし)にも反応しない二人。
今までの話を聞いていたのかどうかもわからない。
そして鞠絵がその重い口を開いた。
「ミカさん…。自首…してください…」
「鞠絵ちゃん……」
声を震わして、搾り出すようにいう鞠絵。
その涙を溜めた表情に心を締め付けられる権藤。
しかし……。
「きゃっ!?」
突然花穂を抱きつけ、カッターナイフを花穂の首元に押し付けた。
「寄らないで! 本当に…殺すわよ…」
先程殺すといったときに比べて複雑な感情を織り交ぜてある言葉。
それほど鞠絵と加藤の存在は大きい、大きすぎた。
そして三人を牽制しながら崖からジリジリと離れていく。
このまま離れて逃走を図ろうとしているようだ。
「ミカさんやめてください!」
「ミカさん!」
「雨降り権藤!」
「四葉ちゃんは黙ってて!」
二人の叫びも虚しく権藤はドンドン離れてようとする。
何か武術を習っているものなら今の権藤から逃げるのは容易いだろうが、
花穂はすっかり恐怖で全く動けない。ただしっかりツッコミはいれられる。
そしてその距離がかなり離れたときだった。
「ねぇ…一体何してるの?」
「な!?」
権藤が突然の後ろからの声に驚き大きく体制を崩した。
その隙を逃さずして、今まで隠れていた警官が一気に飛び掛った。
そしてあっという間に取り押さえられてしまった。
「ミカさん…」
「鞠絵ちゃん……ごめんね…」
「…………」
「随分前から妹のことでミカさんには相談にのってもらっててね。妹にもよく冷やかされたよ、「二人とも仲いいよね、付き合ってるの?」ってね」
「そうですね。私もお二人の様子からしてそうではないかと思ってました。というか、皆知ってましたよ」
「四葉は知りませんデシタ」
「花穂たちは二人が直接会ってるところ見たことないから」
「まさか、ミカさんがそこまで妹のこと考えていたとは思ってなかった…。実は高額請求というのは全くのデマなんだ…。ただ昔から院長先生には良い噂がなかったからね…。もっとちゃんとミカさんに話していればよかった…」
加藤は悲しそうな表情で話す。
その悲しさが何に対するものかはわからない。
ただ権藤ミカはもういないという事実が診療所内の皆の心に残るだけだった。
そんな中、ムードメーカーを失い暗い雰囲気の漂う診療所に朗報が届いた。
院長先生はかろうじて命に別状がなく、すぐに帰ってこられるということだった。
権藤は殺人未遂で書類送検されることになった。
ただ院長先生は起訴するつもりはないようで、加藤は特に安堵した。
「で、何でこんなところにいマスか?」
「随分な物言いね。そんなに来て欲しくなかったのかしら?」
「ううん。おかげで花穂は助かったから…」
「そうなの? 私は未だに状況が理解できてないんだけど…」
不機嫌そうな顔をした彼女の二つに結った長い髪が小さく揺れた。
どうやら仲間外れになってるような感を受けているらしい。
ただそんなことを気にする様子もなくすぐに笑顔になる。
「それで…咲耶ちゃんはどうしてこちらに?」
「え? そんなのこの子達のことで来たに決まってるじゃない。着いたとか泊まるだとかの連絡が何もないのよ。心配するじゃない」
「「ご、ごめんなさい…」」
実はすっかり状況に流されている間に連絡をすることを忘れてしまっていた。
それで心配になった咲耶が鞠絵の見舞いも兼ねて訪れたのだ。
「まぁ、無事だったのなら文句はないんだけど…。鞠絵ちゃんどうだった? この子達、何か問題でも起こさなかった?」
「む! そんなことするわけないじゃないデスか」
「うんうん」
「………本当に?」
「そうですね…。久しぶりに楽しいときを過ごせましたよ」
鞠絵の言葉に自然と二人から笑みがこぼれた。
鞠絵も二人の笑顔を見るのが楽しみなっていた。
そしてその様子を見た咲耶は「ふ〜ん…」とどこか満足げな様子で見ていた。
時刻は17時。
四葉と花穂に咲耶は帰りの電車の中にいた。
結局あの後は4人で会話を楽しみ、今までの経緯も咲耶に話したのだった。
「楽しかったデスねぇ」
「うん…。でも……」
「…………今度も…」
「え?」
「また今度遊びに行きマショウ!」
「…………うん!」
「今度は花穂チャマが落っこちてこない、綿密な作戦を練って」
「え〜! 今度は絶対落ちないもん!」
楽しそうに笑いあう二人を見て、咲耶は帰り際に鞠絵から聞いた言葉を思い出していた。
『あの…二人が喧嘩しないように見ていてもらえますか…』
『喧嘩? あの二人が?』
『はい…。ちょっと気になることがありまして…』
『???』
「喧嘩…ね」
そんな様子の微塵もない二人の様子に、鞠絵が何を心配していたのかわからなかった。
それよりも、以前より二人が仲良くなってるようにも見受けられる。
咲耶は鞠絵から頼まれたことだが心配することもないとは思いながら二人の様子を見守っていた。
「あれ?」
突然花穂が何か違和感を感じたように小さく声を出した。
「どうしたの?」
そんな花穂に咲耶が声をかけた。
少し四葉の表情が曇りかけた。まるで、何か隠し事がばれたかのような様子でモジモジしている。
そして少し考えた後……。
「…やっぱり何でもない」
「何よそれ…」
がくっ、とうなだれる咲耶の横で四葉はほっとした表情を浮かべていた。
「あっ!」
「今度は何…?」
二度目の花穂の声に咲耶は面倒くさそうに尋ねた。
そして花穂は少し顔を赤らめて…。
「咲耶ちゃん…」
「ん?」
「この電車……おトイレついてる…?」
「へ?」
三人を乗せた電車はガタゴトと規則的に揺れながら、
三人のいつもの見慣れた町へ闇夜を走っていた。
あとがき
どうも啓-kei-です。
突然ですが、長っ!? 読むのダルイ!? と、作者が思ってる時点で駄作でしょうね(汗)
まぁ、これを仕上げるために他に書きたかったSSをかなり貯めてしまってます。
もっと短くする能力をつけないと……。
ミステリー第2弾です。
どうでしょう? 最後は何だか勢いが変な方向に向かってますが…。
一番真剣でなくてはいけないところで、四葉と花穂の漫才を混ぜるという荒業を…(汗)
まぁ、花穂のツッコミ能力(ハリセン)を開花させるためだけのSSと思っていただければよいかと…。
鈴凛向けのお宝話? まぁ、また別の機会にってことで…。
てか、マジで長いっすね…。
ネット上であまりに長いSSだと、最初の数行だけ読んですぐにやめてしまう自分のダメな癖があるだけに、このあとがきが誰かに読まれているのかが疑問です…。
各々のキャラの性格や無駄に長い文章にツッコミどころ満載ですが、感想・批判・ご指導があれば何でもいいので送っていただければ嬉しい限りです。
啓-kei-さんへの感想はこのアドレスへ
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