(前編のあらすじ)
亞里亞の風邪の看病をしようとする僕だが、途中で雛子に脅され、
咲耶に自転車を蹴り倒され、部屋の仕掛けに様々な暴行を受ける。
果たして僕は、今日の夕日を拝むことが出来るだろうか。
作者:いちたかさん
布団の中の亞里亞は、思った通り、静かな寝息をたてていた。
先ほどの僕への殺人未遂の音に、目を覚ますことは無かったようだ。
幸せそうな寝顔に、僕も自然と笑みがこぼれる。
それでいい。
妹が苦しむサマなんか、見たくも無い。
大分汗をかいていたので、僕は亞里亞の身体を拭いて、着替えさせてあげることにした。
起こさないように、慎重に作業を行う。
「・・・・・兄やぁ・・・・・」
ん?起こしてしまったか?
「・・・・・・・・・」
「・・・寝言か」
そう呟き、作業を続ける。
着替えを終わらせ、アイスノンと氷嚢を替えると、亞里亞を再び布団に寝かせた。
口をもごもごさせる亞里亞の寝顔に、顔を近づける。
甘いものを食べている夢でも見ているのだろうか。
ふと、雛子が言っていた言葉を思い出した。
(亞里亞ちゃんをいじめてる、わるーーいバイキンさんたちを・・・)
「・・・まったくだ。亞里亞をこんなめに遭わせやがって」
僕は亞里亞の頭を撫でながら、誰に言うともなく呟いた。
・・・・・・どれくらい経っただろうか。
しばらく亞里亞の傍でゆっくりしていると、外から、自転車を止める音が聞こえた。
時計を見ると、まだ10時を回ったところだった。
ドアの隙間から顔を出すと、春歌がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「春歌?どうしたの?早いね」
「あら、兄君さま。ワタクシ、教科の関係で今日はテスト科目が一つしか無かったので・・・」
「あ、そうなんだ。いやー、テストかー、懐かしい響きだなー」
他人事だから言える言葉である。
「それで、兄君さま?亞里亞ちゃんのご様子はいかがですか?」
僕は部屋の中を一瞥する。
「うん、大丈夫。さっき測ったら、もう7度1分まで下がってたよ」
春歌が目を細める。
「ワタクシ、亞里亞ちゃんの為に精のつくお粥を作ろうと色々とお買い物をしてきたのですが・・・。
宜しかったら兄君さま、お手伝いして頂けませんか?」
「そんなことか、別にいいよ。暇だし」
僕は軽く答えると、亞里亞を起こさないようにと、食事部屋へと移動するよう促す。
「そういえば兄君さま。咲耶さんから言づてを預かって参りました」
・・・あのデストロイヤーから?
「・・・・・何て?」
「はい。『雛子ちゃんに抱きついてたお兄様へ。うふふ♪自転車とお兄様って、どっちが頑丈かしらね』と
仰ってました」
「・・・・・・」
「咲耶さんは、探究心が豊かでよろしいですね。ワタクシ、見習いたいですわ・・・」
その受け取り方は違うだろ、春歌。
「さて、始めようか。何を買ってきたの?」
「はい。亞里亞ちゃんのお口に合うかは、ワタクシ分かりかねるのですが・・・」
春歌は、スーパーの袋に手を入れ、買ってきた物を僕の目の前にずらりと並べていく。
「卵、パセリ、白菜、ピーマン、ほうれん草、紫蘇、鷹の爪、梅干し・・・」
うーん、調理の仕方によるかな。
