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「亞里亞が、なんも喋らんようになった?」

「おやつを食べてから、急になの」

「ホントに?」

眉をハの字にする咲耶の隣りで、いつも通りの表情でたたずむ亞里亞に、僕はしゃがんで目線を合わせる。

「亞里亞、亞里亞?」

「・・・・・・・・・」

「・・・ホントだ。どうしたんだろ」

「でもね、感情はなんとなく分かるのよ」

咲耶の発言に、僕はただ彼女の次の言葉を待つしかなかった。
当の咲耶は、困ったように苦笑いしている。
自分でも何を言いたいのか分からない、と言う感じだった。
もちろん僕だって、分からない。

「つまり・・・どういうこと?」

「うーん・・・・・・。あ、そうだ」

首を傾げていた咲耶が、思いついたように亞里亞のわき腹をくすぐりだす。

「・・・・・・(楽)」

ひとしきりくすぐり終えた後、咲耶は諭すような笑顔を、僕に向けた。

「・・・こういうこと」


おざなり劇場 金魚鉢番外編

@ テレパシー

作者:いちたかさん


「今は・・・何だか楽しそうなんだね・・・」

亞里亞の頭の上に出ている奇妙な文字を見つめながら、僕は咲耶の言った意味を全て理解していた。
喋らなくても、この頭の上に出てくる文字で、感情を教えてくれる。
つまり今の亞里亞はそういう状態にあるわけだ。

「ねぇ、お兄様・・・。何か大変な病気なんじゃあないかしら・・・・・・」

「んなことある訳無いじゃん。ふざけてるんだよ。きっと犯人は千影か鈴凛あたりさ」

きっぱりと言い切って、僕はハァ、と大きく息をついた。
飲みかけのコーヒーを一気に飲み干して、自分の部屋へと向かおうとする。

「あら? お兄様、行っちゃうの?」

「・・・・・・(哀)」

「ちょっと今日は用事がいっぱいあってね。2人とも、亞里亞と遊んでもらっていい?」

僕は咲耶と、ソファでファッション紙を読んでいた可憐に声をかける。

「え・・・? いいんですか? お兄ちゃん」

「・・・・・・(悲)」

「・・・お兄様。亞里亞ちゃん、なんだか必死よ? きっと、お兄様に何とかして
 欲しいんじゃないかしら・・・?」

咲耶が呟くように言った。
気持ちは分かる。うちの妹達には、それが当然の感情だろうから。

「うーん、そう言われてもなあ。まぁ、とりあえず千影に聞いてみればなんとかなるって。
 僕が解決できるようなもんでも無いだろうし」

「・・・・・・(怒)」

「だめだよ亞里亞、いくら拗ねたって。僕は今、そんな悪ふざけに付き合ってるヒマ無いんだから」

「(切)」

「? 切ないってこと?」

「『キレた』ってことじゃないかしら」

「キレたって・・・亞里亞が? ますますそんな事ある訳な」

「(破ッ)」

ボンッ

「ぐわーっ」

突如僕の体が、光り輝く風に吹っ飛ばされる。
勢いのついた体は、そのまんま向こうの壁に激突した。
つーか今、「破ッ」とか出てなかったか?

「うわー、きれーい」

「やるわねぇ。亞里亞ちゃん」

「・・・・・・(照)」

「ちょっと待った! オレ今すごいことされたぞ!!」

「え? 亞里亞ちゃんが気を放っただけでしょう?」

「気を放つなんて、可憐だって日常茶飯事ですよ?」

「お前らは超常現象に対して無頓着すぎだ!!」

身を起こしながら、僕は妹達自体が超常現象であることを改めて思い知らされていた。



「・・・・・・(黙)」

「あーあ、黙っちゃった」

「最初から喋ってないだろ」

「お兄様、責任を取って亞里亞ちゃんの機嫌を直して。話はそれからね」

責任って。
まぁ、確かに少し冷たく言い過ぎたかもしれないから、機嫌を直して差し上げますよ。

「あーりあ。ほら。べろんべろんばぁー」

「・・・・・・(微笑)」

「よし、いい感じだ」

子供を笑わせるには、これくらいで充分。
僕は傍にあった、ラッコの人形を手に取る。

「ラッコちゃん空を飛ぶ〜」


「・・・・・・(笑)」

「その調子よ、お兄様」

「お兄ちゃん、面白ーい」

まだまだ。
僕はラッコの人形の、シッポをつまみ回転させる。

「ラッコちゃん! ヘリコプターー!!」



「(喜)」

「凄いわお兄様! あと一息よ!!」

「お兄ちゃーん! おっきいの決めてー!」

よし、ご期待に応えて、ここで一発でかいのを決めてやりますか。
僕は気合を入れ、胸を張り、腹に力を込めた。
目指せ『(大笑)』!!

