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「クリスマス恒例!」
「持ち芸披露大会、IN、2007!」
「ワ〜〜〜!」
「ヒューヒュー!」
「今年はゲストもいるのよ!」
「ただし史上最遅、なんと1月25日さえ過ぎておりますわ!」
「たぶんもう誰も見てないデス!」
「というか覚えている人がいるのかがそもそも疑問ですの!」
 と、いうわけで。
 何気に7回目なんですこの企画。
 今年も始まるんですよ。


聖夜のお楽しみ IN 2007 〜with ゲスト〜

作者:カッツォ

「えー、ではまずはゲストの紹介から」
 ババンと、並んだ俺と妹以外の12人。
「スタンプ・デッドの皆さんです!」
 スタンプ勢の皆様を代表して、彗さんが前に出る。
「えー、昇神彗です。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
「はいはいー。そんなわけで、スタンプ・デッド完結記念ってな感じでこっちにも来ていただいちゃいました。んじゃまぁ、堅苦しい話はここまでってことで」
「あいよ、了解」
 オープニングも終了し、俺も彗さんもくだけた感じに。
「んじゃあ、始めていきますぜー」
 ちなみに形式としては、ウチVSスタンプチームの団体戦みたいな感じで。


「えー、では第一回戦は……400m走です!」
 ちなみに司会・進行役は俺です。
「シスプリチーム、衛!」
「はーい!」
 スポーツウェアに着替えた衛が、元気よく前に出る。
「スタンプチーム、井上さん!」
「はい」
 一方、こちらは静かに井上さんが前に出る。
 なんかよぅわからなんが、貫禄? みたいなのがあるな……これが、シリアスもある作品の人ってやつなのか?
「位置について……」
 衛と井上さんが、クラウチングスタートの体勢で位置につく。
「よーい」
 それを確認して、スターターの鞠絵が銃を上に向けた。
「……って」
 鞠絵!?
 なんで鞠絵がスターターやってんの!?
「ちょっと、待……」
 あぁ、もう展開が読め……
「スタート!」
 パン!
 俺が止めようと駆け出すよりも早く、スタートの合図が鳴り響いた。
 そして。
「あぁ……」
 衛と井上さんが駆け出すのとほぼ同時、入れ替わるように鞠絵がフラリと倒れ伏した。
「鞠絵!」
 まるで俺も合図と共に走り出したかのよう。慌てて鞠絵に駆け寄る。
「兄、上様……発砲のショックが大きく……」
「うんそうだと思ったよ!? つーか、そうなるってやる前からわかってたよね!? なんであえて鞠絵がやってんの!?」
「倒れ芸……」
「それ芸だったの!? 最早貫禄だな!」
 その言葉を最期に……いや最後に、鞠絵は力尽きた。
「うぉ……衛生兵! 衛生へーい!?」
「呼んだかな?」
 振り向くと、すぐそこには人がいた。少しよれた白衣を羽織った、マッドサイエンティスト風のその人は。
「あれ、襟木(兄)さん……? いや別に呼んでませんけど……」
「いや、確かに呼ばれたぞ」
「はい……?」
 俺が呼んだのは「衛生兵」、つまり医療班。
「私が今回の医療担当だ」
「ちょっと待て」
 襟木(兄)さんの肩を掴んだのは、彗さん。
「何の冗談だ?」
「別に冗談を言ったつもりはないが」
「じゃあ今すぐ帰れ」
「そうはいかない。この少女を救わねばならないからな」
「実験台にしなければならない、の間違いじゃないのか?」
「否定はしない」
「いやそこは否定しとけよ!」
 何か恐ろしいことを言っている気がする。
 が、よく考えてみれば。
「いや彗さん、鞠絵のことは襟木(兄)さんに任せていいんじゃないかな」
「うぇっ!? いや、そりゅ妹さんの危機……」
「うん、よく考えたらさ。襟木(兄)さんがやってなきゃ、たぶんキャラ的に医療担当は鞠絵だったと思うんだよね」
「それがどういう……」
「……なんだかんだで、襟木(兄)さんの作った薬が”人体に重大な被害”を及ぼしたことってないはずですよね?」
「えー……? いや、うんまぁ……そう……かなぁ……? 俺に使われた薬の副作用が未だにわかってないけど……」
「その”実績”がないだけ、鞠絵よりは信用できるんじゃないかなぁ、なんて思うわけです……」
 まぁつまり、鞠絵には”そういう実績”があるわけなんですけどね。
「……………………」
 その一言で察してくれたのだろうか。
 彗さんは、なんか可愛そうなものを見るような目を向けてきた。
「……大変だな」
「お互いにね……」
 俺と彗さんには、どこか通じるものがある気がする今日この頃です。
「というわけで、鞠絵のこと頼みます」
「あぁ、未来の薬品業界を担う男に任せておくがいい」
 と、襟木(兄)さんは彗の方を見て。
「では運んでくれたまえ」
「は? いや、あんたが今頼まれたばっかだろ……?」
「君は、この私に人一人が運べると思っているのかね?」
「……了解」
 それだけで通じたのだろう。彗さんは素直に鞠絵を背負った。
「それじゃ、お願いします。本当は、兄である俺の役目なんだけど……」
「ん、いいよ。そっちは、進行役があるんだし。ついでにウチのが変なことしないか見張っとくわ」
「はは、よろしく」
 俺と苦笑いを交し合ってから、彗さんは襟木(兄)さんと共に鞠絵を運んでいった。


