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こえ

作者:九郎さん


「オリエンタル航空307便の搭乗手続きを開始いたしまいた。 ご搭乗のお客様は・・・・。」
様々なアナウンスが飛び交う空港の国際線ターミナル。
多種多用な民族が行き交い、独特の雰囲気をかもし出す。
どこにでもある風景、どこにでもある光景。
今、銀の翼に己を乗せて、籠の中から飛び出さん少女と、
それを18年間、時には厳しく、時にはやさしく見守り続けた両親が
飛行機の搭乗口前で向き合っていた。
「しっかりやってきなさい。」
少女、鈴凛の頭を父がなで、
「体には気をつけるのよ。」
と、父と入れ替わり、母が鈴凛の手を握った。
「大丈夫だよ。 もう、子供じゃないんだから。」
にっこり笑う鈴凛。
だけど、両親としては心配だ。
今までずっと一緒に暮らしてきたて、はじめて別々に暮らすのだ。
今生の別れではないにしても、やはり肉親や慣れ親しんだ人が
自分の元からいなくなるのはやはり、寂しいものである。
鈴凛は周りを見回して、
「アニキは?」
「さっき連絡したんだけど、なんでも担当していた方が脳卒中で倒れて、病院に付き添いに
行ってるんですって。」
「そう。」
母の答えに少し落ち込む鈴凛。
「まったく! 妹の見送りに、仕事も休めないのかアイツは?」
憤慨する父に、
「しかたないよ、お父さん。」
と鈴凛は手で征してなだめた。

兄、千歳は看護福祉士の免許をとり、この春から養護老人ホームで職に従事しだしていた。
また仕事場が同じ県内といえど、実家から通うにはあまりにも距離が
あったため、千歳は仕事場の近くにアパートを借りて、家をでた。
と、いっても週末にはご飯を食べにちゃっかり帰ってはきている。
だから鈴凛も、両親もそれほど寂しさを味わいはしなかった。

だけど、今回は自分が出て行くのだ。
いつもみたく、そう簡単に兄と電話も、
会うこともままならぬ世界へ飛び込んでゆくのだ。
その不安と恐怖からか、色々なマイナス要素が少女の脳裏を駆け巡っていった。
本当に一人でやっていけるのか?
現地にいってきちんとコミュニケーションはとれるのだろうか?
風土は、習慣は、自分は受け入れられるのだろうか?
そしてなにより、今までずっと一緒だった大好きな兄と完全に離れ離れ
になってしまうことに、
それに自分が絶えられるのだろうか?
「私、行くの止める。」
「鈴凛?」
「鈴凛ちゃん。」
下を向き、瞳が髪の毛にかかって見えない状態でいる鈴凛に対して、
父と母が同時に驚きの声と苦悶にみちた表情を見せる。
「だって!」
顔をあげる少女のつぶらな瞳にはこぼれんばかりの真珠の宝石がちりばめられていた。

向こうにいったら最低4年は日本に帰ってこられない。
単純な話、両親や友達、そして千歳と4年間以上も
会えなくなってしまうのだ。
その寂しさに自分が絶えられるはずがない。
そう、兄がいない状況を考えるだけで、彼女は”ぞっ”とした。
背筋が凍りつき、まるで5感を失うような錯覚すらする。
自分で決めた道。
悩みに悩んで、考えに考えて選んだ道。
だけど。
理屈ではわかっていても、感情を制御できるほど、少女は
大人ではなかった。
そんな娘を見て、父は、そっと彼女に寄る。
「鈴凛、千歳との約束、忘れたのか?」
さすが父親か、父は鈴凛の両肩に手を置いて、厳しい顔をする。
「お父さん?」
父の言葉に、はっ、と何かを気づかされる。
自分が今からやることの動悸を。

「きっと、これから高齢者がどんどん増えていく。
その割には介護してくれる人間は圧倒的に少なくて、いつか、その
余剰した高齢者を面倒見きれなくなってしまう時がくるだろうね。」
千歳がよく言っている言葉。
その言葉を聞き、鈴凛は兄の役にたちたくなり、
今までは、生活に役立つモノとか、自分のため、はたまた兄のために作ってきた
いろいろなアイテム作成の過程を介護用マシン作成過程へと切り替えた。

兄と一緒にボランティアとして、鈴凛は老人ホームを
よく周った。
そこで自作したマシンをいくつか使い、老人ホームで働くスタッフ
の助力をした。
時には失敗作もちらほらあったが、それでも鈴凛の作ったマシンは
受け入れられ、スタッフのよきアシストを行っていた。
だが、完璧ではなかった。
アシストできるのはあくまでスタッフのみで、完全にご老体を
アシストできるものは作れなかったのだ。
特に寝たきりのお年寄りに対しては何も出来ないでいた。
”お年寄りにはいつでも元気でいて欲しい。”
そう願い、鈴凛は兄に誓いを立てる。
「アニキ、見ててね。 きっとそのうちおじいちゃんおばあちゃんが、誰も
寝たきりとかにならないですむような、すっごい介護マシン作るから!」
と。

日本でも介護マシンの開発や研究をしている大学は多々ある。
だが、鈴凛は標準的な介護マシンを作るよりも、多用途でき、応用のきく
マニピュレーターアーム(機械手)の開発を望んだ。
そのため今からスイスの大学に留学するのだ。
その大学はNASA(アメリカ航空宇宙局)のスペースシャトルに
実際に搭載されている大型マニピュレーターアームの開発、研究を行っている。
つまりその技術に関しては世界最高レベルなのだ。
だからこそ、どうせ学ぶなら一番良いところがいい。
すごいものを作って兄を驚かせたい。
彼の、お年寄り達の役に立ちたい!
そんな気持ちが彼女を留学へと駆りたてたのだった。

