∞螺旋[ムゲンラセン]
白キ天使ノ紅キ殺人
[月光]
――細い三日月の夜。
空にはその光を遮るものはなく、木々の隙間からかすかな光がこぼれている。
夜闇に包まれて冷やされたその木樹の下は、きん、と澄んだ空気に包まれていて、まるで動きはなく時が止まったかのように思わせる。
その中で、『彼女』はそれを取り出す。それ――ナイフが月光を反射して、キラリ、と煌く。静かな動きだ。
『彼』はその光を見て、僅かに怪訝な顔をした。
その『瞬間』が、命取りになった。
『彼』が身構えるような時間を与えず、『彼女』が素早く、それでいて正確無比に繰り出されたナイフの切っ先が、吸い込まれるように、相手の――『彼』の胸部に深々と突き刺さる。
『彼女』のその一撃を受けて、一度だけ『彼』は、びくんっ、と体を震わせ――そのきらめきが抜かれると、力なく、冷たい大地に倒れた。
傷口からもれる赤の血は、闇と混ざって、大地に黒の水溜りをつくりはじめる。
『彼女』の瞳は、猫のごとく、炯々と輝いて、しかし『彼女』は、何か葛藤に苦しむように、顔をゆがませた。
破壊の衝動。
それは『彼』の命を破壊したことによって、沈静化しはじめてはいる。
『彼女』はそのことを考えないようにして、月の眺めれる位置まで歩いた。
白い息が宙にあらわれては消えてゆく。
三日月の儚さ。
明日は新月。
この寒さは雪を降らすだろう。
儚き、救われぬ子供たちは、その雪の中で死ぬことになるか。
『彼女』は決意した。いや、していた。
――誰にも、邪魔はさせない。
『彼女』は呟いた、血に濡れたその手を、いや、生まれたときから闇に染まっていたその手を、月に翳して。
――闇が私を衝く。
血が、月光を受けて煌く。
――『私』は、自分で自分の罪が止められない。
月の光は矢のように『彼女』を射抜く。
もしくは槍のように。
――私』に……呪われた『私たち』に神の祝福はない。
欠けている肋骨が疼いて、『彼女』はそこを掴む。
白い息とともにもれる、苦痛のうめき。
――残された時間はもうない……だから『私たち』、呪われた子供達は――
『彼女』は深々と息を吸い込む。欠けた肋骨は痛みを訴え続けている。
――抹殺されなければならない。
『私』は、ハンターになる。そして、すべてを終えた後に―――
――自らの手で、闇へ帰ることになるだろう……