「兄チャマ〜!」
「ん〜……? ん!?」
四葉が背後から突っ込んでくるのは、まぁいつものことだ。
だから振り返った俺が見たのも、基本的にはいつもの光景。
ただ1つ違うのは……突っ込んでくる四葉が、6人いること……
「いきなり分身かよ!」
「あぅ!?」
6人のうちの1人にチョップを当てると、残りの5人は消滅した。
突っ込んでくる勢い利用したチョップなので、なかなかに効いたのだろう。
四葉はうずくまったまま、しかし目だけはしっかりこっち目線。
「的確に本物の四葉に当てるとは……さすが兄チャマデス……」
「むしろ、さすがなのはお前だろ……」
さすがというかなんと言うか……だが。
「そんなことより、兄チャマ!」
すぐさまダメージを回復し、四葉が立ち上がる。
その手にいつのまにか持っているのは、ちょっと古めかしいポラロイドカメラ。
「あれ? お前、そんなの持ってたっけ?」
「この前拾ったんデス」
「拾うなよ……」
ていうか落ちてるもんなのかよ……
「ホラ、これでチェキデス!」
「ん、まぁいいけど」
四葉がカメラを俺に向けた。
ふと、その姿に違和感を感じる。
何かとんでもなく危険な匂いが漂い始めた気がする……
「はい、チーズ!」
考える前に、俺は横に跳んだ。直後、かすめる熱気。
先ほどまで俺のいた場所を凄い勢いで炎が通過していた。
その発生源は、四葉の持つカメラのレンズ部分。
「あ、あぶ……危なすぎるわ!」
「もぅ、兄チャマ。動いたら撮れないじゃないデスか」
「動かなかったら死んでたよ! ていうかもう撮るとかいう動詞は不適切だから!」
まさかカメラの形をした火炎放射器だったとは。
さすがの俺も予想できな……
「あ、写真が出てきたデス」
「うそぉ!? カメラの機能あんの!?」
どこに!? いつ!? どうやって!?
「仮にカメラ機能が付いてたとして、あんな状況じゃどう考えてもちゃんと撮れんだろ……」
「そんなことないデス。ほら」
「あ?」
四葉に渡された写真を見てみる。
確かに、そこにはバッチリ俺が写っていた。
しかも、ピースサインまで決めた真正面からの写真だ。
「どの瞬間だよこれ! こんなポーズしてないしね!? あれか、ぶっちゃけ念写ですか!?」
「よし、いいフォトが手に入ったデス」
「お前ちょっとは疑問感じろよ!」
「ウ〜ン、そういえばフィルムも入れてないデス」
「ますます念写の線濃厚!? いや、念写でさえフィルムは入ってるってたぶん!」
「便利なカメラね!」
「お前のコメントはそれだけでいいのか!?」
い、いかん。これは不思議(というか不気味)カメラが素で流される流れだ。
どうにかせねば……
「よ、よし。四葉、このカメラを拾った場所に案内してくれ」
「? オーケイデス」
とりあえず、なんらかの手がかりにはなるだろう。
最悪、これでこのカメラが流されることはなくなる……はず。
で。四葉に連れてこられた場所は、やたら豪華な屋敷の前だ。
庭の手入れもよくされていて、人目見て金持ちの家だとわかる。
何匹かのドーベルマンが、警戒するようにこちらを睨んでいる。
「ここか?」
「そうデス」
「この道で拾ったわけか……」
「ううん。このおウチの中デス」
「……………………」
「……………………」
「それ拾ったんじゃなくて盗んだんじゃないのか!?」
「ム〜、兄チャマ、失礼デス。ちゃんと睡眠薬でワンちゃんは眠らせたし、警報装置にも引っ掛からなかったし、完璧デス!」
「完璧なプロの手口だよ!」
「せっかく来たし、今日もレッツゴーデス!」
「ゴーするな! って、え、何これ紐!? うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
いつの間にやら巻かれていた紐により、四葉に引っ張られる俺。
一応抵抗はしてみるが、恐らく無駄だろう。
なにせ、こういう時のウチの妹の力は尋常じゃない。
「チェキチェキチェキ〜」
予想通り、全くスピードを落とすことなく四葉は突き進んでいく。
そのまま屋敷内に突入。すぐさま、四葉は四葉は三本のナイフを投げた。
四葉の手を離れたナイフはそれぞれ別方向に飛び、三本ともが防犯カメラと思われる物体に突き刺さる。
音を立てることもなく、監視カメラはその機能を停止した。
「えぇ!? 何その腕!? むしろ何この展開!? 四葉何者!?」
なんて言っている間にも、俺を引きずって四葉は進む。
2回曲がったところで、前方に人影が現れた。
男の顔に驚愕が浮かぶのと、四葉のスピードが上がるのがほぼ同時。
「で、出た! 例の……」
「ハートを……」
無線機片手に防犯カメラへ叫ぶ男。ためらうことなく四葉は突っ込む。
「チェキ!」
四葉の手が男の胸にめり込んだ。見事に男の心臓を捉えた一撃だ。
とりあえず呼吸はしているが、男は倒れたまま動かない。
「ハ、ハートブレイクショットですか!?」
男には目もくれず、四葉は男の持っていた無線機を手にした。そして、監視カメラに目を向ける。
今度は壊すわけでもなく、カメラをビッ指差す。
「美少女怪と……」
そこまで叫んで、ふと気づいたようにセリフを切る。
