「本当、すみませんでした、遅れてしまって」
「いや、気にしなくていいよ。妹さんの風邪もあったんだし」
僕が手渡した原稿を見ながら、担当の中居さんが言った。
「今からでも、1月の審査には充分間に合うしね」
やがて最後まで読み終えると、原稿を封筒の中にしまう。
緊張感が、ぐっと高まった。
「・・・どうですか」
僕の問いに、中居さんは少し考えてから、
「大分良くなったと思うよ。今回は、何度も手直ししただけあってね」
僕は、ほっと胸をなでおろす。
ふと、妹達の顔が頭をよぎった。
今回のマンガは、担当がついて初めてのもので、かなり厳しいダメ出しも入ったが、常に支えてくれて
いたのは、彼女達の元気な姿だった。
折角東京まで出てきたので、少し古本屋巡りでもしようかと考えていたが、一刻も早く、
彼女達の待つ白玉荘へ帰ることにしよう。
ふと見上げた窓の向こうに、そびえるように建ち並ぶ都会のビル群が映し出されていた。
やむことの無い、車の音。歩き続ける人々。
僕は、自分の帰るべき場所を思いながら、編集部を後にした。
作者:いちたかさん
12月28日。
僕たち兄妹13人は、大掃除ついでの『部屋換えくじ』のために、食事部屋に全員集合していた。
本来ならば大々的に外で行う我が家の恒例行事なのだが、冬だと寒いし、何より僕がコタツから動きたく
なかったので、呆れた顔をする衛を尻目に、ここで行うと号令を発したのだ。
部屋は充分に暖かいが、この『部屋換えくじ』自体は、暖かい雰囲気で行えるものではない。
なんせ、この結果でこれから先2ヶ月、誰と一緒の部屋で暮らすかが決まってしまうのだ。
1階の4部屋の内、物置部屋と食事部屋に挟まれた2部屋に3人ずつ。
2階の4部屋の内、階段側から3部屋に2人ずつで、一番奥の部屋が1人。
本来なら一人部屋に人気が集まりそうなもんだが、そこを狙っているのは僕1人だった。
何故かは、言わなくても分かるだろう。
彼女達の目は獲物を狙う、子供を連れた餓えた雌ライオンの目そのものだ。
僕が自由という栄光を掴むためには、この雌ライオン達の牙と爪から逃れる必要が・・・要するに、
一人部屋を引き当てるしかない。
まあ『くじ』だから、完全に運を天に任せるしかないのだけれど。
「それでは、いつものように説明から始めたいと思います」
マイクを持った、司会役の鞠絵が言った。
全員の注目が彼女に集まる。
「こちらの箱にはA,Bと書かれたボールが3つずつ、C,D,Eと書かれたボールが
それぞれ2個ずつ、そしてSと書かれたボールが1つ、合計13個のボールが入っています」
鞠絵が13個のボールを、一つ一つ丁寧に入れながら説明する。
妹達が大きく頷く。
そんなに真剣に聴き入らなくっても・・・・・・。
「皆さんにはお一人ずつ、箱の中からボールを引いていって頂きます。ちなみに順番は、
さきほど公正鞠絵委員会が行ったアミダくじにより、可憐ちゃん・千影さん・白雪ちゃん・衛ちゃん・
わたくし・亞里亞ちゃん・花穂ちゃん・四葉ちゃん・鈴凛ちゃん・咲耶さん・兄上様・雛子ちゃん・
春歌さん、・・・となりました。なお、このアミダくじは、わたくしの『眼鏡っ娘』のステータスに
懸けて、公正であることをここに誓います」
なにやら妙なことを口走り始めたな。
テンパってるのか?