「さて。競技の方は、と……」
 鞠絵の方も一段落つき、本来の競技に目を戻す。
 まぁ、つってももう終わってるんだろうけど。
「やっぱ衛の勝ちかな……って、あれ?」
 おもわず目をこすってしまったほどに、目の前の光景が信じられなかった。
 競技が、まだ続いていたのである。
 しかも。
「すげぇ、衛と互角……」
 衛と井上さんは、ほぼ並んだ距離を保ち続けていた。
 そう言葉で言うのは簡単だが、”あの”衛と互角って……
「……いや、ていうか。なんか衛、遅くね?」
 別に井上さんのことを舐めてるわけじゃない。
 ただ、正直衛が本気になれば、今俺がこんなことを呟いている時間で世界一周とかもできたはずだ。
 もしかして、空気読んで手加減でもしてんのか……?
「いや……衛くんにそんな知能はないよ……」
「千影?」
 気が付くと、隣に千影が立っていた。
 それ自体は別にいいんだが、何気に酷いこと言ってるぞ……
「けど、そんじゃあなんで……」
「あれは……”世界(ワールド・トラクション)さ……」
「なに! 知っているのか千影!」
「世界には……その世界ごとの物理法則が存在する……例えばパイナップルを投げてメルトダウンを起こせる少女がいる世界もあれば……壁を砕くだけで驚かれる世界もある……主人公を包丁で刺し殺す世界もいるのさ……」
「なんか最後変なの混ざらなかったか? ”ある”じゃなくて”いる”って言わなかったか?」
「そしてそんな世界が……何らかの要因で混ざり合った時……世界の法則は……混ざり合うか……あるいは、どちらかの世界に上書きされる……(民明書房刊『世界の仕組み』より)」
「つまり、今は向こうさんの世界の法則に引っ張られてるから、衛も普通の人間並の性能しか引き出せないってことか?」
「さすが……察しがいい……今の衛くんでは……400m、せいぜい51秒フラットが限界だろう……」
「それでも、日本記録に並ぶ勢いなんだが……」
「フフ……どうやら完全に向こうの世界に引っ張られているわけではない……いや……相手も互角に走っているところを見ると……向こうの世界でもその程度の無茶はできるということか……」
「ふむ……じゃあそれはいいんだけどさ。そのペースにしても、俺がさっき鞠絵んとこにいる間に競技が終わってなきゃおかしいと思うんだけど……」
「描かれていない部分は……ないも同じ……つまり……兄くんたち以外の時は止まっていたも同然なのさ……」
「どんな理屈だ……つーか、ここでこうやって話してるだけで余裕で数分は過ぎてないか?」
「フ……解説役の時間は選手よりも遥かに早く流れると……相場は決まっているのさ……」
「だからどんな理屈だ……」
「ほら……もうそろそろゴールだ……」
「あ、ホントだ」
 俺たちの前で、ようやくゴールテープが切られた。
「フフ……肝心の彼女たちの様子が……一切描かれなかったね……」
「……言うな」
 ちなみに、写真判定の結果鼻差(というか胸の差?)で井上さんの勝利だった。
 タイムは50秒57、見事女子の日本新である。
 つーか、50秒ちょいの間にどんだけ俺色んなことしてたんだよ……


