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砂に埋もれてランデブー

作者:カッツォ

 俺は、その光景を見て愕然とした。
 大抵のことでは驚かない自信はあった。
 帰ってきたら家中に変な植物が繁殖してたこともあったし、家からでっかいミッ○ーマウスが突き出ていたこともあった。
 家が半壊していることなど最早日常茶飯事だ。
 が、しかし。さすがにこの光景には愕然とせざるをえなかった。
 というか……玄関の扉を開けるとその先には砂漠が広がっていて、なおかつその中で鈴凛が優雅にティータイムをたしなんでいる……なんて状況を見て愕然とするなって方が無理だ。
 俺に気づいたらしい鈴凛が軽く手を上げる。
「お帰り、アニキ」
「そんな普通に対応されても困るんだが……」
 その呟きに、鈴凛はしばし考えるように下を向く。
 が、すぐに顔は上がった。
 同時に、クラッカーのうようなものを弾けさせる。
 『おかえり、アニキ』と書かれた紙が飛び出した。
「いや、別にそういうのを求めてるわけじゃんくてね!? とりあえずこの状況を説明してください!」
「この状況?」
 ゆっくり右を見て、左を見て、頷く。そして。
「砂漠、かな」
「んなもん見たらわかるわ! なぜ玄関が砂漠に直結してるのかってことを聞きたいんだよ!」
「ん〜、まぁ話せば長くなるんだけど。さっきちょっと実験が失敗して……」
「はいそこまででいい! 非常に簡潔な説明だ!」
「ちょ〜っと核を越える威力を出そうとしただけなんだけどね。なんでだろう?」
「それ以前にそんな実験を個人でしかも自宅ですることに疑問を感じてくれ!」
「たぶん失敗した時の超規模なエネルギーが時空それ自体の作用した結果だと思うんだけどね」
「もの凄く非科学的なことをさも科学的なように言うのはやめてくれ……」
 あぁ、なんか頭痛くなってきた……
 精神的なものもあるが、主な原因はこの暑さだろう。
「とにかく、一旦外に出よう。このままじゃ死ぬぞ」
「あぁ、それは無理」
「あぁ?」
 振り返った俺は、すぐに鈴凛の言葉の意味を理解した。
 さっき俺が入ってきたはず扉は消えうせ、そこにあるのは砂ばかり。
「なんで!?」
「うん。たぶんアニキが入る瞬間にだけひずみができたんだろうけど、時空の自己復元作用によって……」
「そのエセ科学講義はもういいって!」
「失礼な。エセじゃなくてニセだって」
「エセですらないのかよ!」
「時としてエセよりもニセの方がいいことだってあるんだよ」
「今の場合ニセはダメだろ!」
 うわ、なんか熱くなったら意識が朦朧としてきた……
 いかん、冷静にならねば……
「まぁアニキ、お茶でも飲んで落ち着きなって」
「そこまで落ち着いちゃダメだって!」
「いやいや、ちょっと立ち止まって周りを見てみることも大切だよ」
 鈴凛は、俺の視線を促すように両手を軽く広げる。
「これが、好き勝手に自然を破壊していった人類が招いた結果だよ」
「なに急にエコロジストになってんの!? ていうか100%お前が招いた結果だろ!」
 そこまで言って、ふと違和感を感じた。
 これって……足元が、揺れてる?
「うおっ!?」
 俺が気づいたのとほぼ同時。大きく地面が揺れ始める。
 下が砂ということもあり、バランスがとり辛いことこの上ない。
 しかしそれ以上に、これから何が起こるのかが不安でたまらない。
 俺が思うに、かなり何でもありの世界っぽいから……
「り、鈴凛。こりゃいったい何だ?」
「さぁ、なんだろうね」
 鈴凛の表情には、全く不安などの要素は見当たらない。
 むしろ喜んでいる感すらある。
 最近、ますますマッドサイエンティストっぽくなってきやがった……
「おいおい……サンドワームとかが出てくるんじゃないだろうな……」
「はは、そんなのいるわけないって。アニキ、常識を考えなきゃ」
