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「クリスマス恒例、持ち芸披露大会! In、2003!」
「豪華ゲスト多数出演だよ豪華版!」
「ぶっちゃけ作者もネタ切れだよスペシャル〜〜〜〜〜〜!!!」
「ワ〜!」
「ヒューヒュー!」
「センターまで残り3週間だろ〜! こんなことやってていいのか〜!?」
「これ書いてるの9月だからとか、そういう問題じゃないだろ〜!」
 と、いうわけで。
 ついに3回目を迎えちまいました、持ち芸披露大会。
 あちこちで蠢く気配が、嫌な予感を掻き立てまくっております。


聖夜のお楽しみ〜IN 2003〜

作者:カッツォ


「1番、可憐。ピアノの弾き語りをやります」
 ほぅ、弾き語りか。
 ……あれ? 弾き語り……弾き語り……?
「お兄ちゃんの歌、2番」
「やっぱそれかよ! そしてホントにあったのかよ2番!」
「お兄ちゃ〜んお兄ちゃ〜ん、世田谷に住んでる〜」
「世田谷のサザエさん(作詞・歌=嘉門達夫)!? そういうもの凄く一部にしかわからないネタはやめろって! しかも世田谷に住んでねぇし!」
「(セリフ)説明しよう! 嘉門達夫とは『ちゃらり〜ん鼻から牛乳!』で一斉を風靡した日本のイロモノ替え歌職人である! 落語家出身、紅白出場経験もあるというある意味大物なのだ!」
「そんな説明いらんわ!」
「どうも、ありがとうございました」
 パチパチパチパチ〜
「終わり!? 早っ! それむしろ嘉門の歌だろ!」
 え〜……まぁ、なんだ。
 そんな感じで今年の持ち芸披露大会は始まった。



「2番、咲耶」
 うわ、いきなりキツいの来たなぁ……
 バーベル上げ、瓦割りときて、今年は……?
「指で10円玉を曲げま〜す」
「そんな可愛く言う演目じゃないですよ!?」
「しかも10枚一気」
「多っ! お前それ曲げるっつーか圧縮だろ!」
「はっ!」
 くにゃりと、いとも簡単に。
 なんかもう水飴のように軽〜く曲がってしまった。
 実はゴムとかで作った偽物なんじゃねぇのか? と疑いたくなる光景だが、残念ながら本物である。
「なんか、年々パワーアップしていってないか……?」
 そのパワーで殴られる場面を想像し、青くなるのとほぼ同時。
 窓から声が聞こえた(ちなみにここ2階)
「フフ……甘いな、破壊のプリンセス」
「何者です!」
 俺が振り返るよりも早く、真っ先にそれに反応したのは春歌だった。
 「あ、命……」とかやろうとしていた不審人物を捕らえ、首筋に短刀を突きつける。
「ゴルゴ(松本)!?」
「兄君さま、お知り合いですか?」
 刃物はそのままで、春歌が顔だけをこちらに向ける。
「知り合い知り合い知り合い! だから助けて!」
「黙りなさい。ワタクシは兄君さまにお尋ねしているのです」
「ひょえ!?」
 刃が少し刺さり、ゴルゴ(松本)が情けない声を上げる。
 俺はしばらくその顔を見つめ……
「いや、知らない人」
「おおおおおおおオイ!」
「そうですか。では、排除いたします」
「待って待って待って待って!」
「あ、春歌。ちょい待ち」
 心なしか嬉しそうに短刀を握りなおす春歌に、ギリギリでストップをかける。
 とりあえず、用件ぐらいは聞いといた方がいいだろ。
「で、お前何しに来たんだ?」
「あ、あぁ、そうだった」
 ようやく刃物から解放されたゴルゴ(松本)は、ポーズを決めつつ不敵な笑いを浮かべる。
「フフ……甘いな、破壊のプリンセス」
「どういうこと?」
 先程から黙っていた咲耶が、ムスッと口を開く。
 出番を邪魔されたせいか、怒りのオーラが全身から噴き出している。
「これを見よ!」
 高らかに、ゴルゴ(松本)は一万円札を掲げた。
 そして、それをクシャっと握りつぶす。
「はははははは! あんたは所詮100円! 俺はその100倍凄い!」
「千影」
「了解……」
 俺の意志を読み取り、千影が小さく手を動かす。
 瞬間、ゴルゴ(松本)の体が闇に包まれ始めた。
 そして、高笑いを残したまま数秒も経たずに消えていった。
 きっと、今ごろはメキシコあたりだろう。
「ったく、なんだったんだ一体……」
「……たわ」
「あ?」
 咲耶が、何やら小さく呟きながらワナワナ震えている。
 オイオイ、まさか出番邪魔されたことがそんなに……?
「負けたわ……」
「あんなのに負け認めんの!?」
「負けたわぁ!」
「おぶぇ!?」
 なぜそこで俺を殴る……