「あー、では次。春歌と弓さん、競技は……剣道です!」
 俺の紹介と共に、両者が歩み寄る。
 お互い防具に包まれ竹刀を握る、その姿は様になっている。
 東西(?)本格派の対決、といった感じだろうか。
 始まる前から、こちらにまで緊張が伝わってくる。
「始め!」
 俺の合図と同時、春歌が駆ける。
 これは……速いっ!?
「面っ!」
 神速……まさしくそう称するに相応しい一撃が、弓さんの頭を襲った。
 決まった……むしろこれ、頭カチ割る勢いじゃね? 大丈夫か本当に……?
 なんて思ったのは束の間。
「うぉ……」
「……へぇ」
 春歌の口からも感嘆の声が漏れていた。
 弓さんは、電光の一撃をしっかりと受け止めている。
「さすが、やりますわね。けれど、まだ全力ではない……でしょう?」
「今のだけでわかったんだ。そっちこそ、さすがだね」
 一太刀合わせ、お互い何か通じるものがあったのだろうか。
 二合目の打ち合いにいく気配はなく、互いにむしろ距離をあけた。
「けど残念。”この競技じゃ”ボクの限界なんてこんなもんだよ」
「なるほど……つまり、お互いホームグラウンドではないということですか」
 面に隠れ、二人の表情はこちらからは見えない。
 しかしなぜだろう、二人が不敵な笑みを浮かべているのであろうことは容易に想像できる。
 果たして、面の下から出てきた二人の顔には想像通りの表情があった。
 ……ってちょっと待て。出てきたって何?
 あれ? なんで二人とも面とってんの? なんでその上胴まではずそうとしてんの?
「あの、何やって……」
「兄君さま。ワタクシ、久々に死合える相手を見つけましたわ」
「え? 死合いって何言って……つーか、なんで薙刀に持ち替えてんの? それ真剣だよね?」
 なんかマズい雰囲気だ。
 こりゃ、一旦試合中断した方が……そう思って弓さんの方を見ると。
「行くよ……天ちゃん」
『おぅょ』
「あれ!? なんかこっちも臨戦態勢!?」
 弓さんの方も、なんか刀の人(?)に話しかけてやる気満々っぽい。
「いやあの……これは、あくまで剣道の試合であって……」
「せいやぁ!」
「ふっ!」
 どう止めようとか思っている間に、勝手に戦いの火蓋は切って落とされてしまっていた。恐ろしい速度で、白刃が二人の間を舞っている。間違って間に入りでもしようものなら、一瞬にしてミンチ確定だろう。
「あわわ……どうしよう……」
「お兄ちゃま、お兄ちゃま!」
 うろたえる俺の袖がクイクイと引かれる。花穂が上目遣いで見上げてきていた。
「な、なんだ花穂? 今、見ての通り忙しいんだが……」
「あのね、お兄ちゃま。プログラム、次に進めてほしいの」
「はい……? いや、こんな時に何言って……」
「こんな時だからこそだよ、お兄ちゃま!」
 両拳を握り、なぜか花穂は力説する。
「よく見てよお兄ちゃま、次のプログラム!」
「次……?」
 仕方なしに、俺はタイムテーブルを確認する。
「次……えっと、花穂とカプさんで応援合戦?」
「そうなんだよ、お兄ちゃま!」
 いや、そうなんだよって言われても……
「やっぱり、こんな時にんなことやってる場合じゃないだろ……」
「違うよ! 花穂たちの応援でみんな心が元気になって、きっと世界は平和になるんだよ!」
 世界規模っすか……つーか、普通に考えて応援ってむしろ煽りだろ……
「……わかった、好きにやってくれ」
 まぁ、やってたところで特に問題もないだろう。
 とにかく今はあの戦いをどう止めるのか……つーか、止められるのか……?
「フレー! フレー! お兄ちゃま!」
 なんて思っていると、花穂の応援が始まったようだ。つーか、なんで俺を応援する。
「がんばれー、お兄やんー」
 お子様ランチについているようなちゃっちぃ日本国旗を振りながら、カプさんもなんか応援していた。やる気はなさげだが、なんだか楽しそうだ。そんで、なんであなたまで俺を応援してるんですか。
「頑張れ頑張れお兄ちゃ……あっ!?」
 と、ここで花穂の固有スキル”ドジ”発動。振り回していたバトンが俺の方に飛んでくる。
「……ふんっ!」
 だがその程度は既に想定済み!
 俺はその一撃を軽々と避けた……と、思ったら。
「おごっ!?」
 ブーメランよろしく、戻って来たバトンが後頭部を直撃した。
「お兄ちゃま、大丈夫!? ふえーん、ごめんなさーい!」
「いや、いいから……いいからそのもう片方残ったバトンを振り回さないでうあぁぁぁぁぁぁ!?」
 二本目のバトンが飛んできた。
 そして、その頃には花穂は一本目のバトンをキャッチ。さらに投擲。徐々にスピードを増し、二本のバトンが俺の周りをブンブン回る。
「いやなにこれどういう状況!? どうやったらこうなんの!?」
 ……ともあれ。
 これで俺も伊達にお兄ちゃまをやってるわけじゃない。この程度の状況ならば、一応は想定の範囲内なのである。
 真の地獄は、これからだった。
「あ、なんやそういうルールやったん? それなら、ちょっとだけ得意かな〜」
 無駄に鍛え抜かれた俺の第六感が告げる。これは……ヤバい!
 声の聞こえた方に目を向けると、カプさんは懐に手を入れていた。
 そして出てきたのは……黒い金属塊。
「いや、待……違いますから、そういうルールじゃ……」
「そんじゃ、こっちもいくでー」
 パン、と乾いた音が響く。
 一瞬にして、体の六ヶ所を銃弾が掠った。
「ストッ……ストップ! ストォップ!」
 必死に叫ぶが、飛び交う銃弾はやみそうにない。
 ついでに、いつの間にか宙を舞うバトンは2本から7本に増えていた。どういう原理でそうなったのかは不明である。
 危険であることは報せてくれても、既に回避不可能なので意味がない。そんな、役に立たない俺の第六感なのだった。


「し、死ぬかと思った……」
「むしろよく生きてたな……」
 どうにかこうにかカプさんの弾、花穂のドジ力が尽きるまで生き抜き、命からがら生還した場所で彗さんが驚き顔で立っていた。
「俺だったら、生身でカプの攻撃食らって生きて帰れる気がしないんだが……」
「そこはまぁ、そういう世界の住人ですから……痛いですけど」
「そうなのか……あぁ、妹さんはどうにか持ち直したみたいだ。何回か心臓止まった時は焦ったけど……」
「あぁ、心臓止まるくらい鞠絵的には余裕……って、今まさにそこで命のやりとりをしている人たちが!」
 自衛に必死で忘れてたぜ……でもまぁ、そこは許して欲しい。
「ははは、嬢ちゃんの方が7発多く入っとったなぁ。ワイの完敗やわ」
「ううん。カプさんの応援も凄かったよ。花穂も、今度あれ覚えてみたいなぁ」
「ん、オッケイ。教えたるよ」
「ホント!? やったぁ!」
 ……と、恐ろしいことを言ってる奴らもいるがそれはまぁ置いといて。
 今問題なのは。
「いやっ! せっ! たあっ!」
「ふっ! ほっ! はっ!」
 まるで二人を中心に暴風が起きているかのよう。
 白刃から反射する光が、二人をキラキラと飾り立てている。
 その一閃ごとに服が裂け、髪が切れ血が舞う。
 ちょっと目を離している隙に、戦いはさらに激しさを増していた。
「おぉ、すげぇな。あの状態の弓と互角に渡り合えるのかよ」
 彗さんは素直に感心しているようだ。そこに焦りの気配などはない。
「感心してる場合じゃないってば。てか、さすがっていうなら弓さんの方がさすがすぎる……」
 たぶん、今の春歌は限りなく”普段の”春歌に近い。一方の弓さんは、確かに速いがあくまで”向こうの世界”での速さ。
 あの速度差で、なんで渡り合えるんだ……?
「まぁ、弓なら数段上程度の速さとならテクでどうにかなるからな……それでも押されている、か……」
 確かに俺の目から見ても、徐々に弓さんは防戦一方になりつつある。
 そして、ふとした拍子をきっかけに一気に攻防は決した。
 ギンッ! と金属が鳴った、次の瞬間。
「……うん。ボクの負けだね」
 弓さんの首筋に、刃が突き立てられていた。
「すごいね。ここまで真正面でぶつかって負けたのなんて久々だよ」
「いえ……ワタクシは、最初から大きなハンデをいただいていたようなものですもの。同じ部隊でなら、こうは参りませんでした」
 春歌が差し伸べた手をとり、弓さんが立ち上がる。
 そして、その手はそのまま握手となった。
 二人の間には、確かな友情のようなものが感じられる。
 おぉ、すげぇ……なんか今日初めてまともに勝負があってまともに決着がついた気がする。
 まぁ、最初剣道勝負だったはずがなぜかいつのまにか真剣勝負になってた、という点を除けば、だが。
 ……うん、やっぱりあんまりまともじゃなかったかも。