「仕方ありませんわね、余り物には福がある、と申しますし・・・」
誰に言うとも無く、春歌が呟いた。
ていうか僕、中途半端に後ろの方だな。
「このお部屋の隣りのお部屋がA、その隣りがB、2階階段側のお部屋からC,D,E、そしてお一人部屋は
Sとなっていますので、皆さん引いたボールに書かれた番号のお部屋にお引越しして下さい。なお、
今回は大掃除も兼ねていますので、お荷物を運ぶ際には、そちらの方もしっかりとお願いします」
鞠絵が説明を続ける。
その間僕は、妹達の顔を眺めていたが、ふと、咲耶と目があった。
(やっと気付いたわね、お兄様)
前から僕を見つめていたらしく、そんな言葉が聞こえてきそうな表情を浮かべていた。
それから僕に向かって軽くウィンクをして、再び鞠絵の方に顔を向ける。
そのまま僕の方を見ていたなら、きっと、みるみる顔を赤くしていく僕に気付いたことだろう。
咲耶は、僕が誕生日のプレゼントにあげたルージュと、薄い化粧をしていた。
中学の頃から自分を磨くことに余念の無い咲耶だったが、僕は背伸びをしているとも、マセているとも
思わなかった。
咲耶は自分が子供であることを知っていたし、何よりそれに対して真剣だった。
自分のモノにすることも出来ているように思う。
現に僕は、妹である彼女に対して、今しがた女性としての魅力を感じてしまっている。
僕が苦笑すると同時に、鞠絵が注意事項を述べ始めた。
自分の引いたものと他の人の引いたものとを交換しないこと。
また、それを強要しないこと。
雛子と亞里亞が2人部屋で一緒になってしまった場合は、状況に応じてくじの引き直しをすること。
魔術や発明などでズルをしないこと。
気に入らない結果だからといって破壊活動、またそれに等しい行為を行わないこと。
暴力禁止。
イってしまった行動を取らないこと。
いくら挙げても、この妹達の前ではキリが無いが、一応僕が作ったものだ。
個人に言っているに等しい内容もあるが。
「それでは」
鞠絵の言葉に、全員の緊張が高まる。
「これより、部屋換えくじを始めたいと思います。まず最初は・・・可憐ちゃん」
「はぁい♪」
可憐は手を挙げながら、箱の前へと歩み出る。
「それじゃあ、引くね、みんな・・・」
そう言って、ゴクリと唾をのんだ。
他の妹達からも、唾をのみこむ音が聞こえた。
可憐の一挙手一投足に、全員の注目が集まる。
やがて可憐は、静かに箱の中へと手を入れた。
目を閉じ、しばらく中をかき混ぜた後、意を決してボールを掴むと、
「お兄ちゃん!」
(声が漏れてるぞ、可憐)
勢いよくボールを持つ手を頭上に掲げ、そっと目を開ける。
誰一人言葉を発さずに、番号を確認する可憐の、次の言葉をを待つ。
やがて可憐は、泣き崩れるような表情を浮かべ、こちらにボールに書かれた番号を示す。
「・・・Sです・・・」
ワッと、控えめな歓声があがる。
可憐に申し訳ない気持ちと、それでもとりあえず、僕と同じ部屋になれる確率が高まったことに対しての
喜びとが入り混じった、なんとも微妙な感じの空気だ。
「・・・お兄ちゃん・・・・」
可憐が今にも泣き出してしまいそうな瞳で僕を見る。
泣きたいのは僕も一緒なんだけどなー・・・。
「だ、大丈夫だよ可憐。いいなぁ、一人部屋かぁ。時々、遊びに行ってもいいかい?」
それだけの言葉を、やっと絞りだす。
それでも、可憐を納得させるには充分だったようだ。
「はい・・・お兄ちゃん、毎日でもお待ちしています・・・」
それでもまだちょっと声のトーンが暗いが、なんか後ろからの視線が痛いからフォローはこれくらいに
しておこう。
「えーっと、次は誰だったかな、鞠絵」
鞠絵が順番の書いてある紙を見る。
「千影さんです、兄上様」
その言葉を受け、千影がスッと立ち上がる。
均整の取れた顔立ちを僕に向け、微笑みかける。
「待ってて・・・兄くん・・・・・・今回は少し・・・自信があるんだ・・・」
くじ引きに自信?