「……はっ」
 いかんいかん。どれくらい気絶してた?
「3番、亞里亞……」
 まだ3番……ってことは、せいぜい1,2分か。
 10円玉10枚を圧縮する程のパワーをくらってこの程度とは……ある意味、さすが俺。
「お菓子の家を作ります……」
「はいちょっと待てぇ!」
 なるほど。気絶してる場合じゃないと俺の本能が判断したわけか。
「お菓子の家って、どんだけ時間かかると思ってんだ!」
 経験者は語る。
「ご安心ください、兄や様」
「うぉわ!?」
 気が付けば、後ろにじいやさん。
 せめて、何か伏線張ってから出てきてください……
「……安心できそうな要素など、何一つとして見つからないのですが?」
「スタッフは全て揃っておりますし」
「はい!?」
 もしかして、と思って見下ろしてみれば……
 いるわいるわ、例のスタッフ総勢100名。
「いや、でもあんだけの人がいても10日かかったじゃないですか!」
「今回は犬小屋サイズにするつもりですから」
「それでもでかいけど……って、いや? あの、その犬小屋って何坪ぐらいですか?」
「120坪くらいでしょうか」
「でかすぎです! せめて2……いや、1坪にしてください!」
「はぁ、兄や様がそうおっしゃるのでしたら……」
 ふぅ、とりあえずこれで安心……かと思いきや、問題はむしろここからだった。
「クッキー……」
「……………………」
「チョコレート……」
「……………………」
「クッキー……」
「……………………」
 遅い。とにかく遅い。
 まず、一つ一つの行動が遅い。その上、1つ並べる間に2つ食べるので余計に遅い。
 たぶんこの調子じゃ、完成する前に年が明ける。
「あの、じいやさん……」
「心得ております」
 じいやさんがパチンと指を鳴らした瞬間、作業のスピードが数十倍に跳ね上がった。
 しかし、亞里亞の動きはそのまま。
 亞里亞(っていうかじいやさん)直属の黒子部隊が、超高速で動き回っているらしい。
 それは俺には見えない程で、亞里亞が一つお菓子を積むごとに数十個のお菓子が増えるという奇妙な現象が発生している。
「完成〜……」
 10分程が経っただろうか。
 亞里亞が最後のケーキを積み上げ、ようやくお菓子の家が完成。
「いただきます」
 そして、消滅。
 相変わらずの早食い……と呼んでいいものなのかすら微妙だが。こっちの方が持ち芸だろ……



