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ぶ〜け

作者:九郎さん


じゅ〜、っとフライパンでこんがりと焼けているホットケーキ
からなんとも香ばしいいい匂いがします。
綺麗に焼けたので、わたくしはオマール皿に移し、
それをテーブルへと移動させました。
サイホンで焚いたコーヒーも沸き、そっと、お気に入りの
ティカップにそそぎます。
これで、朝食の準備はばっちりです。
あ、もうこんな時間。
兄上様を起こさなくては。
わたくしは急ぎ足で寝室へと向かいました。

トントン。
いつもながら、ノックをしても返答がありません。
「失礼します。」
すると兄上様は、わたくしが朝起きたときにシーツを
かけたのにもかかわらず、またお腹をだして大の字に
なって寝ていらっしゃいました。
わたくしはお側までより、そっと兄上様の肩を揺らします。
「兄上様、起きて下さい。 朝ですよ。」
「ん、ん〜、あと10分。」
と、往生際悪く、シーツに頭をすぼめてお隠れになってしまいました。
もう、兄上様ったら。
「だめです、会社に遅刻してしまいますよ。」
返事がありません。
えいっ!
「うわぁぁ、さ、寒い!」
わたくしがシーツを思い切って引き剥がすと、兄上様は
体を丸めてぶるぶると震えていらっしゃいます。
「な、何するんだよ鞠絵〜。」
「兄上様、朝食の準備が整いましたから、起きて下さい。」
兄上様は眠そうな目をこすりながら大きなあくびをして、
「ふぁぁ、しかたがねぇから起きるか。」
「おはようございます、兄上さま。」
わたくしがそう言うと兄上様がこちらへと手招きをなさいます。
「なんですか?」
わたくしはベットに腰をかけて兄上様の顔を近づけると、
兄上様はこともあろうに私の鼻、鼻を・・・・。
「は、はにふへさは、はにほ(あ、兄上様、なにを)。」
「結婚してまで”兄上様”なんて呼ぶんじゃねぇ。」
そういって、わたくしの鼻を開放してくれます。
わたくしは鼻をこすりながら、ベットの脇においてある
サイドテーブルに目を向けました。
そこにはウエディングドレス姿の私を、いとも軽々と抱き上げている
燕尾服姿の兄上様のお写真が。
教会の前でライスシャワーを浴びている二人は、自分の姿にも
かかわらずとても幸せそうにみえます。
そして傍らには円柱の筒にはいっているブーケがありました。
ブーケはこの真空の円柱に入れられて、半永久的にその姿を
留めておけるんですって。
そう、そうでした。
私と兄上様は・・・。
「鞠絵。」
びくっ!
思わずドキッとしてしまって、わたくしの心臓が踊りだしています。
「は、はい。」
兄上様の手、手がわ、わたくしの頬に。
ゆっくりと近づいてくる兄上さまのお顔。
ああっ、う、うれしすぎて目、めまいが・・・・・・。

目が覚めると、わたくしは暗闇の中でひとりぽつんといました。
ゆっくりと腰をあげ、周りを観察すると、ここがわたくしの部屋だと
理解できるまでに時間はいりません。
わたくしは薄暗い天井を見上げました。
「夢・・・・だったのね。」
夢に見た兄上様との結婚生活。
きっと毎日楽しくて、うれしくて、幸せな日々なんでしょう。
けれど、今のわたくしは、療養所という狭い折の中。
そして、愛するあの人とは離れ離れの生活。
こんな現実ならば、いっそ夢の世界のままの住人でいたかった。
けれど、それすら許されないなんて。

わたくしはベットのルームランプをつけ、起き上がり、椅子にかけてあった
カーテガンを羽織ります。
そして、机の上に置いてある兄上様のお写真を、拝見したあと、
胸へと抱きしめました。
最近お会いしたのは3日前。
兄上様は2週間に1度だけ、わざわざここまで電車で2時間もかけていらしてくれます。
次にお会いできるのはあと、1週間以上もあります。
「はやく会いたいな。」
「く〜ん。」
わたくしがつぶやくと、目を覚ましたのか、愛犬のミカエルがわたくしの
足元に寄り添って、自分の頬をわたくしの足に触れさせています。
わたくしは兄上様のお写真を机に置いて、腰を落としミカエルを抱きしめ
ました。
「ミカエルも兄上様にお会いしたい?」
「ワン。」
「そうよね、会いたいわよね。」
その時でした。
がたがた!
私はびっくりしてミカエルを力いっぱい抱きしめました。
なにやら、カーテンごしに人影がちらりと。
がた、がたがたがた!
こ、こわい。
わたくしの背中に、なにか冷たいものが走りました。
誰、誰かいるの?
そう叫びたくても、怖くて声がでません。
体も硬直してしまって動けないです。
助けて、お父様、お母様。
兄上様!
がたがたがた!
揺れが激しくなった時、ミカエルが、平然と窓の側までよって
鼻をひくひくと動かしています。
そして私の方を見て、一声”ワン”と鳴きました。
その鳴き声で、体の硬直が解けました。
わたくしは恐る恐る窓に近づいて、思い切ってカーテンを開けてみます。
するとそこには、
「あ、兄上様?」
え、どうして兄上様がこちらに?
ううん、そんなことよりも。
わたくしは急いで窓を開けました。
「さみーよ、鞠絵。とっとと開けてくれよ。」
と兄上様はそういって、窓をよじ登り、わたくしの部屋へと入って
いらっしゃいました。
”寒い!”と何度もおっしゃりながら暖炉まで駆け足でお行きになり、
しゃがみこんで、手のひらをかざして温まっています。
わたくしは、いきなり兄上様がいらっしゃった事に驚いてしまって、
ミカエルが私に”ワン”と鳴いてくれるまで、窓を閉めるのを
忘れてしまいました。
窓とカーテンを閉め、わたくしは兄上様のお側へ参りました。
「鞠絵。」
「あ、はい。」
「わりぃ、コーヒーくれ。」
一度くしゃみをして、苦笑まじりの兄上さまのお顔を見て、
わたくしもつられて笑顔になってしまいました。
「わかりました。 すこし待っていてくださいね。」

