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「……は?」
 目覚めれば、そこは雪国だっ……じゃなくて、真っ白な部屋の中だった。
 ……どこ?
『フハハハ! 兄チャマ、お目覚めデスか?』
 唐突に、声だけが聞こえる。
 見れば、部屋の上の方にスピーカーが付いていた。
「四葉?」
『四葉じゃないデス! 魔王デス!』
「いや四葉以外にありえないからいろんな意味で! ……え、ていうかマオウ?」
『四葉は魔王、クリフォード=ローズバンダラス=セングレナディーン、デス!』
「長っ! ていうか、だから最初に『四葉』って言っちゃってるし!」
『略して、魔王クローバー!』
「結局それかよ!」
 なんか、寝起き直後から異様に疲れるテンションだな……
「で、だ。四葉」
『何デスか?』
 普通に『四葉』で反応してるじゃねぇか……
「ここ、どこだ?」
『ザ・四葉ワールド』
「今時『ザ・』て……そもそも、何それ?」
『四葉の世界デス』
「まんまかよ。もっと具体的に」
『それじゃ、ゲームスタートデス!』
「え、説明何もなし!?」
 スピーカーから次の言葉はない。
 それっきり、いくら待っても四葉の声は聞こえなかった。
「ゲーム……?」
 とりあえず辺りを見回す。
 タンスがあった。
 真っ白な部屋に、異様にミスマッチな光景。というかなぜ今まで気付かなかったのか。
 他には何も何もなさそうなので、それに近づいて行く。
「タンス……なんで?」
 引き出しを開ける。
 タンスといえば、とりあえずそれしかないだろう。
「なんか、RPGの主人公になった気ぶ……」
    ドガァァァァァァァァァァァン!
 ……爆発。
 言うまでもなく、タンスが吹っ飛んだのだ。
「あいつ、俺を殺す気かよ……」
 まぁ、確かにこのくらいじゃ死なんけど。
「おりょ?」
 爆煙が引いていく。その向こうに見えるのは穴。
 どうやら、タンスの後ろに隠れていたらしい。
 なんか、ホントにRPGみたいだな……


