トップへ  SSの部屋へ


シスプリ劇場 金魚鉢が観た家族

第5話 白玉荘の年末年始(前編)

作者:いちたかさん


窓から差す昼下がりの太陽の光に、僕は目を覚ました。

「・・・2時か・・・」

目覚し時計に目をやって、むくりと半身を起こす。
今年も残すところ、あと1日となった。
千影と同じ部屋ということで、命の危険に怯える毎日になるかと思ったが、とりあえず今のところ
体に変化は無い。
いたって平穏な日々だ。

まぁ、朝起きたら隣に新種の生き物がいたり、外から帰ってきたら千影が3ツ首の犬に
餌をやっていた事とかは・・・。

「忘れることにするよ、千影」

「・・・突然何を言うんだい・・・?」

千影は壁にもたれて本を読んでいたが、僕が突然妙なことを言ったので、少し驚いている様子だった。

「いや、こっちの話」

僕は首筋を掻きながら言った。

「大脳覚醒時における倒錯的発言の発生と記憶喪失願望・・・フフ・・・興味あるね・・・
 ・・・解剖して、関連性を・・・・・・」

何だか恐ろしい呟きが聞こえるが、空耳にしておこう。
僕は立ち上がり、台所でお茶を淹れ始める。

「千影、要る?」

「いや、いいよ・・・もうすぐ、出掛けるしね・・・」

千影が本から目を離さずに答えた。

「え、出掛ける?」

僕がそう言ったと同時に、コンコンと音がして、部屋のドアが開いた。
咲耶と春歌が、よそ行きの格好で玄関に入ってくる。

「あら、お兄様起きたのね。・・・一応、おはようかしら」

「兄君さま、お疲れとは思いますが、もう少しお早めにお目覚めになられた方が・・・。下の子達への
 しめしというものも御座いますし・・・・・・」

2人とも、少し困ったような笑顔で言った。

「いやぁ、面目ない」

お茶を湯飲みに注ぎながら、苦笑いで応える。

「千影、用意できた?」

咲耶がそう言うやいなや、千影がおもむろに本をコタツの上に置き、立ち上がった。

「ああ・・・丁度区切りが良かった所だよ・・・・・・それじゃあ・・・行こうか・・・」

「3人でどっか行くんだ」

僕は出来上がったお茶をコタツの上に置き、腰を下ろした。

「帰り、何時ぐらいになるの?」

僕の問いに、咲耶はあごに手を当て、少し考えると、

「・・・夜の10時か・・・もうちょっと遅くなっちゃうかなぁ」

僕は驚いて顔を上げた。

「え、そんな遅いの? ・・・どこ行くの」

「それは内緒よ。うふふ、お楽しみに」

ウィンク付きで咲耶が答える。
毎度のことだが、あまり良い予感はしなかった。

「・・・そう、じゃあ、行ってらっしゃい」

あくびが出そうになったので、僕は口を手で覆った。
これは僕の癖だ。
たとえ家族でも、僕は大口を開けている姿を人に見られたくなかった。

「大丈夫よ、お兄様。カウントダウンまでには、必ず帰ってくるから」

去年僕は、ある知人の誘いを受け、年越しを妹達と一緒に過ごしていない。
彼女達が今年に期待しているのは、百も承知だった。

「ワタクシも、兄君さまと一緒に年を越すのを、楽しみにしております」

「兄くん・・・10時間後を楽しみに・・・・・・」

3人が出て行くのを、僕は小さく手を振って見送った。
夜10時頃に帰ってくる妹達に対して、「気をつけて」の一言もかけないのは自分でもどうかと思ったが、
僕はあの3人だったら、どんな悪党が来ても大丈夫だと確信していた。








