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「クリスマス恒例!」
「もち芸披露大会、 IN、2005!」
「ハワイ風〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ワ〜〜〜!」
「ヒューヒュー!」
「今年もクリスマスぶっちぎってますの!」
「なんとか年中に間に合ったとは作者の言!」
「フフ……そこを目標にするとは……いい度胸だ……」
「というか、日付的には既に2006年ですわ!」
 と、いうわけで。
 迎えましたは5回目。
 今年も始まります。


聖夜のお楽しみIN 2005 〜ハワイ風〜

作者:カッツォ

「問いたい」
「なぁに、お兄様? はじまって早々」
 早々だからこそ聞いておきたいことがある。
「ハワイ風ってなんだ」
「そりゃ言葉通り、あたかもここがハワイであるかのように振舞うってことよ」
「そんなこたぁわかってる」
 ちなみにどのあたりがハワイ風なのかというと、まずハワイの風景が書き割りが俺たちの背後に設置されている。
 そして、俺含み全員が水着である。
「読者サービスですわ」
「絵がないこの状況下では全くもって無意味だがな」
 まぁ、それは別にいい。
「今年がハワイ風であること自体は別にいいんだ」
「作者の苦肉の策なの……」
「はい亞里亞! 余計なことは言わなくてよろしい!」
 え〜、それはともかく。
「ハワイ風な部分が書き割りと水着だけっていうのがアレな感じだが、それも別にいい」
「苦肉の策だから、あんまりひねりが……」
「だから余計なことは言わなくていいって亞里亞!」
 あー、つまり何が言いたいのかというと。
「なんで開催場所が外なんだ!」
「だってお兄ちゃん、せっかくのホワイトクリマスなんだよ? 外に出なきゃもったいないじゃない」
「だからだよ! ホワイトクリスマスだからこそ中でやるべきだろ! どこの修行者だ俺たちは!」
 はい、すごい雪積もってます。
 足元埋まってます。
 ちなみに、上着どころか靴の使用すらも許可されていません。
「死ぬって普通に! 生命が危機に晒され……鞠絵が倒れて雪に半分埋まっとるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「うふふ……ホワイトクリスマスに天使さんが現れるなんて……なんてロマンチックなんでしょう。ねぇ、兄上様……」
「見えないから! 俺には天使さん見えてないから!」
「フフ……どうやら……そう長くはもちそうにないようだね……」
「不吉なこと言うな!」
「よし! じゃあみんな、鞠絵ちゃんが無事なうちに終われるよう巻いていくわよ!」
「それか!? ホントにそれがベストな解決策なのか!?」
「さぁ、一番は誰?」
「姫ですの!」
 言って、白雪が一歩前に出る。
 当然水着なわけだが、かぜか浮き輪まで装備されていた。
「なんで浮き輪まで持ってるんだ?」
 問うと、白雪は少し頬を赤らめた。
「実は姫、泳げないんですの……」
「いや、それは知ってるけどさ……泳がないだろ……別にどうでもいいけどさ……」
 どうでもいいが、全員水着のくせに平気そう(鞠絵以外)なのはなんでだ。
 鳥肌とか震えすら見られないんだが、ウチの妹たちは本当に人間ですか?
「一番白雪、スピ○ング・○ード・キッ○やりますの!」
「いきなりハワイ全く関係ねぇな! つーかそれ去年やっただろ!」
「ふふ……にいさま、姫も1年間何もしてなかったわけじゃないですの」
「いや、そこはむしろ何もしなくてもいいと思うんだが……」
「スピ○ング・○ード・キッ○!」
 掛け声(?)と共に、白雪が跳ぶ。
 縦に体を半回転。
 去年はここで頭から落ちたわけだが……いや、普通に落ちるしかないだろ。
 ……って。
「できとる!?」
 どういうわけか、白雪は次に横回転を始めた。
 ちなみに、頭頂部が存在するのは地面上10センチほどの場所。
「何その物理法則無視!?」
 つーか。
「こっち来てないか!?」
 いや、来てる来てる来てる! ものすごい来てるから!
