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シスプリ劇場 金魚鉢が観た家族

第2話 小さな花と甘い朝(前編)

作者:いちたかさん


開け放たれた窓の縁に腰掛け、外の景色を眺める。
積もっていた雪もすっかり溶け、太陽がその姿を雲間から覗かせていた。

僕は手にしていた緑茶を飲み干すと、大きく息をついた。

「それじゃ、お兄様、行って来るわね」
「兄くん・・・行って来るよ」
「兄君さま、行って参ります」

毎日聞く声に、食事部屋の玄関の方に目をやる。
咲耶、千影、春歌の高校生組が、学校へ出かけるところだった。

「ああ、気をつけてね」

「お兄様も、亞里亞ちゃんをよろしくね」

「うん」

僕が返事をすると、3人は顔を見合わせ、部屋を出て行く。
見送りの為に、僕も後に続いた。

頬を刺すような冷たい空気の先に、自転車置き場からそれぞれの自転車を出す3人がいた。

「あ、おにいたまー」

幼稚園のリュックを背負った雛子が駆け寄ってくる。
僕は腰をおろし、そのまま雛子を抱きしめた。

「いってらっしゃい、雛子。お友達と仲良くね」

そう言って僕は、雛子から身体を離す。

「うん!・・・・・・ねぇおにいたま、亞里亞ちゃん、早く元気になるといいね・・・」

雛子は、亞里亞がいる部屋の方を見て言った。

「そうだね。雛子は優しいね」

「ねえ、おにいたま、亞里亞ちゃんをいじめてる、わるーーいバイキンさんたちを、えい、えいっって、
 やっつけてね」

「うん、分かった、約束するよ」

「ホント?やくそくだよおにいたま。うそついたら殺すよ」


・・・・・・え?


雛子の笑顔を見つめていると、僕の自転車を押して、咲耶が近づいてきた。

「あれ?僕の自転車?」

何かの聞き間違いだろうと、気を取り直して立ち上がる。
咲耶は僕の疑問に、すぐに答えてくれた。

「ええ、今日は私が雛子ちゃんを幼稚園に送っていくでしょう?だから2人乗りの出来る、お兄様の
 自転車を借りたいんだけど・・・ダメかしら」

ああ、そういうことか。

「ダメなんて事無いよ。でも2人乗り、気をつけてね」

「ええ、もちろんよ。ありがとう、お兄様。雛子ちゃん、いきましょ」

「はーい、おにいたま、いってきまーす」

咲耶は雛子を自転車の後ろに乗せ、遠くでこちらの様子をうかがっていた千影と春歌に合図を送る。
4人の姿が塀の向こうに消えるまで、僕は手を振って見送る。
その間、雛子はずっと僕に笑顔を送っていた。

干支一回りも年の離れた妹に、恐怖心を抱くことになるとは・・・。

「ふう」

深呼吸をし、くるりとアパートの方に向きなおす。
アパートの1階は4部屋あり、亞里亞の眠る部屋は、階段側の角部屋である食事部屋の隣りにある。

亞里亞の様子も気になるが、僕はとりあえず食事部屋に戻ることにした。








亞里亞の体調の異変に気付いたのは、一昨日の夜のことだった。

額に手を当て、熱を測ると、9度2分もあった。
直ちに薬を飲ませて寝付かせたが、その日の夜は大分苦しそうにしていた。

他の妹達も大分心配しているのか、かわるがわる様子を見に来ては、眠っている亞里亞に
優しく話しかけていたのが、本当に有り難く思う。

昨日は医者に連れて行き、2・3日安静にしていれば良くなるという事だったので、
それまでは僕は亞里亞の傍に居てあげ、僕のやっている家事の一部を妹達が代わりに行うことにしたのだ。

・・・今にして思えば、外で遊んでいた時、

「ぽかぽかです」

と言っていたのは、身体が熱っぽいという事だったのかもしれない。

意に介さなかった自分を責めるとともに、もっと亞里亞と話をする必要があると思った。








食事部屋で、アイスノンと氷嚢を手に取り、壁の向こうの亞里亞を想う。
はやる気持ちを抑え、部屋を出ると、何故か自転車に乗った咲耶が帰ってきたところだった。

「あれ?どうしたの?」

雛子がいないところを見ると、もう幼稚園には行ったということか。
咲耶が僕の目の前までやってくる。

「忘れ物しちゃったのよ、お兄様」

「あらら、急がないと。今日から期末でしょ?」

「そうなのよ・・・もー、やんなっちゃう」

ため息をつきながら、自転車のスタンドを立て、籠からカバンを取り出す。

「あら?このスタンド、上手く立たないわ」

「ん?いや、ちゃんと立ってるじゃん」

「何よもう!時間無いのに!!」

そう言って咲耶は、目の前の自転車に強烈な蹴りの一撃を加える。

どがしゃっ!!