お茶を飲み終え、体が温まった頃、僕は、他の妹達の様子を見に部屋を出た。
というより、腹が減ったので、昼飯を頂こうと思っていた。

妹達は、寝ている僕を無理矢理起こすということを、しない。
何故かといえば、何故だろう。
暗黙の了解のような気もするし、そうとも言い切れない気がする。

いずれにしても、夜遅くに作品を描いた方が質がアップする自分にとっては、ありがたい事だった。
ただ、彼女達も、自分の気持ちを抑えてそうしてくれている所はあるだろう。
そういう意味で僕は、彼女達のわがままも、最大限に叶えてあげたいと思っていた。

「あにぃーー! 一緒にあそぼーー!!」

・・・最大限には。

「・・・衛」

階段を下りてくる僕を待ち切れないかのように、衛・雛子・亞里亞の3人が駆け寄ってくる。
それぞれのペースで。

正直腹は減っていたが、寒さを防ぐ為にもこもこに着込んでいる3人の姿を見ていると、愛らしいという
気持ちの方が強くなってくる。
よし、頑張るか。

「元気だな、3人とも。寒くない?」

僕がそう言うと、雛子が、首にかけているマフラーをぎゅっとにぎって笑う。

「くしし、だいじょーぶだよ。鞠絵ちゃんが作ってくれたマフラー、すっごーーくあったかいんだぁ」

その小さな手には、可愛らしいピンクの手袋がはめられていた。

「ボクもぜんっぜん平気だよっ」

衛が僕の上着の袖を、ぐいぐいと引っ張る。
よほど遊びたくてたまらないらしい。

「亞里亞も〜〜」

人差し指を下唇に当て、亞里亞が言った。
その手には、木製の独楽(こま)が握られている。

「独楽?」

僕が思わず口から漏らすと、衛が跳びついてきた。

「あにぃに見て欲しくって、ボク、練習してたんだぁ」

「へぇー、・・・それで、成果は?」

衛は、亞里亞から独楽を手渡される。

「バッチリだよっ、あにぃ、どっちが長く回せるか、勝負しよ! ボク、負けない自信あるんだよっ」

元気な笑顔を僕に向け、紐を巻きつけながら衛が言った。
紐を巻き終えると、それを僕に手渡す。

「はい、あにぃからどうぞ。時計係は、ヒナちゃん、お願いね」

「はーい、ヒナ、ぽち、ぽちってするー」

ストップウォッチを握り締め、雛子がはしゃぐ。

「兄やも、ぐるぐるできるの〜?」

亞里亞が僕の手の中の独楽を見つめて、呟くように言った。

よくぞ聞いてくれました。
僕は独楽をぐっと握ると、自分の得意な独楽回しの姿勢をとる。
独楽を掴んだ手を胸の前まで持ってきて、足を軽く曲げる。
ちょうど、フリスビーを投げるような格好だ。

というか、この投げ方しか知らない。
事故死した養父から教わったもので、彼とよく練習したのを覚えている。

「ふっふっふ・・・僕はね・・・これでも『独楽回し界の山本周五郎』の異名を取る男だよ。
 1分位はいけるね」

「わぁ、ほんとっ。さっすがあにぃ! でも、負けないよっ」

「おにいたますごーーい。ぱちぱちぱち」

「兄や・・・原田甲斐・・・・・・」

亞里亞の発言には目をつぶるとして、僕としてはツッこんで欲しかったんだけれども。


「ようし、・・・・・・」

僕は呼吸を整えると、独楽を軽く前に放る。
そこから体を捻り、渾身の力を込めて紐を引っ張った。
回転力を加えられた独楽は、そのままストンと地面に落ち、僕の想像通りの力強い回転を始める。

「わぁーーー」

回り続ける独楽の周りに3人が集まり、楽しそうに見物を始める。
僕は少しいい気分になった。

「ぐるぐる・・・すごいです・・・・・・」

「模様がきれいー」

「・・・・・・」

衛はじっと、回転を続ける独楽を見つめている。
早く回転が鈍くならないか、祈っているのかな?

