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――昔、あるところに、エイというお姫様がおりました。
大変美しかったため、近隣の王や諸侯たちは、こぞって彼女を求めました。
これは、そのお姫様にまつわる哀しいお話です.........


名(迷?)探偵四葉

AS10 哀しい物語

作者:Prof.ヘルさん


「――あにぃ!」

後ろから、声とともに誰かが走ってくる気配がした。僕は振り向かずともその声の主が誰だか分かった。僕をそう呼ぶのは、彼女しかいないからだ。

「もう、さっきから呼んでるでしょ?」
「失礼しました、姫様」

僕は粗相のないよう慇懃に答える。エイ姫は、諸侯たちからこぞって求婚されるほど美しいが、実際は見てのとおり、お転婆なお姫様だ。

「あー、今相変わらずお転婆だなぁ、って思ったでしょう、もぉー!」
「ハハハ……」

図星を突かれているので、僕は笑って答えるしかない。まったくもって、時々こういう鋭いところを見せるのに、驚かされないことはない。

「それはそうと姫様、今日も勉強の時間から逃げてきたのですか?」
「う…そ、それはその……あはは」

もちろん、僕が笑って誤魔化されるはずなどない。

「ジイヤ殿が困るでしょう。ささ、早く戻りましょう」
「えー、嫌どよ」
「嫌どよ、とか言う変な言葉を使っても誤魔化されませんよ」

僕は彼女の腕を引っ張り、彼女が逃げ出してきた方へと引きずってゆく。

「べ、勉強はいやだぁー!」

 

ここで、僕と姫様の関係でも説明しておこうか。

僕とエイ姫は、いわゆる異母兄妹というやつで、エイの母が正妻だ。僕の母は、僕の幼い時に死んでしまった。
以来、僕はこの王城に住んでいる。いわゆる騎士にはなれたが、そう腕が立つってわけでもない。ごく平凡な青年だと僕は思う。父は僕にやさしくしてくれるが、他の皆はそうでもない。妾腹だから仕方ない、とはおもうけれど。
だが、そんな僕を、エイはどういうわけか気に入ってるようで......さりとて昔から友人になってくれる人物が少なかった僕にとって、とっても重要な人物になっている。彼女は、何かにつけて僕を頼ってくれる。僕も、彼女を守りたい、とは思う。
出来ることなら.........この関係が一生続けばいいと思う。

 

そんなある日のことだった。
僕はその時、明日のことについて、自室で考えていた。

(明日は、エイの誕生日か……何かあげないと怒るかなぁ……)

嘆かわしいことだが、僕に動かせる金などないに等しい。父は、ゆくゆくは僕に後継させたがっているようだが、やはり娼婦の子ではそれも難しいようだ。娼婦の子が王になった国に、あなたは住みたいと思うだろうか。……僕自身、それは遠慮したいと思う、と思う。……とにかく、はっきりしていることは、僕は王の子であるのにもかかわらず、貧乏だと言うことだ。近頃は、大分ましになってきたけど。
話を変えるが、この国は周りに比べれば、比較的豊かなのだろうと思う。だが、何で僕には金がないのだろうか。
金がなくては、プレゼントは買えない。プレゼントを買えなければ、エイは烈火のごとく怒るだろう。事実、一昨年のとき、それを上げるを忘れていたら、烈火のごとくおこられた。

(さーて、どうしたものか……)

自分の財布を手にとる。軽い。

(うー、花でも取りに行ってくるか……)

それが一番財政に支障が出ない方法だ。もっとも、去年も花だったような気がするから、色を変えなくては……

(去年はバラだったっけ。今年はどうしようかな……)