「4番、雛子と」
「フナ幽霊です」
「んぬあ!? いつのまに!?」
「お遊戯やりま〜す!」
「曲は、お魚天国です」
「しかもその曲の選択は!?」
 ていうか、あいつこの前成仏したんじゃなかったのか!?
「フフ……私が呼び戻したのさ……」
「すんごい余計なことしてくれちゃったなオイ!」
「雛子くんが……どうしてもと言うのでね……」
「言われてもやらないで!」
 そうこう言ってるうちに、妙に耳に残る『さかなさかなさかな〜』メロディーが流れ始めた。
 それに合わせ、雛子がフリフリと踊り始める。
 ついでに、フナ幽霊もビチビチ動いていた(たぶん踊ってるんだろう)
「さかな〜を食べ〜ると〜、あたまあたまあたま、あたまがよく〜なる〜」
「ちなみにこれはDHA、すなわちドコサヘキサエン酸の効果で、特に目玉などに多く含まれています」
「そんな解説いらないしね!?」
「サンマ、ホタテ、ニシン」
「ちなみにこの『お魚天国』は、元々全国漁業組合連合会が公式に認めた販売促進用の曲だったのですが、その妙に耳に残るフレーズとメロディーが密かな人気を呼び、全国販売となりました」
 そんな感じで、フナ幽霊はビチビチと踊りながらトリビアを増やしていった。
 かわいく歌って踊る横で、魚が無表情(本当の意味)で解説を付け加える図というのは、どうにも現実感に欠ける。
 それでも我が妹達は、「キャ〜、かわいい〜!」とか、「へぇ、へぇ、へぇ」などと、大いに盛り上がっていた。
「マスマスきれいなサヨリちゃん〜ブリブリしないでスズキくん〜ぼくらが好きだとサケんでも〜風にヒラメくコイしい気持ち〜」
「ちなみにこのサヨリちゃんは今年で28になるのですが、結婚相手候補を3人ほどキープしつつも新たに男を捜す毎日。別れた男にストーカーされること2回、包丁を振り回されたこと4回というハードな人生を送っています」
「そんな裏設定あってたまるか!」
「さあ〜み〜んなで、さかな〜を食べよ〜」
「ちなみに魚には痛覚がないため、活造りにも別に苦痛を感じることはありません」
 ……なんか、しばらく魚食えなくなりそう。



「5番……千影……」
 む。去年、一昨年としんがりを勤めた千影が、今年は5番?
 これは、どう見るべきなんだろうか……
「兄くんの夢を呼び出そう……」
「夢? 呼び出す?」
「これは……私と兄くんの意識波長をシンクロさせ……その上に魔力を上乗せすることでエントロピー増大の法則を……」
 以下省略。
 結果だけを言うと、俺の夢……というか、夢の中に登場したものをこの場に召喚するらしい。
 召喚するというよりは、具現化だろうか。
 何が出てくるのか、いつの夢なのかはお楽しみということだった。
「兄チャマのドリーム、チェキデス!」
「まさかにいさま、姫と……してる夢とか……」
「もちろん、お兄様の夢なんだから私は登場するわよね」
 そんな感じで、場内は異様な期待に包まれている。
 断固拒否したいところではあるが、そんなことをすれば夢の世界を通り越して次の世界まで旅立ちそうなのでやめておいた。
「さぁ……出でよ……」
 千影が書いた魔法陣が強めの光を発し始めた。
 一同、その中心を見つめる。
 俺としては、せめて見られても大丈夫なモノが出てくることを祈るばかりだ……
「出てきたようだよ……」
 光に包まれて出てきたのは……背面は青黒色、腹面は銀白色の、紡錘形で大型の体を持った生物。
 スズキ目サバ科マグロ属の海水魚。
 すなわち、マグロ。
「マグロ!? そんな夢みたことねぇよ!」
「いやいや……よく思い出してみよう……」
「思い出せって言ったって……マグロだぞ?」
「ほら……私が夢のような所を案内した夜のことさ……」
「あぁ、地獄巡りした時な……」
 できることなら忘れ去りたい思い出の1つだな。
 しかし、あん時の夢って……
「あ゛ぁ! 冒頭でボイスパーカッションの練習してた時周りにいっぱいいたやつか!」
「ご名答……」
「なんであえてそんなの呼び出すんだよ! つーかそんなの覚えてる人いねえよ!」
「ほぅ……では例えば何ならいいんだい……」
「え? 例えば……」
 あん時夢(?)に出てきたのっつーと……針の山に登ってた(死)人達……血の池でご一緒した女性(ゾンビ)達……券売機で後ろに並んでた人達……
 ……………………。
「すみません、マグロが一番マシです」
「だろう……?」
 つーか、別の日の夢にしろよ。
「おや、あなたは」
「……………………」
 少し驚いたような声。振り返れば、フナ幽霊が目を見開いて(元々だけど)マグロを見つめていた。
「どうもお久しぶりです」
「……………………」
「知り合いですか!?」
「……………………」
「いえいえ、こちらこそ」
「会話してる!? マグロ黙ったままなのに!」
「……………………」
「はははは、そんなことは」
「無表情で笑っとる!?」
 マグロは一応普通のマグロらしく、喋ったりはしない。
 しかしそれゆえに、むしろ一層恐い。
 この世のものとは思えない……というか、実際この世のものではない光景だった。