魔術は禁止してあるし、どういうことだろう。
そういえば。
というか、あまり触れたくなかったのだが、今日は千影の服装がいつもと大分違う。
でかく44とプリントされた(不吉だな、おい)パーカーに、下はデニム地のミニスカートという
いでたちで、ご丁寧にピンクの口紅までつけている。
何かの見間違いだと思いたかったが、どうやら現実らしい。
なにやら悪い予感がする。
その時、電話のベルが鳴った。
一番近い所にいた花穂が急いで受話器を取る。
「はい、もしもし、佐倉です。・・・はい・・・はい、少々お待ちください」
花穂が受話器の通話口を左手で押さえ、僕を見る。
「お兄ちゃま、湧文社の、中居さんっていう人からだよ」
湧文社というのは、僕がマンガを投稿している会社の名前だ。
「中居さんから?」
僕は立ち上がり、花穂から受話器を受け取る。
「あ、みんな、続けてて」
僕は電話口に出る前に、妹達にそう促した。
そうしないと、彼女達は僕の電話が終わるまで待ってしまうだろうから。
「はい、お電話代わりました。ええ、・・・はい、ああ、そうですか、よかった」
僕は話をしている間、妹達の様子を見ていた。
くじ引きはどんどん進んでおり、喜ぶ者、悔しがる者、さまざまだ。
「はい、わかりました。有難うございます。それじゃあ、また」
話が終わり、受話器を元に戻すと、丁度咲耶の番が終わったところだった。
確か次は、僕の番だ。
「何のお話だったデスか、兄チャマ」
四葉が、チェキしたそうに喰いついて来る。
「うん、この前のマンガがね、一次審査を通ったよっていう話」
妹達の表情が、パッと明るくなる。
「本当?嬉しい!おめでとう、お兄様」
咲耶の言葉をかわきりに、妹達が祝福の言葉を発する。
亞里亞と雛子は、よく分かっていない様子だったが。
ただ、担当者がついていれば、一次を通るのは当たり前の事だった。
だから別に、取り立てて喜ぶことでもないのだが、妹達がまるで自分のことのように喜んでくれたことが、
僕には嬉しかった。
「うん、ありがと、みんな。さて、次は僕の番だよね」
そう言って、箱の前に立つ。
なんだかすごく爽やかな気持ちだ。
今なら誰と一緒の部屋になっても構わないと思える。
心なしか、妹達の間の空気も和んでいるような気がする。
素晴らしいなあ、これこそ家族だ。
ありがとう、中居さん。
箱に手を入れ、即決でボールを掴み、手を引き上げる。
『E』
「Eだ。・・・Eは、誰?」
「私」
声のする方に目をやると、『44』という数字が飛び込んできた。
『死死』?
僕の目にはそう見えていた。
目の前の現実。
『これから2ヶ月間、千影と同じ部屋』
・・・・・・嫌だ、嫌だ嫌だ。
前言撤回。
千影と同じ部屋だけは・・・。
「よろしくぅ・・・兄くん」
「ヒッ」
後ろから千影に肩をポンッと叩かれ、思わずビクッとしてしまう。
妹に対してここまでビビるとは・・・。
・・・まるでいじめられっ子だ、僕・・・。
・・・結局、雛子と亞里亞も別々の部屋となり、やり直す理由も無く、今回の部屋換えくじは幕を閉じた。
「悪夢だ・・・」
部屋換え兼大掃除が始まり、僕は自分の荷物を部屋へ移動させていた。
千影は千影で、得意の魔術で引越しを一瞬で終えたらしい。
僕がEの部屋に入るたびに、クールな笑みを投げかけてくる。
「悪夢だ・・・」
そう呟きながら部屋を出ると、
「にいさまぁー、助けて欲しいですのー」
下から白雪が僕を呼ぶ声がした。
声の感じから、相当切羽詰まっているようだった。
「どうした、白雪」
返事をしてから階段を下りていくと、白雪が大きなダンボールを抱えている姿が目に入った。
「なんだなんだ、どうしたというのだ」
近づいていくと、白雪がダンボールをおろす。
「どうもこうもないですの」
中を見ると、料理道具がぎっしりと詰まっていた。
「重くて運べないんですの。にいさま、手伝ってほしいんですの」
「はいよ、白雪は、Cの部屋だったよな」
何で白雪の部屋にこんなに料理道具があるかというと、本人曰く、研究のため、だそうだ。
食事部屋ですればいいのに、と思うのだが、あそこは皆が出入りするところだから、一人でキッチンを
占領するのは悪いし、集中も出来ないと言っていたことがあった。
結局運ぶのは、いつも僕の役目なんだけどね。
僕はダンボールをひょいっと持ち上げる。
「あ、にいさま、姫も手伝いますの」