ごそごそと懐をまさぐり、取り出したのは例の仮装大会で使うようなマスクだ。
それを装着し、再びカメラを指差す。
「美少女怪盗クローバー、参上よ!」
「いや、今のもう完全に素顔バレてたよね!?」
しかも、マスク以外はあからさまに普通の服。
なんというか、とても滑稽な格好だ。
「つーか、最初にカメラ壊した意味はなんだったんだ……」
「演出デス」
「誰に対しての!?」
「さぁ兄チャマ、これからが本番デス!」
「むしろもう終わりにしてくれ!」
「じゃあそうする」
「決断早っ! いや、ありがたいけど!」
「もういっぱい拾ったデスから」
と、四葉は各所のポケットを軽く叩く。
そういえば、どのポケットもパンパンに膨らんでいる。
「いつのまに!? どうやって!?」
俺は侵入してから現在に至るまでの記憶を呼び起こす。
確かに四葉はここまで一直線に来たはずだし、何かを手に取るそぶりも見せなかった。
「クフフフ、驚いた?」
「そりゃ驚くわ!」
「じゃあタネ明かしデス」
嬉しそうに笑って、四葉は俺の後方を指差す。
こっちに向かって走ってくる四葉が見えた。
「え!?」
慌てて振り返ると、四葉はそこに立ったまま。
しかしもう一度後ろを見ると、確かに四葉が走ってきている。
つまり、四葉が二人いた。
「分身に集めさせてたんデス」
「その設定が今頃生きてくんの!? しかもあれ、残像とかじゃなくて本当に分身だったのかよ!」
いや、残像とかでも困るんだけどさ。
「ていうか、分身使ってても俺が気づかないのはおかしいだろ!」
「ここからが四葉の本気デス」
言うなり、四葉は壁にへばりついた。
そして、驚くことに。その姿がどんどん消えていく。
いや、というかこれは……
「擬態ですか!?」
四葉の色が壁に同化していっていた。
確かによく見れば膨らんでいることはわかるが、これなら俺が今まで気づけなかったのも頷ける話ではある。が。
「お前それもう人間じゃなくなってるだろ!」
「あ。兄チャマ、追っ手デス。ほら、兄チャマも早く」
「だからそれ人間にはできないって!」
「ムゥ。兄チャマ、それじゃ四葉がただの人間みたいじゃないデスか」
…………?
なんか今、変だったような……
「いや、その言葉おかしいよね!? むしろお前がただの人間じゃないように言ってたわけだし!?」
「あぁ、間違えたデス。それじゃ四葉が人間みたいじゃないデスか」
「自分で人間であること否定した!?」
「見つけたぞ! 捕まえろ! いやむしろ殺せ!」
アホなことをやっている間に、ついに追っ手に見つかった。
彼らの手には、それぞれ拳銃やらマシンガンやらが握られている。
ちなみに彼らは普通の警備員であり、警察やら自衛隊ではない。
「いや、あんたらあからさまに銃刀法違反だろ!」
「安心しな。アメリカ直輸入だから法律違反じゃねぇ」
「完全に違反だよ! あんたら法律わかってないだろ!」
「うるせぇよ! いいからおとなしくしやがれ!」
「できるか!」
壁に同化している四葉には気づかず、全ての警備員が俺に向かってくる。
屋敷の中を走る、走る、走る。
こう見えても体力には結構自身がある(でなければ、妹との日々で確実にもう死んでいる)。
俺がバテるのよりも、警備員がバテる方が遥かに先だった。
追っ手の気配が薄くなったところで、俺はようやく屋敷を脱出することに成功した。
「兄チャマ、ご苦労様デス」
「四葉……」
出た所には、四葉が立っていた。
……さっき別れた時とは比べ物にならないほどの荷物を持って。
「兄チャマのおかげでいっぱい拾い物ができたデス」
「確信犯かよ!」
「? 四葉、気功砲は撃てないデス」
「それ天津飯だよ! ありえないだろその間違い方!」
ま、まぁとにかく。今日も無事に生きてられてよかった……
そして、美少女怪盗クローバーは今日も戦った。
正義のために。自分の愛するもののために。
「って、なんで勝手にモノローグに侵入してきてるんだよ! しかも大嘘こきすぎ!」
クローバーは今日も行く。
正義のために。自分の愛するもののために。
「その文章さっきも使ったしね!? せめて文章構成ぐらいはちゃんとしようよ!」
めでたしめでたし……
「突拍子なさすぎだろ!? ていうか勝手に落とすな!」
って、え? あれ?
「ホントに落ちんの!?」
あとがき
どうも、カッツォです。
四葉の喋り方を忘れ気味です。
こんなにデスデス言ってなかったはずなのですが。
途中で気づいてちょっと変更しようとしましたが、結局妙に不自然なので後半には元に戻ってます。
ていうか、後半四葉が鈴凛とか千影みたいになってきますね(汗)
あと、ラストの方異様に展開が速くなったのは、別にダルくなったわけではなく(爆)。
ぶっちゃけ、これ以上ネタが出なかっただけです(死)
話は変わりますが、私は『ハートをチェキ』という曲が大好きです。
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。
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