「6番四葉! 今年の7つ道具は霊視メガネデス!」
「おい! この前7つ道具は爆弾×6+キャベツだっただろうが!」
「探偵たる者、常に最良の道具を選ばねばならないのデス!」
「つーか、それ既に探偵関係ねぇよ」
「ではでは、さっそく兄チャマの背後霊をチェキデス!」
 と、あからさまに怪しげなメガネを俺に向ける。
 まぁ、ホントにわかるっていうなら、俺も自分の背後霊にはちょっと興味あるが。
「ムム……これは……」
 難しい顔でにらみ続け、数秒。
「わかったデス!」
 ビシッと俺を指差し、声高に叫ぶ。
「犯人は小山さんデス!」
「なんの!? ていうか誰だよ!」
「スミマセン、ついクセで」
 何のクセだ。
「では改めて」
 再びビシッと指差し、声高に叫ぶ。
「兄チャマの背後霊はフィッシュデス! しかも2匹!」
「それフナ幽霊とマグロだ! さっきからいたし! 魚なんかに背後霊されたくないし!」
 叫ぶ俺の肩に、ポンと手が置かれた。
 首だけで振り返れば千影が、怪しげな笑みを浮かべている。
「そのメガネは偽者だが……」
「え!? だって四葉、本物だって聞いたから5000円で……」
  ガンッ!
 四葉、気絶。原因は、言うまでもなく千影の手にある石(血痕付き)だ。
「そのメガネは偽者だが……」
「何事もなかったかのように!?」
 つーか、元々お前のものなのかよ。
 しかも偽者で、それを5000円で売ったのかよ。
「実際……兄くんの背後霊は魚だよ……」
「そうなん!? ど、どんな?」
「メダカ……」
「小っちゃ!」
 つーか、メダカの霊って何さ……



「7番、鞠絵。旅行中継を行いたいと思います」
 旅行? どこに? 中継? どうやって? つーか、それって芸なのか?
「では、逝ってきますね」
 と、笑顔で鞠絵は倒れた。
 旅行って、まさか……
「あっちの世界への旅ですか!?」
「あ、川が見えてきました」
「しかもホントに中継してる!?」
 す、すげぇ……自由にあの世に逝けるだけじゃなく、こっちの世界で喋ることまでできるとは……
 いや、凄いけど、それってどうよ?
「っていうかお前、体はりすぎだって!」
「船頭さん、こんにちは」
「既に顔なじみ!?」
「えぇ、お願いします。はい。えぇ、もちろん」
 こちらからは一人言を言っているようにしか聞こえないが、恐らく船頭さんと会話しているのだろう。
 なんか、妙に和やかなムードなのが逆に嫌だ。
「それでは皆さん、向こう岸に……」
「行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うん、これはなかなか危険な状態だね」
「あぁ!?」
 いつの間にやら現れていた、鞠絵の主治医。
 涼しい顔で鞠絵の診察を始めている。
「いつのまに!? っていうかどうやって入ってきたんですか!」
「フフ、僕は医者だよ? ピッキングは必須技術さ」
「全く必要ないですよね!?」
「安心しなさい。僕はこう見えてもマサチューセッツ工科大学出身だから。腕に覚えはあるよ」
「確かに凄いけど! 分野違うくないですか!?」
 ていうか、会話が成立してねぇよ。
「よし、電気ショックだ」
「早くないですか!? 普通もっと色々あるでしょ!」
「いや、この方が料金が……」
「金の話はもういいって!」
「いい感じで、私の出番みたいだね」
「鈴凛!?」
 いや、むしろお前の出番はない方がいいと思うんだが……



