「衛ちゃん、本当に大丈夫なんですの?」
ランドセルを背負った子供達で賑わう、朝の昇降口。
背中合わせの下駄箱の向こうから顔を出して、白雪が言った。
「え? 何が?」
「昨日の事ですの! 姫、衛ちゃんが大変な事、ちゃんと知ってるんですの!」
空気が震える。
丹念に内巻きにロールされた髪を揺らして、白雪が衛に迫る。
「ちょ、ちょっと待って、白雪ちゃんッ・・・」
片足を後ろに上げて上履きを履いていた衛は、思わずバランスを崩しかけた。
残された足で小さくステップを踏んで、何とか持ちこたえる。
「セーッフ。なんちゃって」
健康的な白い歯を惜しげも無く見せて、衛が照れたように笑った。
しかしその思惑とは裏腹に、白雪はその対照的な表情を崩そうとはしない。
バツ悪そうに衛が、頬をぽりぽりと掻いた。
「あ・・・、ごめん」
「・・・姫は・・・心配なんですの・・・・・・」
白雪の瞳が、自分の中に溶け込んでくるようだった。
衛は思い直して、自分の独り善がりを恥じた。
心配してくれる人がいるのは幸せだと、衛は思い至っている。
「ありがとう、白雪ちゃん。でもね、ボク、あにぃとも約束したんだ。絶対負けないよって」
小さな太陽のような笑みを誇らしげに浮かべ、衛がきっぱりと言い切った。
不意をつかれたのは白雪だ。衛の笑みは予想外だった。
「ほら、急ご、白雪ちゃん」
衛に手を引かれ、白雪の足が不規則なリズムで前へ進む。
キョトンとしたその顔を見て、衛の笑顔は深まっていった。
そうして階段の上り口に差し掛かった、その時。
「衛ちゃん、・・・・・・おはよう」
物陰からの声が、2人の足を止める。
少し遅れて姿を現したのは、肩まで伸びた髪を後ろで2つに束ねている少女だった。
衛より少し背は小さいが、顔立ちは大人びていた。
「桃子ちゃん・・・。おはよう」
軽い戸惑い、そして安堵を含んだ挨拶を、衛が返す。
同時に白雪が、疑いの視線を桃子と呼ばれた少女に向けた。
衛をかばうように、自分の体を一歩前へ進めようとしたところで、衛が腕でそれを制止する。
桃子は足を震わせていた。
何かを言おうとして、言葉が出ない。
「桃子ちゃん、私立合格したんだよね。おめでとう。言うの遅れちゃって、ごめんね」
助け舟には充分すぎる、衛の言葉と笑顔。
うつむいたまま、桃子がフルフルとかぶりを振る。
「私・・・、絶交されちゃってても仕方ないから、こんな事言えた義理じゃ無いけど・・・・・・。
これ、どうしても衛ちゃんに読んで欲しいの。お返事は・・・・・・いいから・・・」
目の前にそっと差し出されたノートの表紙には、『交換日記』と記されていた。
自分と桃子が言葉で共有してきた日々を前にして、湧き上がる喜びを衛は押さえきれなかった。
「ううん! ボク、ちゃんとお返事して、返すからね」
「桃子! 何してんのさ。早く宿題のプリント写させてよぉ!」
苛立ちを含んだ、甲高い声が突如として場を引き裂く。
少し遅れて、階段を駆け下りてきた少女が姿を現した。
茶色の髪が、勢いそのままに大きく揺れた。
「あ、うん、ごめんなさい」
睨みつけるように自分を見下ろす目に、息を詰まらせながら桃子が答えた。
仁王立ちの少女が、衛に気付く。
2人の目が合う。
一瞬だけ明確に眉をしかめた後、少女はツンとした表情のまま、駆け上がって行ってしまった。
軽く衛と言葉を交わして、桃子が後を行儀良く追っていく。
「・・・桃子ちゃんって、服部さんと仲良かったんですの?」
その背を見つめていた衛が、くるりと体の向きを変える。
白雪の言う事はもっともだった。
同じ疑問は、衛の頭にも浮かんでいた。
服部真希という少女に関して、衛も白雪も、いい話を聞いた事は無かった。
苦情が来れば必ずと言っていいほど彼女が職員室へ呼ばれ、そこら中の店からは万引きの常習犯として
目をつけられていた。
学校をサボって東京で補導された事もあったし、中学生の兄も札付きのワルで有名だった。
少なくとも桃子のような優等生の両親が、付き合いを好むようなタイプでは無い。
本人達の気持ちはどうであれ、桃子と真希という組み合わせは、不可解な印象しか与えてくれなかった。
白雪が返事を待っていた。
衛はとりあえず、根拠も無しに笑ってみせた。
「うん・・・・・・。あはは、よく分かんないや。でも大丈夫だよ、きっと」
白雪が呆れたように、それでもどこかホッとした様子で、ため息をつく。
心配性の自分にとって、衛の楽観思考は見習うべきなのかもしれない。
亞里亞と同じくらいの歳の男の子達が、2人を追い抜いていった。
「分かりましたの。衛ちゃんがそう言うなら、姫、もう何も言いません。でも、にいさまだけじゃなくて、
姫にも頼って下さいね」
「うん・・・。ありがとう、白雪ちゃん」