父は鈴凛の涙をハンカチで拭い、
「父さんだって、本当は、お前を行かせたくないさ。 お前は娘で、しかも女のコなんだぞ。
だけど、鈴凛、お前がどうしても千歳との約束を果たしたい、自分の夢を実現させたいって言うから、私は。」
「お母さんも、心配なのよ。 でも、あなたの未来はあなただけのものだから。」
父は鈴凛をくるっと回転させ、そして搭乗口へと軽く背中を押し出す。
「さぁ、笑って、行ってきなさい。」
「お父さん・・・、お母さん・・・。」
振りかえる鈴凛。
両親は温かくも寂しい表情で、手を振っていた。
「最後まで、ワガママ言ってごめんね。 私、行ってくる。」
鈴凛は両親に諭され、意を新たにし、
力強い意思の元、ロビーを跡にした。

飛行機は、多少の遅れはあったが、正常に離陸をし、地上から舞い上がった。
螺旋を描き、翼に風をうけて上昇し、
針路をさだめ、陸のない果てしない雲の海の世界へと航海してゆく。
機体が高度5000Mまで上昇すると機内のシートベルトのランプが消え、
鈴凛はベルトを外して、固まっていた体を解きほぐす。
丁度右窓側の席、しかも翼の後ろ側だったので、外の景色がよく見えた。
すでに地上は見えなくなっていて、眼前には入道雲のじゅうたんが敷き詰められている。
二重窓が太陽に照らされ、その屈折で鏡のようになり、鈴凛の顔をちらりと写す。
その時、兄の顔を同時に思い浮かべた。
(最後に、アニキに会いたかったな。)
最後にあったのは3日前。
その日々のことは、よく憶えている。

「いよいよ3日後だな。」
ひさびさに家に戻ってきた兄。
軽く夕食をすませ、風呂上り、居間のソファでテレビを見ていた鈴凛に近づく。
「うん。 アニキ楽しみにしててね。 きっとすっごいの作るから。」
「ああ。」
そう言いつつ、千歳は鈴凛の横へと陣取る。
「あのさ、アニキ。」
「ん?」
「見送りには・・・。」
鈴凛は手をもじもじとさせていた。
彼女が何を言いたいのか、すぐに察しがついたので、
千歳は開口を開く。
「たぶんよっぽどのことがない限り行けると思うよ。」
「ほんと?」
「うん。」
鈴凛の顔がにこやかに微笑む。
「じゃ、私、待ってるから。」

結局、兄は見送りには来てくれなかった。
以外とよかったのかもしれない。
もし、あの時、兄がいたらしがみついて、今ごろまだロビーの
所でわんわん泣いていただろう。
なんとなく鈴凛は気が落ちてきたので、
(MDでも聞こうっと。)
鈴凛は寄せ集めのパーツで作ったオリジナルのMDウォークマンを
座席下に置いておいたカバンから取り出し気分を明るくしようと勤めた。
イヤホンを耳に装着して、リモコンのコントローラーの再生ボタンを押す。
すると、彼女の耳には、あらかじめMDに入れておいた曲ではなく、
懐かしい声が響いていた。
「がんばれ!、リン」
(え?)
たった一言だけ、男性の声がしてMDは停止した。
(え、嘘、なんで? アニキ?)
一瞬何が起こったのか把握できない。
頭のなかがパニック状態となった。
鈴凛は恐る恐るウォークマンの再生ボタンを押してみた。
さきほどと同じ声が耳に流れる。
間違えなく、千歳の声だ。
ウォークマンからディスクを取り出してみると、
それは自分が入れておいたディスクとは違っていた。
いつの間にディスクを入れ替えたのか、鈴凛には検討がつかなかったが、
あの兄ならやりかねない。
きっと、千歳のことだ。
餞別代りといって自分の声をプレゼントしてくれたのだろう。
「アニキの声がでる目覚まし時計作るから、声録らせて!」
とお願いした時には煙たがったくせに。
このMDも、顔を真っ赤にしながら自分の声を録音してくれたに違いない。
そう思うと、笑いが込み上げてきてしかたがなかった。
(あはは、なんだかアニキらしいや。)
千歳の何気ないやさしさにつつまれて、鈴凛は幸せな気分を味わう。
”ぎゅ”っと、そのMDを胸に抱き、ゆっくりと瞳を閉じる。
くじけそうな時、辛い時、悲しい時、この声を聞こう。
そうすれば、きっと元気になれる。
どんな困難があったって。
(私、がんばるよ。 負けないよ。だから待っててね、アニキ。)

少女の想いを乗せ、飛行機は遠い異国の地へと目指して行く。

fin

あとがきみたいなもの

ええと、カッツォさんのHPで展開させていただいている短編SSのシリーズタイトル
ですが「妹達の1ページ」としました。 考えてくださったのは他でもなく管理人の
カッツォさんです。 ありがとうございました。 他にアイデアを出してくださった
方々もこの場を借りてお礼申し上げます。

今回も悪戦苦闘の連続でした。 あのシスプリマンモスサイトのシスパラで鈴凛SSが
なぜあんなにも少ないのか? その答えがひっじょ〜によく解かりました。
彼女は非常に書きにくいです。 キャラがたたないのです。 と、いうかキャラ自体が
文面で勝手に動きまわらないのです。 まぁ、九朗に彼女に対するLOVEがないと
言われればそれまでですが(笑) こんな短いSSなのに、ぜんぜん書けなくて、
まだまだ精進がたりないなと自覚しました。 もっと面白い、楽しいSSを書ければな
と思います。 では、また次妹SSでお会いしましょう。

九郎さんへの感想はこのアドレスへ
crow-fst@mx2.tees.ne.jp

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