「8番、鈴凛!」
 いつの間にやら運び込まれていた、布をかぶった物体。
 微妙に動いてるっぽいのが、死ぬほど気になるんですが……
「今年の発明品はこれ!」
 布を一気に引き離す。
 白っぽい色を基調としたボディに、所々の黒色。
 ずんぐりしたイメージで、本来目があるべき箇所からは角っぽいモノが生えている。
 なんか、見覚えが……
「ずばり、エレ○ング! (1/85サイズ)」
「やっぱり!? カネ○ンに引き続き、お前ウルト○マンマニアか! せめてピグ○ンにしとけよ!」
「さ、これで電気ショックかましちゃってよ」
「強すぎだろ! エレキングの電気って50万ボルトだぞ!?」
「よし、協力に感謝するよ」
「やんの!?」
 医者は、エレ○ングの角を掴んで鞠絵の胸に当てる。
 表情は真剣なんだが、かなりマヌケな光景だ。
「ていうか、なんで服の上からなんだよ! 普通直接皮膚だろ!」
「おいおい。気持ちはわかるが、今は読者サービスしてる時じゃないよ?」
「そうじゃなくて!」
「エレ○ング、ゴー!」
「ぬなっ!?」
 鈴凛の声で、エレキングが放電を開始。
 一瞬、室内が眩しいほどの光に包まれた。
 あまりにいきなりだったため、光が収まった後でも目がチカチカしている。
「タイミング悪すぎだ! せめて雰囲気読めよ!」
「ごめんごめん、ちゃんと電力は調節しといたから」
「そこの問題じゃねぇよ!」
「じゃ、僕はこれで帰らしてもらうね。料金は、後日検診に来た時一緒にもらうから」
「ていうかアンタ! 素手でエレ○ング触ってたのになんで感電してないの!?」
「医者だからね」
「関係ないって! 医者≠人間なわけじゃないからね!?」
「兄上様、ただいま戻りました」
「あれで復活したの!?」



「9番、春歌」
「今のドタバタ完全に無視ですか!?」
 さっきまで臨死体験してたはずの鞠絵も、普通にギャラリーに戻ってるし。
 なんか、俺が変みたいじゃないか……いや、もしかしてホントに俺が変なのか?
「殺陣をお見せしたいと思います」
 いやいや、どう考えても俺はまともだろ。極めて常識人なはずだ。
「相手として、特別ゲストもお招きしております」
 だいたい、ウチの妹達は非常識というレベルを完全に超越して……ん? なんか今、地鳴りが……?
「それでは、お越しください!」
 春歌が開けた、その扉の向こうにいたモノ。
 四つんばいになって尚、俺よりも高いその体。
 全体を覆う毛は、蛍光灯の光にも黒々とよく映える。
 角らしきものが生えていることも確認できた。
 その双眸は赤く輝き、凶悪なことこの上ない。
 大きく裂けた口から出る息は、異様な熱気を持っている。
「雪山にいた!?」
「そう、あの熊さんですわ」
「いや、熊じゃねぇってだから! ていうか死んだだろ! あん時確かに死んだだろ!」
「実は峰打ちだったんですよ」
「嘘付け! あっからさまに血ぃ出てただろうが!」
「そうだぜ、兄ちゃん。細かいことは気にすんな。こっちは早く殺したいんだからよ……」
「喋った!? そういやそんな設定もあったっけ!? ていうかなんでそんな殺る気満々なんだ!」
「いざ!」
 春歌が構える。
 熊(今回も、とりあえずそう呼ぶことにする)も構える……というか、登場時から殺気出しまくりの臨戦態勢だ。
 一人と一匹の間に緊張か流れる。
 そういやこの熊、雌なんだっけ……いやそれより、確かにあのあと熊鍋食ったよなぁ……
 なんて思ってる間に、熊が先に動いた。
 俺に向かって、激しく炎を吐き出す。
「って、なんで俺!?」
 だが、俺は火傷一つ負うことはなかった。
 なぜなら、炎は俺に当たる前に全て霧散したからだ。
 春歌が炎を斬ったのである。
「いや、斬った!? だって炎ですよ!?」
 俺の叫びは届いていないようで、両者は再び睨み合う。
 今度動いたのは春歌。
 なんとか目で追える程の速さで、一気に間合いを詰める。
 そして一閃。
 まるで反撃の隙を与えない、神速の一撃だ。
 直後。
 熊の上半身が、ぐらいと揺らいだ。
 今にも襲いかからんとする気迫を表情に宿したまま、ゆっくりと傾いていく熊。
 ズシンという大きな音が、闘いの終わりを知らせた。
 春歌は振り返り、笑顔で一言。
「峰打ちです」
「上半身と下半身分かれちゃってますよ!?」