「納豆、蜜柑、ヨーグルト、ひじき、ウナギの蒲焼、青汁、養命酒・・・」
・・・・・・・・。
「とりあえず身体に良い物を幾つか適当に買って参りました」
適当過ぎるだろ。
「あとは、亞里亞ちゃんには、甘い味付けがよろしいですよね。そう思って、これも買って参りました」
そう言って春歌は、蜂蜜と砂糖きびを僕に示す。
このラインナップで、どんなお粥を作るつもりなのだろう。
「さあ、兄君さま。どのようなお粥をお作り致しましょうか」
考えてないのかよ・・・・・・。
春歌が僕を、期待したような目で見る。
僕は考えるのをやめ、腹をくくることにした。
「よし、春歌。俺に任せとけ。黙って俺について来い!」
ぱっと、春歌の表情が明るくなる。
「はい!ワタクシ、兄君さまの為なら、たとえ火の中水の中、この世の果てまで、付き従って参ります!」
よし、春歌はこのノリでオッケーだ。
「春歌、君は納豆と紫蘇と梅干しを細かく刻んで、混ぜ合わせるんだ。大和撫子の真価を見せてくれ!」
「ああっ、ワタクシ兄君さまと2人きりで、お粥とともに愛を育むのですね・・・・・・ポッ」
僕は腕まくりをして、気合を入れる。
亞里亞、待ってろよ。
兄やが風邪なんか吹っ飛ぶくらいのお粥を届けてやるからな。・・・・・・・・・
無茶でした。
こんな物を亞里亞に食べさせたら、風邪ではなく命が吹っ飛んでしまう。
春歌には悪いが、素直に謝って、無残な結果を伝えるしかない。
僕は薙刀で半殺しにされる覚悟を決め、春歌の方に目をやる。
「ごめん春歌、しっぱ・・・」
「そして兄君さまはお粥を食べ終え、ワタクシにこう仰るのです。春歌、美味しかったよ。次は春歌を
食べてもいいかい。ああっ兄君さま、いけませんわ、亞里亞ちゃんが見ている前でそんな・・・。でも、
兄君さまがどうしてもと仰るのなら・・・・・・ポポポッ」
妄想中ってか。
納豆、紫蘇、梅干しにも全く手ぇつけてないし。
しかし、これはチャンスだ。
妄想してる間に失敗作を闇に葬って、普通のお粥を作ってしまおう。
僕は、材料を全部ぶち込んで出来た物を捨てようと、鍋に手をかける。
ふと、一昨日の可憐のラーメンのこともあるし、これはこれで美味いのかもしれない、と思った。
・・・・・・・・。
とりあえず、春歌がやる筈だった作業を行い、お粥?を完成させた。
しかし、味見する気にはならない。
・・・仕方ないな。
「ミカエルー」
ドアを開けてその名を呼ぶ。
「ワン ワン!」
隣りの鞠絵の部屋から、すぐさまミカエル(生きてた)が、飛び出してくる。
本当に忠実で良い奴だ。
「よーし、餌だぞー」
僕はそう言って、深皿に盛ったお粥?を差し出した。
「兄君さま、いけませんわ。そんなふしだらなこと・・・。え?・・・ああ、そうですよね。殿方の
夢ですものね。ワタクシ、頑張りますわ!それでは・・・・・・あーーれーーー」
くるくるくるくる
・・・君が今着てるのは学校の制服だろ。
僕は、痙攣しているミカエルを押入れに押し込み、新しいお粥を作り始める。
「ワタクシ、兄君さまに喜んで頂けるなら、どのようなことをされても耐えてみせますわ・・・・・・」
それにしても今日は少し、妄想が長いな。
「兄君さま、ワタクシはもういつでも・・・え?そんなに欲しけりゃ、何が欲しいのか言ってみろ?