「ちょい待……はぶっ!」
 背を向けようとしたところに、第一撃がヒット。
「おぶぶぶぶぶぶぶ……」
 次いで、7発のキックが顔面にヒットし、八発目で俺の体は吹っ飛ばされた。
「ぶはっ……」
 打撃のダメージと全身に直で当たっている雪とでぶっちゃけもう死んでもおかしくないんじゃないかなどと考える中、俺の視覚はスタッと地面に降り立つ白雪の姿をとらえていた。
「どうもありがとうございましたの」
「お〜!」
「すごいすごい!」
「ついにやったね、白雪ちゃん!」
 ペコリと一礼する白雪に、大きな拍手が送られる。
 あぁ、すごい。確かにすごい。本当にすごい。
 が。
「いったいそれどういう原理だ! 完全に浮いてたぞ!?」
「ふふ……にいさま、秘密はこれですの」
 と、白雪が指したのは自らの腹部を囲うビニールチューブ。
 つまり浮き輪。
「まさか浮き輪で浮いたと言い張るつもりか!?」
「姫、まだ自分だけじゃ浮けませんの」
 と、白雪は少し恥ずかしげに笑う。
「いや、浮き輪用いても無理だから! それが力を発揮できるのは水中だけだから!」
「さ、お兄様。時間がないんだからサクサク次いきましょ」
「それは鞠絵の命が刻一刻と終わりに近づいていってるということか!?」
 いや、実際そうなんだけどさ。
 いろいろと納得いかないものが……
「二番はワタクシ春歌。白雪さんに続き、ワタクシも去年兄君さまと交わした約束を果たさせていただきます」
「去年の約束?」
 何かあったっけ……?
 いや、待て、その前に。
「春歌、なぜこちらに向かって刀を構えている?」
「去年の約束を果たすためですわ」
「と言いながらなぜ翔けてくる! ストップストップストップ! せめて約束が何か思い出せるまで待って!」
「鞠絵さんの命がかかっていますので」
「確かにそうだけど! だからなんで急ぐというのが最良の選択肢みたいになってるんだ!」
 言っている間にも、春歌が迫る。
 感覚が強制的に研ぎ澄まされ、時間が多少ゆっくりに感じる中。
『大丈夫ですわ。下着だけは残してあります。あ、でも兄君さまの時はちゃんと全てを……まぁ、ワタクシったら』
『だからなんで俺くらうの確定なの!?』
 去年に交わされた、春歌との会話。
 サンタ(偽)の服を切り裂き、中身までをも切り裂いた春歌のセリフだ。
「あれって約束だったのか!?」
 いや、つーかアレだ。
 俺今海パン一丁なんだが。
 斬るとこ一つしかなくないか?
 まさかホントに全てを斬るおつもりですか?
「それやっちゃうとマズいだろ色々と!」
「お覚悟を!」
「くっ……」
 おもわず、俺は目を瞑った。
 体に痛みなどはない。
 ただ、春歌が通り過ぎていく際に生じた風を感じただけ。
 俺が目を開けようとしたのと、チンと春歌の刀が納められるたのがほぼ同時。
 開いた目に最初に飛び込んできたのは、俺が見につけていたサンタの衣装が刻まれハラリと落ちるところだった。
「…………?」
 サンタの衣装?
「いやいやいやいや! 俺そんなの着てなかったよ!?」
 そして俺は海パン一丁に戻ったわけだが、足元には確かに存在する赤い服の切れ端。
「どうも、ありがとうございました」
「さっすが春歌ちゃん!」
「見事な早業だね!」
 白雪同様、春歌にも大きな拍手が送られる。
「それは俺に服を着せてから斬ったって古都か!? 確かにそいつぁ早業だ!」
 OK,俺に気付かれないよう一瞬で服を着せ、さらにそれを斬った。
 ここまでは良しとしよう(いやよくないけど)。
 問題は。
「サンタの衣装どこに持ってたんだよ!」
 無論春歌も水着なので、隠す場所などあるはずもない。
「まぁ、兄君さま。やはり、最後の一枚まで斬ってのしかったのですか……? ぽぽっ」
「よ〜し春歌、お前はまず人と会話するというスキルを身に付けようか! つーかアレか、今年のテーマは『物理法則無視』なのか!?」
「大丈夫、次の私はちゃんと物理法則を守るわよ」
 そう言って、前に出たのは咲耶。
「ていうか、そもそも物理法則って守るとか守らないとかそういうもんだったっけ……?」
「三番、咲耶。これを使って面白いものをお見せするわ」
 と、咲耶が手にしているのはヤシの実。
「ほぅ、ついに『ハワイ風』が生かされるのか」
 今まで全く関係なかったからな……まぁ、どうせアレを素手で割るとかなんだろうけど……
「いい? 一瞬だからよく見ててね?」
 言うと、咲耶はヤシの実を持った右手を大きくサイドスローに振りかぶった。
 そして次の瞬間。
  ボビュン!