「10番、白雪と」
「花穂!」
 あ? なんだその組み合わせ。
 あ、いや、なんかちょっと予想ついちゃったような……
「「料理を作ります」の!」
「やっぱりですか!?」
 なに? 死ぬの? 俺死ぬの? メシアの誕生日は俺の命日ですか?
 あ、いや待て。白雪がちゃんと補助してくれ……
「余計悪いわ!」
「わ、びっくりした。お兄ちゃま、いきなり何?」
「お前ら俺に恨みでもあんのかふざけるなコンチクショウ! 殺られる前に殺んぞオラァ!」
「もぅ、にいさまったらそんなに喜んじゃって。かわいいですの」
「なんだその強気すぎるポジティブシンキングっつーか勘違いっつーかお前もっかい小学生以前から日本語学び直せ!」
「お兄ちゃま、すぐできるから期待しててね?」
「会話成立してねぇしお前それは死神の笑顔かだいたいどんな魔法使ったらあんな料理ができてどうして法律で取り締まれないんだ日本政府! おまわりさ〜ん! 今ここで殺人が行われようとしてますよ〜!」
「では、さっそく始めたいと思いますの」
「もはや無視ですかとかそんなことはどうでもいいがせめてもう少しでいいから俺の命を長らえさせようなんていう粋で素晴らしすぎる心意気は日本人から失われて久しいのか室井さん! どうして現場に血が……」
「兄くん……少し落ち着こうか……」
「はうぁ……」
 首筋にプシュッと注射を打たれたことで、気分がかなり落ち着いた。
 いや、代わりに左耳から緑の液体が出てきてたりするんですけどね?
 いかんいかん、あまりの恐怖で錯乱状態に陥ってしまったようだ……
「では、まず先程手に入ったばかりのお肉を細かく切りますの」
「熊肉ですか!? やっぱりあの熊は食わなきゃいけないのか!?」
「兄くん……少し落ち着……」
「いや、今の普通のツッコミだから! 通常! 普段から俺のテンションこんなもんだから!」
「そう……」
 少し残念そうだったが、意外にも千影はあっさりと引き下がってくれた。
 そうこうしているうちにも、二人の料理は……
「完成!」
「ですの!」
「はっや! いや、はや!? アホほど早いなオイ! ていうか料理風景出てきてないし二人ほとんど喋ってすらいないしむしろ千影の方が出番多くなかってですか!?」
「兄くん……やはり少し落ち着こう……」
「はうぁ……」
 今度は、右耳からピンク色の煙が出てきました。