約束の笑顔を交わして、二人は跳ねるようにして段を上っていく。
踊り場の窓から、ちらりと白玉荘が見えたような気がした。
(あにぃ・・・か。今頃、何してるのかな・・・)
僕が小学校に上がる前に、母と僕との二人暮らしは始まった。
母は、水商売の世界に身を投じた。
慣れない世界じゃ無かった。
母は、僕を産む前にも一度、同じ仕事を経験していた。
その時に財閥の長男である父と知り合って、母は東京の郊外の家へと嫁いだ。
父の顔は、憶えちゃいない。父は、母の他にも多くの、いわゆる妾を囲っていた。
その時の母は、幸せだったのだろうか。
僕には分からない。
母の仕事柄、周りから偏見の目で見られる事もあった。
それでも僕は、母の事が大好きだった。
そして同時に、何の力も持たない自分が、とてつもなく弱くて情けない存在だと思い知らされた。
今もそれは、変わっていない。
「よ、お帰り。コーヒーもらってるぜ」
雛子を幼稚園に送って自分の部屋に帰ってくると、禄郎はバニラを膝の上に乗せ、ソファを背もたれにして
くつろいでいた。
自分の目の前にマンガやコーヒーカップ、CDのリモコンを置いて、同時にカラーボックスの上の
CDプレイヤーから、オフ・スプリングの疾走するサウンドが放たれている様は、僕を、
まるで彼の部屋に遊びに来たかのような錯覚に陥らせる。
一時間以上待たせたというのに、禄郎は全く疲労した様子は無かった。
「お前、ネコ飼い始めたんだな」
バニラの妹のミルクは、まだ貰い手が見つかっていない。
可憐が心配そうに言っていたのを思い出した。
「妹が貰って来ただけさ」
僕は机の上の原稿をまとめながら、言葉を続ける。
「いつ、こっちに帰ってきたんだ」
「昨日の朝。タバコいいか?」
言いながら、禄郎がタバコを口に挟む。
ここで「ダメだ」と言ってやったら面白いんだろうが、僕は答える代わりに、台所にあったコーラの
空き缶を禄郎に手渡した。
家に灰皿は一切無いが、空き缶はその代わりになるのだ。
「サンキュ」
微かに笑って、禄郎は軽い天然パーマの頭を、ぽりぽりと掻いた。
男にしては少し長めの、といっても今の時代これ位は普通なんだろうが、髪は、耳を完全に覆っていた。
「それで、どうだったんだ」
「何が」
とぼけたように言って、禄郎はタバコに火をつける。
「何がって、北海道行ってきたんだろ」
禄郎と最後に会ったのは、彼が北海道に出発した去年の7月末だ。
その前がその年の初日の出に付き合った時で、そのすぐ後に車で関西の方に出てしまったから、
禄郎は去年一年を殆ど旅に費やしていた事になる。
「どうだった、か・・・。まぁ、寒かったよ」
「そんなの言われなくても分かるよ・・・。いい場所、あったか?」
「写真、見るか?」
禄郎がソファの上に置かれた、ジャケットのポケットから封筒を出しながら言った。
「それと土産買って来たんだよ。何とかっていうチョコレートの菓子。皆で食べてくれ」
「悪いな」
同じ大きさの直方体の包み2つと、封筒を受け取る。
僕は封筒を開いて、写真を眺めた。
漁港、赤レンガの建物、魚市場のセリの様子、祭りに踊る人々。
どの写真にも、活気や活力が溢れていた。
禄郎は、人間の持つ『エネルギー』が好きで、よくそういった場面を写真に収めていた。
夜景や、綺麗な風景を撮る事は、稀にしか無い。
曰く、ああいうものはその時だけ楽しめば充分、なんだそうだ。
「なぁ、あのオッサン、まだ生きてるか」
一通り写真を見終えたところで、禄郎が不意に口を開いた。
僕は少し、呆れた口調で言葉を返す。
「お前、まだ平悟さんとこ行ってないのかよ・・・。元気だったよ」
「今頃顔出したら何言われるか分からねえしなぁ。・・・なぁ、お前一緒に来てくれよ」
禄郎は真剣な表情で言った。
答は決まっている。
「気が進まないな」
「なーんでだよー」
「お前のとばっちりで、オレまで色々言われるだろ」
僕がそう言うと、禄郎はタバコを空き缶の上に置いて、首を捻った。
「まぁ確かに・・・あいつ、容赦無えからなぁ・・・・・・」
妙にしみじみとした言葉の後に、会話は続かなかった。
タバコの煙が、プカプカと虚しく宙を漂う。
僕は間を持たせるために、カフェオレを作るべく台所に向かった。
禄郎は洗練された容姿をしている。
高い上背、均整の取れた目鼻立ち、引き締まった筋肉質の体。
服装も髪型も凝っていて、流行を押さえていた。
それでいて、キザなところが無い。
僕が言うのも何だが、妹達が彼に『男』を感じていないのが不思議なくらいだった。
「行くなら、いつにする?」
僕は彼に背を向けたまま、言った。
「あ?」
出来上がったコーヒーに温めた牛乳と砂糖を入れ、軽く混ぜる。
カフェオレの完成だ。
それを手にして、コタツに戻る。
「ついてってやるよ。その代わり何か奢れよ」