「別に、いいよ。一人で持てるし」
「姫は、お手伝いしたいんですの!」
「わかりました」
白雪がダンボールの中から包丁を取り出したので、僕は素直に従うことにした。
「ありがとうございました、にいさま。にいさまのために今夜のお夕飯もはりきって作りますの」
後ろから、白雪の声が聞こえた。
僕はぐったりしながら、一人部屋へと戻ると、最後の荷物をまとめる。
「これで全部だな」
部屋に別れを告げ、千影の待つ部屋のドアを開ける。
「あ・・・」
僕と千影が、同時に言った。
部屋の中では、千影が丁度、服を着替えようとしているところだった。
パーカーの裾を少しまくりあげた状態で、こちらを見ている。
「ごめんごめん、いや、危なかったな」
一人部屋のクセで、ついついノックをするのを忘れていた。
怒らせてしまってなければいいが。
「別に構わないよ・・・ただ・・・・・・ノックはなるべく・・・してくれると助かるな・・・」
裾をおろし、千影が言った。
良かった。怒らせてたら、命に関わる。
「うん、ごめん。分かってる。・・・外に出てるから、着替え終わったら教えて」
「その必要は・・・無いよ・・・」
外に出ようとする僕を、千影の言葉が止める。
「・・・・・・もう少しこのままでいるから・・・」
「何で? 着替えなんてすぐだろ?」
「・・・外は・・・寒いだろう・・・?」
そうか。
千影なりに、気を遣ってくれていたんだ。
ただ、着替えをしてほしいという気持ちは、僕にもあった。
普段見慣れない千影の真っ白なフトモモが、僕にはまぶしかった。
「それとも・・・やっぱり・・・・・・似合わないかい?」
「んなこと、ないさ」
僕は靴を脱いで、部屋にあがる。
嘘を言っているつもりは無い。
「いつもと違って、そういうカジュアルな千影も可愛いな」
その言葉以外見つからなかった。
「・・・ありがとう・・・兄くん」
ふっと、千影のほっぺたが、唇と同じ色になったような気がした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
軽い沈黙が流れる。
僕は、聞こうと思っていたことを聞くことにした.
「ところで、どうして今日はそんなカッコしてるの?」
「・・・知りたいかい?」
千影は口元に手を寄せ、上目遣いで言った。
「うん、まあ・・・」
「これさ」
そう言って、パチンと指を鳴らす。
ドサッ
僕の目の前に、本が落ちてきた。
おいおい・・・。
床に落ちたそれを手に取ると、テレビ情報誌くらいの厚さだった。
「何これ・・・『週間魔界カルテット 年末特大号 特集 あこがれの魔女に近づこう!』・・・
・・・・・・これは?」
「魔界の女の子向けの雑誌の中では・・・一番・・・人気のあるものだよ・・・」
「いや、そうじゃなくて」
「28ページを・・・開いてごらん・・・」
千影に言われた通りにすると、そこには今週一週間の、一日毎の運勢が書かれていた。
「ふふ・・・信じて・・・正解だったよ・・・」
『魚座 12月28日 ラッキーカラー ピンク
ラッキーナンバー 44
デニム地の服装を心がけると、運勢がアップ』
なるほど・・・。
その通りにするところは、可愛らしいというか何というか・・・。
僕が本をパラパラとめくっていると、いつのまにか、千影が目の前まで来ていた。
「私の願いを・・・叶えてくれたのだから・・・・・・感謝しなくては・・・いけないな・・・・・・」
僕の目を見つめ、微笑を浮かべる。
そっと、僕の頬に千影の掌が触れた。
「さて、こんなもんかな」
部屋の模様を作り終え、僕は大きく息をついた。
「兄くん・・・これは・・・?」
そう言って千影が、僕に大きな封筒を差し出す。
「さっき・・・丁度兄くんがお風呂掃除をしていた時に・・・可憐くんが持ってきたんだが・・・」
おそらく、忘れ物だろう。
何が入っているかは、だいたい見当がついた。
「貸して」
僕は千影から封筒を受け取ると、中身を自分の机の上に広げる。
予想通りの物だった。
「これは・・・」
千影が僕の横に立ち、呟いた。
「マンガを描き始めた頃のやつだな。ヘタっぴだ」
昔の原稿を、僕は自分でそう評した。
たしかこれを描いた時は、僕は技術の事など何も知らなくて、ただ、がむしゃらだったのを覚えている。
「これ・・・・・・覚えているよ・・・」
僕は驚いて、千影を見る。
