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ある日のお話

作者:カッツォ


 ある日曜日。
 休日の朝を満喫しようと布団で丸くなっていた俺を、強制的に覚醒させる音が鳴り響いた。
 しぶしぶながら起き上がり、音の発生源、俺の携帯を手にとる。
 そこに表示されている名前は……
「兄チャマ兄チャマ兄チャマ兄チャマ〜!!」
「ぐぁ……」
 くそ……耳がキンキンする……
 『四葉』と表示されている時点でもっと警戒するべきだった……
 朝からハイテンションなやつめ……
「兄チャマ? どうかしたんデスカ?」
「いや、何でもない……何か用か?」
「そうなんデス! 今日は、ドーナッツがと〜っても上手に作れたのデス! というわけで、兄チャマをご招待デス〜!」
「は?」
「待ってるからね、兄チャマ!」
「あ、おい! ……切りやがった」
 いきなり電話してきて、そりゃあないだろう……
 そう思いつつもしっかり四葉の家に向かってる俺って、やっぱり兄バカなんだろうか?
 むしろシスコン?
 むぅ……否定する材料がない……
 お、そうだそうだ。
 アレも持っていかなきゃな……



 クフフフフ……
 兄チャマ兄チャマ兄チャマ! 兄チャマが来てくれる!
 今日のドーナッツはホントにと〜ってもおいしくできたから、きっと兄チャマはほっぺたが落っこっちゃうデス!
 それでそれで、兄チャマは四葉にメロメロ!
 うぅ……待ちきれないデス!
 もう1回兄チャマにお電話デス!
「兄チャマ兄チャマ兄チャマ!」
「ぐぁ……」
 アレ?
 兄チャマ、また黙っちゃったデス……
 どうかしたのかな?
 ……まぁいいデス!
「兄チャマ! 早く早く!」
「今行っとる……」
「遅いデス! 30秒以内デス!」
「無理だ! 電車で40分の距離だろうが!」
「兄チャマならオッケーデス!」
「俺は何者だ!」
「早く〜!」
「へいへい……できるだけ急ぐから。おとなしく待っとけ」
「ハ〜イ!」
 兄チャマ……早く来ないかなぁ……



「ふぅ……着いた〜」
 額の汗を手の甲で拭いながら、大きく息を吐く兄。
 駅から駆け足で来たため、その息は少し乱れている。
 やはり、彼のシスコン説は否定できない事実のようだ。
「さて、と……」
「いらっしゃい、兄チャマ!」
「どわ!」
 インターホンに手を伸ばそうとしたその時、いきなりドアが開いた。
 当然、開けたのは四葉である。
「なんつータイミングのよさだよ……」
「名探偵に不可能はないのデス!」
「あっそう……」
 もはやこのようなことは日常茶飯事。
 兄も慣れているようである。
 あっさり流して、2人は家の中へと入っていった。



「む……こりゃ本気で美味いな」
 一口ドーナッツを食べ、兄はそう感想を漏らした。
 実際、売られている物以上……とまではいかなくとも、それに大きく劣るようなものでもなかった。
 失礼な話だが、ここまでおいしいとは思っていなかったのだ。
「クフフフ……デショ? これで、兄チャマはもう四葉にメロメロね!」
「いや、それはイマイチ意味がわからんが……」
 ドーナッツを食べながら、2人の会話は続く。
 もっとも、四葉が話していることがほとんどではあったが。
 だが、いつもそんな感じなので、2人とも特に気にしていないようだ。
 ドーナッツの量は、なぜか尋常じゃなく多い。
 恐らく、パーティー用にしても少なくはないだろう。
 結局、ドーナッツが無くなるよりも先に2人の方が満腹になった。