「えーと、そんじゃ次は……ピアノ対決! ウチは、もちろん可憐!」
「はい、お兄ちゃん」
 ニッコリと微笑んで、可憐がグランドピアノの前に歩み出る。
「そしてスタンプチームは……朱麗さん!」
「任せたまえ」
 こちらは不敵な笑みで、朱麗さんも同じく歩み出た。
「おいおい……ピアノとか、弾けたのか?」
 彗さんが意外そうに尋ねる。
「ふっ……どれだけの時を生きてきたと思っているんだ? ピアノをひくくらい造作もないさ」
 自信たっぷりに、朱麗さんは答えていた。
「それじゃ、早速準備タイム……ん?」
 進行表には、”ここで準備タイム”と書かれている。
 けど、ピアノの準備タイムってなんだ? 精神統一でもするのか?
「よーし。可憐、頑張ります!」
 うん可憐、頑張るのはいい。いいんだが、なぜ君は凄く丈夫そうなロープをピアノに結び付けているんだい?
「では私も」
「は? 死神の鎌……? いやおい、何を……!?」
 彗さんの戸惑いもご尤も。朱麗さんは、手の中に巨大な鎌を作り出したかと思うと……ピアノに、突き刺した。
『準備完了!』
 そして、二人から準備完了の合図。
 え、何これ? 片やピアノにロープ結んで、片や鎌を突き刺して。
 何? これから何が始まるの? とりあえず始めの挨拶すればいいの?
「え、えっとじゃあ……始め?」
 疑問型な俺の合図とほぼ同時。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 可憐がロープを、朱麗さんが鎌を、それぞれ”引いた”。
 フレイルよろしく、可憐の引くロープの先でピアノが飛ぶ。
 そして飛来したそれを、ピアノをハンマーのごとく引き回し朱麗さんが迎撃する。
 二つの巨大な塊が衝突した刹那、ガショグガビロバロボロガジャバロン、とえらい音が鳴った。
 あまりの音に目を瞑ってしまい、次に目を開けた時。
 俺たちの前には、無残に崩壊し、融合し、最早ほとんど原型をとどめていない。ピアノ様(の残骸)が散らばっていた。あまりの出来事に、俺や彗さんが絶句する中。
「ふむ……引き分けか」
「そうみたいですね」
 当の二人は冷静に、ピアノの残骸を見ていた。
「いい試合だった、ありがとう」
「いえ、こちらこそ。可憐、この試合が一生のもいでになりそうです」
 そして二人がガッチリと固い握手を交わす。二人の間には、確かな友情? のようなものが……って……
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
 俺と彗さんの声が重なった。
「ひくって何、もしかしてそういう意味なの!? 弾くじゃなくて引く!? そういう物理的な意味で!? それにしても無理があるわ!」
「つか今の勝敗判定何によって決められたんだ!? あとそれ決して美しい友情が生まれてるシーンじゃないからな背景的に!」
 あ、後半彗さんが言ってくれた。もう一人ツッコミがいると楽だなぁ……


「あー、では気を取り直して。次は、えっと……お遊戯です! 雛子、愛生さん!」
「はーい!」
「はいはーい」
 雛子が元気よく、愛生さんがにこやかにお互い歩み寄る。
 子育て経験済みの愛生さんに、現役お子様の雛子か。こりゃ、ほのぼのした感じになりそうでいいな。
「それじゃあ、そろそろ始めようかしら?」
「うん!」
 愛生さんの歩幅で約三歩、雛子だとたぶんその倍くらいだろうか。
 そこで立ち止まり、二人はお互いニコニコしたまま向かい合う。
 ……そして、そのまま何も起こらない。
「……?」
 何も起こらない。
「?」
 3回書いても、やっぱり何も起こらない。
「あの……これから何が始まるのか、わかる?」
「……さっぱりだ」
 彗さんにもわからないらしい。
 そして、どれほどの時間が経っただろうか。
「……ふぅ」
 と、愛生さんが汗を拭う仕草。
 そして。
「……ヒナ、負けちゃったの」
 雛子が膝をついた。
『???』
 俺と彗さんの頭には、疑問符がたくさんである。
「……なに? 何が起こったの?」
「あれは……『イメージバトル』……」
「なに! 知っているのか千影!」
 つーか、また出てきたのか君は。
「フフ……私くらいしか……解説できる者などいないだろう……?」
 まぁ、そうなんだけどさ。つーか、モノローグと会話するのやめなさい。隣で彗さんが不思議そうな顔してんでしょうが。
「で、イメージバトルってのはなんなんだ?」
 彗さんが千影に尋ねる。
「あれ、つーか千影がいきなり出てきたことに関してはスルーですか」
「まぁ、ウチにも似たようなのがいるから……」
 いや、でも向こうの世界って魔術とかそういうのはなくなかったっけ……?
 ……まぁいいや。千影、解説頼むわ。
「兄くんも……イメージトレーニングというのは知っているだろう……?」
「うん、まぁ。シャドーボクシングとかも、そういうのなんだろ?」
「そう……それも熟練してくれば……横から見ている者にもまるで相手が見えるようだという……さらに真の達人になれば……イメージトレーニングをリアルに具体化……架空の相手の攻撃で実際に傷を負うこともあるという……」
「……それ、なんて範馬刃牙?」
「そして……それを究極進化させたのがイメージバトル……互いに目の前の相手を”架空の相手”としてイメージ……自分の頭の仲で戦うのさ(民明書房刊『究極の戦い』より)……フフ……一歩も動いていないように見えて……それぞれの中じゃ激しい戦いが繰り広げられていたんだろうね……ともあれ……所詮実際に体を動かさないこの戦いは……まさに”お遊戯”みたいなものなんだろうね……」
「えー……?」
 なんかすげーうさんくせー。
 とはいえ。
「おねーちゃん、とっても、とーっても強かったよ!」
「あらら、おねーちゃん? 二重に嬉しいわ、ありがとう。でも、お嬢ちゃんがあと10年早く生まれてたら結果は違ってたかもしれないわね」
 愛生さんの差し伸べた手を雛子がとり、二人は固い握手を……って。
「それもう3回目だよ!」
「……色々置いといてさ」
 彗さんが、どこか固い表情で俺を見る。
「あの歳で母さんに認められるって、おたくの妹さんは何者なんだ?」
 うわーい、ホントに色々置いてちゃったみたいだ。
 まぁしかし。
「……それは、俺も常々知りたいと思ってます。
 とりあえず、俺にはそれくらいしか言えないのだった。


