∞螺旋に続いて"またかよ"な、注意書き。
千影嬢のBDSSですが、千影嬢のSSとは言えないかもしれません。
ヘルの独自のファンタジー観に基づいているので、あんまり深いところ、たとえば『ゾロアスター』って神の名前じゃなくて教の名前じゃねぇか、とかに突っ込みを入れないでくれると嬉しいです。
名(迷?) 探偵 四葉 AS3
生まれ変わって――≪前≫
『何度も生まれ変わって、何度もめぐり合うと約束して』――少女は、そう、呟いた――
大陸中南東部に位置するサラーダルク地方。
大陸有数の霊峰たるウルグンヌ山とそこから流れるノーゼル川によって生み出された盆地帯の総称で、古い時代から交通の要所として発展してきた土地だ。
どうして交通の要所になるのかといえば、そこより北は遥か遠くまでウルグンヌを端とするウルグンヌ山脈(ウルグンヌが最高峰)が広がっているし、サラーダルク地方とノーゼル川を対して向かい合った南側の土地はこの大陸最大とされるアトルー砂漠が広がっているのである。
しかも、アトルー砂漠の地下は岩塩でオアシスすら塩っぽい。
アトルー砂漠の砂も然り。
ノーゼル川の南側半分はしょっぱくてそれを伝ってですらこの砂漠を越えるのは不可能なのである。
しかし、サラーダルク地方はノーゼル川に西と南を囲まれており、外敵は進入しにくく、加えて水資源が豊富な土地なのである。
発展するな、というほうが間違っている好条件の土地、それがサラーダルクである。
そして、現在そのサラーダルク地方を抑えて、栄を誇っているのがミガルシャット王国である。
主に中継貿易で発展している王国で、中央の大帝国アードリアの侵入を防ぐ役割を果たし、そしてまた、東の大国ゲルベルクとアードリアが衝突するのを緩衝する役目をになっている。
また、アトルー砂漠での塩の精製も、この国の重要な産業の一つである。
東と西の小国家群を統一し、大陸中南東部の大国になるといわれる国、それがこのミガルシャット王国で――
――セントシャットは、そんな国の王女であり、グランセクトはその兄であった。
「――兄君!」
私は夢中で私の兄を呼びました。
私の兄で……そして私の唯一愛する人。
「……セントシャット。どうかしたのかい?」
兄君はにっこり笑いながら、私を振り向きました。
「はい、……その……あの、」
「キレイな洋服だね、セン。とても似合っている」
「あ、ありがとうございますっ!」
兄君は私の頭に手を置いて、髪をなでながらおっしゃってくださいました。
私はこぼれ出る笑みと、兄君に触られているということで顔が紅くなっていくことを止められません…◇
私、セントシャット、と申します。
周りの方々からは、セン、と呼ばれています。
兄君も私も、赤みのかかった紫の髪をしています。お揃いなの、キャッ◇
瞳も同じ色、……でも、身長は兄君のほうが15センチくらい上です。
兄君は将来、この国の政治をになう、とってもかっこいい兄君です◇
そんな兄君が……私は、とても、大好きなのです……ひとりの男性として、私を伴侶に選んでいただきたい、……と思っています、きゃぁぁ◇
……でも…コレってやっぱり……まずいことなのかな…?
「――というわけで……どう思う、クローバー?」
「むむむ……とっても難しい問題デス……」
私はこの気持ちを抑えることができなくて、ついつい、私の親友であるクローバーに相談しました。
あ、クローバーというのは私の前の少女のことで……フフっ、まん丸のお目目や八重歯がとっても可愛い…でしょう?
彼女はあの『赤の騎士』の子供です。
えっと『赤の騎士』って言うのは……本来ならばこの国の英雄たる人物です。
詳しい話は知らないのですが、謀殺されてしまったようなのです……そのとき流された噂のせいで、あまりよく言う人はいません。
でも、クローバーはこんなにも可愛いし、クローバーのお兄さんは私の兄君の次くらいにステキです。
だから、『赤の騎士』も、すばらしい人だったに違いありません。
ちなみに、クローバーはいつも紅い服を着ているんだけど……曰く『父が紅い服を着ていたらしい』。
だから、あんまり服の趣味は……良くなかったのかもしれません。
本人がいいと言うならいいのですが……。
「……むゥゥ、このクローバーに解けない謎は……」
クローバーはさっきからなにやらぶつぶつ呟いています。
見た目は若干……怖い気がしないでもありません…。
「あ、あのね、クローバー。そんなに難しく考えないで。…その、もし貴女が、ゼファを好きになったら…どうする?」
「………? 変なことを言うデスね。クローバーは兄チャマのこと、大好きですっ! きゃっ」
「へっ? え、いやそーいうことじゃなくて……その、愛するってことで……」
「……?? ますます変デス。クローバーは兄チャマのこと、アイしてるデスよ」
「あーもうっ、そういうことじゃなくって!」
思わず頭を抱えてしまいます。
あぁ、どうやって説明したらよいのでしょうか?
