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大和撫子のお勤め

作者:カッツォ


「兄君さま、この春歌が命に代えてもお守りいたしますわ!」
 そう言って、春歌は俺をかばうような形で薙刀(真剣じゃないことを信じよう)を構えた。
 
 ちょっと現在の状況を説明しておこう。
 数分前にお約束通り唐突に不良に絡まれた俺。
 そして、これまたお約束通り春歌が助けに入った、ってわけだ。
 この程度の奴らなら数秒で粉砕できるのだが、俺は基本的に平和主義者だからな。

「ご無事ですか、兄君さま?」
 っと、考え事をしているうちに、春歌が不良共を全員ダウンさせたみたいだ。
 中には瞳孔が開いてるやつもいるみたいだが…ここはあえて無視しよう。
「ありがとう、春歌。助かったよ」
「いえ、兄君さまをお守りするのは大和撫子として当然ですわ」
「うん、それはいいんだけどさ…」
「はい、何か問題でも?」
「『バキッ』とか『ドカッ』っていうのはいいんだ。でも、何か『ブシュッ』とか『グシャッ』とか聞こえてきたんだけど?」
「………………」
「………………」
「ご無事で良かったですわ! 兄君さま!」
「おい! どうなんだよ!?」
「いやですわ、兄君さま。こんな所で…ポッ」
「やっぱり無視か…っていうか、何でそうなる…」
 しばらくの間、身悶えする春歌とそれを見て溜息をつく俺、という何とも変わった情景が続く。
 他の人が見たら、いったいどう思うんだろうか…

「…そういえば春歌、何かお礼がしたいんだけど?」
「そ・そんな! お礼だなんて…当然のことをしたまでですわ!」
 また唐突にこっちの世界に戻ってきたな…
「い・いや、何かお礼をさせてくれよ」
「そうですか? だったら…ワタクシの殺陣に付き合っていただけますか?」
「やだ」
 速攻で断る俺。
 自分で言っといて何だが、それだけは聞けない。
 だって・・・
「お前の殺陣って必ず殺人になるんだもん」
「いやですわ、兄君さま。これは『さつじん』ではなくて『たて』と読むのですよ」
「い・いや、そういう問題じゃなくて…」
「それでは参りますわ! 兄君さま!」
 そう言って春歌は、今まで持っていた薙刀を右の袖にしまうと、左の袖から新たな薙刀を取り出した。
 って、四次元ポ○ットかよ…
「っていうか、なんで薙刀変える必要があんの?」
「すぐにわかりますわ!」
「え!? ちょ・ちょっと…うわぁ〜!!!」
    シュッ!
 いきなり放たれた春歌の突き。
 とりあえず体が反応してくれたおかげで、何とか避けられた。
「紙一重でかわすとは…さすが兄君さまですわ!」
        ぱらっ
「『ぱらっ』? ってまさか…」
 春歌の攻撃がかすった所を恐る恐る見てみる…
 するとそこは、案の定見事に切られていた。
「ってことは…真剣!?」
「その通りですわ!」
        シュシュシュシュ!
 次々と繰り出される春歌の連続攻撃。 
 俺も何とかそれをすべて避けていく。
 とはいえ、はっきり言ってちょっと運が悪ければ当たってると思う…
「全てかわされるとは…」
「ふふ、俺だって伊達に…って、殺す気か! 今のかわさなかったら、確実に心臓貫いてたぞ!」
「それでこそワタクシの兄君さまですわ!」
「やっぱり無視ですか〜〜〜!!!」

(以下、兄が殺られるだけなので省略。そして次の日)





「ふぅ…まったく、どこの世界に殺陣で真剣使う奴がいるんだよ…俺じゃなかったら死んでたぞ…」
 昨日春歌によって殺されかけた俺だが、見事に復活し、今日は元気に登校している。(ちなみに俺は高校生だ)
 ん? 何故復活できるかって? そりゃああんた…作者の都合だろ。

   キーン コーン カーン コーン

「お、昼休みか。今日も白雪が弁当持ってきてくれるのかな? ……うん? なんか今悲鳴が聞こえたような…ま、気のせいだろ。」
 俺が白雪を迎えに行こうと席を立った時、教室の扉が勢いよく開いた。
「兄君さま、お弁当をお持ちいたしましたわ!」
「あ、春歌。ありがとう。でも、なんで今日は白雪じゃないんだ?」
 俺の弁当は、だいたいつも白雪が持ってくることになっている。
 たまに他の妹が持ってくる時もあるのだが、その時は前もって白雪から何らかの報告がある(花穂の時とかは胃薬の用意も必要だし)
 しかし今日は何の連絡も受けていない。白雪に何かあったのだろうか?
「し・白雪さんなら…そ、そう! 体調が悪いとか言って帰られましたわ!」
「そうか…大丈夫かな? 白雪………ん?」
 春歌は、護身用とか言って絶えず薙刀を持ち歩いている。
 以前警察に補導されそうになったが、その警官を半殺しにして以来、この街では常識となっている。
 …ツッコミは不可だ。 
 そして、今日もそれは例外ではない。 
 しかし今日は、その薙刀の刃に何故か赤い模様が…
「春歌…その薙刀についてるのって血なんじゃあ…」
「………………」
「………………」
「…さあ召し上がれ! 兄君さま!」
「おい! どうなんだよ! …ってこりゃさっきもやったな」
 ってことはさっきの悲鳴は…春歌…まさかついに殺…
「どうかなされましたか? 兄君さま」
「い・いや、なんでもないさ! なんでもないはずさ! なんでもないに違いない! ははは…」
「うふふ…変な兄君さま」
 よし! ほのぼのムードが展開してきたぞ! このままいけるか!?
      ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 はぅ…ものすごい殺気…やっぱこうなるんですかい…
「は〜る〜か〜ちゃ〜ん? よ〜く〜も〜や〜って〜く〜れ〜ま〜し〜た〜わ〜ね〜ですの〜!」
「し・白雪! どうしたんだ血まみれで…って! やっぱり春歌! お前か!」
 っていうか白雪は動いて大丈夫なのだろうか?
 素人目に見てもこれは明らかに致命傷なんだが…
 いや、それより何より、なぜ両手に包丁を持って殺気を撒き散らしてる!?
「兄君さまを狙う魔物ですね! 覚悟!」
「いや魔物って! どう見たって白雪だろうが!」
「そっちこそ覚悟ですの!」
「おい! 白雪もやる気まんまんかよ!」
「「ど〜〜りゃ〜〜!!!」」

 そうして、春歌と白雪のバトルが開始された。一方の俺はというと…
「はあ、お茶がうまいなぁ…」
 とりあえず現実逃避することにしました。
 どうせこの後巻き込まれた人の治療費とか建物の修理代とか払わされるんだ!
 今ぐらいゆっくりさせてくれ!
 …しかし、薙刀と包丁で建物が壊れるって…なんちゅう力だ…
「はあっ!」
   キンッ
「ていっ! ですの!」
   カキン
 あはは…春歌も白雪も頑張れ頑張れ…

 平穏って何よりすばらしいものだよね。俺にはもう一生来ないだろうけど…





あとがき
実はこの作品、最初書いた時には春歌の兄人称を勘違いしていたという超問題作です。
今回はちゃんと直したので大丈夫ですが(当たり前だ)
しかしまぁ、短さは全然解決されてませんな(爆)
え〜っと、とりあえず(その他、いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねえ、というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです。(ただし、ウイルス等はご勘弁)



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