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 夕食の時。
 自分で作った料理ながら、相変わらず美味い……などと自画自賛していると、四葉が唐突にその話題を切り出してきた。
「兄チャマ、四葉にライバルができたんデス!」
「は?」
 ライバル?
 チェキのライバルか?
 ってことは、俺をチェキする奴が2人に増えるのか?
 それは嫌すぎるだろ……
 それとも、別々の人をチェキするのだろうか。
 その人も災難だな、オイ。
「あのね、四葉のことをずっと尾行してくる人がいるんデス。なかなかのウデで、さすがの四葉にも正体を掴めないんデス。これはきっと、四葉への挑戦デス!」
 あぁ。なんだ、そういうことか。
 ん? っていうか……
「それって、ストーカーじゃないのか?」
「きっと、明日こそシッポを掴んでやりマス!」
 聞いてないし。
 まぁ、勘違いしやすい子だし。
 たぶん、たまたま道が同じな人だったとかだろう。

 そんな感じでこの時、俺はそのことをほとんど気にもとめていなかった。


君がため

作者:カッツォ


 しばらくしたある日。
 ちょっと早めの昼食をとっている時、またも四葉は唐突に切り出してきた。
「兄チャマ。四葉ね、告白されたんデス」
「ぬな!?」
 ……いかんいかん。
 おもいっきり動揺してしまった。
 まぁ、とりあえず落ち着いて……
「こほん……で、返事はどうしたんだ?」
「それが、相手がわかんないんデス」
「どういうことだ?」
「ラブレターだったんデスけど、名前がなかったんデス」
「ふ〜ん。今時ラブレターね〜…」
「プレゼントにも書いてなかったし……」
「は? プレゼントまでもらったのか?」
「うん、クマのぬいぐるみ。『四葉ちゃんへ』って置いてあったんデス」
「よっぽどのマヌケなのか?」
「そうかもしれないデス」
 普通に言うなよ。
 いや、まるっきり否定もできんが……
「あ、もうこんな時間デス。いってきま〜す!」
「ん? あぁ、いってらっしゃい」
 そんなこと興味ない、といった感じで、四葉はさっさと出て行ってしまった。
 そういえば話してる時も、別に特別な感情はこもってなかったか。
 ちなみに今日、四葉は友達とサイクリングに行くらしい。
 そろそろ暑くなってきたってのに、若い奴は元気なことだ。
 ……俺も高校生だけど。





   ピピッ
「んあ? もう6時か……」
 時計のアラームで気付き、読んでいた本から目を離す。
 そろそろ四葉が帰ってくる頃だが……
   ピンポーン
 ん? 客か?
「はいはい、どちらさ……ま?」
 外に出てはみたが、そこには誰もいない。
 ものすごい小さい人だった場合や、死ぬほどシャイな人だった場合も想定し、足元や電柱の陰なども調べてみたが、やはり誰もいない。
「ちっ、ピンポンダッシュかよ……ん?」
 ふと見たポストに、何かが入っているのを発見した。
 手にとってみると、四葉宛ての手紙らしい。
「あれ? これ、消印が押されてない……」
 手で直接入れたってことか?
 切手も貼ってないし。
 そういや、差出人の名前も書いてないな。
「もしかして、今日四葉が言ってた奴……か?」
 その時、ふと頭に浮かんだ考えがあった。
「中身……見てみよっか」
 のりづけはされていないので、たぶんバレないはずである。
 数秒悩んだ末、俺は結局その中身を手にしていた。
 だが……
「!?」
『四葉ちゃん、好きだ。君と僕とは結ばれる運命なんだ。君の全てがほしい。さぁ、僕のものになるんだ。好きだ……』
 そこに書かれていたのは、愛の告白なんかじゃない。
 数ページにわたる、欲望の羅列。
「なんだこりゃ……」
 ふと、数日前の会話が思い出される。
『四葉のことを、ずっと尾行してくる人がいるんデス』
 あの時は軽く流したが……四葉の勘違いじゃなかった!?
「ってことは、まさか……」
 急いで四葉の部屋へとダッシュし、その中を見回す。
 目的のものはすぐに見つかった。
 ちょこんと置かれた、クマのぬいぐるみ。
「チッ、マジかよ……」
 やはり、そこには何かの機械が仕掛けられていた。
 機械に詳しいわけじゃないが、たぶん予想した通りのもんだろう。
「四葉!」
 それを壁に叩きつけ、急いで駆け出す。
 たぶん、四葉は帰ってきている最中だろう。
 あいつのことだから、裏道を通ってくるはずだ。
 そう、ほとんど人通りのない道を。
「くそ……」