「一体クローバーにどうしてほしいの!?」……うー、それはさっきから言っているのですよ!
「ともかくっ! アイする男性には実力行使のほかありまセン! 突撃っ! 玉砕っ!」
えっ――玉砕しちゃうのはイヤなんだけど……。
「クローバーは、いつも突撃してるの?」
「アイ、マム! ……でも、どーしてか、クローバーのことをチェキしてくれないの……」
――突撃してるんだ。
自分よりいっちゃってる人がいて、私はすこし安心いたしました。
――そうですね、こんなところでうじうじ言っていても始まりません! ……でも、チェキってなんでしょうか?
「分かりました、クローバー! このセントシャット、兄君にこの思いを打ち明けます!」
「えっ! センちゃんの兄チャマの話してたのっ?!」
……今気付いたの? というか、今まで何の話してたつもりだったのっ!?
――同じ頃。
「……困った、…困った、…」
「……わかった、分かったから止まってくれ、グランセクト」
机の前に座り何やらを静かに書いていたゼファールは、先ほどから自分の頭の後ろで行ったり来たりを繰り返している人物――すなわち時期国王であり、小さい頃からの友であるグランセクトのほうを振り向いて、ついに声をかけた。
――グランセクトがゼファールの前で行ったり来たりして、15分後のことである。ゼファールはついに我慢できなくなった。
ゼファールはあの『赤の騎士』の息子だ。
強くならねばならぬ理由がいくつもあった彼は――ひとつは、『赤の騎士』を悪く言うものをなくすため、――ひとつは、今真正面にいるグランセクトの役に立つため、――ひとつは、自分の妹たるクローバーを守るため、――見事に強くなった。
剣術と魔術を独学で猛勉強し、どちらもいまでは王国一の使い手である。
身長は175cm弱。
容姿もすぐれ、王子グランセクト第一の側近にして親友であり護衛、その人こそ彼――ゼファールだ。
対する王子グランセクトは、小さい頃から神童と呼ばれた少年だ。
まさに天才と呼ぶに相応しい頭脳で、容姿もゼファールに負けていない。
身長はゼファールより10cmほど下ではあるが……
少々優柔不断だが、それは彼の優しさが為すこと、欠点というよりむしろ長所だ。
ただ、ゼファールの前では突拍子もないことをいうことも少々――
「おぉ、さすがは我が友ゼファール! 私が困っていたことをもう分かったのだなっ! よし、解決策をぜひ伝授してくれ!」
――いや、結構ある。
こんな言動に対して、ゼファールは、
「知るかボケェ!!」
「グふッ!」
の言葉と理想どおりの軌道を描く強烈なパンチをお見舞いする。
……また、やってしまった。
幼馴染とはいうものの、仮にも相手は時期国王なのである。パンチをかましてもいいような相手ではない。
そんな風に悶々とするゼファールの横に、いつのまにかグランセクトは立っていて彼の肩に手をおく。
「……いつもながらいいパンチだ、ゼファール。だが……」
「……だが?」
「だが、いつまでもやられてばかりの俺だと……ぐはっ!」
「どーでもいいからはやく話さんかっ!」
ゼファールのアッパーが決まり床に倒れ臥すグランゼクト。
ちなみに今日4度目である、――好きなのか?