 轟音、そして熱風。
「あっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
 先程までは寒さのため生命の危機を訴えていた肌が、今度は熱さによる生命の危機を訴えた。
 とりあえず雪で冷やそうとその場にうつぶせになる。
 と、そこで気付いた。
 確かに足元に積もっていたはずの雪が消滅している。
 どころか。
「熱いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 地面そのものが高熱に熱せられていた。
 幸いにも少し離れた場所には雪がしっかり残っていたため、そこにダイブ。
 ようやく体を冷やすことができた。
「ってぇ……いったい何が……?」
 一息ついてから、体を起こして状況を確認。
「な……?」
 まず目についたのは、円形に地肌が露出した地面。
 そこにあったはずの雪は消滅し、地面はまだプスプスいって熱を持っていることを示している。
 そして、その中心にはもちろん。
「ま、こんなもんかしらね」
 などと言っている咲耶。
 また、円から発生する感じで直線状に地肌の露出した部分もあった。
 ちょうど咲耶の真正面から始まったその線は徐々に細くなり、数メートル先はまた銀世界に戻っている。
「咲耶、お前はいったい何をしたんだ……」
「なんだお兄様、ちゃんと見ててくれなかったの?」
「よく見ようとしてたら死にかけたんだが……」
「しかたないわねぇ……鈴凛」
「あいよ」
 返事をする鈴凛は、いつの間にやらビデオカメラを手にしていた。
 それを、同じくいつの間にやら用意されていたテレビに接続。
 ちなみに、どうやら電源は隣で衛がこいでいる自転車らしい。
「さっきのを、超スロー映像で映すよ」
 鈴凛の操作で、画面上に咲耶が映し出された。
 ちょうど咲耶が振りかぶったところ。
 俺が最後に確認した場面からスタートらしい。
 ゆっくりと咲耶の腕が動いていく。
 その起動円は非常に大きく、下端は地面に達しすらしそうだ。
 咲耶の腕が、ちょうど真横になったくらだろうか。
 ふと気付く。
 なんか、咲耶の手が地面に近づくにつれて……
「なぁ。なんか、ヤシの実が赤くなっていってないか?」
「さすがお兄様、いいところに目をつけたわね」
 嬉しげに咲耶が頷く。
「これはね、空気との摩擦でヤシの実の表面温度がどんどん上がっていっているの。
「なるほどね、へ〜……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 空気との摩擦で高温が生じるほどの速度て!」
「ほら、ここからが見所よ」
 咲耶の手が描く軌道。
 その円が最下端に達しようかというところで、咲耶の腕に力が込められたようだ。
 咲耶の手の中で、圧力に潰されヤシの実がはじけ跳ぶ。
 その貯えられた熱量が、咲耶の手を中心に四散していく。
 それに触れた雪は融解を通り越して蒸発。見えた地肌が焼かれていく。
 そして、咲耶の手の中に残った実の破片……それともあるいは、ただ単に空気の塊なのか。
 サイドスローによって放られたものが、円から抜け出し直線状に進んでいく。
 雪を解かしながら、しかしそれはすぐに……数メートルで消滅した。
 そこでビデオは終了。
「ね? ちゃんと私は物理法則に従ってたでしょ?」
 誇らしげに咲耶が胸を張る。
「とりあえず人類の限界は軽く突破してたがな……」
 あと、その気になれば物理法則を無視できそうな言い回しも怖い。
 いや、つーか……たぶんできるんだろうな……



「四番。花穂と四葉ちゃんで、お兄ちゃまを応援します!」
 次に前に出たのは花穂。
 額には『お兄ちゃま』と書かれたハチマチが巻かれている。
 ここで俺を応援する意味はわからんが……まぁ、その辺は気にしちゃ負けだ。
「てか、花穂しかいないじゃないか。四葉は?」
「それは後のお楽しみだよ、お兄ちゃま」
 そう、いたずらっぽく笑う。
「ふーん……?」
「あ、ちょっと待っててね」
 言って、花穂は家の中に入っていった。
 ほどなくして花穂と一緒に現れたのは、大きな太鼓。
「今年はこれを使うんだよ!」
「なるほど、応援団風ってことか……」
 しかしお前ら、ハワイ風とか完全無視だな……別にいいけど。
 そして、四葉はどこで関係してくるんだ?
