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 朝起きたら隣でゴリラが寝ていた。
 こんなこと、皆さん一度は経験したことありますよね?
 カンガルーが家の中を走り回るなんてのも、よく見る光景です。
 家の柱に掴まっているコアラは、見てると心が和みますよね。
 これは、気がつくと家中が動物だらけになっていたという、ごくありふれたお話です。
 ………………。
「って……んなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


Zoo

作者:カッツォ


「はぁ……はぁ……はぁ……」
 1人でノリツッコミしてたって仕方ない。
 とりあえず現状を把握してみよう。
 朝起きたら、いっぱい動物がいた。
 ………………。
 わかってること、これだけじゃん……
 うむ、こんなことになる原因は1つしか考えられん。
 原因究明と事件解決のため、俺はとりあえず奴の部屋に向かうことにする。
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「クエェェェェェェェェェェ!」
   ドダダダダダダダ……
 突然俺の横を通り過ぎる一陣の風。
 もとい、衛……と、ダチョウ。
 いくらウチが広いからって、廊下でかけっこはどうかと思う。
 つーかダチョウについていけるって、どんな足してるんだよ。
   ドスン!
 そんなことを思っていると、上から何かが降ってきた。
 もはやお決まりパターンである四葉……かと思いきや、そうではない。
 猿。
 猿である。
「キキキィ!」
 猿は悔しそうに地団太を踏み、天井を見上げる。
 そこには、対照的に得意顔な四葉がひっついていた。
「クフフフゥ……四葉の勝ち! ヤッタ!」
 いや、これで猿に勝てるのも逆にどうかと思う。
 ちなみに一方の猿はというと、まだ悔しそうにキーキー鳴いていた。
 聞きようによっては、「今のは無しデス! もっかい勝負デス!」と聞えなくもない。
 そんな光景を尻目に、俺は目的地へと足を進めることにした。
 似た者同士(?)、好きにやってくれ……



 その後も何匹かの動物に出会ったが、特に難もなく目的地へと辿り着くことができた。
 目的地、それは千影の部屋。
 異常事態はまず千影を疑え、という格言に従った結果だ。
「あ……兄くん……」
 部屋には千影と、真っ白なウサギがいた。
 だが、千影の様子はどことなくおかしい。
 頬が少し紅潮し、息遣いも心なしか荒い。
「風邪か?」
 風邪の状態で召喚→失敗→屋内動物園完成
 十分ありえることだ。
「いや……大丈夫……いたって健康さ……」
「そうか……?」
「あぁ……それより……何か用かい……?」
「ん、そうだった。単刀直入に言おう。この事態、お前の仕業か?」
「この事態というと……これのことかい……?」
 ウサギを指差しながら言った。
「あぁ、この動物達のことだ」
「いや……私も戸惑っていたところさ……」
「うそ、違うの?」
「あぁ……」
「う〜む、するってぇと一体何で……」
「……………………」
 やはり、千影の様子は落ち着かない。
 いつもの千影は、余裕のある笑みを浮かべ、こちらをしっかりと見据えている。
 だが今は、どこか不安げな表情で、目もチラチラと横を見たりしているのだ。
「なぁ……お前、ホントに何も知らないのか?」
「あぁ……破壊神に誓ってもいい……」
「いや、そんなもんに誓われても困るが……」
 だが、ここは千影を信じることにする。
 とりあえず、ここにいたって事件解決にならないことは確からしい。
 他の奴らの様子も見るため、とりあえず家中を回ることにした。
「じゃあ、邪魔したな」
「いや……役に立てなくてすまない……」
 やはり、今日の千影はおかしい。
 そう思ってドアを閉めた直後、「ウサギさん……」という声、そしてポフッという音が聞えた。



「う〜む、とりあえずどうする……う?」
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ク、クエ……クエェェェ……クェ……」
 またしても、衛とダチョウが横を通り過ぎた。
 衛は別段変わった様子もなかったが、ダチョウの方は一目見ただけでバテていることがわかる。
 俺が思うに、衛は十分サバンナでも生きていけるだろう。
「で、だ。これからどうす……る!?」
 再び考えを巡らそうとした時、おもいっきりワニと目が合った。
 ……ワニ?
「ま、待て。話せばわかる……って、話せんか。いや、とにかく待て。待てったら!」
 ワニはジリジリとこちらに近づいてくる。
 その目は、明らかに獲物を狙っている目だ。
 2mはあろうかという大きなワニ。
 ……俺の人生、こんな所でフィナーレ?
「あら、お兄様。何してるの?」
「いや、何してるっていうか……」
 ワニのすぐ後ろのドアが開き、咲耶が顔を覗かせた。
 こいつは、この状況を特に変わったことだと認識しないらしい。
 と、その目がワニに留まった。
「ちょうどワニ皮のバッグが欲しかったのよね……」
 不適な笑みを浮かべながら、ワニのシッポを掴んだ。
 そのまま部屋の中へと(片手で)ズルズルと引きずっていく。
 大人2人ぐらい軽くふっ飛ばせそうなワニも、咲耶の前ではただのトカゲのようだ。
 っていうか、自分でバッグ作るのか?
「白雪に、いいワニ肉が入ったって言っといてね」
 最後にそう言って、部屋のドアを閉めた。
 やはり、自分で作るつもりらしい。
 ……なんか、今日の晩飯食うのやだな。