グランセクトは顎を擦りつつ起き上がる。
「――で、なんなんだ、結局」
「ンむ、セントシャットに恋してしまったらしい」
「誰が」
「決まっている、私が、だ」
「へー……」
空気が、止まった。
「…な、なんだとッ!? ば、馬鹿か! 正気かッ?!」
「ンむ、ひどい言われようだが…正気のようだ。だから困っている」
「何でお前そんなに平然としているんだ!?」
「いや、困っている……ように見えないか?」
「見えん」
「即答か。さもありなん」
「って自覚してるのじゃないか!」
(って、ギャグかましている場合じゃない)
ゼファールは考える。
(恋するのはいい、いいが。よりによって実の妹にするとは……教会が黙っているまい)
この世界に君臨する宗教は大きく分けて三つある。
1人の主神の下に6人の神が座る神王教派。主に大陸の北部・西部を中心に発展し、最も信者の数は多い。
4人の大神が世界を四分割で治めているとする世界神教派。南西部で主に発展している。
ただ1人の神のみを唯一とし、その下に天使と呼ばれる7の使徒がいるとする是神教派。南東部が主な発展の地域だ。
ここサラーダルク地方は是神教の土地だ。
東部の大国グリフェリスの首都クリジークに大神殿があり、その是神教の本部から『破門』されることは、是神教の国家にとって致命的なことである。
神王教は親族等の結婚などに甘いが、是神教は非常に厳しい。
親族の結婚等を許容すれば、待っているのは当然国王の『破門』。
『破門』は国民の信頼を失うこととなり、国はあっさりと滅ぶことになるだろう。
国家に致命的なこの要素を、どこの王が許容できるだろうか?
(――国から逃げる覚悟がなければ、ダメか)
「で、ゼファール、私はどうするべきかな?」
「……。あきらめろ」
「ンむ……やはりそうか……」
グランセクトは案外に落ち着いて、この衝撃を受け止めたようだった。
王として、人の上に立つ者として、必要な判断だ。
(やはり、賢君と呼ぶに相応しいか)
「また何かあったら呼んでくれ、力になる」
「ありがとう、ゼファール」
――グランセクトは宙に浮いていた。
そして自分の下には、普段は下ろしている髪をシニヨンにまとめた『セントシャット』がいる。
(……はて、センの部屋は、こんな部屋だったっけ?)
全体が黒というか深い色でまとめられた空間で、そのせいかどれほどの広さがあるのか把握できない。
本棚には用途不明の魔術書が収められており、棚の上や横にはイモリの黒焼きや蛇のホルマリン漬けなどが陳列してある。
少女の部屋としては、不気味なことこの上ない。
と、そのとき、部屋の戸が開き、外から入ってくる人物を見て、グランセクトは愕然とした。
『自分』だ。
服装はまるきり違っているが、まごうことなき己の顔である。
慌てて自分の姿を見て――はじめて気付いた、自分が透きとおっていることに。
(な、な……これは……っ?!)
『やぁ、兄くん……。……何か、用が……あったかな?』
『いや……気がついたら、千影の家にいたんだけど』
千影。
あの『自分』は、『セントシャット』のことを"ちかげ"と呼んだ。
(センじゃないのか?)
なるほど、確かに喋り方がすこし違う。
ではいったい、ここはどこだ? 彼は誰で、彼女は誰で――私は誰だ?
グランセクトに気付かぬまま、二人は楽しそうに――実際は、千影の言葉に彼は引きつったように笑っただけだったのだが――談笑している。
千影がふと哀しげな笑みを浮かべる。
――そこで、目が醒めた。
(今のは、いったい……)
ともあれ、センと一緒にいると、冷静な自分を失うだろう。
できるだけ、避けなくてはいけない……。
グランはそう決めた。そうする他、ない。
ふと窓の外に目をやると、天高く悠然と浮かぶ満月が、彼に微笑みかけた気がした。
ただし、それは哀しそうな笑みであったが。
「兄君っ!」
「うぉっ、セン」
兄君は驚いたように振り返ろうとしました。
私はその兄君に、ばっ、と飛びついてしまいました◆
すこし離れて、兄君の手を取りました。
あ…兄君の手、とってもあったかい…◆
…はっ! い、今はそんな小さなシアワセを感じている場合ではありませんでした!
……ちょっと惜しい気もするけど……。
「あ、あのね、兄君……今日は兄君に、とっても大事な話があるのです!」
「とっても大事な話っ!?」
「はい◆ 兄君は今、お暇ですか?」
「ンむ…暇……かもねぇ」
私はつないで手に向けていた視線を上げて、兄君の顔を見つめました。
兄君は急にそわそわしだして……いったい、どうしてしまわれたのでしょうか?