 そういや、今日は最初からいなかった気がするが……
「それじゃ……」
 花穂が、すぅと大きく行きを吸い込み。
「フレー! フレー! お兄ちゃま!」
 その声はなかなか腹から響くようで、意外にもしっかりとした応援団風だった。
 次に、力いっぱい太鼓を叩く。
  ドン! ドン! ドン!
「ヂェギ!?」
「………………」
 いま、なんか聞こえたような……
「フレッフレッ! お兄ちゃま!」
 ドン! ドン! ドン!
「ヂェギ!?」
 あ〜、まぁなんというか。
 3分に及ぶ花穂の応援。
 太鼓が叩かれる度に聞こえる「ヂェギ!?」という声が徐々に弱くなっていっていたのは俺の気のせいなのだろうか。
「どうも、ありがとうございました!」
 ペコリと頭を下げる花穂に拍手が送られる中。
「なぁ花穂、その太鼓の中って……」
「え!?」
 俺の言葉に花穂は驚いた表情を浮かべ、次いで照れたように笑った。
「あ〜あ、バレちゃってたか〜」
「いや、バレるっていうか……」
 あからさまだろ。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
 言うと、花穂は左腕を真っ直ぐ前に、撥を持った右手を矢を射るように構えた。
「? 花穂、何を……」
「えい」
 気の抜けた掛け声と共に、しかし放たれたのは銃弾のような勢いの撥。
 太鼓に近づこうとしていた俺の頬を、風圧が撫でる。
 撥は太鼓のど真ん中を貫通し、向こうの方にある木に刺さった。
「ってえ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 何やってんの!?」
「てへっ。花穂、またまたドジしちゃった」
「今のはドジッ娘にあるまじき動きだったと思うが!? い、いやそれより四葉は……?」
 慌てて空いた穴から太鼓の中身を見てみる。
 が。
「……あれ?」
 そこは空だった。
 四葉はおろか、蟻んこ一匹いない。
『クフフ……兄チャマ、ひかかったデスネ!』
 四葉の声が聞こえる。
 場所は……下?
「これは……」
 足元をよく見ると、竹筒が。
「そこらに落ちてた竹筒くん一号!?」
 あの、雪山で使われていた鈴凛の発明品(?)か!
