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兄として

作者:カッツォ


「可憐、ちょっとピアノを弾いて見せてよ」
「え!? ご・ごめんなさい! 今、ちょっと忙しいの…」
「そうか…じゃあまた今度にするよ」
「ごめんなさい、お兄ちゃん…」
「いや、いいんだよ。忙しいんなら仕方ないよね」

「花穂、いっしょに帰ろうか」
「ご・ごめん、お兄ちゃま! 花穂、チアのことで先輩に聞きたい事があるの…」
「そう? じゃあ終わるまで待ってるよ」
「え!? お・遅くなるから先に帰ってて」
「そうか…じゃあ一人で帰ることにするよ」
「ごめんね、お兄ちゃま…」
「いや、いいんだよ。チア、頑張ってね」

「衛、いっしょにランニングでもしようか」
「あ…ご・ごめん、あにぃ! ボク、これから行く所があるんだ…」
「そうか…たまにはいっしょに、って思ったんだけどな…」
「ごめんね。あにぃ…」
「いや、いいんだよ。いっしょに走って欲しい時はいつでも行ってね」

「咲耶、明日買い物にでも行こうか」
「あ・あら、ごめんなさい、お兄様。明日はちょっと予定があるの…」
「そうか…そうだね。僕が言うのが突然すぎたね」
「ごめんなさい、お兄様。また誘ってね」
「いや、いいんだよ。今度からは早めに言うからね」

「雛子、僕と公園にお出かけしようか」
「え・え〜と…ごめんなさい、おにいたま。ヒナ今日…え〜と…お・お友達のお家へ行くの!」
「そうか…じゃあ、お友達と仲良くね」
「ごめんね、おにいたま…」
「いや、いいんだよ。僕の事は気にせず楽しんでおいで」

「鞠絵、散歩にでも行こうか」
「す・すみません、兄上様。今日は病院に行かなければならないので…」
「そうか…病院じゃしょうがないね」
「すみません、兄上様。折角のお誘いを…」
「いや、いいんだよ。早く病気が治るように頑張ろうね」

「白雪、夕食の買い出しにでも行こうか」
「へ? あ、い・今は食材は足りているからいいですの!」
「そうか…荷物持ちが必要な時はいつでも言ってね」
「すみませんですの。にいさま…」
「いや、いいんだよ。おいしい料理、期待してるからね」

「鈴凛、この前作ってたメカ、完成したんでしょ? 見せてみてよ」
「え? えっと…ご、ごめん、アニキ! 私ちょっとメカ鈴凛の調整しなくちゃいけないから」
「そうか…頑張ってメカ鈴凛完成させてね」
「ごめん、アニキ」
「いや、いいんだよ。手伝って欲しいことがあったら言ってね」

「千影、今日は魔術の実験とかしないの?」
「ああ…この前悪魔につけられた傷が…まだ癒えなくてね…」
「そ、そう…大丈夫なの?」
「傷はたいしたこと無い…すまないね…兄くん…」
「いや、いいんだよ。あんまり無茶しちゃだめだよ」

「春歌、いっしょに河原にでも行ってみない?」
「も・申し訳ありません! ワタクシ、これから舞のお稽古がありますゆえ…」
「そうか…お稽古、頑張ってね」
「申し訳ありません、兄君さま…」
「いや、いいんだよ。今度舞も見せてね」

「四葉、最近僕の後をつけないんだね」
「チェ・チェキ!? あ・兄チャマ、たまには距離を置くこともチェキには必要なのデス!」
「そ・そうなの? まあいいや…」
「ごめんデス、兄チャマ」
「い・いや、いいんだよ。今度僕の写真見せてね」

「亞里亞、お菓子でも買いに行こうか」
「あ、兄や…えっと…じいやがお勉強しなさいって言うからダメなの…」
「そうか…お勉強は大事だからね」
「ごめんなさい、兄や…」
「いや、いいんだよ。ちゃんとお勉強できたらご褒美あげるからね」





 最近、妹達がやけによそよそしい気がする。
 今からだいたい一年くらい前、僕に突然十二人の妹が出来た。
 なんでも、僕が小さい頃から海外に行っていた両親がいつの間にか作っていたらしい。
 僕の方は全く知らなかったのだが、向こうは僕の事を知っていたらしく、来たその日から僕にベッタリだった。
 僕としては寂しかった生活に急に華ができ、嬉しかったし恥ずかしかったり…とにかく悪い気はしなかった。
 それが最近、あまり僕にかまってこなくなった。
 いったいどうしたんだろうか…

「そりゃやっぱ兄離れなんじゃねぇの?」
 開口一番、友人は事も無げにそう言い放った。
 1人で考えてもしょうがないので、僕は友人に相談することにしたのだ。
「だいたいさ、もう『お兄ちゃん』って歳でもないだろう。」
「やっぱりそうなのかな…?」
「まあお前としては寂しいだろうが、ここは妹の成長を喜んであげるべきなんじゃないのか?」
「…そうだな」


「兄離れ、か…」
 その日の帰り道、気がつけば僕は何度もその言葉を呟いていた。

 確かにもう兄といっしょにいるような歳でもないよね。
 やっぱり「兄」っていう存在が珍しかっただけなんだろうな…
 約1年…すごく短く感じたな…それだけ楽しい日々だった。
 こんな楽しい思い出をくれた妹達に僕は感謝しなければならない。
 でも、楽しいことにも終わりはくるんだ。
 やはり僕は妹達の成長を見届けてやらなきゃいけない。
 たとえそれが、妹達との距離が遠くなることを意味していても。

「兄」として…


 あ、考え事しているうちに家に着いちゃった…
 前は誰かが迎えてくれたんだけど…今日も誰もいないんだろうな…

「ただい…」
  パアン! パアン! パアン!
「ま…?」
 そこでは、何故か妹全員が笑顔で僕を迎えてくれていた。

「「「「「「「「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」」」」」」」」
「誕生日?」
「そうデス!四葉のチェキによれば今日は兄チャマの生まれた日なのデス!」
 誕生日…そうか…今日は僕の…
 はは、僕自身は忘れてたのに…みんな、覚えてくれてたんだ…
「お兄ちゃまにバレない準備するの、大変だったんだから!」
 それでみんな…
 僕は勘違いして…なんてバカだったんだ…
「…みんな、ありがとう」
「おにいたま、泣いてるの? どっかイタイの?」
「うふふ…さあ行きましょう、お兄様!」
「今日の料理は特に腕によりをかけて作りましたのよ!」
「私だって今日のためのとっておきの発明品があるんだから!」
「パーティーの準備もできてますよ、兄上様」
「亞里亞も手伝ったの〜」
「フフ…今日は…楽しもうじゃないか…」
「みんな、ホントにありがとう!僕は世界一の幸せ者だよ!」
「あは、大げさだよ、あにぃ」
「そうですわ、兄君さま。いつもお世話になっているのだから、これぐらいさせていただくのは当然ですわ!」
 いや、本当に僕は世界一幸せなんじゃないかな。
 こんなにも大きな幸せをもらえるんだから…

  パアン! パアン! 
 再び鳴るクラッカーの音。
 響き渡る妹達の声。
 僕は…

「お兄ちゃん、これからもずうっと大好きだよ!」







あとがき
何気に、自分の誕生日近くに書いたSSです。
というわけで、カッツォのBDSS(死)
しかしまぁ、こんなもん公開していいんでしょうかねぇ…
後半はともかく、前半はなんだアレ…
まぁとにかく、(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいので送っていただければ幸いです。



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