四葉、魔王になる

作者:カッツォ


 何が怖いって、そもそも全然気付かないうちにこんな所まで連れてこられたってことが一番怖いな。
 あと、こんな場所をどうやって見つけた(作った?)のか。
 タンスの奥は洞窟のようになってた。
 周りはたぶん天然の岩だと思うんだが、なぜか光源は蛍光灯だった。
 雰囲気出したいのか壊したいのか、どっちなんだ。
「……チェキ」
「ん?」
 今、何か聞こえた?
「チェキ」
「チェキ」
「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」……
「おぅえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
 チェキチェキ言ってるのは、ネズミくらいの大きさの小さい四葉(みたいなもの)。
 あちこちから俺に向かって走ってくる。
 何つうか……純粋に、怖い。
「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」「チェキ」……
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 全力で、逃げる。
 捕まると、なんか精神的にかなり大きなダメージを負いそうな気がする。
「?」
 前方に光が見えた。
 少なくともここの蛍光灯よりは強い光。
 後方に逃げ道は無し。迷うことなく光の中に飛び込む。
「!」
 一瞬、強すぎる光に目を瞑った。
   ワァァァァァァ……
「……?」
 歓声のような音の中、ゆっくりと目を開ける。
 いつの間にか、小さい四葉はいなくなっていた。
「……はい?」
 歓声のような音……それは、まんま歓声だった。
 ヨーロッパあたりにありそうな、コロシアムっぽい場所。観客席は満員。
 その中心、本来闘士が立つべき位置に俺は立っていた。
 そして、少し向こうにもう一人。
 あれって……
「ボブ・○ップ!?」
 うん、似てる。
 すごい似てる。
 ていうか、今までの経験からいくと……たぶん、本物。
「はははは! あい きる ゆー!」
「なんで全部ひらがな!?」
 うわ、なんか一気に胡散臭くなったな……
 そもそも、観客席にいるこいつらは何者なんだ?
『グッモーニン、兄チャマ!』
「その挨拶は本来さっきの場面でするべきだと思うぞ。で、ここは何だ?」
 四葉の声に問う。
『四葉コロシアムデス!』
「いや、名称とかじゃなくて……」
 見上げれば、そこは空でなく岩肌。
 どうやらここは、地下に作られた空間らしい。
 しかし、天井まではかなりの距離がある。少なくとも東京ドームよりは高いだろう。広さもまた然り。
 そんなもんを作ろうと思えば、かなりの技術と人手がいると思うんだが……?
 まぁ、とりあえず今はそれよりも。
「よし、質問を変えよう。まず、こいつは誰だ?」
 ボブ・○ップ(に、似ている人)を指差す。
『ボ○・○ップデス!』
「やっぱ本物!? なんか伏字増えてるけど!」
『オフコース!』
「なんでこんな所にいるんだよ!」
『四葉の写真が欲しいそうデス』
「写真?」
『試合前、相手のパンツに画鋲を入れてる写真デス』
「パンツに!?」
 それは何て言うか……いやそれより、どうやってそんな写真撮ったんだ……
「……あ。まさかお前、この観客の人たちも?」
『イェス。みんな、四葉の写真を欲しがってる人たちデス』
 改めて見てみると、周りでワーワー言ってる奴ら、どこかヤケクソ気味というか、切羽詰ってるというか……
 つーか、東京ドームより広いこの闘技場に満員の人。
 全員を脅して……?
「ってことはだな、ここを作ったのも?」
『四葉の写真を欲しがる、有名建築家の皆さんデス』
「お前、いつか国際指名手配とかされんぞ……」
『大丈夫デス、そっち系の人たちも……クフフフ……』
「なにお前世界征服でもするつもりなの!?」
 ホントに魔王じゃねぇか……うん、まぁそのことはもういい。
 よくないけど、俺にはどうしようもない。
「で、俺に何をしろと?」
『ここはコロシアム。モチロン、やることは一つデス!』
「やっぱりそうなのか……」
『ズバリ、流しそうめん大会!』
「なんで!?」
 いや、なんとなくそんな予感もしてたけどさ。
「へい、ゆー」
 ボブ・○ップが俺に近づいてくる。
 なんだ? 試合前のデモンストレーションでもしようってーのか?
 ボブが俺の肩に手を置き、ニカッと笑った。
「お前、なかなかやるな。よし、俺も一緒に行ってやるぜ」
「まだ何もしてませんが!?」
「あ、やべ。シーン一個飛ばしちまった」
「シーン!? ていうかめちゃくちゃ流暢な日本語だなオイ!」
 ん? ちょっと待て、これ近くでよく見てみると……
「ボブ・○ップと違うくないか?」
『よく気付いたデス。さすがは兄チャマ。30分くらい前までは本物だったんデスが、テレビの収録があるというので帰ってもらいマシタ』
「変なとこだけ律儀なんだな……って、じゃあこいつは!?」
『似てるので連れてきたのデス』
「はじめまして、ボフ・ジェップです。日本にすんで10年です」
「微妙に名前も似てる!? うわ、だからさっき伏字増えてたのか!」
『さて、こうして新たに仲間を加えた兄チャマ』
「あれ、シーン飛ばしっぱなし!? 俺何もしてないってだから!」
『果たして兄チャマは、魔王・クローバーまで辿り着くことができるのか!』
「なんで一人で勝手に盛り上げてるんだ!」
『後編へ続く』
「つづ!? えぇ!?」





あとがき


 なんと、今回は前後編デス。
 後編は兄チャマの愛と友情の物語。
 伝説の剣の試練に挑む兄チャマ!
 その想いを兄チャマに託し、志半ばに散るボフ・ジェップ!
 そして魔王・クロバーの正体は……!?
 ついに始まった兄チャマの伝説、その結末やいかに!?
 ポロリもあるよ!
 次回、『四葉、魔王になる 後編 〜死せる友情、届かぬ愛〜』を……チェキチェキチェキ!














