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成せば成る!

作者:カッツォ


 ある晴れた春の日。
 のどかな陽気の下、辺りは平和そのものだった。
 それは、あの13人の住む家だって変わらない。
 軒先では四葉とバニラが仲良く昼寝し、庭では雛子や亞里亞が楽しそうにミカエルと遊んでいる。
 鞠絵の体調だって今日はすこぶる良好だし、花穂も元気に転んでいた(?)
 そんな、のどかな昼下がり。
 …ただ、その空間だけは違った。
 周りの空気なんて無関係だとばかりに、異様なオーラが放たれている空間。
 千影の部屋?
 いやいや。
 千影だって庭先で、雛子と亞里亞を微笑みながら見ている。
 大変のどかな光景だ。
 なら、咲耶だろうって?
 いや、それも違う。
 咲耶は台所で、白雪・春歌と共におやつを作っている。
 きっとしばらくすれば、家族みんなの笑顔が集まることだろう。
 とても穏やかな光景だ。
 裏をかいて、衛?
 残念、やっぱりはずれ。
 衛と可憐は、四葉が眠っている横で談笑していた。
 非常にほのぼのとした光景だ。
 では、いったいどこなのだろうか?
 その空間に場面を移すことにしよう。

「………………」
「………………」
「………………」
「あの……アニキ……?」
 その空間を支配しているものは、静寂。
 それも、とびっきり重い空気だ。
 場所、兄の部屋。
 そこにいる人間、兄・鈴凛。
「……鈴凛。何だ、これは?」 
 兄はさっきから、1枚の紙を凝視している。
 重い空気の原因が、そこであることは明らかだ。
「何って……テストの結果……」
「ほぅ……」
 紙から目を離し、ゆっくりと顔を上げる兄。
 そして、ニヤッと笑った。
 それに合わせるように、鈴凛も少し笑う。
 ただ、その顔は思いっきり引きつっているように見えた。
「ふふ……」
「あは、あははは……」
 部屋は笑いに満ちているにも関わらず、空気はさっきよりもさらに重くなったようだ。
 だがその空気は、一瞬にして破られることとなる。
「何だこの点数はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はひぃぃ!!!」
 その兄の声により、家中が振動したようにさえ感じた。
 いや、棚からの落下物などがあった所を見ると、実際に家全体が震えたらしい。
 さっきまでに静かな空気とは一転。
 兄の怒りのオーラは、それこそ目に見えそうなほどの勢いだ。
「9教科中8教科赤点ってどういうことだ!」
「あはは……」
「しかも! 唯一赤点じゃない理科だって41点じゃねぇか!」
「に、苦手な生物だったから……」
「そういう問題じゃない! 極めつけに、何だこの『国語 0,8点』ってのは!」
「頑張ったからって、先生がオマケしてくれたの」
「同情で点数もらうなぁぁぁぁぁぁ!!!」
 大きく肩で息をし、鈴凛を睨む兄。
 そして、ビシッと指差してまた叫ぶ。
「次のテストまでパソコン禁止! プラス! 赤点が無くなるまで援助は無しだ!」
「え゛ぇぇぇぇぇ!!? アニキ、私を殺す気!?」
「んなぐらいで死んでたまるか! 決定事項だ! 変更は一切ない!」
 そう言い放つと、兄は鈴凛の部屋を後にした。
 バタン! と扉が閉められた後、残された鈴凛は時が止まったかのように動かない。
 室内にも関わらず、そこには強い北風が吹いているようだった……


 
 次の日
「フフ……こうなりゃ実力行使よ……」
 鈴凛が今いるのは、兄の部屋だ。
 あの後、鈴凛の部屋からはパソコン・及びパソコン関係のものが撤去された。
 この調子じゃ援助の方も本気か……?
 そう思った鈴凛は、直接資金を調達しに来たのである。
「財布は、っと……ここかな」
 ほとんど迷うことなく、鈴凛は机の引き出しを開けた。
 何度も忍び込んでいる彼女にとって、兄が財布を置いておきそうな場所など予測できる範囲なのである。
「あれ?」
 だが、そこに財布はなかった。
 他の場所も何箇所か探してみるが、どこにも見つからない。
 どうやら、今までにないほど入念な隠し方のようだ。
 さすがに、鈴凛の行動は予測済みらしい。
「ムムゥ……こうなったら……」
 目をとじ、クンクンと部屋の匂いを嗅ぎ始める鈴凛。
 彼女には、金の匂いを嗅ぎ分けられるという特殊能力が備わっているのだ。
 こと金に関しては、警察犬よりも遥かに優秀な嗅覚を持つ。
 もはや人間ではないような気もするが、そこは気にしないように。
「……そこだ!」
 キュピーン! という効果音が鳴りそうな勢いで、鈴凛はクローゼットの方を向く。
 そのまま、クローゼットの扉を思いっきり開いた。
   バン!
「♪探し物はなんですか 見つけにくいものですか カバンの」
   バン!
 そして、一瞬にして扉は閉められた。
 とりあえず、頭の中を少し整理してみる。
「(何でアニキが中にいんの…? っていうか何で歌ってんの…? いや、そもそもあれはホントにアニキ? アニキに化けた宇宙人…千影アネキ説も有力…いや、それでもなんでクローゼットに? っていうか…)」
 全然整理できていないようだ。
 そうこうしているうちに、再びクローゼットの扉が開いた。
 内側から開けられたのだ。
 そして、中からゆっくりと兄が現れる。
「♪まだまだ探す気ですか」
 ……なぜか歌いながら。
「ヒィ! ごめんなさ〜い!」
 それを見た鈴凛は、一目散に逃げ出していった。
 そりゃ確かに怖いだろう……