(・・・・・・何だ?)

倒れた拍子にカゴがひしゃげ、どこかの部品が飛んだ。
蹴りが当たったところは、フレームが捻じ曲がっていた。

「ふぅっ、それじゃ、取ってくるわね」

咲耶はそう言うと、2階の自分の部屋へ走っていく。

「・・・・・・・・・」

ホイールが虚しく回り、カラカラと音を立てる。
そんな元自転車を見つめながら、僕は首を縦に振ることしか出来ないでいた・・・。








自分の自転車を股にかけ笑顔で去っていく咲耶を見送り、亞里亞の部屋の前に立つ。
先程の惨劇は、交通事故だと思って諦めることにした。

「亞里亞、入るよ」

ノックをして、ノブに手をかける。
手の平が、ピリピリとするような気がした。

「ん?」

次の瞬間、ドアノブが光ったかと思うと、僕の身体に電気が流れてきた。

「うわっ」

あわててノブから手を離す。
次の瞬間、ノブからバチバチッと妙な音がし始めた。

そのままノブを見つめていると、

ボンッ

「おわっ」

ノブは閃光を放ちながら、破裂した。

・・・どれだけ強い電流なんだ?
もうちょっと手を離すのが遅かったらと思うと、背筋が寒くなった。

確か、この部屋で亞里亞と一緒に生活しているのは、春歌と・・・・鈴凛か。
おそらくドロボーよけの為なんだろうが、殺人の前科がつくような事はやめた方がいいと思う。

僕は今度は慎重にドアを開ける。

「亞里亞、はいるよー」

玄関にはコードが散らばっており、内側のノブに結ばれたロープが、部屋の奥までピンと伸びていた。

バチン

ん?

ロープの先には・・・何だろう、何か大掛かりな装置が見える。

ズドンッ

(ああ、成る程)

僕がロープの意味に気付いたのは、その装置からバスケットボールが発射された時だった。

どごっ

「ぶっ」

鈍い音とともに、顔面に激痛が走る。
その勢いで後ろに倒れこみ、後頭部をしたたか打ちつけた。


・・・・・・・・・。


倒れたまま、良く晴れた青空を見上げる。
どうやら亞里亞の元へ行くには、それなりの準備が必要なようだ。

僕は体を起こすと、物置代わりにしている部屋へと足を向ける。

「確か衛にせがまれて買ったものが・・・・・・、お、あったあった」

適当に置かれた荷物の中から、野球のミットとヘルメットをひっぱり出す。

「これでとりあえず、致命傷は避けられるかな」

根拠の無い自信を胸に防具を装着すると、今度はより慎重に部屋の中に足を踏み入れた。

くいっ

またかよ。
どうやら下の方にピアノ線が張ってあったらしい。

ばしんっ

それに気付いた瞬間、横の壁の低いところから床と水平に竹刀が振り出され、
また上手い具合に弁慶に垂直にヒットした。

「!!!!」

声にならない叫びをあげ、うずくまる。
と同時に、頭に何かが落下した。

ごきっ

「ぐわっ」

まずい、今は効いた。
物体を確認すると、アイロンだった。

(ヘルメットしてて良かったぁぁ・・・・・・)

・・・しかし、ドロボーよけというより殺人装置のような気がする。

しばらく動かずにいようと思った矢先、壁からどでかいパンチグローブが飛び出した。
疑問符をうつ間も無く、横っ面を殴られ、軽く吹っ飛ぶ。

倒れこんだまま、強い虚しさに襲われる。
なんで妹の部屋に入るだけでこんな目に遭わなきゃならないんだ。

「・・・これも全部、亞里亞の為!」

僕はそう言って気合を入れると、思い切って立ち上がる。

ザスッ

直後、背中をかすめ、今まで倒れていたところに、いけばな用のどでかい剣山が突き刺さった。



・・・2人が帰ってきたら、過剰防衛という言葉の意味を教えてあげなければならないな・・・・・・。








後編に続く




あとがき

最後まで目を通して頂き、本当にありがとうございます。
第1話の2日後という設定の話なんですが、亞里亞のキャラソンからタイトルを含めインスピレーションを
得た次第です。
その割にはまだ亞里亞が一言も喋っていない上に、歌のイメージとは大分かけ離れているかと思われます。
ともあれ、SS書きとしてはまだまだヒヨッコですので、皆様の感想・指摘・批判等頂けましたら、
精進の糧にしたいと思います。
メールアドレスが変わりましたので、宜しければ、to-show@k6.dion.ne.jp までお願い致します。
それではまた、後編でお会いしましょう。


いちたかさんへの感想はこのアドレスへ
to-show@k6.dion.ne.jp

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