「何だ、やっぱりイイ奴だな、君は。俺はいつでもいいぜ」
禄郎が笑う。
相変わらずこいつの褒め言葉は、ウソ臭い事この上無い。
僕は頭の中で、先の予定を巡らせた。
「じゃあ、明後日くらいでいいか?」
「明後日っつーと・・・14日か。今日は?」
「鞠絵に熱があってね・・・。学校は休ませたんだ」
ここに来る前に看た、鞠絵の様子が脳裏をかすめる。
熱冷ましを飲んで、ぐっすりと眠っていた。
「何だ、そうだったのか。悪かったな」
「別に構わないさ」
ちらりと、禄郎の顔を見た。
帰るつもりだろう、と思った。
「にしてもお前、いいお兄さんやってるねぇ」
「別に。演じてるだけさ」
僕はわざと、そっけない態度を選択した。
家族でいるという事は、それぞれの役割を演じるという事だ。
そして、誰かがその役割に苦痛を感じ始めたとき、幻想は正体を現し、終わりを告げる。
「相変わらず、理屈っぽいな」
禄郎は呆れたように笑いながら、コーヒーを飲み干した。
前に似たような事を話した時も、そう言われたような気がした。
「どうせなら、車でどこか行こうと思ってたんだが・・・また今度にするか」
「すまないな」
「いいよ。傍にいてやれ」
言いながら禄郎は、ジャケットを身にまとい立ち上がる。
胸のポケットにタバコをしまうと、空き缶とコップをつまみ上げ、台所に片付けた。
「じゃ、俺はそろそろ」
「何だ、もう帰るのかい?」
禄郎が気を遣う事は分かっていたのに、僕はわざとらしくそう言った。
僕はただ、流されるしかなかった。
「ああ。また来るよ」
禄郎は「また来る」といった類の言葉を口にする時、必ず穏やかに笑みを浮かべる。
長い付き合いの中で、確実な事だ。
「そうだ。今度はいつまでこっちに居るんだ?」
ドアノブに手をかけた禄郎に、僕は尋ねた。
「・・・とりあえず金貯めねえとなぁ・・・。今年はずっとバイトかもな」
「そうか・・・。じゃあ」
「んじゃ」
禄郎が帰ってしまった後、僕はしばらく何もせず、CDに耳を傾けた。
バニラが窓際に座り、鳴き声をたてる。
外に出て行きたがっているのは分かったが、願いを叶えてやる気は起きなかった。
すっかり冷めたカフェオレを一口だけすすって、僕はそのまま仰向けに寝転がった。
妙な脱力感。
天井を見つめ、僕は大きくため息をついた。
僕が母を亡くしたのは、二人での暮らしを始めて一年余りが経った、春のことだ。
暖かい日だった。
僕の背中で、母は静かに、眠りについた。
母が死んだ後、誰が僕を引き取るかで、大人達は揉めに揉めた。
母の実家はあてにはならなかったし、父の方にしても、格式の高い家に、水商売の女から生まれた子供など
置いておきたくなかったんだろう。
僕としてはどうでもよかった。
誰に引き取られたところで、自分の人生が良い方向に転ぶとは、子供心にも思えなかったからだ。
結局僕を引き取ったのは、佐々木平悟という、母の幼なじみの、気難しそうな漫画描きだった。
そしてそこで出会ったのが、同じように彼の元に身を寄せていた、禄郎だった。
作者:いちたかさん
去年のバレンタインの朝も、こんな風な曇り空だったような気がする。
禄郎の土産のミニチョコケーキ『真冬の恋愛』は、妹達に大好評だった。
それはもう、見ているこっちが気持ちいいくらいに。
甘いものは女性を、良く言えば無邪気に変貌させる。
禄郎と交わした気の進まない約束の日の朝、僕はカラになった箱を見つめ、そんな事をしみじみ思った。
僕は残された最後の一つを、朝食代わりにつまむ。
「・・・これ、すっごく美味しいデスねぇ。兄チャマ」
最も、不可抗力の被害者は僕だけじゃ無かった。
目の前で口をもごつかせる四葉も、その一人だ。
「そう、そりゃよかった。亞里亞が昨日殆ど食べちゃってねぇ・・・・・・。この2つは死守したけど」
チョコは全部で54個あった。
ざっと計算して1人あたり4個な訳だが、亞里亞は実にその3倍の量を一度にお腹に収めた。
・・・それはもう、見つけたこっちが胸焼けするくらいに。
他の妹達も欲望に抗えずに、自分の食べられる数だけはキチンと食べてくれたらしく。
結果はもう、言うまでも無い。
「そういやどうして四葉、これ食べなかったの?」
僕が尋ねたと同時に、手に持っていたケーキの残りを、四葉は口に頬張る。
「よゆひゃ、あにひゃわよやえに、はんばっへいっふぁい・・・・・・」
日本語とは程遠い言葉が返ってきて少し驚いたが、どうやら今日の為に色々作っていたチョコレートの
失敗作を処分する為に、ここ2・3日はかなりの量のチョコを口にしていたらしい。
「へぇ、四葉、チョコレート作ってたんだ」
「ハイ。初めてだから失敗ばっかりで・・・・・・って、どうして兄チャマ、その事知ってるデスか!?」
四葉が目を輝かせる。