しばらくして、兄上様はわたくしが給湯室で作ってきたインスタントの
コーヒーを少しずつ口に運びつつ、暖炉の火で温まっていらっしゃいます。
ミカエルもおだやかに兄上様の横で丸まって眠っています。
「あの、兄上様?」
「ん?」
「どうしてこんな時間にこちらへ?」
兄上様がいらっしゃるのは2週間に1度。
つい先日来ていただいたばかりなのに、またすぐにこうやって
会えるなんて、本当に夢のようです。
「ダチの結婚式が近くであってな、終電がなくなっちまったからよ。」
「そうだったのですか。」
わたくしに・・・・会いに来ていただけたわけではないのですね。
ちょっと残念・・・かな。
ううん、そんなこと考えちゃだめよ鞠絵。
毎日毎日お会いできない兄上様と形はどうあれ、こうやって会えたんですもの。
もっと喜ばなくっちゃ!
ばちばちっと暖炉のなかで炎がはじけ飛んでいます。
”おおそうだった”と兄上様は何かを思い出したかのように
先ほど背中に背負っていたディバックからなにやら取り出して、
「やる!」
「えっ?」
突然兄上様から投げられたもの。
綺麗に放物線を描いてわたくしの手元に落ちます。
白いマーガレットとカサブランカ、スプレーカーネーション
であしらわれたかわいい花束。
こ、これは?
ぶーけ?
「兄上様・・・・。」
わたくしはブーケを両手に持ち、兄上様を見つめました。
「は、花嫁が投げたやつがたまたま俺んところにきたから、それで・・・。」
これを、わたくしに?
そういえば兄上様、今はシャツにジーンズというラフな格好。
着ていたコートも壁にかけてあるし。
あ・・・。
わたくしは、兄上様のお心づかいに感動してしまい、
少しばかり涙がこぼれそうになってしまいました。

結婚式ならば礼服を着ていくはずですし、引出物もあるはず。
少々面倒な事がお嫌いな兄上様に限って、
わざわざ私服でお出かけになられて途中で礼服に着替えるなんて
考えられません。
それに時計の針はまだ11時前。
終電はまだ来ていない時刻です。
この療養所近くのチャペルは、たしかにありますが、ちゃんとした結婚式が
できるほど大きくありません。
きっと結婚式は、街の結婚式場でやられ、わたくしのところには
本当は一度お家へ帰られて、荷物を置き、それからわざわざブーケを
届にきてくださったのですね。

兄上さまったら、嘘が下手ですね。
でも、わたくしそういう嘘をつける兄上様がとても好きです。
ううん、大好きです。
わたくしがにっこり笑うと、
「べ、べつに深い意味はないぞ。」
と兄上さまがおっしゃいました。
きっと、ブーケを受け取った男性が、それを女性にプレゼントすることは
すなわち、プロポーズの意味をとっていると思われたのでしょう。
兄上様からのプロポーズでしたら、わたくし、いつだってお受けするのに、な。
でも、ここは意地悪っぽくしてみせて、
「兄上様、わたくし何も言ってませんよ。」
とわたくしが”くすっ”と笑うと、兄上様は急にお立ちになって、
「・・・。 寝る!」
とおっしゃって、わたくしの部屋にあるクローゼットから、
兄上様は、こちらにお泊りなさる時に用意してある
パジャマに着替え、わたくしのベットの中へと入っていってしまいました。

わたくしは、床に散らかっている兄上様のお洋服を丁寧にたたんで、
それから失礼してベットに入りました。
兄上様はわたくしに背中だけ見せてとこにつかれておいでです。
わたくしはシーツをかぶり、そして兄上様の
お背中へと、そっと身を寄せました。
暖かく大きな、わたくしをいつも気づかって、守ってくださる
その背中。
ふれているだけで気持ちがとても穏やかになります。
「兄上様、今日はありがとうございました。」
兄上様からの返事はありません。
わかっていますよ。
兄上様が、照れると何も言わなくなってしまうことなんて。
それでも、感謝しきれてもしきれません。
わたくしは、ベットのサイドテーブルにおいたブーケを見ました。
あれを手にしていた花嫁さんは、きっと幸せなのでしょうね。
わたくしも、その幸せにあやかれるといいな。

兄上様、わたくし、はやく元気になりますね。
そうなりましたら、いつの日か、きっとわたくしを
わたくしを・・・・・

兄上様のお嫁さんにしてください。
fin






あとがきみたいなもの
ずいぶんひさしぶりにSSを書いたような気がします。
こんばんわ、九朗です。
最近、シスプリ熱というやつですか?冷めていましてね、
ようやくリピュアが面白くなってきたので、戻ってきました(笑)
鞠絵ちゃんは、Myシス咲耶ちゃんと正反対で、咲耶ちゃんが
赤い炎の愛情ならば、鞠絵ちゃんは青い、静かな炎の愛情を
感じます。 おとなしいけれど、兄上様への想いは人一倍
すごいのが、鞠絵ちゃんなのですね。

と、いうわけで次の妹SSが無事書きあがるよう祈っていてください。
それではまた、次妹SSでお会いしましよう!

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