「えー……今のところ、2勝2敗1分け。大変いい勝負となっています。では、次は……ガチバトル?」
 ガチバトル?
「っていや、さっきからほとんどガチバトルしかしてないだろ!」
「何をおっしゃっているのですか、兄君さま? 今までに勝負の方法が死合いだった試合など、ワタクシたちだけではありませんか」
「そうだよぉ。花穂たちは応援だったし」
「可憐は音楽だったよ」
「私たちはお遊戯してただけだもんね、雛子ちゃん?」
「うん!」
 ……まぁ、あえてもう何も言うまい。
「……………………」
 彗さんが、無言で肩を叩いてくれた。
 アンタだけが最後の良心だよ……
「えーと、それじゃあ改めて……次はガチバトル。ルール無用、倒せば勝ちのシンプルにして恐ろしいルールです。競技者は、茶玖さんと……え? 咲耶? ……マジで?」
「えぇ、もちろんこの競技といえば私しかいないでしょう!」
 やたらと張り切った様子で、咲耶が歩み出てくる。
 これはなんというか……さすがにマズいんじゃないか?
「おいおい、大丈夫か? 俺ぁ女相手でも手加減しねぇぜ?」
 こちらも嬉々とした様子で茶玖さん。
 恐らく彼も、こういうのがホームグラウンドなんだろうけど……
「あの……彗さん」
「うん?」
「茶玖さんって、その、例えば……神様とかって殺せたりするのかな?」
「はい……? いや、一応あれも死神って分類だけど……え? いや、なんで?」
「お兄様ー! 早く始めの合図をちょうだい!」
「おぅ、さっさとしやがりな!」
 話し終える前に、当の二人から最速がかかる。双方、やる気満々だ。
「えーと……よくわからないけど、とりあえず俺が止めたところでやめるような奴ではないぜ?」
「みたいね……」
 仕方ない……
「始めっ!」
 半ばやけくそ気味な俺の合図。
「よっしゃ、行く……ぜおぁ!?」
 手に鎌を作り出し、勢いよく飛び出しかけた茶玖さんだが、突然何かにはじかれたように急制動をかけた。かと思えば今度はバックステップで急激に距離をとり、咲耶はまだ何もしていないのに『壁』を作り出す。
「ふふ……素晴らしい危機管理能力ね。ご褒美よ」
 手の中にある”何か”に、咲耶はちゅっと口付けた。
 そして、それを……投擲。軽い動作であるはずなのに、その軌道はおろか出始めさえも俺には見えなかった。
「う、お……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 一瞬にして”何か”は茶玖さんの『壁』に命中。
 せめぎあうようにお互いが拮抗し合い……ピシリ、『壁』にヒビが入った。
 しかし、咲耶の攻撃もそこで止まる。
 茶玖さんの『壁』が防ぎきった……というよりも、”何か”が消滅したっぽいか?
「すごい、やるじゃない!」
 嬉しそうに、咲耶はパンと手を叩く。
「……づ、……はぁ……はぁ……」
 一方の茶玖さんは、一撃で大きく息が上がっていた。
「じゃ、次はこのあたりいってみようかしら」
 そう言って咲耶が取り出したのは……キウイ、だった。
「ちなみにさっき投げたのはライチ。さっきよりも長持ちするわよ?」
 ……なぜ果物でなければならないのだろうか。
 そんな素朴な疑問は置いておくとして、咲耶は先ほどと同じモーションで投擲。
 それがキウイの威力なのか、はたまた先ほどの一撃で既に茶玖さんの方に限界だったのだろうか。
 今度の一撃は、あっさりパリンと『壁』を割った。勢いそのままに、キウイは茶玖さんの横を通過していく。
 ジュン、というのは髪か何かが蒸発した音だろうか。
「さて、次は夏みかんあたりかしら。ちなみにパイナップルまでいくと私のフルパワー使い切るまでもつんだけど、あなたの方がどこまで原型をとどめていられるかしらね?」
 そんな、咲耶の凄惨な笑みに。
「……あー」
 茶玖さんは、こめかみに指を当て目を瞑った。
 なんというか、ヘビメタのライブ会場だと思って入ったら実はそこがアニメ声優のコンサート会場だった、なんて状況に遭遇でもしたかのような顔だ。
「うん、オーケイ」
 やがて、茶玖さんは目を開ける。
「オレ、棄権するわ」
「そ、賢明な判断ね」
 うん、俺もそう思う。
「ったく、なんだありゃ……死神の大群相手にしてた時の方がまだかわいげがあったぜ」
 うん、俺もそう思う。
 ブツブツ言いながら悔しいというよりは「納得いかない」とでもいうような表情で茶玖さんは退場していく。
 かわいそうに、強そうなのに……咲耶相手じゃ、文字通り”住んでる世界”が違いすぎるぜ……
「……なぁ、時に千影よ」
「なんだい……兄くん……」
「”世界牽引(ワールド・トラクション)ってさ……最初以来働いてる気配がないんだけど……」
「……フッ」
 あ、笑ってごまかしやがった。