 俺は、とりあえずキッチンに向かうことにした。
 あそこなら、確実に白雪がいるだろうからな。
 まずは、妹全員に会って色々なことを把握しよう。
 そう思って歩き出した時、声が聞えた。
「うふふ……ピンクの象が見えます……」
「……おい」
 当然、今いるのは鞠絵の部屋の前である。
「鞠絵! お前また……うおぅ!?」
 勢いよくドアを開けると、目の前にピンクの象がいた。
 ……俺もついにイカれてきたのか?
「あ、お兄ちゃん」
「可憐? なんでここに……いや、それよりもこの象はなんだ? 俺の幻覚か?」
「ううん、現実だよ」
「そうか、そりゃよかった。ってことは、今日は鞠絵も……」
「うふふ……ピンクの象が見えます……」
「今日は……鞠絵も……」
「うふふ……ピンクの象が見えます……」
「今日も……お前は……」
「うふふ……ピンクの象が見えます……」
「結局やってんのかよ!」
 もはや、つっこむだけ無駄な気がしてきた。
 話題を戻そう。
「で、このピンクの象は何だ?」
「うん、可憐がピンク色に塗ったの」
「……象はどこから?」
「元々ここにいたよ?」
「どうやって入ったんだ……明らかにドアの1.5倍はあるぞ……」
「さぁ?」
「まぁ、象がいたことはよしとしよう。なんでそれに色を塗るんだ?」
「鞠絵ちゃんの気持ちをわかろうと思って。いつもピンクの象が見える〜って言ってるから」
「んなもん、わからんでいい!」
「あら可憐ちゃん。それならもっと簡単な方法があります。これを一粒飲めば……」
「急に戻ってくるな! 勧めるな!」
 とりあえず、全部没収。
 一週間前に没収したばかりなのに、5kgもあったのはどういうことだろう……



 ともあれ、2人の所在は確認することができた。
 恐らく、2人が原因ではないということも。
 残るは6人か……
 しかし、うちの妹以外に原因が考えられないというのもどうだろう。
 そういえば、なんであいつらはこの状況をすんなり受け入れてるんだ?
 もしかして、不審に思ってるのって俺だけ……?
「無礼者! そこになおりなさい!」
「……?」
 思考は、またも聞えた声によって遮られた。
 今度は春歌の部屋からだ。
 そっと覗いてみる。
 中にいるのは、春歌と……熊?
「ワタクシの大切な兄君さま像をよくも……成敗します!」
「グルルル……」
 視線を下の落としていくと、何かが転がっているのを確認できた。
 あれって……俺の生首!?
 ……いや、断面をよく見ると、木でできているらしいことがわかる。
 恐ろしく細かい木彫り像のようだ。
 なんつうもん持ってんだよ……自分で見てもそっくりだし……
 もしかして自分で作ったんだろうか……?
「………………」
「グルルル……」
 なんてことを思っているうちに、両者の緊張は最大限に高まっていた。
 その結末を見ることもなく、俺はそっと部屋の戸を閉めた。
 見るまでもない……春歌なら、恐竜を相手にしても勝てるだろ……



 キッチンに着いた。
 やはりというか何というか、そこでも変わった光景が繰り広げられている。
 白雪 VS 牛
 牛は、たぶん闘牛に使われるのと同じような奴だろう。
 鼻息は荒く、今にも突進しそうな勢いで興奮している。
 その体には、いくつもの切り傷がついていた。
 対する白雪は、両手に包丁を持って大きく肩で息をしている。
 だがその目は鋭く、まっすぐに牛を見据えている。
 ここまで興奮している牛が突進していかないのも、その目に気圧されているからだろう。
 やがて、両者の均衡が破られる。
「おとなしく今日の夕食になるんですの!」
「ブモォォォォォォ!」
 あ〜……今日の夕食は豪華になりそうだ……