「あなた、誰デスカ?」
「ふふ……」
 兄の予想通り、やはり四葉は裏道を通っていた。
 そして、その目の前には、1人の男が立っている。
 見た感じ20歳ぐらいの、特に変わった印象は受けない男だ。
「あっ、わかった! 四葉をずっとつけてた人デスネ!?」
「そう、僕はずっと君を見つめていた。そして今日、僕らは結ばれるんだ」
「大正解デス! やっぱり、四葉は名探偵ね!」
 相変わらず、重要な部分は聞いていないようだ。
 そんな四葉を気にする風もなく、男は一歩一歩近づいていく。
 そして、その手が四葉の肩にかけられた。
「……えっ?」
「四葉ちゃん……」
 ここまできて、ようやく四葉も気付いた。
 事態の、その異常さに。
「ちょ……話してクダサイ!」
「さぁ……結ばれよう……」
 抵抗を試みるも、それによって変わることなど何もない。
 男はなおも迫ってくる。
「さぁ……」
 そこにあるのは、圧倒的な恐怖。
 何も出来ない。
 何も考えられない。
 ただ、1つだけ出てきた言葉は……
「兄チャマ〜〜〜!!!」
 声は、確かに届いた。
 いや。たとえ届かなかったとしても、きっと彼は現れただろう。
 大切な人を、守るため。
「っざけんな! この変態野郎!」
「!?」
 突然横から現れた拳が、男の顔面を捉える。
 男にとって最大の失敗は、近づいてくるその気配に気付かなかったことだろう。
「兄チャマ!」
「おうよ! ヒーローの登場だ!」
 そう言って、四葉に向かって親指をグッと立てる。
 安心したのか、四葉はその場にへたり込んでしまった。
 今になって、涙もあふれ出てくる。
「四葉を泣かしやがって……てめぇ、殺す!」
「ふふふ……兄チャマ、か。待っていたよ……」
「あ?」
 切れた唇から出る血を拭いながら、男はゆっくりと立ち上がる。
 とっさに避けたのか、あまり大きなダメージは無さそうだ。
「僕が四葉ちゃんと結ばれるのに、一番邪魔なのは君だからね……消してあげるよ……」
「チッ、変態ストーカーが……」
 男は、兄に向かって襲い掛かる。
 だが、それはあまりにもあっけなく。
 兄の蹴りがみぞおちにきまり、男は崩れ落ちた。
「ぐっ……」
「はっ、口ほどにもねぇ」
 男を一瞥し、四葉の方に振り返った。
 四葉の目からは、またも涙があふれ出る。
「う…あっ……兄チャマ〜!!」
「おっと」
 兄に抱きつき、思いっきり泣く。
 兄も、そんな四葉を優しく抱きしめた。
「大丈夫だったか?」
「うっ……恐かったデス……」
「悪かったな。もっと早くに気付くべきだった」
「ううん……ありがとう、兄チャマ……」
   ドンッ
「キャッ」
「む……」
 いきなりの衝撃に、四葉は後ろに少しふっ飛ばされた。
 見ると、男が兄の背中に体当たりをしている。
「はははははははは!」
「っの野郎!」
 兄の肘打ちが、男の顔面にヒットする。
 綺麗に、完全に人中にきまった。
 そのまま倒れた男は、今度こそ気絶したようだ。
 それを見てから、四葉は心配そうに尋ねる。
「兄チャマ、大丈夫デスカ?」
「あぁ……大丈夫だ……」
 そう言ってはいるが、どこか様子がおかしい。
 四葉は、急いで兄の方へ駆け寄ろうとする。
「チィッ……」
「兄チャマ!?」
 だが、四葉が到達するよりも前に、兄は前のめりに倒れこんだ。
 慌てて駆け寄り、四葉は必死に兄の名を呼ぶ。
 その兄を中心に、赤い世界が出来上がっていく……
「兄チャマ! 兄チャマ!」



 チィ……しくじったな……ナイフ持ってるとは思わなかったぜ……
 刺されるってーのは初めての体験だが、やっぱかなり痛いな……
 背中から血ぃ出てるのがわかる……
「兄チャマ! 兄チャマ!」
「あぁ……大丈夫だ……」
 とはいえ、これはちょっちやばいかもな……
「でも……だって……」
 なんだ……泣いてんのかよ……
 ったく、お前は昔っからよく泣いてたよな……
「うぐ……ごめんなさい、兄チャマ…ごめん……」
「ほれ、大丈夫だって言ってんだろうが……」
 指先で、その涙を拭ってやる。
 このまま顔に全部落とされたんじゃ、冷たくてかなわんからな……
「四葉のせいで……兄チャマ……」
「別にお前のせいじゃないさ……いいから、お前は笑っとけばいいんだよ……」
 口の端も持ち上げ、むりやり笑顔を作ってやる。
 形だけでも、その笑顔を見ると、なんだか元気が出てくる気がする……
「うん……兄チャマ……」
「よし…お前の笑顔さえありゃあ、俺は元気100倍だ……だから、お前はずっと笑っとけ……」
「うん……」
 今度は、手を離しても笑顔のままだった。
 涙を流しながら笑うとは、なかなか器用なやつめ……
 まぁ、俺がそうしろって言ったんだが……
 さぁてと、俺もちっと頑張らにゃあいかんな……
「四葉……きっと、ずっと笑っとけよ……」
「うん……」





「兄チャマ、もう歩いても大丈夫なんデスカ?」
「無論だ。大丈夫じゃなきゃ、こんな所にはいねぇよ」
 2人は、公園を歩いていた。
 まだ少し辛そうだが、兄はしっかりと大地を踏みしめる。
 あの日から、もう1ヶ月が経過しようとしていた。
「だから言ったろう? 俺は、お前さえ笑ってりゃ元気100倍なんだよ」
「うん!」
 元気に返事をし、顔いっぱいに笑みを浮かべる。
 それが、また彼に元気を与える。
 それが、また彼女の笑顔を作る。
 そうして、また生きていく……
「だからな……お前、これからもずっと笑ってろよ?」
「……うん!」








あとがき
どうも、カッツォです。
BDSS第4弾です。
かなりギリギリです。
それもあって、ラストはイマイチになってしまいましたね。
書き終わってからもっと違うのも思いついたんですが、時間的に無理でした(汗)
はぁ……ダメダメ……
あとがきもダメダメ……(爆)
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。



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