そ、そんな!婦女子の口からそんなふしだらな事、言える訳ありませんわぁーー・・・ポッポッ、ポッ」
・・・春歌、君の中では僕はそんな奴なんだね。
というより、もう止めた方がいいな。
このままでは、ありもしない既成事実を捏造されかねない。
「春歌。おーい、春歌?」
身体をくねらせている春歌を、大きく揺さぶる。
「・・・・・・あら、兄君さま。ワタクシは何を・・・?」
「・・・うん、まあとりあえずお粥は出来たんだけど」
「まあ、本当ですか、兄君さま」
そう言って春歌は、鍋の中を覗き込む。
「流石は、兄君さまですね!あれだけあった材料を、さも何も入っていないかのように調理して
しまわれるなんて・・・・・・スバラシイですわ・・・ポ」
「うん・・・まあ、ね。それじゃあ僕は、亞里亞のところに戻るけど、春歌はどうする?」
「勿論お供いたします・・・と言いたいのですが、ワタクシは少しこのお部屋をお掃除してから参ります」
そういえば、この部屋はもう一週間掃除していない。
「そうか、助かるよ、ありがとう」
「いえ、婦女子の当然のお勤めですから・・・。そういえば兄君さま、雛子ちゃんからも言づてを預かって
参りました」
僕はお粥の入った鍋を持ちながら、ビクッと肩を震わせる。
「・・・・・・何て?」
「はい・・・確か、『ヒナは殺すって言ったら本気で殺すよ』って言ってました。
うふふ、子供って無邪気ですわね」
・・・何で春歌は笑顔でいられるんだろう。
たぶんその『本気』は、『マジ』って読むくらい『本気』なんでしょうね・・・。
僕は最善の道を選ぶため、必死で思考をめぐらせる。
1.正直に雛子に謝る → 雛子にボコボコにされる
2.亞里亞に元気になったふりをして貰う → 間違いなくバレる → 雛子にボコボコにされる
3.逃げる → 亞里亞をほったらかしとみなされる → 結局ボコボコにされる
・・・・・・駄目だ。
どうやっても助からない。
それに風邪をそんなすぐに治す方法なんざ、あるわけが・・・・・・。
・・・・・・あった。
こうなったら、溺れるものは藁をも掴む、だ!
迷信を信じてみよう!
「兄や・・・これ・・・おいしいです・・・」
部屋に戻ってすぐ目を覚ました亞里亞に、僕はお粥を食べさせてあげていた。
朝食を取っていないので、お腹が空いているのか、食べるペースが結構速い。
まあ、食欲があるのは良い事だ。
「・・・・・・けほっ、けほっ・・・・・・」
「あ。亞里亞、大丈夫?」
僕はそう言って、亞里亞の顔の前で深呼吸する。
「・・・・・・?・・・どうしたの?兄や・・・・・・」
「えっ、いやいや、何でもないよ。さ、あーーんして」
「・・・・・・あーーん♪」
「ただいまー!おっにいったまーー!」
「・・・・・・おかえり・・・・・・雛子・・・・・・」
ぐったりと座り込んで壁にもたれかかっている僕に、雛子が歩み寄る。
「ねえねえおにいたま。亞里亞ちゃんは?」
僕はゆっくりと雛子の後ろを指差す。
雛子が振り返ると、そこに亞里亞が立っていた。
「わーーい!亞里亞ちゃん!元気になったの?」
にっこりと微笑む亞里亞。
「はい・・・。兄やの、おかげです・・・」
手を取り合って、喜ぶ2人。
「おにいたま、約束守ってくれたんだね。よかったあ、おにいたまを殺さずにすんで」
もはや顔を引きつらせる元気も無い。
「ねえ、亞里亞ちゃん。おそとであそぼ」
「はい・・・」
風邪は人に移すと、治るというのは本当らしい。
もちろん僕にはそんなこと不可能だが、亞里亞には何故出来たのか。
まぁ・・・考える事自体がナンセンスなんだろうな・・・。
僕は2人が部屋から出て行くのを目で追いながら、そんな事を考えていた。
第4話に続く
あとがき
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
今回は、第1話で出番の少なかった妹を中心に絡ませたのですが、いかがでしたでしょうか。
雛子の「殺す」発言は、壊れというより、他の子が幼稚園で口にしていたのを無邪気に真似した、
という感覚で書きました。
それにしても、自分のSSを手直しするというのは、意外な発見も多くて楽しいものですね。
ともあれ、皆様からの感想・指摘・批判等頂けましたら、精進の糧としたいと思います。
それではまた、機会がありましたら、お会いしましょう。
いちたかさんへの感想はこのアドレスへ
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