 庭に出てみた。
 花穂と、アレは……馬? が、何やらもめている。
「もう! ダメだってば!」
「ブルルル……?」
 花穂が必死に馬を押し戻そうとしているようだ。
 だが、当然花穂の力で馬が動くわけもない。
 逆に、どんどん花穂が下がっていく。
「花穂、何やってんだ?」
「あ、お兄ちゃま」
「その馬がどうかしたのか?」
「あ、うん。あのね、このお馬さん、花壇に植えてあるものを食べようとするんだよ」
「う〜ん……でも、馬を止めるのは無理じゃないか? せっかくの育てたのを食われるのは嫌だろうが……」
「ううん、それもそうなんだけど、むしろ……」
「ブヒヒヒヒ〜ン!」
 唐突に馬が嘶いたかと思うと、そのまま倒れた。
 おもいっきり白目をむいている。
「な、なんだ!?」
「あ〜あ、だからダメだって言ったのに……」
「その花壇、一体何が植えられてんだ……?」
「え〜っとね……トリカブトでしょ、マンドラゴラでしょ、イソギンチャクでしょ……」
「なんつうもん植えてんだよ! しかもイソギンチャクは花壇に植えるもんじゃねぇ!」
 そら食ったらヤバイわな。
 今度から、花壇はチェックは怠らないようにしよう……



 しかし、未だに原因がわからん。
 残ってるのは、雛子、鈴凛、亞里亞の3人か……
 年少組のせいってのは考えにくいから、鈴凛の線が濃厚だな……
「おにいたま!」
「ん?」
 トテトテと雛子が走り寄ってきた。
 そして、俺のズボンをぐいぐい引っ張る。
「ねぇねぇ、おにいたま! ちょっと来て!」
「なんだ? 何かあるのか?」
 雛子に引っ張られ、家の裏の方へと歩いて行く。
 そこには亞里亞もいて、しゃがみこんで何かを見ていた。
「なんだ……?」
 俺も覗き込む。
「ほらほら、おにいたま! ヒョウさんがケガだらけ!」
「お〜、ホントだな〜……って、嬉しそうに言うな! いったいどうしたんだ!?」
「ネコさんとのナワバリ争いに負けたんだよ!」
「ヒョウなのに猫に負けたの!?」
「ヒョウだけど負け犬です……」
 雛子、だから嬉しそうに言うなって。
 亞里亞は微妙なこと言ってるし……
 しかし、ヒョウが猫に負けるか……いや、まぁそんなこともあるのだろう。
 現実が目の前にある以上、認めるほかあるまい。
「で、お前らは手当てしてやってんのか?」
「うん!」
「そうなの……」
「そっか。優しいな」
「人がいなきゃ生きていけない哀れな生き物だし!」
「しょせん敗北者なの……」
「……………………」
 どこで覚えた、そんな言葉。
 つーかこいつら、意味わかって使ってんだろうか。
 だとすれば、俺は教育方法を間違えたらしい……



