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亞里亞組長

作者:妄想戦士さん


「諸君、新年あけましておめでとう!」
紋付袴を着込んだ青年が挨拶をする。
彼の足元には、彼の袴の裾を握り締め半分隠れるように寄り添う小さな影があった。
青い瞳にアッシュブロンド、まるで西洋人形のような少女だ。
『おめでとうございます!』
所狭しと広大な和室内に居並ぶ彼の部下達が野太い声で応える。
「まず、俺から諸君らの去年の活躍ぶりに感謝を捧げたい。
 現組長のもと、よくがんばってくれた!
 今では我らも関東を二分するまでに力をつけてきた。
 今後も諸君らの奮闘を頼りに支配地域を広げていくぞ!
 よろしく頼む!」
『押忍!』
「よし、じゃあ次は亞里亞の番だよ」
青年が足元の少女に小さく話しかける。
少女はこくんと頷いて青年 ― 先代組長である彼女の兄 ― と場所を入れかえた。
一同の視線がすべて少女に集中する。
「っ……兄や〜……亞里亞、怖いです……くすん」
「済まない諸君、アレを頼む」
兄の声をうけて、一同が懐からさっとお面を取り出した。
そしてそれを顔につける。
室内はドラゑもんやらスーパーヒーローやら美少女キャラであふれた。
「さ、これで大丈夫だろう。ほら、みんなに挨拶してごらん」
兄が亞里亞の耳元でささやく。
「……何を話せばいいの?」
「最初は『あけましておめでとうございます』」
「……おめでとうございます」
『おめでとうございます!』
「……それから、それから……兄や〜、どうしたらいいの?」
「亞里亞の言いたいことを好きに言っていいんだよ」
「何でもいいんですか?」
「ああ」
「えっと……それじゃあ……」
亞里亞がモジモジしながら
「亞里亞は……今……黒猫屋さんのショートケーキが食べたいです」
『おおっ』
意味もなく反応するお面たち。
「よし、誰か今すぐ黒猫屋とやらに行ってくれ。おい!」
兄は脇に控えていた部下に声をかけた
「へ、へい、先代」
ガスッ
「あひゃぁっ」
兄が部下の鼻頭に拳を叩きこんだ。
「バカ野郎! 亞里亞の前では『兄やさん』と呼べと言ってるだろうが!」
「す、すいやせん、兄やさん」
鼻血を出しながら部下が土下座する。
「ま、それはいいからよ、悪いがちと黒猫屋とやらへひとっ走りしてくれねえか?」
「し、しかし」
「なんだ?」
ギロリ
「へ、へい……せ…に、兄やさん、黒猫屋はちっと無理です」
「なんだと?」
兄が部下の襟元を掴む。
「てめえ、亞里亞のお願いが聞けねえってのか? 亞里亞を見やがれ」
亞里亞は部下をうるうるした瞳で見上げていた。
「亞里亞……食べたいです」
それを見た部下の脳はとろけそうになる。
「あはぁ〜☆」
「おい、わかったな、今すぐ行け」
「あはぁ〜☆……はっ、い、いえ、それが無理なんです、ほんとッス」
「てめえ」
「ま、待ってください兄やさん、黒猫屋は虎鮫の支配地域にあるんです」
「ッ!……そうか」
兄は眉根を寄せて顎に手をやり考え込んだ。
くいくいっ
「ん?」
なんだと見れば亞里亞が裾を握りながらこちらを見上げていた。
「黒猫屋さんのケーキ……食べられないの? くすん」
兄はにっこり笑い、腰をかがめて可愛い妹の顔を覗き込んだ。
「亞里亞、その、黒猫屋さんとやらのケーキじゃないとダメか?」
「うん……黒猫屋さんのケーキね、とってもおいしいって聞いたの」
「そうか……なあ、亞里亞の誕生日まで待ってくれないか?」
「誕生日?……そ、そんなに……くすん、亞里亞、今すぐがいいです…くすん」
「誕生日まで待ってくれたら、黒猫屋さんが亞里亞のためにおっきな誕生ケーキを作ってくれるよ」
「……ほんと?」
「ああ、しかも亞里亞の食べたいときにいくらでも作ってくれる」
「……兄や、それほんとう?」
亞里亞の目がキラキラと輝き出す。
それを見た兄も目を細めた。
「ああ、兄やは嘘ついたことないだろう? だからちょっと長いけど誕生日まで待ってくれるか?」
「はい、亞里亞、誕生日まで待ちます」
「じゃあ、今日は他のケーキで我慢してくれるか?
 黒猫屋ってのに負けないくらいおいしいやつ買ってやるから」
「うんっ……わぁい、兄や、大好きッ♪」
「よし、いい子だ」
亞里亞の頭を一撫でして兄は立ち上がり、様子を見守っていた部下達に向き直った。
「諸君、これから重大な発表をする」
お面軍団の間に緊張がはしる。
「11月だ」
『?』
「11月までに虎鮫の島を落とすぞ!」
キッパリと宣言する兄。
『どえぇええええ!』
一斉に抗議の声があがる。
「ま、待ってください、先…に、兄やさん、それはちっといくらなんでも無理ですぜ」
「そうですよ、せ…に、兄やさん、虎鮫って言ったら……なあ?」
「ああ、うちらと関東を二分してる組じゃないですか? 力はうちと互角。それを――」
兄がすっと片手を挙げた。
途端に静まり返るお面たち。
「やると言ったらやる」
『し、しかし』
「これは組長の意向でもある!」
『組長のッ?!』
一同の視線が亞里亞に集まる。
「組長の誕生日までに虎鮫を落とすぞ! そして黒猫屋のケーキで組長の誕生日を祝う!」
「……お願いします」
注目を集め、赤くなった亞里亞が恥ずかしそうに言った。
『あはぁ〜☆』
その凶悪なまでの可愛らしさでお面軍団の頭から湯気を立ちのぼらせる。
「わかったなおめぇら!」
『押忍!』
「何が何でも11月までに落とすぞ! 気合入れてかかりやがれッ!」
『うっしゃぁあー!』
狂気のお面軍団が拳を突き上げ、そのまま亞里亞様コールに入る。
「おじちゃんたち亞里亞のためにがんばってくれるって。よかったな?」
兄が亞里亞の頭を撫でながら言った。
「はいっ♪ 兄やもがんばってね?」
亞里亞の天使の微笑みに、兄はデレデレとにやけまくった。