そんなときだった。エイが、血相を変えて飛び込んできたのは。

「た、たたた、大変だよっ!? あにぃ!?」
「……見ればわかりますよ。……で、なにが大変なんです?」

エイは、何とか息を整えて……うーむ、あれほどドレスの時に走るな、と言っておいたのに。このお転婆な姫さまはよほど慌てていたらしい。

「じ、実は、ボク、明日お嫁に行かなくちゃならないんだっ?!」
「……ボクではなく、私とおいいなさいな」

……とりあえずぼけてみた僕だったが、内心はこれ以上ないほど慌てていた。いつかは彼女が出て行くとは思っていたが、まさかこんなに早いなんて……

「あにぃ、ボクいやだよ! ボク……あにぃがずっと好きだったんだ! あにぃとずっと一緒にいたいんだっ!」

思わず振り向いて、とんでもないことを言い出した“妹”を凝視する。

「本気か……?」

思わず聞き返さずに入られない。だが、エイは、確かに頷いた。

僕はうめいた。まさか、まさか……

「………正直にいうと、僕も、エイが好きだ」
「! それじゃあ……」
「だけど、それとこれとは別問題なんだ」

僕は振り向いて、彼女を真っ向から見据えた。わずかに、エイがたじろいだ。

「………エイ、兄として忠告する。今言ったことは忘れるんだ」
「!!」

エイが震えたのが分かる。呆然と僕を見つめている瞳は『嘘でしょ?』と言っている。……もう、14年もこの瞳を見続けているから、分かる。

「もう一度言うよ。今言ったことは、忘れなさい」
「……あ、あにぃの馬鹿っ!!」

エイは、瞳から大粒の雫を落とし、僕を睨んだ。言葉は、槍のように心に突き刺さった。
呆然とたたずむ僕を尻目に、エイはその場で踵を返して、入ってきたのと同じように、外へ出て行った。
しばらくたって、俺は机に座り、思いっきりそれをたたいた。

「……おれに、どうしろっていうんだ……」

 

「――で、お前は姫様を泣かせたわけか」
「………そのとおりだ」

城で、唯一の酒場だ。鬱々とした気分が晴れなかったので、普段は飲もうとも思わない酒を飲みに来た。だが、注文した酒は、横の男に取られた。
奴の名は、ウェイバ。僕の数少ない友人の1人だ。
奴は俺が注文した酒を飲みつつ、

「ばかだよ、お前」
「……何が馬鹿なんだよ」

僕は奴が注文した林檎ジュースを飲みつつ言った。……これが僕にはお似合いなのかもしれない。

「自分のやりたいことをすりゃいいんだよ。だからお前は、いつまでたってもそんな欝のような顔をしてるんだ」
「……余計なお世話だ」

いつもより、三倍はきつい口調で言い返した。こうでもしてないと、心がつぶれるような気がした。

「お前は後悔している。……エイ姫と結ばれたいんだろう?」
「……滅多なことは言うもんじゃない。軽薄なところが、お前の欠点だな」
「ご忠告、痛み入るよ。だがな、これだけは言わせてもらうぞ」

ウェイバはまっすぐと俺を見据えた。

「女を泣かせるようなことするなよ! しちまったら、それを償うようなことをしろ! このまま、気まずいまま別れていいのか?」
「……仕方ない」
「お前が良くたって、彼女はよくねぇんだ! ちっとは自分の殻を破ってみろよ!」

いつ似なく、厳しい口調だった。こいつがこんなまじめに話すのを、僕は聞いたことがなかった。

「……あとは、お前の行動だけだよ。仲直りぐらいして来い」

僕は黙って席を立った。……できるものなら、したいものだ。

「なぁ」
「なんだ?」
「言い過ぎた。悪かったよ」

振り向くと、奴は頭を掻きながら言った、照れ隠しなんだろうと思うと、笑えた。

「お前は、いい奴だな」
「……うるせー」

(仲直りか……できればいいな)

 

夜。エイは、まだ、自室で泣いていた。

(あにぃの馬鹿! 『好きだ』って言ってくれるんなら、『俺と逃げよう』くらい言ってくれたってよかったじゃないか!)

そのときだった。窓の外で、馬の鳴き声がしたのは。

(? こんな時間に……)

何かあったのだろうかと、窓の外を覗くと、そこにいたのは“あにぃ”だった。


「……エイ」

僕は彼女に呼びかけた。彼女が驚いて身を乗り出したのを見逃さず、腕を引っ張る。

「きゃぁ!」

僕は彼女を自分の前に乗せると、馬を走らせた。

「あ、あにぃ、どこへ?!」
「……昼間は悪かったよ」

衛は、期待したかもしれない。僕が、一緒に逃げよう、というのを。だが、それは、出来ない。この国の民の、安全な生活を守らなくてはならないし。だから、僕は言った。

「だけど、昼間のことは本心だよ」
「……じゃ……」
「エイと、最後の思い出を作りたいと思ってね……」
「…………。」

エイは押し黙った。だから僕も、押し黙った。
馬は、野を駆け丘を駆け、湖の横を走り、草原を突っ切った。その間も、僕らは押し黙ったままだった。
しばらくして、僕は馬を止めた。