そんな僕の邪推の中の衛の願いとは裏腹に、独楽はそれからもかなりの時間回転を止めることは無かった。
感覚的にも、1分は越えたはずだ。

独楽がその動きを止めると同時に、雛子がウォッチのストップのボタンを押す。
すぐさま衛が時間を、覗き込んで確かめた。
少々絶望的な表情をしているのが、見てとれた。

「あにぃ・・・すごいね、ホントに1分越えちゃうなんて」

「んーと、1分・・・8秒でいいの?おにいたま?」

雛子がストップウォッチを僕に示す。

「うん、そうだよ、雛子。よく読めたね」

「兄やは・・・やっぱりすごいです・・・」

「衛、やる?」

僕が雛子と亞里亞の頭を撫でながらそう言うと、少し苦い顔をした。

「んーー・・・あにぃ、もう少し、練習していい?」

「もちろん。ちょっとご飯食べてくるから、自信がついたらいつでも呼んでね」

僕は独楽に紐を巻きつけてから、それを衛に手渡す。
自信を無くさせてしまったみたいで、ちょっと申し訳ない気持ちになった。

けど多分、衛なら諦めないで頑張ってくれるだろう。
そう信じているから、僕も本気でやったんだから。
3人のはしゃぐ声を背に受けながら、僕は食事部屋へと足を向けた。








「入るよー」

コンコンっとノックをしてから、返事を待たずにドアを開ける。
はっきり言ってノックの意味が無いが、そもそも食事部屋で人に見せられないような事をやることは
無いだろう。

部屋の中には、予想通り、残りの妹達がいた。
つまり、花穂、鈴凛、可憐、白雪、鞠絵がいたのだ。

僕がドアを開けると、一斉に彼女達の視線が僕に注がれる。

「あー、お兄ちゃま、おはよう」

「花穂、ちょっと違うよ。こういう時はー、おそよう、って言うの。ね、アニキ」

花穂と鈴凛は、コタツに入ってテレビを見ていた。
見覚えのあるお笑い芸人が、見覚えのあるギャグで笑いを取っているところだった。
たぶん再放送だろう。

他の3人は、台所で、おそらくおせちを作っているところだった。
ここからじゃ、よく見えない。

「うふふ、おはようございます。お兄ちゃん」

「兄上様、おはようございます。鈴凛ちゃんに一本とられてしまいましたね」

「おはよう、みんな。全くだ、鈴凛は厳しいこと言うね」

僕はそう言って、コタツに入り込む。

「こんな時間にのそのそ起きてくる、寝ぼすけアニキが悪いんでしょー」

みかんの皮を剥きながら、先ほどと同じような意地の悪い笑顔で返された。
まぁ、おっしゃる通り。

「おはようございます、にいさま」

そうこうしていると、白雪が湯飲みに入ったお茶を持ってきてくれた。

「ああ、ありがとう。ここのご飯は食べていいの?」

コタツの上には、籠に入れられたみかんの他に、昼食の残りがあった。
僕はそれを指差しながら尋ねた。

「もちろんですの。あ、でも、おせちも作ってたから、量が少ないかもしれないですの・・・」

「いや、十分だよ。ありがとう。やっぱりおせちを作ってたんだ」

「はい。いつもは春歌ちゃんも手伝ってくれてるんですけど、今日は何だか用事があるみたいで・・・」

そう答えたのは可憐だった。

「そう、それ聞きたかったんだ。咲耶と春歌と千影の3人がどこ行くのか、知らない?」

返事は返ってこなかった。
みんな一様に顔を見合わせるばかりで、どうやら行き先は誰にも告げていないらしい。

「ま、いいや。いっただっきまーす」

鞠絵がご飯と味噌汁をついで持ってきてくれたので、僕は食事を始めることにした。
なんか、上げ膳据え膳でホントに申し訳ないなぁ。

量はやはり少し足りない感じだが、後で部屋に隠してあるカップ麺でも食べればいいだろう。
どうして隠してあるかというと、白雪は僕たちがカップ麺を食べるのを、猛烈に嫌がっているからだ。
前に僕がうかつにも買ってきたところを見つかってしまい、鬼気迫る表情で包丁を手にした白雪に
白昼の街中を追い掛け回されるという、この町では半ば伝説となっている出来事があった。
その日以来、妹達が「カップ麺が食べたい」とわがままを言うことは無くなった。