「はぁ……」
 部屋に戻った鈴凛はとりあえず勉強机に向かっていた。
 普段はパソコンやら何やらで一杯な机も、それらが没収された今では綺麗なものだ。
「仕方ない、ちゃんと勉強するかなぁ……」
 先の事で、鈴凛は悟った。
 今回の兄はマジだ……と。
 普段なら……
「おわっ!? 鈴凛! 人の部屋で何やってんだ!」
「ん? ま、気にしない気にしない。じゃあね〜」
「気にするわ! っていうか……俺のサイフ〜!」
 ……ってな感じで、サイフな奪取などいとも簡単に成功するのだ。
 今回のことは、それだけ兄が本気な証拠なのである。
「それに……このままじゃ、アニキに家庭教師されちゃかもしれないし……」
 兄の家庭教師はスパルタで有名だ(妹達の間では)
 以前、兄が衛の家庭教師をしたことがあった。
 最初は内心少し喜んでいた衛だが、3日ほどで様子がおかしくなり始める。
 目が虚ろになり、なにやらブツブツ呟いているのだ。
「S=4πr÷3……ら、り、る、る、れ、れ……754、鑑真来航……」
 よく聞くと、そんな内容だった。
 いつもは下から数えた方が早い衛だが、その時の成績は学年トップ。
 しかし、テスト後も1週間はその状態が続いたという。
 この家においては、兄の家庭教師≒精神崩壊の危機、という式が成り立つと言って差し支えはない。
「それだけは避けたい……よし、ちゃんと勉強しよう! まずは数学から!」
  5分後
「……わかんないや。後にして、とりあえず英語をやろう」
  2分後
「……やっぱ、苦手科目から克服しないとね。国語にしよう」
  5秒後
「……ダメ表紙見ただけで気持ち悪くなってきたわ。よ〜し、ちょっと休憩しよっと!」
 ……結局、7分5秒間だけの決意であった。

 休憩も30分ほどに差し掛かった頃、鈴凛が何やら呟き始めた。
「だいたい私は、世界の頂点にたつ人間よ? こんなの意味ないってーの!」
 その姿は、酔ったおっさんのようだ。
 鈴凛なら将来実行しかねないあたり、実に恐ろしい。
「そうだ! 意味がない! 世界は私のもんだぁぁぁぁ!」
 そのまま、なぜかヒートアップ。
 将来どころか、今すぐ実行してしまいそうな勢いである。

 その頃、鈴凛の部屋の前では。
『私のもんだぁぁぁぁ!』
「鈴凛ちゃん、大丈夫かな?」
「いやぁ、あの様子は全然大丈夫じゃないでしょ……」
 花穂と衛が、哀れみの目で部屋のドアを見ていた。
「でも、ボク達にはどうしようもないしね……」
「やっぱり、お兄ちゃまに教えてもらった方がいいんじゃ……」
「………………」
「……? 衛ちゃん?」
 返事がないことに疑問を持った花穂は、何気なく衛の方を向いてみる。
 その時花穂が見た衛は、何やらプルプル震えだし、どこか遠くを見つめた姿だった。
「……あり、おり、へべり、いますがり……アイ、マイ、ミー、マイン……」
「衛ちゃん!? 白目! 白目むいてるよ!」
「大木凡人は実は琉球空手の達人……グッチ祐三の本名は高田祐三……」
「大丈夫!? っていうか……何の勉強してるの!?」
「お茶を飲んだ後は、辛さをあんまり感じなくなるんじゃよ……」
「おばあちゃんの知恵袋!?」
「アメリカでは、女の子はクッキーを1人で美味しく作れるようになれば1人前なのさ……」
 ここにも、大丈夫じゃない人が1人……

「いよっしゃぁ! そうと決まれば早速開発じゃぁ!」
 話は戻って鈴凛の部屋。
 勉強したって意味がない→じゃあ、しなくていいじゃん→でもアニキに怒られる……→いや、点数さえとれればいいんじゃん!
 以上の式が彼女の脳内で成り立ったため、それはすぐに実行に移されたのだ。
 すなわち、カンニングマシーンの開発である。
「これさえできれば学年トップ!」
 その日からテスト当日まで、彼女の部屋の電気が消えることはほとんどなかったという。
 そこまでしてテストに備えるのなら勉強しろよ……そんなツッコミも今の彼女には届かない。
「世界征服は目前だぁ!」
 関係ないし。



 さて、話は飛んでテスト終了後のある日。
 のどかな陽気の下、辺りは以下省略。
「りんりぃぃぃぃん! 何だこの点数はぁぁぁぁ!」
「(うぅ……超小型記憶装置を作ったはいいけど……データ入れるの忘れた……)」
「だいたい、何だこの『国語 −2点」って!」
「あまりに字が汚いからって……」
「お前の先生は何なんだぁぁぁぁ!!」
 こうして、歴史は繰り返されるのであった。

「ふえ〜ん! 衛ちゃんが戻らないよぉ!」
「闇の世界に失敗はない……あるのは死のみだ……」
「むしろ、どんどん変になっていってるぅぅぅぅ!」
 そして、ここにも繰り返される歴史がもう1つあったとか……







 あとがき
どうも、カッツォです。
あれぇ?
この話は、鈴凛が苦心して勉強する話だったはずなんですが……何故?
なぜか鈴凛ぶっ壊れたし。
いつの間にか衛とか出てきてるし。
う〜ん、世の中謎が多いですね(死)
しかも、妙に話が繋がってないし……
そもそも、何で唐突に鈴凛ギャグ書こうと思ったんですかね?(知るか)
まぁそれはそうと、最後に。
カンニングはやっちゃいけない行為です。
絶対にマネしないようにね(これ読んでやる奴はいないだろ……)
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです……




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