作者:Prof.ヘルさん
T
お兄様、私が嫌い? とその少女は言った。
U
それはまぁ、確かに分からないでもないわ、と私はベッドに身を投げ出して、心の中で呟いた。
時期が時期だし、お兄様だってモチロン忙しい……そんなことは分かるけど……。
いつも気持ちよく、お兄様のことを考えて眠れるようにしてあるベッド……でも、今の私の心を静めるほどの力は備えてなかった。
近頃……と言っても二日前ぐらいからだけど、妙にめぐり合わせが悪く感じます。
期末試験も終わったから、お兄様ももう用事は無いはず……そう考えて一緒に帰ろうと思ってお兄様の教室に行っても、既にお兄様は影もかたちも消え失せていて……。
……ときどき、ばったり出くわすことがあっても、お兄様はいつも急いでいるみたいで……『ごめん、咲耶。今、忙しいんだ』なんて言って、どこへとともなく消えてしまうの。
お兄様は何をそんなに急いでいるんだろう、と思えるほど早く走っている。お兄様が先生、というわけではないけれど……あ、でも、お兄様に勉強を教えてもらったことがあるからやっぱり先生かしら……?
ともかく、お兄様は先生のように走っているようなの。
もう年の瀬だし……。だからなのかなぁ?
さらに近頃……やっぱりこれも二日前ぐらいからなんだけど、何か視線を感じます。
そのせいか、首が疲れているような。
不思議なことに、害意は全く感じないけれど……。
時々辺りを見回しても、それらしき人物は見当たらないし。
偶然会った四葉ちゃんに相談したら、『あ、あはははは、それは……ちぇ、チェキしなくちゃダメです……』っていわれちゃった。
『四葉の推理によると、きっとその人は咲耶ちゃんに害を為すつもりはないのデス』っていったから、どうして分かるの? って聞いたら、『め、名探偵は何でもお見通しなの、あは、あはははは......』
まぁ信憑性はないんだけれど……とりあえず、怪しげな人を見かけてないからいいんだけど……
はぁ、今日もお兄様にあえなかったし……
明日もあえないかも……だ、だめよっ咲耶、そんな弱気になってちゃ!
信じる力は運命を超えるはず……お兄様と私は、きっと赤い糸で結ばれてるはずなんだから、それを信じないといけないわっ!
ねぇ、お兄様? いつになったら私に気付いてくれるの?
四葉は今、咲耶ちゃんをチェキしています!
これには、ふかーいふかーい理由があって……なんと、兄チャマからじきじきに依頼されたのデス!
きゃっほー! やっぱり兄チャマも、四葉の事がわかってるのねっ!? クフフフ、さすがは兄チャマ! ああーん、四葉ってばきっと、とーってもハッピーなのデス!
……コホン。兄チャマは四葉に『咲耶に張り付いて、咲耶の行く方向を教えてくれ』と依頼したのデス。
もちろん迷探偵……間違えたデス、名探偵である四葉にとって、そんなチェキは造作もないことだった……んだケド……
昨日、咲耶ちゃんに問われたときは・・四葉、ほーんとにサプライズだったの!
もちろん、ポーカーフェイスでかわしたんだケド……
咲耶ちゃんの少し悲しそうなお顔を見て……四葉も少し悲しくなっちゃった……。
だって、四葉も兄チャマにあえなかったら……悲しいんだもん......。
でもでも、兄チャマには何か考えがあるみたいなの。四葉には分かったのデス!
だって、四葉のときも兄チャマは考えていてくれたし……
だって、四葉は兄チャマの妹だから、兄チャマのことは何でも知ってるし……
だって、四葉は名探偵なんだもんっ、チェキチェキ!
V
結局会えずに三日がすぎてしまったわ……。
あーもう、どうしてかしら!? まるで私の行く方向を知っているかのように、お兄様の姿がないわ。
……実はお兄様はエスパーだったのかしら……? いや、そんなことはどうでもいいんだケド。
とにかく、今、私はお兄様の家の前に来ています。
こうなったら最後の手段なんだから! ということで、直接お兄様に会いに来たの。
お兄様は寝ぼすけさんだから………きっとまだ家の中にいるはず。
そう思って、私はお兄様の家の二回の部屋……お兄様の寝室を見つめた。
「今日も、いないなんてこと……ないよね?」
もし今日もいなかったら……まるで神様が私たちの中を引き裂いているんじゃないか、って疑ってしまうぐらい……。
神様、どうかお兄様がいますように……!
そんなとき……
「◎◆▼☆×!」
と、私の見つめている先……お兄様の部屋から奇声が響いたの。
間違いない……お兄様の声っ!
「お兄様、大丈夫っ?!」
私はそう言って、お兄様の家に駆け込んでいた……。
彼は状況が理解できなかった。
何で自分の隣で四葉が寝ているんだろうか? しかも下着で。
昨日の記憶を引き出してみても……んーだめだ、寝る前の記憶が曖昧だ。
「何かやってしまったか!?」
いやいや、だとすれば覚えがないのはもったいな……いやいやいや、なんて不謹慎なことをっ!!