さっき自分で言ったじゃない、と言いかけてやめた。
何というか、迷探偵のこういう所は反応に困ってしまう。
「流石は名探偵四葉の兄チャマデス! 四葉、あんなにトップシークレットで頑張ってたのにぃ」
「僕は大抵の事は分かっちゃうんだよ。みんなの事はね」
けれど微笑ましい事は確かだ。
僕はしたり顔を作りながら、大風呂敷を広げてみせた。
「あ、ところで学校はまだ、大丈夫? 随分余裕そうだけど」
「余裕じゃ、無いデスネ」
「・・・あっさり言うね」
「甘いお菓子は女の子を大胆にするデス。ヨーロッパの有名な『コモン・セイング』デスよ」
「コモン・・・? ああ、ことわざね。そうなんだ」
実在するかはともかくとして、今の状況では言いえて妙だ。
僕は「ふぅん」と、大きく頷いた。
「ホントは、可憐ちゃんを待ってるんデス」
そう言って四葉が玄関の方を、ちらりと見る。
ドアが勢い良く開いたのは、それと同時だった。
「お兄ちゃん! バニラが帰って来ないの!」
「・・・・・・へ?」
可憐が青い顔で食事部屋に駆け込んで来る。
「昨日の夜、外に行きたそうにしてたから、窓を開けてあげたの。そうしたらそのまま・・・・・・」
勢いそのままに可憐は、僕にすがりついた。
悲痛な風を身に受けて、僕は身震いしそうになる。
「家に来てから時間も経ったし、大丈夫だと思って・・・・・・。お兄ちゃん。・・・もしこのまま
バニラが帰って来なかったら、可憐・・・菜奈恵ちゃんに何て言えばいいの?」
可憐が紺のセーラー服に包まれた体を細かく震わせた。
小さい頃から、一度気を弱くすると、自分では帰って来れない娘だった。
僕は可憐の柔らかい手を、しっかりと握り締めた。
「大丈夫さ、可憐。猫は気まぐれだから・・・。その内、帰ってくるよ」
僕は今日、町に捜しに出る事を約束して、とりあえず可憐を落ち着かせる。学校の時間が迫っていた。
その事を茶化して言うと、可憐は目に涙を浮かべたまま、辛そうに微笑みを浮かべた。
僕は可憐ほど、バニラの事を真剣に心配できない。
心のどこかに、ほんの少しだけほっとしている自分がいる。
捜しに行くだなんて・・・・・・、気休めもいいとこだ。
自分と可憐との温度差に、胸が強く痛んだ。
気まぐれだから、もう2度と帰っては来ないかもしれない。
そんな事は、口が裂けても言えなかった。
皆を送り出した後、僕は頃合いの時間まで、ネームの直しを進めた。
改めて気付いたが、僕はこの漫画に、相当賭けている。
中途半端な妥協は、したくなかった。
昼下がりの時刻になって、僕はシャワーを浴び、家を出た。
平悟さんの住むマンションは、オフィス街に程近い、住宅街の入り口にある。
歩いてでも十分行ける距離だが、会いに行くのは、正月に皆で挨拶に行って以来だった。
エレベーターで3階に上って、突き当たりの部屋に辿り着く。
「どちら様で」
インターホンを鳴らすと、中から彼の、低い声がした。
「オレですよ、荘太です」
「お前か。ちょっと待ってろ」
ドアの鍵を外す音がして、短髪の、無愛想な顔が現れた。
「まぁ、上がれ」
玄関に禄郎の靴が無いのが気になった。
促されて僕は、平悟さんの後に続く。
廊下の突き当たりに居間があって、その部屋と隣接して彼の仕事部屋がある。
カーテンは閉めきられていて、蛍光灯の明かりだけが2つの部屋を照らしていた。
仕事部屋の隅の油絵や、机上に散在する原稿が目に入った。
「仕事中でしたか」
「気にするな」
僕に背を向けたまま、平悟さんは原稿の整理を始めた。
「急に、どうしたんだ。気を利かせて、手伝いにでも来たか」
平悟さんはアシスタントを雇っていない。
もともと自分の作品に他人の手が加わるのを、嫌う人だった。
それでも僕に時折こういう事を言い出すのは、一種の親心なんだろうか。
「平悟先生のお手伝いができるのは光栄ですが・・・・・・今日は夜に約束があるので」
ちょっとした皮肉を交えて、僕は答えを返した。
平悟さんはカレンダーに目をやって、にやりとした。
「そうか、今日は引っ張りだこだな」
「お陰様で」
そういえば、花穂はどうしただろう。
ふと思い出して、気になった。
「まあ座れ。インスタントでいいか?」
平悟さんが言っているのは、コーヒーのことだ。
できれば本当は、カフェオレがいいのだが。
「ええ、充分です」
黙っている事にした。
平悟さんがコーヒーを作っている間、近くにあったロートレックの作品集を見た。
その中の『洗濯女』という絵は、僕の部屋にもカラーコピーで作ったポスターがあった。
平悟さんは僕の前にコーヒーを置いて、MDコンポへと向かった。
そのうちに、シューベルトが流れ始める。
相変わらず渋い人だ。
禄郎に言わせるなら、じじいくせえ、となる。
禄郎はパンクやスカコアしか聴かなかった。