「とん! こつ! ラーメン!! みそ! チャーシュー!!」




「(嘲笑)」

「嘲笑!? 9歳児に鼻で笑われた!!?」

「まぁでも、今のは少し、お兄様の悪ノリよね」

「仕方ないよねー」

「冷たッ! つーかお前らも盛り上げてたじゃねえか!」

「まぁまぁ、お兄様は私たちに任せてお茶でも飲んでて。向こうで」

咲耶と可憐が僕を押しやる。
・・・まぁそう言うんなら、喜んで任せます。









「(泣)」

「こらこらこらこら!! 何してんだお前ら!!」

「え〜。だって〜。なかなか治らないんだもん」

「だってって何だ! だからって泣かすな!」

「(笑)」

「あれ!? 笑ってる!?」

「(泣)」

「やっぱ泣いてる!?」

「(冷)」

「急に冷めた!!」

随分と情緒不安定な亞里亞を落ち着かせるため、僕は慌てて亞里亞を抱き上げる。

「あ、あの、亞里亞? ごめんね? 兄やも治し方考えるから、亞里亞も一緒に考えよう。ね?」

亞里亞が少し不安げに僕を見つめ、やがてコクリと頷く。

「・・・・・・(挑戦)」

「ん?」

違和感を覚えつつ、亞里亞を下ろす。
そのまま亞里亞は壁際へ移動して、じっと動かなくなった。

「・・・・・・(考)」

「・・・・・・なんか、段々ズレていってるような・・・」

「あれは・・・感情というより、もう行動ね」

そんな咲耶の考察に頷きながら、僕は話を進める。

「とにかくさ、おやつを食べてからなんだよね。こうなったのは」

「そうねぇ・・・。じゃあやっぱり、おやつが原因かしら・・・」

「おやつそのものというより・・・。とにかく千影と鈴凛に話を聞いてみて――――――」

不意に体が、右に傾いた。
亞里亞が服の袖を、くいくいと引っ張っていた。

「どうしたの? 亞里亞」

「・・・・・・(提案)」

「提案?」

「(真剣十代しゃべり場)」

「・・・番組名?」

「(これで)」

「これで?」

「(解決)」

「解決。してないって! なんでそんなに自信ありげに言うの!?」

僕のツッコミに、亞里亞がきょとんとした顔になる。
まさか本気で言ってたのか?

「あの番組だって、別に問題解決はしてないしね!
 つーか自分の事なんだからもっと真剣に考えなよ! 亞里亞!」

「・・・・・・(哀)」

僕に怒鳴られ、亞里亞が背を向けてしょぼくれてしまった。
心なしか、亞里亞の周りの空気まで濁っているような。
まさにいじけた子供そのものだ。
なんつーか・・・、こういう状況でなければ可愛いんだろうけど・・・。