苦い思い出を胸に箸をすすめていると、向かいの花穂が、テーブルにあごを乗せて、のほほんとした
表情をしているのが目に入った。
すっごい幸せな気分であろうことが、一目で分かる。

「花穂はコタツでまるくなる〜♪」

思いついた歌のフレーズを、そのまま口に出した。
当の花穂は、相当驚いたのか、バッと顔をあげて、大きく開かれた瞳で僕を見る。

「・・・・・・お兄ちゃま、ひどいよぉ」

台所の3人からも、押し殺した笑い声が聞こえてくる。

「あっはっは、上手いこと言われちゃったねぇ、花穂」

1人だけ声をあげて笑う鈴凛が言った。

「ふぇ〜ん、お姉ちゃままで・・・」

「ごめんごめん、あんまり幸せそうだったから」

真っ赤になってふくれてしまった花穂に、僕は申し訳なさそうに言う。
顔がにやけてしまってるままだったから、効果は無かったかもしれないけど。

「ときに、鈴凛」

「ん、なにー?」

「勉強は、進んでる?」

鈴凛はみかんをパクっと口に入れる。

「もっちろんよ。今はね、息抜きタ・イ・ム。午前中はしっかりやってたんだから。いくら受験生でも、
 大晦日と元旦くらいはゆっくりしても、バチは当たんないでしょ」

鈴凛の口から『バチ』なんて言葉が出てきたのは少し意外だったが、別に勉強を強制してる訳じゃない。
彼女が大丈夫だと言うなら大丈夫だろう。

「まぁ、確かにネ」

そう言ってお茶をすすると、花穂が思い出したように口を開いた。

「あ、そうだ、お兄ちゃま」

「ん?」

「花穂ね、お正月に玄関に飾るやつを頼まれてるんだけどね、高くて届かないの。お兄ちゃま、
 お手伝いしてもらっても、いい?」

「玄関に飾る? ・・・・・・ああ、しめ飾りね。もちろん、構わないよ」

花穂の顔が、パッと明るくなる。
さっきまでのふくれっつらはどこへやら、だ。

「ありがとう、お兄ちゃま」

そうと決まれば、早く食べてしまわねば。
もう3時に近いし、暗くなるのはすぐだ。

少しして食事を終えると、僕はテーブルの上の皿を台所の方へ片付ける。
その時に、作りかけのおせちが目に入った。

「あ、美味しそうだね」

「うふふ、明日をお楽しみにね、お兄ちゃん」

「白雪ちゃんのレシピが素晴らしいからですよ」

「そう言われると、何だか照れちゃいますの。にいさま、姫、ヨリに腕をかけちゃいますの。
 期待して、待っててね」

まあ、この3人に任せておけば大丈夫だろう。
しかし僕は、白雪がヨリという物体にどうやって腕をかけるのか見てみたい。

「それじゃ行こうか。花穂」

僕がそう言うと、花穂がコタツから身体を出す。
全部で8個のしめ飾りを抱えると、

「はーい」

靴を履いて、外に出る。
僕もそれに続いた。

「・・・・・・あれ?」

「どうしたの? お兄ちゃま」

外に出て、衛の姿が見えないことに気付いた。
雛子と亞里亞はちゃんと独楽で遊んでいるのに。

「いや、何でもないよ。さて、まずはこの部屋からやろうか」

「うん。・・・はい、お兄ちゃま」

そう言って僕にしめ飾りを手渡す花穂が、寒さで震えている。

「・・・・・・花穂、大丈夫? 寒いんじゃないの?」

僕はそう言って、花穂の手を握る。

「うん・・・大丈夫。お兄ちゃまの為だもん。花穂、我慢できるよ」

「は? 僕の為?」

「うん・・・咲耶ちゃんが、お兄ちゃまはスカートが短い方が好みなんだよって。ヨクジョウするのよって
 言ってたの。ヨクジョウってよく分からなかったけど、お兄ちゃまが花穂のフトモモを見て喜ぶことだ
 って教えてくれたから・・・。花穂、がんばるの」