「お前に常識を説かれたくはない!」
 そんなことを言っている間にも揺れはどんどん大きくなっていく。
 やがて何かが爆発したように砂が跳ね上がり、同時に揺れはピタリと収まった。
「な、なんだ……?」
 跳ね上がった砂で周囲の状況が確認できない。
 とりあえず鈴凛が無事なのを確認すると、俺は砂が跳ね上がった方をじっと見つめる。
「あ。アニキ、なんかいるよ?」
「ん……?」
 確かに。
 砂の向こうに、かすかに何かの影が見える。
 砂が跳ね上がった規模に比べ、随分小さいようだ。
 やがて、待っていた砂も少しずつ収まっていく。
「な……?」
「あ、かわいい」
 俺と鈴凛が同時に、しかし対照的な声を出す。
 俺の目がイカれてなければ、そこにいるのは……
「見て見てアニキ、フィヨルドランド・クレステッド・ペンギンだよ!」
 そこにいるのは確かにペンギンだった。いや、種類までは知らんけど。
 鈴凛が近寄っても逃げる気配はない。
「お、おい! 危ないんじゃないのか!?」
「大丈夫だって」
 鈴凛の言葉通り、どうやらペンギンにはこちらを攻撃する意思はないらしい。
 目の前にいる鈴凛を見て少し首をかしげる姿はなかなかに愛らしい。
 鈴凛が抱き上げても、ペンギンは特に抵抗もしない。
「ほらね。やっぱりサンドワームなんていなかったでしょ?」
「砂漠にいるペンギンも明らかにおかしいだろ!」
「あ〜、そういえばそうだね」
「わかってなかったの!?」
 俺に言われて気づいたらしい鈴凛が、改めてペンギンをじっと見る。
 ペンギンの表情に、初めて警戒するような色が現れた……ような気がする。
「なんで砂漠にペンギンがいるんだろうね……」
 まるで人間の言葉がわかっているかのように、ペンギンがビクリと体を震わせた。
 いや、それも当然の反応だ。
 言葉なんてわからなくても、鈴凛の今の表情を見れば危険かどうかなんて一瞬で判断がつく。
「ちょっと解剖して調べてみようか」
「いや、お前の専門は機械系だろ!?」
「機械も生物もあんまり変わらないって」
「あからさまに違うだろ! むしろ正反対だ!」
「どうせどっちも原子でできてるわけだし」
「分類がでかすぎるわ!」
「じゃ、ちょっと解剖を……」
 いつの間にか握っていたメスをペンギンの腹に当てる。
 俺がそれを止めようとするのより、一瞬早く。
「ちょっと待ったっス!」
 俺じゃない声が上がった。
 もちろん鈴凛の声でもない。
 その発生源は……
「ペンギン!?」
「へ〜、フィヨルドランド・クレステッド・ペンギンって喋れるんだ」
「んなわけあるか!」
「そうっスよ、お嬢さん。フィヨルドランド・クレステッド・ペンギンが喋れるわけないっス」
 再び聞こえた声は、やはり間違いなくペンギンから。
 いや、本人はペンギンじゃないようなことを言ってるが……
「よいしょっと」
 ペンギンが鈴凛の腕から脱出する。
 鈴凛も、特に何をすることもなく素直にペンギンを開放した。
 おそらく、解剖するのは後にした方が楽しそうだと判断したのだろう。
 ちなみに断言するが、鈴凛は解剖を諦めてはいない。目がそう言っている。
「では、正体をお見せすることにするっス」
 ペンギンの声の後に、ジ〜ッという音。
 次いで、ペンギンの背中が割れた。
「ファスナー!?」
 ファスナーが完全に下りた。
 やや緩慢な動きで中から出てきたのは……
「な……」
「あ、かわいい」
 さっきと同じ俺たちの反応。
 なぜなら……
「さっきと同じじゃねぇか!」
 ペンギンの中から出てきたのは、またしてもペンギンだった。
 俺の発言にムッとした表情(たぶん)になるペンギンだが、それよりも先に口を開いたのは鈴凛だ。
「違うよアニキ。さっきのはフィヨルドランド・クレステッド・ペンギンで、今度のはエンペラーペンギンだよ」
 いや、確かに色とか形はちょっと違ってるけど……
「結局ペンギンじゃねぇか!」