「いや。奇跡は、起こるから奇跡っていうんだ……」
 なんてセリフを、思わず呟いてしまうほどの状況だった。
 なぜなら。
 なぜならなんと、二人の作った料理はマズかったのだ。
 驚くなかれ、なんと普通にマズいだけだったのだ!
 前回はマズさすらも感じられずに死へと直行だった料理が! マズいだけなのだ!
 姫が各所から集めてきましたの、とか言ってた素材を使っていたはずの料理が! マズいだけなのだ!
 全員で食べたのに! 死者が一人も出ていないんだ! 鞠絵すらも倒れてないんだ!
 これを奇跡と言わずして何と言う!?
 あぁ、感激のあまり涙が止まらない……
「11番、衛……」
 あぁ、最後は衛か……今なら、たとえどんな芸でも許せてしまう気分さ……
「あにぃ……」
「なんだい、衛?」
「あにぃは、ボクを弟みたいだって思ってるかもしれないけどさ……」
「は?」
「ボクだって立派なフランソワ17世なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はい!?」
「ちなみに訳すと……ボクだって女の子なんだぁ……だ、そうだよ……」
「どうもありがとう千影! できればなぜ衛がトランスしてるのかも教えてくれるかな!?」
「ふむ……兄くん……衛くんのこの状態に……覚えはないかい……?」
「はい! 衛が風邪をひいた時がちょうどあんな状態でした!」
「衛くんは……料理を食べた途端にあぁなった……つまり……そういうことだよ……」
「なに!? この料理風邪の症状引き起こすの!?」
 ……やっぱり。
 奇跡は、起こらないから奇跡って言うんですね……
「ボクはカルボナーラがアルデンテなんだ!」
「実はバストアップのブラを購入したんだ……だ、そうだよ……」
「そんな事実カミングアウトして、俺にどうしろって言うんだ!」
「腐った牛乳にだって使い道はあります! それで家具を磨けば、なんとピカピカ! 大丈夫、アンモニアは揮発性だから臭いは残りません!」
「どちらかと言えば消しゴムなんだ……だ、そうだよ……」
「その訳ホントに合ってんのか!?」
 とりあえず、やはり殴りかかってくる衛をなんとか避ける。
 なんか知らんが異様にヒートアップしている会場の中、冷静なようでもの凄く楽しそうな声。
「さてさて……ここらでお楽しみ……」
 あ、なんか条件反射的に嫌な予感。
「出でよ……悪魔さん……」
「もはや恒例ですか!?」
 千影の体が光り始め……例年通り、悪魔さんの登場となった。
 去年(我が妹達によって)結構虐殺されたはずなんですが……
「よ〜し、出番だね! ゼッ○ン!」
「そんなのまでいたのかよ! 超強力すぎるわ!」
「どうもこんにちは……いえいえ、食べるならあちらのマグロさんの方が……」
「呑気に会話するな!? 勧めるな!」
「お兄ちゃま、悪魔さんも花穂の料理食べてくれたよ!」
「変身してる!? ヘリグロヒキガエルに変身してますよ!?」
「今年もごちそうです……」
「やっぱり喰うんですか!?」

 今年もやっぱり。
 クリスマスに相応しい12の笑い声と、クリスマスに似つかわしくない1つの叫びが、遅くまで響き渡りましたとさ。


「メ・メリークリスマス……」
「「「「「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」」」」」






あとがき

どうも、カッツォです。
本編を書いたのは秋でしたが、ただいま12月24日です。
あんた、マジでシャレになってねぇだろって感じです。
いや、ホントシャレになってないんですけどね?(汗)
さてさて、妙なテンション&変なネタのオンパレードな今作品。
ほぼ勢いのみで書いたせいか(いつものことですが)、やけに長くなってしまいました。
去年・一昨年に比べれば2倍のグレードです。内容は無いのに(死)
結構マニアックなネタ(ていうか嘉門)も出てきた気がします。わからなかった方、申し訳ありません。
ところで、果たしてこの文章をどれだけの人が見てるんでしょうか?
きっと、4月にならないと誰も気付いてないんでしょうね(含笑)
まぁとにかく。皆様、メリークリスマスです!
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ、というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです……




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