僕は、ミニスカートの妹を2人挙げなさい、と言われたら、迷わず咲耶と花穂を挙げる。
つまりそれくらい、花穂のスカートは短いと思ってきていた。
それはもう、小学生であの短さは犯罪スレスレだよ、というくらいに。

しかしそれが、まさか咲耶の手によるものだったとは・・・。
あのアマには今度、妹に教えて良いことと悪いことを叩き込んでやらねばなるまい。

「お兄ちゃま、どうしたの?」

花穂が心配そうに僕の顔を覗き込む。

「あのね、花穂、僕は」

「あにぃーー!!」

言いかけたところで、不意に、衛の声が響く。
声のした方に振り向くと、身体にロープをぐるぐる巻きにした衛が僕に迫ってきていた。

「うわーーーー!?」

僕は思わず、声を上げてしまった。

「あにぃ、ボクを力いっぱい回して!」

「はぁ!?」

「大丈夫だよ、あにぃ! ボク、あにぃとだったら、ちゃんと回れると思うんだ!」

「・・・・・・衛? キミは何を言って・・・・・・」

「あにぃ、お願い! ボクをマワして! 輪〇してよぉ!」

「っだーー! 分かった、分かったから、キワどい発言をするな!」

「やったーー! あにぃ、はい!」

衛はそう言うと、ロープの先を僕に差し出す。
ええい、もうどうにでもなれ!

「いくぞ、衛! とりゃぁっ」

僕は衛が「痛い」と言わない程度の力で紐を引っ張る。
と同時に、衛が(多分)力学の法則通り回り始めました。

「うわーー! 最高だよーー! あにぃーーー!!」

回転している衛はとても楽しそうでした。

どうして、衛は壊れてしまったんだろう。
呆然としている花穂に、僕は何て言えばいいのでしょう。

そして僕は、その光景を見つめるもう一つの視線には気付くことは無かったのです・・・・・・。



「お兄ちゃん・・・・・・」








衛が正気に戻り、妹達が全員食事部屋に集合した頃、辺りはもう真っ暗になっていた。
今年もあと5時間を切り、テレビも年の瀬の風景をあちこちで映している。

僕は、ハンテンを着て、コタツに入り、ぼーっとしながらブラウン管を見つめていた。
雛子と亞里亞は、僕と同じようにコタツに入り、おもちゃで遊ぶのに夢中になっている。
白雪、衛、鈴凛は年越しそばの下ごしらえを、可憐、花穂、鞠絵は夕飯の支度をしていた。

何て言うんだろう、僕は、こんな雰囲気が大好きだ。
永遠に続くことは無いだろうが、続く限りは、その幸せを精一杯感じていたかった。

咲耶、春歌、千影はいないが、どこに行ったか心配しなくても、10時にはしっかり帰ってくるだろう。
僕はとりあえず、何か面白い番組が無いか探すことにした。

リモコンを操作して、次々とチャンネルを変えていく。

「うーん、あんまりいいの、無いなぁ・・・」

どれも、同じようなバカ騒ぎに見えた。

「ねえ、何か見たい番組とかある?」

妹達に尋ねたが、僕が見たいものならそれでいい、という返答が一斉に返ってきた。
いいのかなぁ・・・。
仕方なく、少しだけ楽しみにしている紅白を待つために、NHKに合わせる。