何とか記憶を手繰り寄せようとする……。
「そーいえば、四葉から謎のメールが届いたんだっけ……」
……そう、思い出した。四葉から謎のメールが来てたから、『これ何?』と送り返したのだ。
そうしたら、夜遅くにたたき起こされて、どうやってこの家に入ったのか眼前に四葉がいて……メールの意味を教えてもらって、あまりに暗かったから、泊めてあげることにしたんだ。
(……そういえば、どうやって入ったんだろう? 聞かなかったけど……)
まぁそれはともかくとして、彼は四葉と一緒に寝てる理由は分かった。四葉がどーしても一緒に寝たいって言っていたのを憶えていた。だから、一緒に寝たのだけれど。
で、どうして四葉は下着なんだろう? ……いかん、本当に思い出せない。
とりあえず、四葉を起こすことにした。
「よつ……」
「……お兄様、……?」
少年は突如として現れた咲耶に愕然とした。
なんてタイミングが悪い! 少年は心の中で思わず天を仰いだ。
咲耶は己の目を疑った。
……だめだ、何度目をこすっても、瞬きを繰り返しても、片目で見ても、どこからどんな風にみても、自分の兄と下着姿の四葉が、『一緒』に眠っているようにしか見えない。
いったい、お兄様は、下着姿の四葉と何をしていたのか。
考えるまでもなく明白……少なくとも咲耶にはそう思われた。
カーッと頭に血が上って、なにも考えれなくなると同時に、咲耶の口が勝手に言葉を紡ぐ。
「お兄様の馬鹿っ!」
考えるより先に言葉が出てしまう……沸騰した頭の中に妙に冷静な自分がいて、その言葉を投げつけたことを悔やんだ。しかし、時間は決して遡ることはない(そのかわり、決して早まることもない)。
その冷静な部分はどこか自分とはなれているような気がした。体を動かしている自分は兄にそう投げつけると、今開けたばかりの扉を壊さんばかりに叩きつけて、咲耶は無我夢中で階段を駆け下り、玄関から飛び出した。
どれだけ走っただろう。
(お兄様の家から……とっても遠くなっちゃったな……)
兄が自分を引きとめたような気もする。でも、もうどうでもいい。
そのときになって、咲耶は自分の頬が、とめどなく溢れる涙でぬれていることに気がついた。
なんで? どうして? そんな言葉がいくつも脳裏を駆け巡ったけど……しっかりした答えが得られるはずもなく、あらわれては消え、あらわれては消えていった。
「馬鹿みたい……」
彼女の気持ちを代弁するがごとく、空からは白いものが降りつつある。
「……あれ? 兄チャマがどうして四葉の部屋にいるデスか?」
四葉は眼がさめてビックリしました! だって、まさか朝起きてすぐに兄チャマをチェキしちゃうなんて思わなかったんだもんっ! クフフフフ、今日はラッキーな日です!
でも、朝起きたばかりだというのに、兄チャマは、なぜか憔悴したお顔をしていました。なんでかな?
兄チャマ、どうしたデスか? って四葉が尋ねる前に、兄チャマは四葉に力なく微笑みかけたの。
「どうして四葉は、そんな格好で隣で寝てたのかな?」
はっと見下ろすと、四葉は下着姿でした。……えへへ、またやっちゃったみたい……。
「簡単な事デスっ!」
そう言って、四葉はかいつまんで事情を説明しマス。
『眠っている途中で、暑かったから脱いじゃった』に違いありません!
暑いと布団を跳ねる癖も持つ人のように、四葉は暑いと無意識のうちに服を脱いじゃうみたいなの。四葉は寝ているから憶えてないんだけど……。特異な癖……かな?
「そうだったのか……」と、兄チャマはなぜか安堵した顔で、
「とりあえず四葉、服は着なさい」
「兄チャマのえっち!」
服を着替え終わると、兄チャマは四葉にいいました。
「……というわけだから、四葉も咲耶を探してくれないかな?」
「なるほど、チェキほど……。分かったデス、今日は四葉も咲耶ちゃんに砂糖を送るデス!」
兄チャマは『砂糖?』と怪訝な表情をしました。……間違ってたのかな?
とにかく兄チャマ、四葉に任せればどんなことでも『ちょちょいのちょい』よっ!
ところで兄チャマ、『ちょちょいのちょい』ってなに?
W
気がついたら、私は『Betty’s』の広場の前にいた。
どこをどう歩いたか、全く記憶にない。……ふぅ、どうしよっかな……。
眼前の広場の中央に、クリスマスイルミネーションを着飾ったクリスマスツリーが立っていた。少し積もった雪にそれが反射して、ベツレヘムの星の光は降りゆく雪に反射して、きらきらと輝いている。
私の瞳は、たぶん、空虚な光で溢れているだろう、と思う。
涙が枯れるぐらい泣いた気がする。
この空虚さは、いったい何なんだろう?