「あの、亞里亞? ・・・ごめん、少し言いす」

「(ブチ切)」

「ブチ切れた!?」

「(殺)」

「めちゃめちゃキレとる!!」

「(大笑)」

「と思ったら笑ってる!?」

「(兄や=ツッコミ)」

「そうそう、今回はそういう役割。ってだからそれ感情じゃ無いだろ!!」

「(ノリツッコミは下手)」

「いらんこと言うな!!」

「・・・・・・(たけしの挑戦状がやりたいの〜)」

「ついに喋った!! つーかたけしの挑戦状!?」

「フフ・・・ついに・・・・・・話せるようになったね・・・・・・」

異質なセリフに、全員の視線が集中する。
千影がしたり顔で、僕らの後ろに立っていた。

「・・・亞里亞ちゃんは・・・確実に能力を進化させているんだよ・・・・・・」

「千影・・・。いつのまに」

「フフ・・・兄くん、2人も・・・・・・心配しなくていい・・・。・・・これはちょっとした・・・
 ・・・実験だよ・・・・・・」

「じ、実験・・・? やっぱり・・・」

「『テレパシー』・・・という言葉を知っているかい・・・・・・? 少しの時間だけ・・・それをできる
 ようになるボンタン飴を作ってね・・・・・・」

「・・・何でボンタン飴?」

僕の言葉に、千影が軽く咳払いをかぶせる。

「ともあれ・・・原因は私のテレパシー実験・・・」

「なんだ、やっぱりそういう事だったんだ。だったら話はカンタン。元に戻せるんでしょ?」

「・・・・・・の失敗」

「失敗!?」

「・・・・・・昔の味は再現できたんだけどねぇ・・・・・・。残念・・・」

「何で味にこだわってんだよ! お前はどこの職人だ! それより失敗ってどういうこと!?」

「失礼な・・・・・・。私は、ちゃんとテレパシー出来るよ・・・・・・」

「んなこと聞いてねえ!! 頭の上に出てくるのは失敗したからか!? おい!!」

「今から・・・皆に送ってみるからね・・・・・・」

「無視をするな!!」

僕の叫びを他所に、千影が念を入れ始める。

「・・・・・・いくよ・・・!!」

言葉と共に、千影の頭上に既に見慣れた光景が現れた。

『(兄くんのツッコミは・・・)』

「見えてる見えてる! お前やっぱ自分のも失敗してるじゃねえか!」

「あれ・・・・・・?」

「「あれ?」じゃねえ!! ていうかオレのツッコミが何!?」

「・・・・・・もう一度」

『(ウザい)』

「ウザいって何だ! お前らがボケ続けるからだろうが!!」

「それじゃあ・・・みんなもやってみよう・・・・・・」

「「それじゃあ」の意味が分かんねえよ!!」

「大丈夫・・・体に悪いもんじゃないから・・・・・・ボンタン飴は・・・」

「ダメだ、会話が噛み合ってねえ!!」

「まぁ、千影が大丈夫っていうんなら、やってみようかしら」

「可憐、なんだか楽しみです。お兄ちゃんと心と心で繋がれるなんて」

「いいのかよ、お前ら・・・。つーかオレも参加すんの?」

心なしか微妙に可憐が暴走を始めているような。
僕は千影に確認するように、すがるような視線を向ける。

「ホントに大丈夫だよ・・・兄くん。・・・さっきのは軽い・・・ジョークさ・・・・・・」

「私はやるわよ、千影」

「可憐にも、お願いします」

「・・・よっしゃ」

よっしゃ?

「千影? 今何か言った?」

「・・・・・・何も言ってないよ・・・兄くん・・・。急に何を・・・言い出すんだい・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「ささ・・・兄くんもおひとつ・・・・・・」

「オレはいい」

「ちっ」

「ちっ?」

今絶対舌打ちしやがった。
僕は手で遠慮のサインを出しながら、3人がボンタン飴を食すのを見つめる。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

少しして、沈黙を破ったのは千影だった。

「フフフ・・・」

「?」

「・・・大失敗」

「また失敗!? しかも大!? つーか食わせてから言うな!!」

「・・・大丈夫とは言ったけど・・・成功したとは言ってない・・・・・・(してやったり)」

「「してやったり」って何だオイ!! お前確信犯か!!」

「いちいち細かいよ・・・兄くん・・・・・・。・・・失敗は失敗の母・・・と言うじゃないか・・・」

「どこまでいっても失敗じゃねえか! つーかお前どんだけ成功率低いんだ!!」

「10回に1回成功すればいい方です・・・」

「10%ねえのかよ!! あと何で急に敬語!? とにかく危険だからもう実験は禁止!!」

「(フフフ・・・・・・)」

「(兄やのお顔、まっかっかです・・・。おさるさんみたい・・・。ウフフ)」

「(心配しなくても今夜、私が気の放ち方を教えてあげるわ、お兄様。・・・手取り足取り、ね)」

「(お兄ちゃん? 可憐はツッコミの極意を教えてあげますよ? だから今晩可憐のお部屋に来て下さい。
  ・・・一人で♪)」

「いーーーーかげんにしろぉーーーーーー!!!!」

4人の頭上に文字が浮かぶ、奇怪極まりない光景を見ながら、僕は気が遠くなるまで叫び倒した・・・。






あとがき

最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。
何だかわけの分からないSSですね・・・。兄、叫んでばっかですし。
極力セリフ以外の文章を無くし、テンポを良くすることに挑戦してみたのですが、・・・うーん、
どうなんでしょう。
ただ読んでて疲れるだけのSSのような気も(汗)

ともあれ、ボケとツッコミの応酬のギャグSSというのは初めて書いたような気がします。
何でもいいですので、ご感想やご指導等がありましたら、是非とも送っていただきたいと思います。
それではまた、次の機会に・・・。


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