「チェキーーー!!」

「うわー! びっくりしたー!」

突然、テレビの前の床がパカリと開き、四葉がひょっこりと顔を出す。

「兄チャマ! 見る番組は決まってるデス。四葉は咲」

バタンッ

僕は四葉の発言を無視し、床を元に戻すと、上から押さえつける。

「チェキ!? あ・・・開かないデス」

「おい、鈴凛。釘だ。釘ととんかちを持ってこい」

「はい、アニキ!」

「さすが鈴凛、準備がいいな!」

とんてんかんてんとんてんかんてん・・・・・・

「チェキーー!! 開けてーー兄チャマーー!!」

どたっ、ごそごそ・・・・・・かさかさかさ・・・かさかさかさかさかさ・・・

・・・・・・やがて食事部屋のドアが開くと、四葉が入ってきた。

「酷いデス、兄チャマ! 四葉はベリーベリーサドンリーデス!」

「ああ、ごめん、四葉。昨日の昼から見かけなかったから、すっかり忘れてたよ」

「あうっ」

四葉が痛恨の一撃を喰らったような顔になる。
ちょっと言い過ぎたか?
しかし四葉は、僕の心配をよそに、すぐにいつもの明るい表情に戻った。

「・・・まぁいいデス。とにかく兄チャマ、見る番組は決まってるデス!」

「うん、そういえばさっきもそんな事を言いかけてたね。どれ? 僕は何でもいいから」

「もうすぐ7時半・・・そろそろデスネ」

そう言って四葉は、チャンネルを民放のブジテレビ系列のものに合わせる。
先ほどと同じように、年末の外の様子を映し出している。

「なになに、何が始まんの? アニキ」

支度を終えた妹達が、次々にコタツに入り込む。
テーブルの上には、夕飯が並べられた。

やがて、テレビの画面がどこかの会場のようなところに変わり、司会者と観客たちの姿が見えた。

「始まったようデスネ」

「? これ、何?」

僕がそう尋ねても、四葉は答えようとせず、画面を食い入るように見つめている。
会場は盛り上がりを見せており、人気お笑い芸人の司会が、これまた人気者揃いのゲストを紹介していく。
どうやらゲストは審査員ということらしく、中にはアーティストの深山雅治や、女優の藤山紀香の姿も
あった。

「もしかして、四葉って深山のファン?」

「違うデス。四葉はこんなのどうでもいいデス。四葉のチェキ対象は、兄チャマだけデス」

くるりと振り返った四葉に、そう断言されてしまった。
それはそれで嬉しいけど、『こんなの』って・・・・・・。

「あ! 見つけたデス!!」

四葉は突然そう言って、画面を指差す。

「何が?」

僕は四葉の指先の辺りをじっと見つめる。
司会者の後ろにたむろしている集団は、出演者の素人さんたちだという。
そしてその中には、見覚えのあるツインテールが・・・・・・・・・。

「え?」

目を疑った。
しかし、目をこすってみても、目を凝らしてみても、間違いない。

咲耶だ。
すごくいい顔で笑う咲耶がそこにいた。

「ええええええええええええーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

四葉以外の妹達が、同時に声を上げる。

しかも、よく見れば近くに春歌と千影の姿もあった。
咲耶と同じように、すっごいいい顔で笑っている。
千影のは少し引きつってるけど・・・。

「四葉・・・これは・・・いったい・・・?」

ようやくそれだけ呟いた僕に、四葉は得意げに答える。

「エッヘン、よくぞ聞いてくれたデス。四葉だけは、3人からこの事を聞いていたデス。それで、
 兄チャマにこの番組を見せるように頼まれたデス」

四葉の言葉に、妹達が顔を見合わせる。
僕は僕で、猛烈に悪い予感に支配されていくのが分かった。・・・・・・・・・






中編に続く






あとがき

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
時期外れもいいところですが、とりあえず、年末年始のお話です。
前・中・後編である上に一つ一つが異常に長く、展開もダラダラしているやも知れないですが、
本当に・・・お付き合い頂けたら嬉しいです。
精進のための、感想・意見・ツッコミ等頂けたら有り難いです。
とはいっても、まだ前編だけなので、出しにくいったらありゃしないですね。
それではまた、機会がありましたらお会いしましょう。



いちたかさんへの感想はこのアドレスへ
to-show@k6.dion.ne.jp

トップへ  SSの部屋へ