「そういえば一昨日の夜に、禄郎が来たな」
「一昨日?」
意外な言葉に、少しだけ声のトーンが上がる。
という事はあいつは、僕に会いに来たその日の内に、ここを訪れたという事になる。
「お前が来たら、バイトに入るから予定を変更したと、伝えてくれと言っていたよ」
(あの野郎)
思いながら、コーヒーを一口すする。
「一緒に来る約束でもしてたのか」
「まぁ・・・・・・そんなところです」
「いつもの事さ、・・・あいつの気まぐれはな。今頃は必死に、金を作ってるだろう」
禄郎はよく、恵まれた体格を利用して、日雇いのバイトに入る。
すぐ金が手に入るから都合がいいんだ、みたいな事を前に言っていた。
「次のマンガの調子は」
平悟さんの質問は、命令口調が多い。
僕はとりあえずコーヒーを口に運び、答える時間を稼いだ。
彼は、その場を済ますだけのような会話を嫌う。
「・・・よく・・・分からないですね」
「自分でも、分からないのか」
「分かりません」
部屋の中は、曲名の分からないクラシックだけが鳴っていた。
平悟さんは黙ったままだった。
僕は彼から目を離さずに、何も喋らないでいた。
「丁度いい。少し話でもしないか。正月は騒がしくて、それどころじゃ無かったからな」
その気持ちは僕にもあった。
平悟さんと二人になるのは久しぶりだったからだ。
しかし逆に、僕は彼と話をしているのが怖いという気持ちもあった。
平悟さんと話していると僕は、自分のボロが暴かれそうで、恐ろしかった。
彼の言葉はアクティブで、まるで生き物のようだ。
僕はその動きについて行くのが精一杯で、自分を取り繕うことができない。
「鈴凛は、公立単願だったか」
平悟さんはタバコに火をつけると、ゆっくり言った。
「ええ、それが鈴凛の希望ですから」
「余程の自信だな。それとも気遣いだと思うか」
「両方だと思っています。・・・・・・合格した後に、どれだけ援助をねだられるか、
想像するとちょっと怖いですけどね」
平悟さんの口元が、微かに緩んだ。
僕は、尋ねる事があるのを思い出した。
「そうだ、可憐が・・・、家で飼ってる猫が、昨日の夜からいなくなったんです。
黒と白の毛並みの、小柄なネコなんですが、見かけませんでしたか」
「知らないな」
即答だった。
「昨日今日と、外に出ていないしな。役に立てなくてすまないが」
「いえ、別にいいんです」
「随分あっさりしてるな」
「・・・そうですかね」
平悟さんは静かに笑みを浮かべた。
自分の虚勢を、見透かされたような気がした。
コーヒーカップをもう一度口に運ぶ。
少しぬるくなっていた。
「まだ、飲むか?」
「いえ、いいです」
「お前は何に対しても遠慮がちだな」
「そう思いますか」
僕はカップを置いて、言葉を続ける。
「オレはそうやって上手く立ち回りたいだけですよ。人の間をね」
「上手くいってないだろ」
「いきませんね」
「お前は傷つきたくないだけさ。痛みが怖いんだな。そして、度胸も無い」
平悟さんの言葉は淡々と、徐々に鋭さを増してゆく。
「それでいいんじゃないですか」
「どうかな。本当にそう思ってるかい」
「思ってないですね。・・・・・・もうやめましょう」
「逃げるなよ。それともそれでいいのか」
「構いません。痛みを知らない人間にはなりたくない」
言葉を選べなくなる。平悟さんは確実にそこに、入り込む。
「痛みを知ってる人間だって? 誰が」
「やめましょう。他の事を話しましょう」
「お前はいつもそうやってぬるま湯から出ない。だから、適当なものしか描けないんだ」
平悟さんがこの次の僕の言葉に、僕を賭けている事は知っている。
彼はいつもそうだった。
相手を言葉で刺して、追い込み、そして、それでもついて来る相手を求めていた。
しかし僕はこれ以上、傷つきたくなかった。
「・・・・・・・・・」
僕はなげやりに沈黙した。
タバコの細かい煙が上っていく。
僕はもう帰ろうかどうか迷った。
今出て行けば、余計にだるくなるのは分かっていた。
平悟さんは自分の描いた漫画に対する意見を、自分から誰かに聞くということはしない。
彼は漫画としての完成度よりも、自身を重視していた。
テクニックなど二の次に置いていて、それよりもっと深いものを探ろうとしていた。
それでも僕は何度か、彼の漫画を見る機会があった。
深刻で、ネガティブなものが多い。
平悟さんは、漫画だけでなく、安易に肯定してしまうという事を自制し、抑えていた。
何より僕と違い、自分に対してどこまでも厳しかった。
それが、彼にナイフのような輝きを与えていた。
CDが止まった。外に車の排気音が響く。
平悟さんは重い空気を振り払うようにして立ち上がると、CDを入れ替えた。
「苦痛か」
「え?」
「優しい兄を演じるのは」
再び曲が流れ始める。ソニー・ロリンズだった。