「チッチッチ。甘いね、アニキ」
 鈴凛が、ニヤリと笑う。
「ここに積もってる雪なんて、10センチかそこら。そんなところに人が隠れられると思う?」
「なに……? てことは、まさか……」
「イェス、今回は地中よ! そして、雪中仕様から土中仕様に変更されたのがこの『100円ショップで買ってきた竹筒くん一号』!」
「むしろグレードダウンしてる可能性すらあるが大丈夫かそれ!?」
「大丈夫だったみたいだね」
「みたい!?」
「いやぁ、テストの手間が省けて助かったよ」
「そこは省いちゃいけない手間だろ!」
『いよいよ四葉登じょ……アレ?』
 こっちの会話は聞こえていないらしい四葉の声が聞こえる。
 が、少し待ってみても現れない。
『チェキ!? お、重……』
 なんて声が、時々聞こえていた。
「……ちなみにこれ、入るときはどうしたんだ?」
「花穂と鈴凛ちゃんで埋めたんだよ」
「人に見られたら間違いなく通報される光景だな……」
『チェキ! チェキ! チェキィィィィィィ!』
 なんてことを言っている間に、少しづつ雪が盛り上がり始めた。
 やがて、土のついた右手だけが雪の上にズボッと突き出る。
「うわ〜。花穂、ゾンビ映画でこんなシーン見たことあるよ!」
「自分でやっといてその感想はいかがなものか……」
 徐々に動く雪の量は多くなり、ついに四葉が顔を出した。
「四葉、参上デス!」
「よ〜し、じゃあ次いくか」
「あぁ、なんか冷たい反応デス! て、いうかアレ? 体がこれ以上抜けないデス! 兄チャマ! 兄チャマ〜!」
 四葉、おつかれ。



 というわけで、四葉がまだ頑張ってる中次へ。
「5番可憐、氷を使って演奏します!」
「へぇ、氷の楽器か」
 大きさの違うコップに水張って、それにできた氷で……とかのやつだな。
 なかなかクリスマスっぽくていいじゃないか。
 ハワイが関係ないのはもういいや。
「じゃ、とってくるからちょっと待っててね」
 言って、可憐は家の向こう側に走っていく。
 そしてしばらく。
  ズズズズ……という音が聞こえ始めた。
「……?」
「お待たせ!」
 と、登場した可憐は。
「グランドピアノ!?」
 を持っていた。
 氷でできたグランドピアノ。
 あまり本物を見たことはないが、恐らく本物にかなり似て……いや、本物と同じといっていいほどの造形だ。
 作りはかなり精巧で、細部までよく彫り込まれている。
「がんばって作ってみました」
「作ったの!? もうこれだけで持ち芸十分だろ!」
「うふふ……ありがとう、お兄ちゃん。でも、本番はこれからですよ?」
 そして、可憐はピアノの前の椅子(さすがにこれは普通の椅子)に座る。
「あれ? 可憐、撥は?」
「? どうして撥が必要なの?」
「いや、だって……」
「あは、変なお兄ちゃん。ピアノを弾くのに、撥なんていらないじゃない」
「は……?」
 すっと一瞬目を閉じてから、可憐は演奏を始めた。
 澄んだ綺麗なメロディが、可憐の指に連動して奏でられる。
 指が、鍵盤を叩く動きに連動して。
「普通に弾いてる!?」
 さすがに、音は氷と氷がぶつかり合う音だ。
 が、透明な氷を通して中の様子がわかる。
 確かにそれは、鍵盤と連動した動きピアノ内部にあった。
 音程も、きっちり普通のピアノに合わせてあるようだ。
「そんなギミックまでついてんの!? なにその匠の技!?」
「Mein Vater, mein Vater, und hoerest du nicht,Was Erlenkoenig mir leise verspricht?」
 そして、曲のチョイスは2年の空白を経て再び『魔王』
 氷の澄んだ音に可憐の低音ヴォイスが混じり、なんかもうこれはこれで一種の芸術だと思う。
「Locked in his arm, the child was dead.……」
 歌が終わり、後は短い後奏。
 その、最後の音が紡がれる瞬間。
「せい!」
 可憐の右拳が、演奏していたピアノを破壊した。
 一点に力を加えただけであるはずなのに、氷のオブジェは見事なまでに粉々に砕かれていた。
 たといえ氷とはいえ、『割る』ではなく『砕く』という……
「って、なんでだ!」
 思わずちょっと解説しそうになったじゃないか。
「どうも、ありがとうございました」
  パチパチパチパチ……
 一礼した可憐に、(ごく普通に)拍手が送られる。
「最後のアレは!? 何の意味があったんだ!」
「お兄ちゃん、だって今日は『持ち芸』披露大会なんですよ?」
「……? いや、それはまさかアレか、最後のが『持ち芸』だって言いたいのか!?そこメイン!?」
 恐るべし、シスターズクオリティ……



「6番、ヒナ!」
「衛!」
「亞里亞……」
 お? 珍しい組み合わせだな……
「これを使っておもしろいことを……」
「はいちょっとストォップ!」
「なぁに、おにいたま?」
 動きを止め、雛子が軽く首をかしげる。
 えと……その雛子の右手にあるのがヤシの実というのは、どういうことなのでしょう。
「まさかとは思うが雛子、咲耶のマネなんて……」
「くししし、よ〜く見ててね?」
 言うが早いか、雛子は右手をサイドスローに大きく振りかぶる。
 ついさっきの光景が脳内にフラッシュバック。
「良い子はマネしちゃいけません―――――――――――!」
 いや待て。落ち着け、俺。
 いくらマネしたところで、実際にあんあことができんのは咲耶くらいのもんだろ。
 そんなに焦ることは……
  ホビュン!
「うぁっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 咲耶のときよりは緩めな(気がしないでもない)音と熱風が再び俺の肌を焼く。
 反射的にその場にうつぶせになろうとして。
「げ……」
 ここの地面もヤバいことを思い出したが、時既に遅し。
 焼けた地面が俺を……
「あれ……?」
 地面は、焼けていなかった。
 それどころか、ひんやりと肌を冷やしてくれる。
 雪も結構残っているようだ。
「くしし……おにいたま、どうだった?」
 倒れたままの俺に、雛子が何かを期待するような目で話し掛けてくる。
「え? あ、あぁ……すごいな、雛子」
 いろんな意味で。
「ありがとう、おにいたま!」
 改めて周囲の状況を確認してみる。
 雛子を中心に雪がなくなっているのは咲耶のときと同じ。
 ただし地面はまだ白く、どうやら無くなった雪は表面付近のものだけのようだ。
 その分(なのかどうかは知らないが)、直線は咲耶よりもはっきりしている。
 直線部分だけは地面が露出しており、地面もプスプスいっていた。
 長さも咲耶より随分長く、終端はここからだと確認できない。
「末恐ろしいにもほどがあるな……」
 と、そこでふと気付く。
「そういやこれって、衛と亞里亞も参加するんじゃなかったのか?」
「ん? ちゃんとボクらも参加してたよ?」
「なに、そうなのか?」
「鈴凛ねぇや……」
「はいはい、お任せあれ〜」
 既にスタンバっていた鈴凛が、画面に映像を映し出す。
 始まりは、咲耶のときと同じく雛子が振りかぶっているところから。
 腕が下がるにつれ、ヤシの実は赤くなっていく。
 咲耶に比べればやや薄い気もするが……赤くなる時点でどうよって話だ。
 そのまま、咲耶とは違い握りつぶすことなく投擲。
 雛子を始点として、投げられたヤシの実の軌道上の雪が解けていく。
 なるほど、砕かれていない状態で投げられたから長く飛び続けたわけか……いや、どうでもいいけどさ。
「……あれ? 直線状にしか雪解けてなくないか?」
 画面に映っている雛子の周囲の雪は、表面すらも解けずほぼそのまま残っているように見える。
「んとね……ヒナじゃ、まだ咲耶ねえたまみたいにまわりの雪までジュワってできないの」
「いや、それは十分だけど……」
「そうよ、雛子ちゃん。雛子ちゃんが私くらいの歳になる頃には、きっと私の倍は雪解かせるようになってるわよ」
「ならんでいい!」
 つーか、本物の現場を見てみると確かに雪は円状にも無くなってるんだが……どうなってるんだ?
「あと、衛と亞里亞の出番は? もう終わっちまったじゃん」
「ん〜ん、ボクたちの出番はここからだよ」
「ここから……?」
 そこから、画面を見つめること数秒。
 なるほど、確かに衛は画面上に現れた。
 何か赤っぽい液体状のものをビンから撒いているようだ……が……?