 それから約10ヶ月半――

「おめえが虎次郎さんかい?」
虎鮫組の組長室は亞里亞の部下達で埋め尽くされている。
黒い着流し姿の兄は、亞里亞を抱っこしながら窓際の高級机に腰掛けていた。
足元には初老の男 ― 虎鮫組組長 ― の虎次郎が両手を後ろ手に縛られ転がっている。
「く、くそう、こんなふざけた名前の連中に……くそうッ」
室内が殺気で膨れ上がる。
『なめんじゃねえぞコラ!』
『んじゃコラ!』
『死ねコラ!』
兄はいきりたつ部下達を手で鎮めた。
「おい、『あまぁ〜いお菓子大好き☆組』のどこがふざけた名前だって?」
兄が虎次郎の顔を下駄で踏みつけた。
「ぬぐぐぐっ」
「うちの可愛い可愛い組長が就任する時に新しくしたんだよ、文句あっか?」
「ぬぐぐぐっ」
「本来なら問答無用でばっちりきっちりススっとぶッ殺してやるところがだが……。
 まあいい、大人しく島を明渡してくれたら今の言葉はなかったことにしてやる、どうだ?」
返答を聞くために兄が足をどける。
「ぐ……こ、断る! そう簡単に島ァ明渡してなるものか!」
「……おい、マサ」
兄が部下の一人に顎で合図をする。
「へい」
マサは虎次郎の両足を強引に開いてその股間に片足をのせた。
「やれ」
「へい」
マサの足が超高速で振動した。
「あばばばばばばばばばばっ」
虎次郎が白目をむいて悶絶する。
「こいつは『電気按摩のマサ』っつってよ、その道のプロよ」
「あばばばばばばばばばばっ」
「なあ、島くれよ、虎ちゃんよ」
「あばばばばばばばばばばっ」
「頼むよぉ」
「あばばばばばばばばばばっ」
「なあ」
「あばあば…こ、ことわばばばばっ」
「ち、さすがにしぶとい野郎だぜ」
忌々しげに舌打ちして、兄はマサを下がらせた。
「おい、おめえら! 『あれ』をやるぞ」
『ッ!!!』
部下達の間に驚愕がはしる。
「あ、あれって、まさかっ」
「ひ、ひぃいい」
「恐ろしい恐ろしい恐ろしいぃ!」
「いいからさっさと準備にかかれ!」
兄が苛立たしげに命じる。
『へ、へいっ!』
恐怖のあまり冷や汗をかきまくった部下が2人、虎次郎を両脇から抱える。
「おめぇさんが悪いんだよ、虎やんよ、俺もここまでする気はなかったんだがなあ」
「な、なんだ? 一体なんなんだ? こ、こら、おい、やめろー!」
抱えられたまま虎次郎は隣室へ消えていった。