「中2の春だから・・・もう6年近く前になるのか。よく、覚えてるなぁ」
「兄くんが・・・初めて投稿するマンガだから・・・・・・咲耶くんと・・・春歌くんと3人で・・・
夜遅くまで待っていた・・・・・・」
僕は、感心してしまった。
「そういえば、そんなこともあったな。次の日、皆で学校に遅刻しそうになって慌てたっけ」
「結局・・・起きていたのは・・・私だけになってしまっていたけれど・・・完成したとき・・・私に
一番に見せてくれて・・・・・・本当に嬉しかった・・・」
「・・・・・・」
「兄くんの・・・フフ・・・無邪気な顔も・・・よく覚えているよ・・・・・・」
「・・・なんだか、恥ずかしいな」
苦笑いを浮かべ原稿をめくっていくと、最後の方に、・・・女の人と、妹達全員の似顔絵が描かれている
原稿の束が現れた。
千影は、妹達の似顔絵の描かれた原稿を手に取る。
僕は、女の人の顔を食い入るように見つめていた。
「・・・その人は?・・・」
やがて千影が、言葉を発した。
僕は少し、間をあけた。
「そっちの、皆の似顔絵と同じ時に描いたやつだな。・・・うろ覚えの記憶だけが頼りだったけど
・・・なんとか描いたのを覚えてる。俺の、本当の母さんだよ。もうこの世にいない」
千影が、はっとして僕を見る。
「・・・皆のことを知る、ずっと前の話だよ。貧乏だったけど、確かに幸せだった」
「・・・・・・・・・」
「親父がいなくなってから、短い間だったけど、母さんと一緒にいる時間は本当に楽しかったな。
母さんは空が好きでさ、・・・よく一緒に眺めた」
「・・・・・・辛い話かい・・・?」
「すこぉし」
僕はおどけて言った。
つられて千影が、少し笑った。
「それよりもさ、なんかそっちの似顔絵も、へったくそだなぁ。あんまジロジロ見んといて。ウチ、
恥ずかしいわぁ」
「ふふっ」
千影が思わず声を漏らした。
「・・・そんなに言うのなら・・・描き直したらどうだい?」
「ん?」
「似顔絵だよ・・・今日の夜にでも・・・・・・きっと皆・・・喜ぶよ・・・」
千影から原稿を受け取り、僕は机に広げた原稿と一緒に封筒にしまい込む。
「12人だろ? 時間かかるなぁ。ま、いっか。じゃあさ、そん時までその服、着ててよ」
「・・・その頼みは・・・聞けないな・・・・・・」
千影はそう言うと、入り口のドアに向かって歩き出す。
「あれ、外行くの」
「私も忘れ物が無いか・・・聞きに行くだけだよ・・・すぐ戻るから・・・」
千影は靴を履きながら答えた。
ドアの前で立ち止まり、何か考えているようだった。
「・・・・・・兄くんの・・・本当の母親は・・・・・・その絵の通りなら」
「うん?」
「・・・本当に・・・優しい人だったんだね」
「ありがと」
僕は千影が部屋から出て行くのを見送ると、封筒を引き出しにしまい、イスに座った。
僕達は両親の事故死をきっかけに、この白玉荘で生活を始めた。
その両親が、僕達とは誰一人として血が繋がっていなかった事を、妹達も皆、知っている。
妹達それぞれの生い立ちも、ある程度は聞いているだろう。
ただ、僕の過去について深く知っている人は、僕以外に数少ない。
何より僕は誰にも喋っていないし、これから先も言うつもりは無いからだ。
でも、それでいいと思う。
僕達は確かにここで家族であるし、同じ幸せを築こうとしている。
そういえば、自分の本当の母親のことで、あれだけ言葉を続けたのは千影が初めてだった。
「多分・・・・・・同じ血が流れてるからかな」
小さく呟いて、カーテンの隙間から空を求めた。
母の面影を映した青が、僕にはひどく、悲しく見えた。
第5話に続く
あとがき
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
相変わらずギャグともシリアスとも取れない、なんとも変なテンションでしたが、
『ホームコメディ+α』ということで・・・。
これでも少しは成長しているといいのですが。
前後編にしようかとも思いましたが、次の話もそうなりそうなので、無理矢理短くした次第です。
感想・意見・ツッコミ等頂けましたら、大変嬉しく思います。
それでは、機会がありましたら、またお会いしましょう。
いちたかさんへの感想はこのアドレスへ
to-show@k6.dion.ne.jp
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