「えー、では次。河合先生と四葉! 競技は……チェキ対決? って、何やんの?」
「フフフ……よくぞ聞いてくれましたネ、兄チャマ!」
 四葉が、デンと胸を張る。
「ジツは、勝負はスデに始まっているのデス!」
「……何を勝手に始めてるんだ」
「勝負のトクシツ上、仕方なかったのデス……なぜなら、勝負は兄チャマ隠し撮り対決だからデス!」
「しかも俺なのかよ!」
「ハイ。昨日一日、お互いに兄チャマを陰から激写! してたのデス!」
「マジか……」
 まったく気付かなかったぜ……
「悪いけど、撮らせてもらったよ。いや、了承済みだと思っていたんだけどね……無断だったとは、申し訳ない」
 苦笑いで河合先生が言う。
「いや、もういいですよ……いつものことですしね」
 はは……と、俺の方は乾いた笑い。
「で、それはもう仕方ないからいいんだけど。それ、勝敗どうやってつけんの?」
「兄チャマのベストショットを撮ったほうの勝ちデス!」
「だからそれをどうやって決めるんだ」
「モチロン、判定員は我がシスターズなのデス!」
 身内かよ……まぁいいや。
「そんじゃ、とっとと始めてくれ」
「というか、もう始まってマス」
「ん……」
 そういやさっきからウチの奴らが集合してるな。
「思ったよりよく撮れてるじゃない。四葉ちゃん、これ一枚譲ってもらえるかしら?」
「オーケイ、1500円になりマス」
「あらお安い」
「お前ら、それでいいのか……?」
 色々と疑問を感じつつも、ヒョイと覗き込んでみる。
 なるほど確かに、遠方からゆえに小さめに写っているものも多いが、よく撮れている。さすが気付かれていないだけあり(自分で言うのもなんだが)、自然な姿の俺が売っていた。
「そんじゃ、次は河合先生の方お願いします」
「うーん、無許可だったとすると気が引けるなぁ……」
「いや俺は気にしませんので。ドバッといっちゃってください」
「そうかい? では……」
 そして河合先生は胸元からドバッと写真を出した。
 マジでドバッと出た。
 本当に昨日1日で、撮ったのか、それ以前にどうやってこの量を収納していたのかが疑問視される量である。
 さらに。
「え、なにこれすごい……」
 感心した咲耶の声にも頷ける。
 四葉よりも遥かに鮮明に写っている俺の姿。
 というか近い。ものすげぇ近い。普通に首上アップとか多いし。
 それだけならば、望遠レンズとか機械の性能差かともとれるのだが。
「こ、こここここここれはおいくらで譲っていただけるのでしょう!?」
 春歌がドバドバ鼻血を出しながら見ている写真とかは。
「んなっ!?」
 俺の入浴シーンだった。
 しかも、隠しカメラとかそんなもんでどうにかできる画質じゃない。
 風呂の中にそんなに空間があるわけでもなし、これはもう明らか近距離で撮った写真だとしか思えない。
 一番大事なところ(だけ)は写されていないというこの気遣い(?)に、感謝すべきなのかどうなのか。
「い、いつのまに……というか、どうやって……」
 こんなもん、一緒の風呂場にでもいなきゃ無理だと思うんだが……
 もちろん、昨日の風呂場に河合先生がいたとかそんな事実は一切ない……はず……なんだけど、たぶん……
「私は忍者だからね。このくらいはこなさないと」
 忍すげぇ……いや、それで納得していいことなのか……?
「あぁ、欲しい写真があれば好きに持って行って構わないよ」
「マジで!? タダなの!?」
 鈴凛の目も輝く。
「うん、私が持ってても仕方ないしね」
 まぁ、そりゃそうだろうけど……
「お前ら群がりすぎ……」
 四葉まで混ざってるし……お前、それでいいのか……?
 こりゃ河合先生の圧勝っぽいな……つーか、何者なんだよあの人……