「もぅ、これだから素人は」
「何の!? あれか? お前はペンギンのプロなのか?」
「確かにエンペラーペンギンなら喋っても砂漠にいても納得って感じだよね」
「んなわけあるか! むしろエンペラーペンギンの方が暑さに弱いし!」
「だって、日本では皇帝ペンギンっていうんだよ?」
「関係ねぇだろ!」
「では、自分はこれで失礼……」
「させないって」
 どさくさに紛れて逃げようとするペンギンを、鈴凛がしっかりと捕まえる。
 やはり解剖は諦めていなかったらしい。
「あっ!」
 そんな鈴凛の手を器用にすり抜け、ペンギンは逃げていく。
「鈴凛、もう諦めろって。エンペラーペンギンなら納得できるんだろ?」
「それとこれとは別!」
「結局ただ解剖したいだけかよ! ……って、何する気だ!?」
 鈴凛が懐から(物理法則を無視して)取り出したのは、バズーカっぽい形状のもの。
 鈴凛の性格からして、それは形状だけじゃなく……
「これぞ、核をも越える威力を持つと最近もっぱら私の脳内で噂されてる新兵器!」
「それ完全にただの妄想だろ! ていうか、それのせいでこんな空間に繋がっちまったんじゃないのか!?」
「その名も、熊殺し!」
「熊殺すくらいじゃ済まないだろ!?」
 俺の叫びが、爆音でかき消される。
 鈴凛がぶっ放したらしいが、最早それすらも認識できない。
 目の前が真っ白になり……しばらく。
 俺はふと、先ほどまで感じていた暑さが全くなくなっていることに気づいた。
 いや、というかこれは……
「寒っ! むちゃくちゃ寒いって!」
 ようやく見えてきた周囲は、一面氷の世界。
 ランク的には、たぶん北極か南極……
「また別の場所に来ちゃったみたいだね」
「さらっと言うな……って、おい!」
 いつの間にか、鈴凛はコートやら手袋やらの重装備を身に纏っていた。
 先ほどまでは確かに夏服だったというのに……
「まぁ、今さらツッコミは入れない。だから俺にも服をくれ」
 さのままじゃ寒くて死ぬって。いや、冗談抜きで。
「えぇ? そんなことできるわけないじゃん。ほら、私が何も持ってないのは見たらわかるでしょ?」
「見てわかるのは何も持ってなかったはずのお前がいつの間にか完全装備になってるってことだよ!」
「あ」
 俺の叫びを無視して、鈴凛が小さく声を上げた。
 つられるように、俺も鈴凛の視線の先を追う。
 そこには、先ほどのペンギンがうずくまっていた。
「うぅ……寒いっス……死ぬっス……」
「むしろここが本来あなたが存在するべき世界ですが!?」
「フフ……見つけた……」
 再び視線を戻すと、鈴凛は既にばっちりバズーカっぽいものを構えていた。
 その目はかなり危なげだ。
「いや、動けなさそうなんだから素手で捕まえろって! もう解剖でも何でもしていいから!」
 俺の必死の説得も、鈴凛の耳には入らない。
「これぞ、核をも越える威力を持つと最近もっぱら私の脳内で噂されてる新兵器!」
「それはさっきも聞いたって!」
「その名も、ベア・キラー!」
「なんで英語になってんの!?」
 爆音と閃光の中、俺にできるのは祈ることぐらいだ。
 だから俺は祈った。
 全力で祈った。
 次の移動先……せめて空気くらいはありますように……と。
















あとがき

どうも、カッツォです。
少年Aさんからのリクエスト、リベンジバージョンです。
この前のよりは若干マシなった……かな? と思います。
しかし気づいてみれば今回、一回も場面変更(私の場合、数行空きを作る)がありませんね。
もしかして初なのではなかろうか。
まぁ、心からどうでもいいことですが(爆)

え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです……



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