 つーか……
「速ぇなオイ!」
 ばら撒いているのは、確かに液体であるはず。
 が、ビンから出た液体が地面に着く前……どころか、ほとんど出た位置から落下していない状態で衛は既に別の場所まで移動している。
 どうやら衛は、雛子の周り一周分をぐるりと回って液体を撒いたようだ。
 しかしあまりの速さに、最初に撒いた液体と最後にまいた液体の高さにほとんど差がない。
 結果、雛子の周りに液体の輪っかが浮いているような状態になっていた。
 衛が画面から消えていき、空中の液体輪っかがゆっくりゆっくり落ちていく。
「これって、こんなにスローにした映像だったのか……」
 そして、そのスロー映像の中でようやく普通程度の速さに見えるウチの妹達はいったいどういう生命体なのでしょう?
「……?」
 あれ? 今、何かの影が通ったような……
「え!?」
 一瞬何かの影に気を取られ、もう一度画面全体を見た時。
 雛子を中心として、円状に雪が消えていた。
 今の現場と同じ状況だ。
「な、なんだ? 何が起こった?」
「アニキ、もっかい見てみる?」
「あぁ、頼む……」
「どの辺から?」
「そうだな……衛が画面外に消えたあたりからで頼む」
「はいよ」
 巻き戻し、雛子の周りに液体の輪っかができたあたりでもう一度再生。
「そういや衛、これって何を撒いてるんだ?」
 なんか赤っぽくて……これが地面についたあたりで雪が消えたんだよな?
「まさか、ガソリンとかか?」
「ん〜ん、イチゴシロップ」
「……は?」
「はい、もうすぐ問題のシーンだからさらに遅くするよ〜」
 俺が衛の言葉に疑問符を浮かべている間に、鈴凛が映像の速度をさらに下げた。
 ひとまずイチゴシロップとかの話は置いといて、画面に集中。
「……………………」
 残り一センチにも満たない距離を、液体がゆっくり落ちていく。
 そして、それが雪に到達した瞬間。
「な……」
 この再生速度においてなお、一瞬で通り過ぎる影。
 だが、今度こそ俺の目はその姿を捉えた。
「亞里亞!?」
 イチゴシロップ(納得)が雪に落ちた瞬間、周りの雪ごと亞里亞が食い尽くしていっていた。
 なるほど、それで表面の雪(土がついてなくてきれい)だけが消えてたのか……
 これで全て謎がとけた。
 とけたけど……
「亞里亞、いくらなんでも速すぎだろ……」
「白くてふわふわしてて、おしかったの……」
 そう言って、満足そうに笑う亞里亞。
 うん、亞里亞が満足ならそれでいいよ……もう……
「……で、次は誰なんだ?」
 いつもなら、ここで次の人が出てくるはずなんだが。
 反応がない。
「咲耶?」
「ん、ちょっと待ってね……」
 咲耶が、今日のプログラムを書いてあるらしい紙に目を落とす。
「次は……と、鞠絵ちゃんね」
「なるほど、鞠絵か」
「それなら返事が来ないのも納得よね」
「まったくだな」
『あはは……』
「って、笑い事じゃないにも程があるわ! 鞠絵、無事が!?」
 問うてみても、やはり返事はない。
 ……というか、姿自体が見えないんだが?