「えー、いよいよ終わりが近づいてきました。続いては鈴凛と真くん! 勝負方法はズバリ、ロボ対決です!」
「フフフ……ついにきたね、私の出番が!」
 マッドサイエンティスチックな笑みを浮かべ、鈴凛は高らかに手を上げる。
「いでよ! メカリングレート!」
 瞬間、ゴゴゴと地面が揺れ始めた。
 そして、地面の一部が割れ……その下から、巨大なロボが現れる。
 基本造形は、通常のサイズのメカ鈴凛を若干デフォルメしたような感じ。大きさ的には、ざっと5mはありそうな感じだ。
「メカリングレート、ちょっとだけ力を見せてやりなさい!」
「メカー!」
 なんかあからさまにおかしい鳴き声(?)を発し、メカリングレート(以下メカグレ)が両手でガッツポーズのように手を上げる。
 そして、パカリと口を開けたかと思うと。
「メ゛ガー!」
 その口から、光線が発射された。
 巻き起こる爆発。光線は俺たちと逆方向に放たれたにも関わらず、すさまじい熱風が俺たちを襲う。
 煙がもうもうと上がる。そして、それらが全て晴れた後。
「……うお」
 山が一つ消滅していた。
 ……いやそりゃね? 俺らだから、気軽に”山が一つ消滅していた”とか言えるわけだけどね?
 チラリとスタンプ勢の方々の方を見ると。
「……………………」
 やはりと唖然としていらっさる様子だった。
「おい鈴凛、ちょっとは加減っていうか常識ってもんを考えろ……」
 ホント、世界牽引(ワールド・トラクション)って何なんだよ……
 と、そこでふと気付く。
 なんか、真くんだけは驚いてないような? いや、驚いてても表に出てないだけか?
「GO」
 そんな真くんが、小さく淡々と呟いた。
「DRM−1……サイズ、L」
 しかし何も起こらない。
 他の人は、真くんがそんなことを呟いたことにさえ気付いていないのではないだろうか。
「……?」
 俺が一人、首をかしげていると。
 ヒュウ……と、どこかから音が聞こえてきた気がした。
「?」
 キョロキョロと辺りを見回すが、音源らしきものは見当たらない。
 しかし音は徐々に大きくなっていく。
 やがてチラホラと俺以外にも気付くものが出てきたのか、何人かが辺りを見回し始めた。
 そして全員がそうし始めた頃、みなの視線……音源と予想される方向は、一致していた。
 すなわち上空。
 最早ゴゴゴ……と聞こえる音を伴って、雲の向こうからそれは現れた。
「んな……」
 見えてからは一瞬。
 信じられないような速度を伴った物体は、地面に落ちた……いや、降り立った。
 高さ100mくらいはあるのではないだろうか。ビルのような高さ。
 その質量とあの速度で落ちてきて”ドシン”程度で済んでいたのは、やはり何らかの制御がかかっていたのだろう。
 うん、なんつーかあれだよ。
 まぁ結局、つまりそれが何なのかを簡潔に表現すると……
 ドラ○もんだった。
 超巨大な。
「あ、えっと、これ、もしかして……」
 それを指差し、恐る恐る尋ねてみる。
「僕のロボ」
 真くんはコクリと頷いた。
「あの……つかぬことを伺いますが、彼はいつもこんなものを……?」
 半ば答えはわかっていながら、彗さんに尋ねてみる。
「いや……あんなもんあったらもっと物語簡単に終わってたよ……」
 ですよねー。
 スタンプ勢の皆さん、さっきよりもポカンとしてますもんね。
 ちなみに、今度はウチの妹たちの表情も同じような感じである。
 この場でただ一人の例外は、真くんだけ……いや、もう一人いるか。
「フフ……今度はこちらの世界に……牽引(トラクション)されたようだね……普通……自分たちの世界よりも物理法則がゆるい世界にはトラクションされにくいものなんだけどね……どうしても、自分たちの世界の常識にとらわれてしまう……」
「そうなのか……」
 っていや、感心してても仕方ない。
「えっと、それじゃ改めて勝負を……って、鈴凛?」
 鈴凛はあんぐりと口を開けて、DRM−1サイズL(以下DRL)を見ていた。口を開けたまま俺の方を見て、口を開けたままDRLの方を指す。
「……?」
 何のことかわからず一瞬戸惑う。
 が、すぐに言いたいことはわかった。
 DRLの足の下……メカグレのものと思われる破片が転がっていた。
 うん……この質量差だもんね……
「えっと……それじゃ、この勝負は真くんの勝ちってことで……
 なんか、咲耶の時と逆のことが起こったな……しかし、元々この世界の住人であるはずの(しかmそ、かなりぶっ飛んでいる部類であるはずの)鈴凛よりも遥かにぶっ飛んだもん出してくるとpは……恐るべし……


「それでは続いての勝負は料理対決! 対戦車は彗さん、そして白雪!」
「はいよ」
「はいですの」
 用意された特設キッチンに二人が入る。
 料理対決か……それを聞く限りは普通だな。
 でも今までの例からいって、たぶんまた途中でえらいことになるんだろうな……
「では、始めてください」
 半ば達観したような気持ちで、開始の合図を行う。
 二人は、まず野菜なんかを洗い始めた。うん、ここまでは普通だ。
 次に、包丁を使って切る。これも普通だ。
 鍋に水を入れ火にかける。やっぱり普通だ。
 以下省略。


 こうして、最後まで普通に料理は完成した。
「って、ちょっとにいさま! 省略しすぎですの! 姫の活躍がまったく描かれてませんの!」
「いや、だってホントに普通だったから特に描写するようなこともなかったし……」
「ムキー! 彗さんからも何か言ってほしいですの!」
「え、俺……?」
 いきなり話を振られ、彗さんは少し戸惑った後。
「や、俺は別に構わないけど。つーか、平穏無事に終わってホッとした」
 今までのを見ていて、やはり少なからず不安があったのだろう。言葉通り、彗さんの顔には安堵が見られた。
「それいろさ、さっき火を止めるタイミングで何か入れてなかった? 隠し味か何か?」
「むふん。さすが、よく見てますの。実はあれ、ケチャップですのよ」
「なるほど、それでコクを出すわけか……」
 と、二人は料理トークに花を咲かせ始めた。
 普段周りにそういうことを話せる人がいないためだろうか。白雪も嬉しそうに話している。さっきの不満も忘れたようで、ちょうどいい。
 感謝するぜ、彗さん。
「えー、では次はたった今作られた料理を用いた早食い対決! 円花さんに亞里亞、準備はいいですか!?」
「うわぁ……」
「おいしそうなの……」
 二人とも、涎を垂らしそうな勢いで目の前の料理を見つめている。
 準備は万端っぽいな。
「そんじゃ、開始!」
「いただきまーす!
「いただきます……」
 見た目に勢いよく食べているのは円花さんの方だ。あの体のどこに入るのか、次々と口に入れていく。
 一方の亞里亞、こちらは動き自体はスローリー。なのに、料理が減っていくペースは円花さんと同じくらいだ。気が付けば皿の上の料理が消えているというのは、まるで魔法でも見ているかのようだ。実際、俺でさえその原理は未だにわかっていない。
 二人分三人分と、二人は順調に片付けていく。
 そしてそれが二十人前に突入したあたりでも、二人のペースはほぼ互角だった。
「すげぇな……ホント、どこにあんなに入るんだ……? 円花さんも、こっちの世界に牽引(トラクション)されてんのか……?」
 こっちの世界じゃ、まさに亞里亞なんて例があるわけだしね。
「いや、円花ちゃんって結構こっちでもあんなもんだよ」
「マジすか……」
 弓さんの言葉に、驚きを隠しきれない。
「まぁ、さすがに毎日そんなに食べてるわけじゃないけどね。今日は、全部で三十人前だっけ? ほら、もうすぐ終わりそうだね」
 弓さんの言葉通り、二人ともが最後の皿に突入していた。
 双方、まったく苦しそうな素振りは見せていない。
 円花さんが残り一口分くらい、亞里亞の方にはその倍程度が残っている。
 これは、円花さんの勝ちか……? と思った矢先。
 ヒュン、と亞里亞の皿に残っていた分が丸ごと消えた。
 モグモグと咀嚼している亞里亞……そして、嚥下。
 円花さんの皿には、まだ一口分が残ったままだ。
 つまり……
「勝者、亞里亞!」
 そんな俺のコールとほぼ同時に、円花さんも最後の一口を食べきった。
 その顔は満足げで、悔しさなど微塵も感じられない。
「ふぅ、よく食べました……ところで、勝者って何のですか?」
 ……まさか、忘れてたのか。
「……や、大食い対決の」
「あぁ、そういえばそれしてたんでしたっけ」
 あはは、と円花さんは笑う。やっぱり悔しさは感じられない。
 恐らく、単純に沢山食べられて満足だったのだろう。
 隣の亞里亞も嬉しそうだが、こちらも勝利の喜びというよりは似たようなものだったのだろう。
「それと、これはさっきの料理対決の判定もかねてるんですが……どっちの方がおいしかったですか?」
「どっちもおいしかったです!」
「なの……」
 えー……てことは。
「んじゃ、さっきのは引き分けってことで」
 なんか、今回もすごく丸く収まったな。