「ちょ、ちょっと待ってくれ、セン……そ、そうだ、急用を思い出した、……またにしてくれるかな?」
「えっ……」
兄君は急にそう言いだしました。
急用って…思い出すものかしら? ……でも、ここで私が意地を張って、兄君の邪魔をするわけにはまいりません。
仕方ありません…一度で直したほうがいいようです…。
「わかりました。センはまた今度にいたします」
「ありがとう、セントシャット!」
「あっ……」
言うなり兄君は走っていってしまわれました…。
…もうっ、いつだったらよろしかったのか、聞こうとしたのに……
それにしても…私の名をフルネームで呼ぶなんて…いったい、どうかしたのでしょうか?
ともかくそのときは、次の機会を待てばいい、そう思っていました。
しかし――
「兄君、お話を……」
「すまん、セン。今取り込んでいるから、また今度にして」
「あっ……」
「あの、兄君……」
「ごめん、セン、どうにも今、忙しい。また今度にしてくれ」
「…ハイ」
――どうも避けられているような気がします…。
そこで私は、再びこのことをクローバーに相談してみました。
「むゥ、……なるほどチェキほど、それはどうやら、グランサマに避けられていると断定して間違いないデスね」
「す、ストレートに言います…ね」
「あのお人好しのグランサマがそんなひどいことを自分で考えて実行するとは思ないデス、優柔不断なところあるし。とすると、きっとグランサマの後ろで、誰かがグランサマに何らかの情報をあたえているデスね。違いないわっ!」
……あの、クローバー? 何気に兄君に対してひどいこと言っていませんか?
「きのせいデス、センちゃん。……ともかく、こうなったら最終作戦"ケルベロスのシッポはヘビ"作戦を投入するしかないようねっ!」
……はい?
――その夜。
「ふぅ……今日も終わった…」
――どうやら、兄君が帰っていらしたようです。時刻は既に、ゲールの刻≪=夜十時半≫を回っています。
私は、そっと隙間から兄君の動きを見つつ、機会を窺います。
兄君は上着を脱ぐと、それを適当に放って、ベッドの上に腰掛けました。
――いつもと違ってリラックスしている兄君……なんだか、とても新鮮で、新たな兄君を発見した…そんな気分です…。
…あぅ…また、違うことを……考えてしまいました……。
兄君はいまだベッドの上でおくつろぎになっています。
ならば――タイミングは…今しかありませんっ!
私は意を決すると――
――クローゼットの中から飛び出ました!
「きゃぁ!」
「………ぃぇっ?!?!」
私、バランスを崩して倒れこんでしまいました。
……あぅ、私…意外とドジなんですね…。
私がふと見上げると、兄君は思わず立ち上がって、とても驚いた表情で、まるで空気を求めて水面に口を出す魚のごとく、口をパクパクと開閉させています。
「な、な、何でセンがこんなところにっ!?」
「はい…以前より兄君にお話したいことがあったので…すこし兄君の部屋で待たせていただきました!」
「な、な、な……」
「兄君に、とってもお話したいことがあるのです!」
どきどきどき。
鼓動の昂ぶりが、兄君に聞こえてないかしら?
私ははやる鼓動を抑えつつ、立ち上がり、一歩前に踏み出しました。
兄君が一歩下がりました。
もう一歩私は足を前に踏み出します。
…兄君は後ろに下がろうとしました、…ですが、兄君はベッドから大して進んでいなかったので、足がベッドにあたって、そのままベッドの上に座り込んでしまいました。
「あ、ンむ、そう言えば急用が!」
「さきほど『ふぅ……今日も終わった……』、とおっしゃったではないですか!」
「ンぐ……言ったかも」
「今日という今日こそは……聞いてくださいっ!」
「な、な、なにをっ?」
「兄君っ!」
私は兄君に飛びつきました。
兄君は思わず私を避けようとして、――でも後ろに下がれないので、そのままベッドに寝転ぶこととなりました。
はからずして……私が兄君を押し倒す…という格好になってしまいました。
どきどきどき。
鼓動の音しか、私の耳には届いていません。
そのくせ、…世界はとっても静かなように…感じるのです。
その私の耳に、慌てる兄君の声が届きます。
「セセセセセントシャットっ!!?」
「好きです、…兄君、大好きです」
私は邪魔な自分の髪の毛を手で払って――
――兄君の唇に、私の唇を重ねました――。