「……………………」
 ………………?
「って、続いてるじゃねぇか! ニセあとがき入れるなよ!」
 いやしかし、いつの間にか周りの景色は変わっている。
 なんというか、いかにも魔王の間って感じの(そしてたぶん、事実そうである)部屋だ。
 俺の正面には、黒衣に身を包んだ四葉(顔の部分があからさまに見えている)。
「く……兄チャマよ、あとは頼んだぜ……あいつを倒せるのはお前だけだ……」
 俺の少し後ろには、いつの間にやらボロボロになって倒れているボフ・ジェップ。
「って、ホントに志半ばに散ってる!?」
 そっちに気をとられている隙に、何の前触れもなく四葉の黒衣に傷が。
「ク、クフフフ……さすがは、伝説の剣デス……」
「俺何もしてないって! って、うおっ!?」
 自分の手中、剣の存在に始めて気付いた。
 そういや、なんかこの場面始まった時から持ってたような……?
「炎の崖を越えた先にいる魔獣に守られていたその伝説の剣の威力、しかと見せてもらいマシタ」
「伝説の剣の詳細は口頭で説明ですか!?」
「ついに……四葉の正体を明かす時が来たようデス」
 バッ、と四葉が黒衣を脱ぎ捨てる。
 その下から現れたのは……当たり前に、四葉だった。
「そう、魔王・クローバーの正体は……兄チャマの妹、四葉デス!」
「いや、さっきから顔見えてたしね!? ていうか最初からわかってたし!」
「情に流されるな! 奴の弱点の角を折れ!」
「角ってどこだよ!」
 俺が振り向くのとほぼ同時に、ボフの首が……
「ポロリと落ちたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 うわ、無理矢理全て予告どおりだよ!
 つーか逆に、既に予告の内容全部終っちゃったよ!
「いや、それよりアレだ! どうすんだよ、首とれちゃったぞ!」
「大丈夫、すぐ生えマス」
「生えんの!?」
 思わず四葉に顔を向け、
「そうだ! 俺のことは心配するな!」
 すぐに顔をボフに戻すと。
「ホントだ生えてる!!!」
「俺に構うなと言っているだろう! 早く奴を殺せ! すぐに殺せ! いいから殺せ!」
「なんでそんなに殺る気満々なんだよ!」
「あの写真はヤバいんだって!」
「てことはそれ役じゃなくてマジ殺意だったの!?」
 四葉、お前いつか背中刺されるぞ……
「クフフフ……ついに四葉の真の姿を見せる時がきたようデス」
「なんで!? 今ので何のフラグが立ったんだよ!」
「フ……ならば、俺も真の姿を見せるしかあるまい」
「ボフも真の姿あったの!?」
「四葉の真の姿……それは、魔王・クローバーデス!」
「何それ無限ループ!? バグってるって!」
「そして俺の正体は、ボフ・ジェップだ!」
「それもだいぶ前からわかってるから! もうお前のことボブ・○ップだと思ってる人いないから!」
「グ……兄チャマにやられるなら、四葉は本望デス……」
「倒しちゃったの!? 俺、無意識のうちに魔王倒しちゃったの!?」
「フ……よくぞ、俺ごと奴を倒してくれた……それでいい……」
「ツッコミか!? もしかしてお前ら、ツッコミでダメージ受けてんのか!?」
「でも……たとえ四葉を倒したとしても、すぐに第ニ第三の四葉が……」
「第二第三の四葉ってなんだ! 魔王だろ第二第三の!」
「そして第二第三のボフも……」
「お前もういいよ!」
「次回、レジェンド・オブ・ヨツバーズ2へと続く……」
「四葉複数形なの!?」
 ※続きません






あとがき

 どうも、カッツォです。
 タイトルを見ていただければわかるかもしれませんが、これは昔『妹、誕生日を迎える』の四葉編のつもりで書いた作品です。
 あまりにアレだったのでボツにしてたのですが、去年あたりに引っ張りだして修正してみました。
 そしてそれをさらに最近引っ張りだし、もう一度修正。
 なんと、今の私と去年の私と一昨年の私、という夢のコラボレーション。
 めったにボツなど出さない私が(なぜならもったいないから)ボツにしただけのことはあり、修正してもアレな感じでしたが……(汗)
 え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
 感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ、というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです。












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