「確か……この辺りだね……」
 千影が、手で少し雪を払うと。
「鞠絵が出土したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 慌てて駆け寄る。
「鞠絵! おい、大丈夫か鞠絵!」
「ふふ……サンタさん、わたくしにこんな素晴らしいプレゼントを……?」
「サンタさんいないから! たぶんそのサンタさん死神かなんかだから!」
「ムフフフ……アニキ、じゃあここは予定を繰り上げて私の発明品の発表といくよ」
 やけに自信たっぷりの鈴凛の声。
「そんなこと言ってる場合じゃ……」
 それに振り返り。
「……鞠絵?」
 鈴凛の隣に、鞠絵の姿を目撃した。
 こちらはきちんと厚着をしており、顔色も良さそうだ。
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
 なんて言って、軽く笑っている。
「え? あれ? 鞠絵が……あれ?」
 二人の鞠絵を交互に見る。
 そんな俺に、鈴凛はニヤリと口の端を上げる。
「ビビったみたいだね、アニキ。これぞ今年の発明品、鞠絵ちゃんロボよ!」
 高らかに宣言し、あっはっはと笑う。
 その横で、鞠絵も軽く笑っていた。
「な、なんだ……そういうこと、なのか? ビックリさせんなよ」
 ホッと息を吐き、鈴凛と鞠絵に近づいていく。
「しかし、相変わらず鈴凛の作るロボは外見そっくりだな」
「フフン、任せてよ」
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
「そうか、何よりだ」
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
「? うん、そりゃよかった」
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
「……?」
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
「……ちょっと待て」
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
「おい鈴凛、一つ問いたい」
「なに?」
「……これは、ロボか?」
 「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」と言っている鞠絵を指す。
「? だからそう言ってるじゃん」
「じゃあ本物は……」
「あそこで魂出かけてるよ」
 と、指された鞠絵の体からは確かに透明っぽい鞠絵が出てきていた。
「ギャ―――――――! ホントに出てる!?」
 慌てて鞠絵(本物)の方に再び駆け寄る。
「つーか、じゃあなんでさっきのタイミングで鞠絵ロボ出したんだよ!」
「あ、鞠絵『ちゃん』ロボね」
「そんなんどうでもいいわ!」
「いやぁ、鞠絵ちゃんの話題も出たしちょうどいいかなって」
「なんだその微妙なフェイントは!」
 とりあえず、出かけた魂(?)をつかんで(つかめた)鞠絵の体に入れようと引っ張る。
『ほら見てください兄上様。わたくし、ついに肉体を解さなくても人と会話できるようになりました』
「すごいなソレ!? いや、いいから戻れ! わかったから体に戻れ!」
『これで、体に不在の時でも兄上様と話せるんですよ』
「それは結構頻繁に体に不在してるってことか!?」
『あら? なんだか、上の方に引っ張られていきます……』
「逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「フフ……幽体離脱の上……その姿を一般人にも見えるようにするとは……鞠絵くん、なかなかやってくれるね……」
「おぉ、千影! 鞠絵戻すの手伝ってくれ!」
「では……今年も私で締めることにしようか……」
 そう言う千影の右手は、既に見慣れた感すらある光を放ち始めていた。
「なぜこのタイミングで!? つーかもう4回もやってるんだから今年はいい加減ちょっと変えようよ!」
「フフ……本来一番ネタが出やすそうな私で天丼しているんだ……むしろ英断と言って欲しいね……」
「そんな英断いらんわ!」
「では……いでよ、悪魔さん……ハワイ風……」
「ここに来てハワイ風が生きてくんの!?」
 さて、今年も登場お馴染み悪魔さん。
 今年はアロハにレイと、おしゃれに決めてやがります。
「ハワイ度微妙だな!」
「ふふ……今年の新技、見せてあげるわ。いくわよ、雛子ちゃん!」
「うん!」
「咲耶と雛子によって放たれるヤシの実によって大部分が吹っ飛んだ!?」
「亞里亞の……食後のデザートなの……」
「主食雪でデザート悪魔!?」
「よ〜し……いけ、鞠絵ちゃんロボ! 『吐血する』だ!」

「なにそのコマンドっぽいの!?」
「うふふ……わたくしは大丈夫ですよ、兄上様」
「って……口から溶岩出てる!? 強いな!」
『あぁ……わたくし、このまま宇宙までいけそう……』
「逝くなってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 と、そんなわけで今年もやっぱり。
 クリスマスに相応しい12の笑い声と、クリスマスに似つかわしくない1つの叫びが、遅くまで響き渡りましたとさ。





「メ・メリークリスマス……」
「「「「「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」」」」」

あとがき

どうも、カッツォです。
新しい年を、このSS書きながら迎えました。
いや、もうなんかアレですね。
もっと早く書きはじめないとダメですね(当たり前だ)
今年はSS書くの久々な上例年にないほどの急ピッチで書いたので、内容的にもかなりアレ気な感じです(汗)
というか去年も書いてますが、なんで年々長くなっていってるんでしょうね?
今年は去年よりは短い気もしますけど。
ネタ自体はどんどん減っていっているのに。
今回は誤字・脱字も多いと思いますので、見つけたら報告してやってください。
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ、というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです……





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