「ところで四葉、ここままでいいのか?」
 2人の手が止まってからしばらく、兄は思い出したように呟いた。
 言われた四葉は、何のことかわからず、頭に疑問符を浮かべている。
「何がデスカ?」
「何ってお前……せっかくの誕生日に、家でドーナッツ食うだけでいいのか、ってことだよ」
「誕生日? …………って……あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
 突然、叫びながら壁のカレンダーにかけよっていく。
 今日の日付は6月21日。
 そこには、でかでかと『バースデー』と書かれてあった。
 色ペンで何重にもマルがうたれており、一目見れば特別な日だとわかるようにしてあるようだ。
 なぜ気付かなかったのか、不思議でならない。
「な、え? あ゛、う゛……忘れてたデスぅぅぅぅぅ!」
「バカ、ちったぁ落ち着け。まだ昼前だし、どっか行くか? 今日は特別大サービスだ。好きな所に連れてってやるぞ」
「ホント!?」
「変わり身、早っ……まぁ、本当だ」
「う〜んと……じゃあ……じゃあ……」
 しばらく唸っていた四葉だが、やがて何かを思いついたようにクスッと笑った。
「やっぱり、このままがいいデス!」
「は? このままって……ここか?」
「うん!」
「ふ〜ん……ま、お前がいいならいいけど……」
「クフフフゥ……あ〜にチャマ!」
「うぉっ!?」
 含み笑いを浮かべながら、いきなり兄に抱きついた。
 さすがに倒れはしなかったものの、兄にとってはかなりの不意打ちである。
「いきなり何だ……」
「だってだって、今日は特別大サービスデス!」
「ここまでは言ってない……っと。そうだそうだ、忘れる所だった」
「?」
 四葉を無理矢理ひっぺがし、ポケットの中をゴソゴソ探り始める兄。
 そして、すぐに片手に収まるぐらいの小さな箱を取り出した。
「ホレ、プレゼントだ」
 その箱を、四葉に向かって軽く放る。
 いきなりのことに少し驚く四葉だあ、しっかりとそれをキャッチした。
「ムムゥ……兄チャマ、こういうのはもっといい感じのフンイキで渡すもんデス!」
「そうか?」
「そうデス!」
「じゃあ、いらないのか?」
「モチロン、いる!」
「なら、素直に礼言っとけ」
「ウン! ありがとう、兄チャマ!」
「うむ、よろしい」
 結局は嬉しいらしく、めいいっぱいの笑顔を浮かべる四葉。
 ふくれたり笑ったり、なかなか愉快な百面相である。
 だが、今度はその表情が含み笑いに変わった。
「でもぉ……やっぱり、兄チャマには罰デス!」
「ぐぉ……」
 またも、四葉はいきなり兄に突っ込んでいく。
 本人は抱きついているつもりだが、実は結構痛かったりする。
「なんでだ……」
「やっぱり、フンイキは大事デス!」
 そう言いながらも、顔には満面の笑みが浮かべられている。
 その心底嬉しそうな顔を見て、兄も諦めたようだ。
「はぁ……ま、いっか」



 その後は、またにぎやかな会話が続く。
 やはり、喋っているのは四葉がほとんどであったが。
 それでも、部屋はにぎやかだった。
 だが、やがて部屋は穏やかな静寂に包まれる。
「こうやってりゃ静かなんだがなぁ……」
 あるのは笑みを浮かべたたままの幸せそうな寝顔と、それを優しく見守る微笑だけ。
「兄チャマ兄チャマ〜……」
「はは、そうでもないか」
 苦笑いを浮かべながら、そっとその髪を撫でてみる。
 少しくすぐったそうな表情をしたが、すぐにまた安心した寝顔に戻る。
 窓から差し込む光は、優しく2人を包み込んでいた。









あとがき

どうも、カッツォです。
BDSS第4弾(ホントはこれは2番目に書いたんですが)です。
というわけで、ほのぼのです。
そういえば、私の初めてのBDSSもこんな雰囲気だったなぁ、なんて思います。
これを絆シリーズに入れようかとも思ったんですが、ちょっと条件に反してしまいまして。
後から何となく決まっていった条件なので、最初の話は違反しまくってるんですけどね(爆)
まぁ何にせよ、なかなかのものには仕上がったんじゃないでしょうか?
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。



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