「お前が佐倉の養子になると決めた時、言っていたな。自分がいい兄になれるか、心配だと。
自分のような人間が、彼女達に応えてあげられるのか、不安で仕方がないと」
僕は再び沈黙した。
昔から僕は、人間関係に対し臆病だった。
自分から相手に近付くことはせず、向こうから歩み寄ってくれるのを待ち続け、それが叶えば安心し、
叶わなければ相手を貶めることで、優越感と共に別の安心を得ようとする。
そうやって、他人を信用できないまま生きてきた。
初めて妹達に会った時、僕は、温かさを感じた。
彼女達は皆、素直で、新鮮で、優しかった。
自分がどうしようもなく汚くて、卑怯な人間だと、はっきり感じさせられた。
白玉荘で暮らし始めてからも、どれだけいい顔をして妹達と接していても、心のどこかで
距離を置こうとしている。
彼女達すらも、信じきれない自分がいる。
僕は、そんな自分が大嫌いだ。
「・・・彼女達は真っ直ぐにオレを、求めてくれています。それだけで、幸せですよ」
「そうかい。だが求めてるのは、あの娘達だけか?」
平悟さんはいつの間にか、こっちを向いていた。
僕は自分の中で、質問の答を反芻する。
何度も、何度も。
やがて平悟さんが、ゆっくりと窓際へ歩み寄る。
「一雨来そうだな」
カーテンの隙間から空を覗いて、呟くように言った。
その時の僕には、バニラが何処へ向かっているのか分かったような気がしていた。
時計で時間を確認してから、おもむろに立ち上がる。
「降られる前に帰るか?」
「ええ、行く所もできたんで、そろそろ失礼します」
「そうか」
平悟さんはそう言って、仕事机に向かった。
僕はカップを片付けてから、玄関へと向かう。
「傘は適当に使うといい」
「どうも」
遠くからの声に返事をし、僕は脇にあった青色の傘を拝借する。
マンションを後にした僕は、その足で、心当たりの場所へと足を向けた。
灰色の空から絞り出された雨粒が、顔を打ち始めていた。
自然と足早になる。
白い息を吐きながら僕は、傘を広げた。
母が猫を拾ってきた日。
今でもはっきりと覚えている。
その日の夜は風が強くて、ひどく冷え込んでいた。
曇りガラスの窓が、ガタガタと音を立てていた。
毛布にくるまっても、震えが止まらなかった。
朝になって帰ってきた母が胸に抱えていたその子猫は、ひどく痩せ衰えていた。
茶色と黒の縞模様、生気の抜けた顔つき、くぼんだ目。
母はその猫に、『キリ』と名前を付けた。
喉が潰れていて、鳴き声が雷のようにゴロゴロとしか出ず、殆ど唸り声に近かった。
それが7歳の僕にはとても不気味で、僕はキリの面倒を看る事はおろか、寄り付く事すら出来ないでいた。
そんな僕を知ってか知らずか、母は、キリを甲斐甲斐しく世話し続けた。
それでもキリが日に日に弱っていくのは、子供の僕の目から見ても明らかだった。
猫に対する恐怖心と、母を奪われたような、妙な嫉妬だけが募っていった。
そんなある日、キリがいなくなった。
僕も母も町を探して回ったが、やがて見つけたのは、知らない家の前で冷たくなって転がっている
キリの姿だった。
後で分かったことだが、その家は、キリが長い時を過ごした場所だった。
キリが病気を患い、世話を仕切れなくなったから捨てた。そういう事だった。
次の日小学校から帰ってくると、暗い部屋で母が一人うずくまって泣いていた。
あまりに突然の事だったし、大した愛情も抱いていなかったから、僕には母が何故泣いているのか
理解できなかった。
それでもなんとなく、キリを失って少しの間、母の笑顔を見る度に悲しさだけは伝わってきた。
母が亡くなってから、僕は毎日のように母のことを考えた。
何故あの時、母は涙を流していたのか。
僕の姿を、キリに重ねていたからだろうか。
目的の家の前に辿り着いた。
バニラとミルクが、共に時間を過ごした家。
そこから少し離れたところで、僕は捜し物を見つけた。
その家がもう、自分が帰るべき場所ではない事に、まるで気付いているかのように。
バニラは道の隅で小さくなって、座り込んでいた。
バニラは、妹の姿を求めて僕たちの元から去ったのだろうか。
多分、そうだと思う。
僕には、バニラの気持ちは分かってやれないけれど。
確実に言える事は、バニラが、自分の中の愛を確かめられる存在は、ミルクだけだという事だ。
僕はバニラを、そっと抱き上げる。
記憶だけを頼りに街をさまよい歩いたのか、雨に濡れた体は、ボロボロにくたびれていた。
「お疲れさん。随分格好悪いな」
初めて妹達に会った時、僕は、温かさを感じた。
彼女達は皆、素直で、新鮮で、優しかった。
自分がどうしようもなく汚くて、卑怯な人間だと、はっきり感じさせられた。
けれど、傍に居たい、そう思った。
―――――そうかい。だが求めてるのは、あの娘達だけか?