「……ふぅ」
「…やっと見つけたよ、咲耶」
お兄様、だった。空虚さでいっぱいだった私の胸に、何かが満ちていく。
お兄様は、いつのまにか私の上に積もった雪を振り払いながら、
「こんなところで立っていたら、風邪ひくよ?」
「お兄様、どうして?」
「そりゃあ、誤解を解いておきたかったし……咲耶が心配だったから」
その言葉を聞いた途端、とうに枯れたと思ってた熱いものがこみ上げてきて頬を濡らし始めた。……それが見られるのが恥ずかしくって、思わず私は、お兄様の胸に飛び込んだの。
お兄様は少し狼狽したようだったけど……すぐに気を取り直したみたい。
「朝の件だけどさ……」
そういって、お兄様は事情を話し始めた。
昨日、四葉が夜遅くに訪れたから泊めてあげたこと、どうしてもというから一緒に寝たこと、天地神明に誓ってなにもしていないこと……。
そして、今日のために四葉に咲耶を『チェキ』させて、逐一四葉と連絡をとって咲耶の行く場所を読んで、極力咲耶と会わないように努力して歩いていたこと……。
「今日は、咲耶の誕生日だから、驚かそうと思って……やりすぎちゃったかな?」
「……うん」
私は素直に言う。
「でも、今度だけは許してあげる。」
お兄様が私を心配してくれていたから。
助かるよ、とお兄様は言って、お兄様はポケットから取り出した、小さな箱を。
それをお兄様は、私に手渡した。
「あけていい?」
「もちろん、お姫様」
お兄様は少しふざけて、微笑んだ。……そんな様子を見てると、いつのまにか、さっきまで沈みきっていた気持ちは、もうどこかに消えてしまっていた。さすが、私のお兄様……。
私は、どきどきしながら、箱を開いた。
箱の中には、きれいな、とってもきれいなイルカのペアのアクセサリーが入っていた。……もう、お兄様ったら……ここまでされて、どうして怒ってられるのよ……、と、私は微笑んで、お兄様からもらった片方のイルカのアクセサリーを差し出した。
「じゃあ、お兄様。こっちを持っていて。ずっと、ずーっと、持っていて」
「え? でも……」
「いいの、お兄様が一つは持っていて」
お兄様の言葉を遮って、私は言った。
だって、このペアになったイルカを二人で持っていれば……二人はずっとつながっていると思えるから。
“……誰かが見たなら……恋人同士に、きっと見えるね、たぶん、友達じゃなくて……”
歌がどこからともなく聞こえる。……恋人同士に……見える…かな。
「お兄様……」
私はお兄様の瞳をじっと見つめて……目を閉じた。いくら鈍感なお兄様でも……これだけすればわかるはず……。
すこし、お兄様が逡巡する気配がして……ぷっつりとそれが途絶えた。
どうしたのかと思って目を開いてみると……
「兄チャマ――!!」
……なるほど……。もう、さすがは名探偵ってところかしら?
お兄様は少しほっとした表情で、私を見ていたので……なんだか悔しかったから、
「お兄様」
「なん……」
お兄様の唇に、精一杯背伸びして、唇でスッと触れた。
「さ、咲耶っ?!」
「お兄様、ラブよっ」
ぜったい、ぜったーいに……
アナタの愛を、勝ち取って……みせます◇
あとがき:そのぎりぎりまで書かない姿勢をどうにかしなさいと、天から掲示が。
どうも、Prof.ヘルです。
ゼル伝が、面白いです。買ってから、かなりはまっています。
あの絵を敬遠した人が多いようですが、買って損しないと思います。
なにより、難易度が絶妙すぎです。
それに、全体的に明るい色でフィールドが構成されているので、かなりいいです。
お金とGCが有りましたら、年越しのお供にどうぞ。
もうひとつは、今日発売のシレン外伝(Win版)です。
言い続けてますが、シレン大ファンなので。これもやりこむつもりです。ぜひ、シレンファンはメールください。
なんというか、咲耶嬢への誕生日プレゼントをあげるとしたら、シレン外伝になるという……≪笑い
とある方に言われたのですが、ワタシのBDSSシリーズは四葉が絡んでいる事が良いような悪いような、らしいです。
というわけで≪?≫、そういう感想を是非ください。お願いします。
最後に。
マルチ・エンディング・ストーリーをSSで構成する計画を立てております。
それに関して、作家様を募集中なのです。
興味のある方は、シスパラ様の合作板、もしくはワタシのHPのMES板をご覧になるか、ワタクシにメールいただきたいです。というか、参加してください≪願
この辺にて。次は、花穂嬢のBDSSでしょうか。
ぜひ、感想ください。その際は、誰の兄かを書いておいてください。年賀状を送らせていただきますゆえに≪間に合うといいなぁ……
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profhell@infoseek.jp
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