「ところでお前ら、鈴凛がどこにいるか知らないか?」
「えーっとね……あ」
 何か言おうとした雛子が、突然上を向いた。
 つられて俺も上を向く。
 でかい何かが落ちてきた。
 もちろん、俺の上に。 
  ズドン!
「ぐげっ!」
「あ、ごめ〜ん! アニキ!」
 上から聞える、妙に明るい声。
 見上げてみると……フサフサのたてがみが見えた。
「ライオン!?」
「あぁ、ごめんごめん。今どけるから」
 背中の重みがなくなったので、とりあえず立ち上がる。
 改めて見ても、やっぱりライオンだった。
 その背中には鈴凛が乗っている。
「……何だ? これは」
「ライオン」
「んなこたぁわかっとるわ! なんでここにいるんだよ! で、なんでお前のその背中に乗ってるんだ!」
「ちょっとこの子の散歩に行ってたからさ。背中に乗ってんのは気分」
「散歩って……犬じゃあるまいし……」
「いやぁ、しかし参ったね。ライオンの散歩って意外と目立つもんなんだね〜。みんなに注目されちゃったよ」
「意外でも何でもねぇよ!」
「警察にも5回職質されちゃったよ」
「多いな、おい! どんだけ巡回してんだよ、この街は……で、お前はそれでどうしたんだ?」
「蹴散らした」
「国家権力にケンカ売るなよ!」
「ところでアニキ、何やってんの?」
「そりゃこっちのセリフだ! なんでこんなに動物がいるんだよ! お前の仕業だろうが!」
「ギク……え、え〜っと……自然破壊に押されて、山から下りてきたんじゃ……」
「日本の山にいないもんばっかだろうが!」
「フフ……それについては、四葉がお答えしまショウ!」
「キキッ!」
「……は?」
 颯爽と2階の窓から飛び降りる四葉……と、猿。
 そして、同じ様にビシッと鈴凛を指差した。
「犯人は鈴凛りゃんデス!」
「ウッキャ!」
「な、何を根拠にそんなこと……」
「いや、バレバレだろ」
「フフ……証拠はここにありマス! ワトソン君!」
「キキッ」
 四葉の指示に従い、テープレコーダーを取り出す猿。
 その再生スイッチを押す。
「いつの間に助手になったんだよ……ワトソン君て……」
「さぁみなさん! これが証拠デス!」
「キキャ!」
「俺と鈴凛しかいねぇよ」
 ザザッというノイズ音の後、聞き覚えのある声が聞えてきた。
『いやぁ、こんなにボロいとは思わなかったね、ペット預かりサービス。1回でこんなに儲かるとは……あれ? こんだけの動物入れる檻なんてあったっけ? ……まぁいいや。家ん中で放し飼いにしとこうっと!』
   カチッ
「……ペット預かりサービス?」
「あははは……いや、これが意外と依頼が多くて」
「一晩でどうやってこんだけの動物入れたんだよ!」
「そこは科学の力だよ、アニキ」
「意味わかんねぇ! ってか、どんな広告すりゃ、こんだけイロモノが集まるんだよ! ワシントン条約違反してるやつとかいるんじゃねぇの!?」
「ま、いいじゃん」
「よくねぇよ!」
「ところでさ、私が散歩行ってる間に何かあった?」
「あぁ、色々あったよ……そういえば、何匹かはもういないと思うぞ?」
「うそ!? 逃げちゃったの!? 捜しに行かなきゃ!」
「いや、この世には」
「え゛!?」
「ワニと、熊と、馬に牛……ダチョウも危ないんじゃねぇの?」
「なんで!?」
「想像できんか?」
「あぅ……何となくは……」
「たぶん想像通りだ」
「うわわわわ! こうしちゃいられないじゃん!」
 慌てて言えの中に駆け込む鈴凛。
 その後すぐ、家の各所で絶望的な叫び声が上がったのは言うまでもない。



「ちょっとアニキ! かわいい妹にこんなことしていいと思ってんの!? ねぇ!」
 危ないところだった動物達は、全員間一髪助けられたらしい。
 が、重傷を負ったやつも少なくなかった。
 特に、牛や馬は瀕死状態。
 飼い主からは、治療費を含む多額の賠償金を要求された。
 で、それを払うための方法が『これ』である。
「アニキ! ちょっと聞いてんの!? ねぇってば!」
 珍獣リンリーン。
 なんと人語を喋れる動物である。
 ……ということで売り飛ばした。
 いやぁ、咲耶が特殊メイク技術持っててよかった。
 なんでそんなもん持ってるのかは知らんが。
 そんなわけで、今日は咲耶と2人でお見送りだ。
「しかし上手いな。ハリウッドもビックリじゃねぇか?」
「でしょ? 私の意外な才能よね」
「自分で言うなよ。まぁ、実際そうだけど」
「そんな才能いらないって! いいから出してよ!」
 檻をガチャガチャする様子は、実際珍獣っぽい。
 さすが、高値で売れただけのことはある。
「じゃあな、リンリーン。向こうでも元気で暮らせよ」
「あ゛ぁ! 本気なの!? あ、ちょっと! 待って! ごめんって! 悪かったから! あぁぁぁぁぁ……」
 こうして、リンリーンは遠い所に連れて行かれた。
 最後に、「アイル ビー バァァァァァック!」とか言ってた気もするが、気にしないことにする。
「さ、帰るか」
「えぇ、お兄様!」
「って、さも当然のように腕を絡めてくるな」
「いいじゃない、別に」
「歩きにくいっての」
「もう、照れ屋さんなんだから」
 そして俺たちは、またいつもの日常を始めるのだった。





あとがき

どうも、カッツォです。
というわけで、我がHPの一万ヒット記念です。
いやぁ、ついに一万達成ですね。
これも、今これを読んでくださっているあなたのおかげです。
本当に、どうもありがとうございます!
そして、これからもよろしくおねがいしますね!

さて、作品自体に関して。
全員SSって、久々に書いた気がします。
やたらと長くなった上に、テンポが微妙ですね……(汗)
次に書く機会(いつだろう……)には、もっと上手くなっているよう努力いたします!

感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。
では、今日はこの辺で失礼します……





カッツォへの感想はこのアドレスへ
1483sy@hkg.odn.ne.jp

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