「オレもお前と同じだよ」
遠くの空が、明るんでいる。
雨は一時的なものだ。じきに、止むのだろう。
(ひどいなァ・・・。こんなの・・・)
衛はいたたまれない気持ちの中、ただそれだけを思った。
もしかしたら、口に出ていたかもしれない。
夕日の差し込む放課後の教室が、鮮やかなオレンジに染まる。
水槽の中で、遺された命が静かに跳ねた。
教室に戻って来た衛の目に飛び込んできたのは、放り投げられたように床に転がる金魚たちだった。
飼育係である衛と桃子が世話してきた金魚たちは、今は殆どが水槽の中からその姿を消していた。
ぎゅう、と唇を噛みしめる。
自分がどこにいるのか分からないくらいに、悲しくて、悔しかった。
叩きつけられ、踏み潰された跡が、小さな心を容赦なく傷つけていく。
「キミたちは、何にも悪くないのにね・・・」
誰の姿も無い教室で、衛は黙々と亡骸を拾い集める。
気を抜くと、声を上げて泣いてしまいそうだった。
そうしないでいられたのは、苦しいのは自分だけでは無いことを今日、知ったからだ。
―――――これ、どうしても衛ちゃんに読んで欲しいの。
シールや色ペンで、可愛らしく飾られた日記帳。
親友との信頼の証を、衛は強く胸に抱いた。
日記に綴られた彼女の気持ちを、何度も何度も、反芻した。
僕が白玉荘に帰ってきた頃には、雨はすっかり上がっていた。
一刻も早く喜ばせてあげようと可憐を探したが、部活があって、まだ帰ってきていないらしかった。
肩透かしをくらった僕は、鞠絵にバニラを預けて、そのまま自分の机で読みかけの本を一気に最後まで
読み進めた。
内容はひどくつまらないものだった。
古本屋に払った100円で何が出来たかを考えて、そんな自分もひどくつまらない人間のように思えた。
もしかしたら自分がそんなんだから、この本もそう感じたんじゃなかろうか。
色々な可笑しさが込み上げてきた。
平悟さんとの会話が、頭にこびりついて離れない。
いつの間にか、道路を街路灯が照らしていた。
僕はふと、花穂からプレゼントされたマフラーに目を落とした。
白玉荘に帰ってきた時、花壇の傍で花穂は、マフラーを手にして僕を待っていた。
傍らに立つ鞠絵に促されて、ぎこちなく、僕の前までやって来て。
プレゼントを僕の首にそっと巻いて、花穂は、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
その時僕は改めて、花穂の心に刻まれた傷の深さを思い知らされた。
僕は花穂を、抱き寄せていた。
鞠絵は春風のような微笑みを浮かべ、ただそこに立ってくれていた。
まるでどこかで目にしたような、懐かしい風景。
僕はそれを胸の内で、感じていた。
しばらくして下に、妹達の声が集まってくる。
僕はこの時間帯が、一番好きだった。
皆が、帰るべき場所へ帰ってくる。そんなイメージがあるから。
時計を見ると、18時の少し前だった。
携帯電話が鳴る。
深く、乾いた夜が訪れる。
窓の向こうに友人の姿を認め、僕は湿った土の臭いの立ち込める庭先へと向かった。
日が落ちて、辺りはもうすっかり暗かった。
輝く砂粒を散らべた空に、月の光が美しく漂っていた。
「どうだった」
禄郎は自嘲的に笑いながら、言った。
意味は分かっていた。
「最悪だね。おかげで」
「そう怒るなよ。ほら、これ」
差し出された封筒を受け取ると、諭吉と稲造が一人ずつ入っていた。
「何? この金。くれるのかい?」
「何だ、忘れてたのか。ずっと前に借りた金だよ。利子つけて。忘れてたんなら踏み倒せばよかった」
そういえば、前に禄郎に一万円を貸した事があった。
利子なんていいよ、と断ろうと思ったがやめた。
金のことになると友達は安い。そんな歌があった。
それにしても、こいつはこれを返す為に、昨日今日バイトを入れたのだろうか。
「ま、そういう事ならありがたく頂こう」
「おう」
「せっかく来たんだ。飯でも食ってったらどうだい?」
「お言葉に甘えたいところだが・・・・・・今日はいい。妹さん達にも悪いだろ」
自分の知らない僕を知っているという事や、僕が禄郎との約束を優先させる時もある事から、