 しばらくして――

「おい、なんなんだこれは一体!」
虎次郎は馬の着ぐるみを着させられていた。
それを見る亞里亞の目が期待で輝く。
「お前にはこれからお馬さんになってもらう」
「お、お馬? なんだそれは一体?!」
「亞里亞、これからこのおじちゃんが一緒に遊んでくれるって」
「……ほんと?」
亞里亞が虎次郎を見る。
「なっ……誰がこんな小娘なんかとぶはぁッ!」
虎次郎は殺気だつ部下達にボコボコにされた。
「おい、マサ、あのうるせぇ口をふさげ」
「へい」
兄が部下達をなだめている間に、マサは虎次郎の口にマウスボールを押し込んだ。
「んごふぁ、ふぁ、ふぁにほふうんはえ!」
「おい」
『へい』
兄の命令一つで、部下達が虎次郎を四つん這いにさせる。
「はふぇおはふぇお! ふうううう!」
「よし、亞里亞、おじちゃんの準備できたよ」
「わぁい」
がっしり押さえられている虎次郎の背中を跨ぐ亞里亞。
兄はマサから拳銃を受け取り、それを虎次郎の股間に押しあてた。
「妙なマネしてみろ、てめえのこれを吹っ飛ばしてやるからな」
今だに厳しい顔つきの虎次郎にそっとささやく。
「一秒でも長生きしたかったらしっかり馬になるんだな、ほら、いけっ!」
兄が虎次郎の尻を蹴りつけた。
「わぁい……お馬サン♪」
亞里亞は無邪気に喜んだ。
「ほら、もっと部屋中走り回れ」
「ふうううううっ!」
敵の組員たちの見守る中、屈辱的な行為を強いられ虎次郎が涙をこらえる。
「ほら、馬なら馬らしくいななけ」
「ふぅっ! ふぃ、ふぃふぃひぃいいいん」
『けっ、いいザマだぜ』
『虎鮫の虎次郎も地に落ちたもんだな』
「ふぅうううう!」
あまりの悔しさに虎次郎が思わず涙をこぼす。
「あはっ……兄や〜、亞里亞、楽しいです♪」
虎次郎の背に乗って、亞里亞が楽しそうに手を振った。

 三時間後――

そこには涙と涎を垂れ流し、悦びに震える虎次郎がいた。
「あふっ! あふっ! あふっ!」
「お馬さん♪ お馬さん♪」
「あっ……あふぅうんッ☆」
『駄ちたな…』
見守る部下達は気の毒そうな顔で虎次郎を見守っていた。
「よし、止まれ」
「ハァハァハァハァ……」
兄に止められ、その場にがっくりと崩れ落ちた虎次郎が荒い息をつく。
「亞里亞、ちょっとこっちにおいで」
「はぁい」
虎次郎の背中から降りて、兄に抱きかかえられる亞里亞。
「さて、虎やんよ、島ァくれる気になったかい?」
床に顔をくっつけたまま、虎次郎はとろんとした瞳でついに、たしかに頷いた。
『ぅおおおおおっ!』
室内が大歓声に包まれた。
「うっし! 今からこの島もうちらのもんだ。ついに関東を統一したぞっ!」
『亞里亞様万歳! 亞里亞様万歳!』
「よし! おめぇら、さっそく誕生日会の準備にかかるぞ!
『へいっ!』
一斉に部屋から出て行く部下達。
「亞里亞、黒猫屋さんのケーキ、誕生日に食べられるからな」
「……兄や、ありがとう」
亞里亞は兄の頬にご褒美をあげた。
「来月2日はパァーっとやるぞ!」
「亞里亞、うれしいです♪」
亞里亞を抱きかかえたまま、兄も虎鮫組の組長室を後にする。
「……あ、あふぅ」
一人残された虎次郎が切なげに喘いだ。