「えー……それではいよいよ、本日最後の勝負となりました」
 ちなみに、現在の勝敗は以下の通り(敬称略)。
    衛   × ― ○ 井上秋乃(胸の差?)
   鞠絵  △ ― △ 襟木達也(なんか予定していたらしいが、鞠絵が倒れたためノーゲーム)
   春歌  ○ ― × 辻樹弓(真っ向勝負の結果)
   花穂  ○ ― × カプタイン(カプタインの自己申告)
   可憐  △ ― △ 朱麗(両者合意)
   雛子  × ― ○ 昇神愛生(雛子の自己申告)
   咲耶  ○ ― × 茶玖(茶玖の棄権)
   四葉  × ― ○ 河合純一(判定)
   鈴凛  × ― ○ 襟木真(圧勝)
   白雪  △ ― △ 昇神彗(円花と亞里亞の判定)
  亞里亞 ○ ― × 死之神円花(一口分の差)
「現在4章4敗3引き分け! なんと、この一戦で勝負が決まります! ラストの対戦車は千影! そして北京さん! 種目は……はい?」
 競技内容を見て、固まってしまった。
「フフ……どうしたんだい、兄くん……言えばいいじゃないか……」
「いやだってお前、これ……そもそもどうやって判定つけるんだよ」
「どうせこれは親善試合のようなもの……ここまでで引き分けならば……もうそれでいいじゃないか……」
「いや、それはそうなんだけどね?」
「さぁ……兄くんが言えないなら私が言ってあげよう……最後の勝負は……」
 キィン、と千影の手が光り始めた。
 ダメだ、もう止められない……
「悪魔召喚対決……いでよ……悪魔さん……」
 漆黒のゲートが開き、毎年恒例の悪魔さんが……
「ほっほっほ、ではワタシも、悪魔呼び香を沢山焚くアルヨ」
 いつもより2倍サービスしております、な感じでわんさか出てきた。
「なんつーかぶっちゃけもうこれ繰り返しすぎだと思う!」
「天丼……というやつだね……」
「天丼にしても7回もやらなくていいよ!」
「亞里亞のおやつ……今年もきたの……」
「へぇ〜、あれっておいしいんですか?」
「ダメです! 普通それ食べられませんから!」
「へぇ、悪魔退治か。天ちゃん、面白そうだね」
「ふふ……アナタと共闘できること、嬉しく思いますわ」
「さっきのライバルは今の友!? いや、でもありがたい! 今はむしろありがたい! 存分にやってくれ!」
「ふむふむ、カレールーを入れるといいのか」
「ですの。市販のもので十分ですのよ」
「ちょっと最後の良心さん!? なんでこの状況無視して料理談義に花咲かせてんの!?」
 と、そんなわけで今年もやっぱりやっぱりこんな状況で。
 今年はクリスマスに相応しい23の笑い声と、クリスマスに似つかわしくない1つの叫びが、遅くまで響き渡りましたとさ。









「メ・メリークリスマス……」
「メリークリスマス!」×23







あとがき


どうも、カッツォです。
メリークリスマスにしてあけましておめでとうございます。
そんな今現在、そろそろ一月も終わりですね(殴
しかし、こう名乗るのも一年ちょっとぶりですね。
ジャスト一年ぶりじゃないあたりが、私クオリティということで(死
いやぁ、しかし事は心から長かった……
下手こくと、スタンプ2章分くらいありましたよ。
本当に、毎年長くなっていきますね。
この分だと、数年後には1冊分くらいSSで書いているかもしれません。
まぁ、数年後までここが存続しているのかどうかが疑問ですけれど。
そもそも、今回見てくれている方はいらっしゃるのでしょうか?(笑
まぁそんな感じで、今回の更新でした。
そういや、結局去年は一回も更新しなかったことになるのか……

なお、今回からメールアドレスを変えました。
新しいアドレスは、s_ad☆live.jp(☆を@に変えてください) 以前までのメールアドレスは使えなくなります、よろしくお願い致します。

え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ、というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです……



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