妹達が禄郎に嫉妬に似た感情を抱くことは、少なくない。
その最たる者が、咲耶だ。
故に、禄郎は咲耶を持て余していた。
「気にする事ねえと思うけどな・・・。まあ、お前がそう言うなら」
「お兄ちゃーん。お夕飯の用意が、できましたよー」
鈴のような声が、暗闇の中で鳴り響く。
可憐が僕達の所へ、駆け寄ってくる。
「あ、禄郎さん」
「や、久しぶり」
僕の隣りで、可憐は礼儀正しく頭を下げる。
「お久しぶりです。お元気そうで、何よりです」
「可憐ちゃんもね」
禄郎の嫌味の無い笑顔に、可憐がはにかんだ。
嫉妬を感じる事があっても、基本的に妹達は彼に好感を持っていた。
「お土産、ありがとうございました。とっても美味しかったです。・・・・・・あの、もしよければ
禄郎さんもご一緒に、お夕飯いかがですか?」
「ごめん、これからちょっと用があるんだ。また次の機会に。誘ってくれて嬉しいよ」
禄郎は胸のポケットからタバコを出そうとしたが、中がカラなのに気付いて握り潰す。
「では、またな」
僕と可憐に一瞥をくれて、彼は背を向けて歩き出した。
「じゃあな」
「お気をつけて」
禄郎が右手をあげて応じる。
一度もこちらを振り返ることの無い彼の姿は、やがて曲がり角の向こうへと消えていった。
「あの、お兄ちゃん・・・・・・」
「ん?」
可憐がかしこまった顔で言葉を続ける。
「バニラを見つけてきてくれて、本当に・・・ありがとう。可憐、これからはちゃんと気をつけます」
「いや、いいんだよ。・・・それより、ミルクの引き取り先は、もう見つかった?」
可憐は黙って、顔を横に振った。
「・・・もし、可憐が良かったらだけど・・・・・・、明日、ミルクを引き取りに行こう」
可憐の瞳がみるみる大きくなる。
口元に手を当てて、息が止まったようにして僕を見つめる。
「思ったんだ。やっぱり2匹一緒にいた方が、幸せじゃないかって」
「本当に・・・いいの? お兄ちゃん・・・」
心に膨れ上がる喜びが、可憐の喉を震わせる。
僕は視線を、アパートの方へと向けた。
食事部屋の明かりが僕に、温もりを思い出させてくれる。
皆がそこに居てくれるから。
僕は可憐の笑顔を誘うために、大きく顔を綻ばせた。
「僕もお世話を手伝うよ、可憐」
そう言って、可憐と目を合わせた瞬間だった。
「ありがとう! お兄ちゃん!」
可憐が感情を爆発させる。
両腕を広げて、僕の胸へと顔をうずめる。
背中で力強く結ばれた両手が、嬉しいけど少し痛かった。
「あ・・・・・・、ご、ごめんなさい、お兄ちゃん」
少しして可憐が、思い出したようにパッと体を離す。
耳まで真っ赤になっていた。
僕の心が、急速に晴れていくのを感じた。
「さ、戻ろうか」
恥ずかしそうに俯いている可憐に寄り添い、肩に手を回す。
可憐がびっくりして僕を見たけれど、気にならなかった。
行く先にある部屋で、これから妹達と共に、楽しい時を刻む。
そんな自分の姿を、思い描いた。
(うん、すごく・・・・・・・・・幸せだ・・・)
格好悪くても、卑怯でもいいから。
僕は皆に、傍にいて欲しい。
第11話に続く
あとがき
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
この『金魚鉢』は、12人の妹達と兄の物語ではなく、12人の妹を持つ兄の物語になっています。
良い悪いは別として、批難を受けても仕方のないところです。確信犯です。
同時に僕は荘太を、話の中での完璧な存在にはしたくありませんでした。
妹達と共に、荘太が成長していく姿を描けたらいい。
そう思いながら、この話を書いています。
少し優等生じみた後書きになってしまいましたが、ご意見・ご感想等はどうか気楽に送ってくださいね。
やっぱり物凄く力になるので。
それではまた次回、お会いしましょう。
そういえば前回、2月11日の話だったにも関わらず、白雪の誕生日の話がすっぽり
抜け落ちていました。というより気付くの遅すぎ(苦笑)
この場を借りて、白雪ごめんなさい。
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