暗い部屋の中、マイクを通して野太い男達の歌声が響き渡る。
『――ハッピバースデー ディア 亞里亞くーみちょー
     ハッピバースデー トゥ ユー』
ウェディングケーキ3個ほどはあろうか、その巨大なバースデーケーキの前、
ろうそくの灯りに照らされた亞里亞の顔がある。
亞里亞は「すぅっ」と吸い込むと、目の前にあるろうそくを一本だけ吹き消した。
『うぉおー! おめでとうございやす、亞里亞様!』
照明が場内をあかるく照らす。
何千人もの組員たちが立ち上がって拍手をしていた。
亞里亞は照れくさそうに笑っていた。
「兄や、もうケーキ食べてもいいですか?」
「ああ、それ全部亞里亞のだからな、好きなだけ食べていいよ」
亞里亞が相好を崩してケーキを食べはじめた。
「おい、おめぇら、今日は無礼講だ。飲めや歌えでパァーっと盛り上げてくれ」
『へいっ!』
兄の言葉に宴会部のものたちも気合が入る。
『えー、それでは恒例の一発芸大会ぃー!』
『いぇーい!』
『さっそくいってみましょう!
 一番! 鉄砲玉ジョニー兄貴による”急所で分銅何kg持ち上げられるかな?”』
『帰れコラー!』





どんちゃん騒ぎが一段落ついた頃を見計らって、兄は亞里亞に声をかけた。
「なあ、亞里亞」
「なぁに、兄や?」
顔中にクリームをくっつけた亞里亞が、スプーンを咥えながら振り向く。
「がんばったみんなにもちゃんとお礼しなくちゃ。ちょっと一曲歌ってやってきてくれないか?」
クリームを拭ってやりながら兄が亞里亞に言った。
亞里亞はにっこり笑って
「……亞里亞、行って来るね」
トテトテとステージへと歩いていった。
「みんな! アレを頼む!」
兄が全員に聞こえるように言った。
それまで騒ぎ放題だった部下達もすばやく反応して、一斉にお面をかぶった。
「えっと……ありがとう」
ステージ上から亞里亞がマイクで呼びかける。
『いぇーい!』
「……お礼に、亞里亞、歌います」
『いえぇーい!』
お面軍団は狂喜した。
会場に古臭いメロディが流れ出す。
お面たちの割れんばかりの手拍子。
「亞里亞、がんばれ!」
兄が亞里亞に声援をおくる。
亞里亞ははにかんだ笑顔を浮かべながら、手を振って応えた。

 そうよわったしはー さそりざの女ー (今日はあなたの誕生日ッ)
 おきのすっむまでー わぁーらうがいいわぁー (素敵! 素敵亞里亞様ッ!)



兄は亞里亞の歌う姿を見つめて幸せそうに微笑んだ。
気づかれないように、こっそり亞里亞のケーキを一口取って食べる。
「あ、ほんとだ。すげえ美味いわ、これ」
ステージ上の亞里亞に心の中で問い掛ける。
なあ、亞里亞……

(次はどこのケーキが食べたい?)





あとがき

おつかれさまです。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

SS書き歴約3週間の妄想戦士であります。
カッツォさん、HP開設おめでとうございます。
HPの開設記念……というにはヘタレSSで申し訳ないんですが、どうかお許しくださいませ。
HPの方にも通わせていただきますです、ハイ。

今回のこれは私の4作目であります。所要時間は6時間(汗
亞里亞が亞里亞じゃないです、お許しください。
やはりアニメで見ただけだと厳しいです。

相変わらず書きたいシーンを並べただけであります(汗
中途半端。
亞里亞の誕生日が11月2日で蠍座と知り「亞里亞に『さそり座の女』歌わせたいな」
と、そんな下らない動機で作りはじめて、で気がついたらこんな風になっていた、と…
ぬぅ。
結局処女作からここまでまったく進歩することなく4作目まで来てしまいました。
いかん。
これはいかん。
ということでカッツォさん、これからもよろしくご指導のほどを(笑

ちなみにマウスボールというのはあれです、あれなプレイで使う拘束具。
穴の開いたピンポン玉らしき物体の両端にヒモがついてるヤツです、口ふさぐやつ。

読んでくださった方々もご意見・ご感想・アドバイス等、是非、気軽にお寄せください。
きっと私は虎次郎さんのように悦び狂います。
(添付ファイル付きメールは問答無用で見ませんが)

それではこのへんで。
カッツォさん、HPの運営がんばってくださいね。
では。

02/04/02 妄想戦士 カッツォさんのHP開設に寄せて


妄想戦士さんへの感想はこのアドレスへ
kiken_mousou24h@infoseek.jp

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