「……エイ、みてごらん」

どうも拗ねているようだったが、僕が執拗に言い続けると、仕方ない、といった感じでそちらを向いた。

「うわぁ……」

そこは、光る海のようだった。一面を、青白く、光り輝いている。

「……星光大波斯菊といって、星の光を映し出すコスモスなんだ」

エイは、うっとりとその光景を眺めている。

「小さい頃、僕はいじめられててね。馬が乗れるようになった頃、よく駆け回ったんだ。で、偶然ここを見つけて。何か落ち込むことがあるたびに、ここに来てはこれを眺めるんだ」
「……きれいだね、ほんと……うぅ、ぐすっ」

エイが泣き出してしまったことに、僕は慌てた。……うう、だらしないぞ、僕! 妹を励ましに来たんじゃないか!

「エイ、泣かないでおくれ。……なら、こうする!」

僕は涙をぼろぼろとこぼすエイを見つめ、声たからかに叫ぶ!

「来世でも、そのまた来世でも! いつの日もずっと、エイを守り続けることを誓います!」
「……ほんとうに?」

いきなりの僕の宣言に、エイは戸惑っているようだった。

「本当だとも。だから、お願いだよ、僕の可愛い妹よ、泣き止んでおくれ」
「……うん」

 

――次の日、城の一番上で、エイが出て行くのをじっと見つめていた。

「……二人で逃げてもよかったんだぞ」
「………民の上に立つものとして、そうゆうわけにもいかないでしょう」

僕の後ろに立った、父にいった。

「それに……」
(ここにいたほうが、エイを守る事ができる)

そんな僕を見つめて、父は満足そうに、優しい光を目にたたえて、

「成長したな。これで、わしの後も安泰だて」

 

――その後、その王国は、正式に彼に王位を譲渡した。彼は、その国の歴史に残る名君として名を残すに到り、隣国と協力して長い平和の礎を築いた。

 

「――あにぃ! あにぃ!」

僕は、誰かに呼ばれて目を覚ました。

「やぁ、衛。元気そうで何よりだよ」
「げんきそうで、じゃないよ! 今日は僕と遊ぶ約束してたじゃないか! なんで11時まで寝てるのさ?!」

泣き出しそうな顔で、衛は言った。……ふむ、どう見ても時計はまだ朝の5時を指してるように見えるけどな……

「時計が止まってるんだよっ!」
「な、なにぃ!」

ほ、ほんとだ……秒針が痙攣したように動いてる……。ま、すぎたことを悔やんでも仕方ない。

「仕方なくないよ!」
「いや、しかたない。……すぐ用意するからまっててくれ」

衛はぶすーっとした顔で、部屋から出て行て、そこで振り向いて僕に尋ねた。

「なにか、夢でも見た?」
「あ……うん、まぁ、ね……」

まさか、あんな夢見たともいえない。そこで、僕は千影のようにこう尋ねた。

『前世って、信じるかい?』と………

 

後書記。
ども、BDSSしか投稿しなくなりつつあるProf.ヘルです。
やはり、また微妙に異色なSSになってしまいました。
……ネタに困ったんです。天啓の様に閃いたのが、この話で。
おそらく、走るBDSSばかりになるのでは、と予想していたので、何とか違うようにすべく……こうなりました。
それにしても、一人称って書きやすい……

さて、エイというのはもちろん『衛』の音読みですね。
ウェイバというのは、『フルメタ!』のクルツ・ウェーバー軍曹からもじりました。
ジイヤ殿の出番はありませんでした。……うーむ、惜しいことをした。

最後に。
やはり、まだまだ修行が足りないので、間違えてるところがあると思います。ですから、感想やアドバイスや批判を是非下さい。
今回は、しっとりした内容を目指しました。微妙に哀しいような感じがあるといいな、と思います。
それでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。是非今度も、ここまでお読みくださると嬉しいです。

さて、それにしても、これのどこが『名(迷?)探偵四葉』なんでしょうね? 自分で書いてて、分かりません(汗




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kawakamishinji@hotmail.com

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