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 始まりは、ほんの些細な出来事だった。
「あ〜! 咲耶アネキ!」
「(むぐむぐ)ん?」
「最後の餃子…」
「(ごっくん)あぁ、ゴメンゴメン」
「せっかくとっておいたのに…」
「いいじゃない。別に減るもんじゃないし」
「思いっきり減るよ! っていうか無くなったよ!」
「まぁ、今度からは名前でも書いときなさい」
「ちゃんと書いてあったよ!」
「あら、字が汚すぎて読めなかったのかしらね。あははは…」
「ぐぐ…許すまじ…食べ物の恨みは恐ろしいんだから…」
 こうして、戦争の火蓋は切って落とされた。
 つーか兄、止めろよ。
「無理。死ぬ」
 というわけで、抑制者も現れないまま、戦いは静かに始まったのである…


我が家の戦争

作者:カッツォ


 最初の事件は玄関にて。
「♪〜♪〜〜」
 その日の咲耶は上機嫌で、鼻歌まじりに帰ってきた。
「♪〜ん゛!?」
  ビタン
 …こけた。
 花穂じゃあるまいし、何もない所で転ぶわけもない(酷)
 足元を見ると、何かが足を掴んでいる。
「何これ?」
 それは、切断された人の手…に、似せられた機械だった。
 しかし、非常に精巧。
 切断面からは血(のようなもの)が滴り落ち、ご丁寧に毛穴まで作ってある。
 はっきり言って、めちゃめちゃグロい。
「まぁいいわ」
 しかし、そこはさすが長女。
 特に気にすることもなく、一瞥しただけで投げ捨てた。
 一瞬で機械だと判断したのか、それとも………それは定かではないが。
「♪〜」
 そして、特に不機嫌になることもなく去っていった。
「チッ、あの程度じゃダメか…」
 それを陰から見つめる者、約1名。





 次の日、事件はまたしても玄関で起こった。
「…………」
 昨日とは打って変わり、咲耶はかなり不機嫌そうな顔で帰ってきた。
「あ゛〜…あ゛〜…」
「…………」
 入ってきた咲耶が、最初に目撃したのはゾンビ。
 咲耶は扉を開けたままの体勢で、それを冷たく見つめる。
 両者のにらみ合い(?)がしばし続いた。
「あ゛〜…あ゛『グシャ』…」
「…………」
 ゾンビの頭は、見事に潰れた。
 潰れた頭からは、機械が見え隠れしている。
 それを確認した咲耶は、ゆっくりと『それ』から足をどけた。
 その無表情が逆に恐ろしい。
「あ〜゛…あ゛〜…」
「あ〜゛…あ゛〜…」
「あ〜゛…あ゛〜…」
「…………」
 その時、家の奥から次々とゾンビが現れた。
 今まで感情を表さなかった咲耶だが、一気に怒りのオーラを発し始める。
 その形相、般若の如し。
   グシャ! グショ! ベチャ! ゲチュ!
 花穂あたりが聞けばそれだけで卒倒しそうな音を出しながら、ゾンビの頭を片っ端から潰していく。
 その中身は機械…ではなかった。
 とてもじゃないが表記できない光景だが、とにかくもの凄い事になっている。
「りんり〜ん!! こんなことするたぁいい度胸ね!!」
「え? ちょ、最初の以外は私じゃ…」
「問答無用!」
 物陰で見ていた鈴凛を見つけ出し、ゾンビの残骸を投げつける咲耶。
 ちぎれ、ねじれ、潰れ、とくかくグロい。
 100%年齢制限がかかるシーンであろう。

 同刻、千影の部屋にて。
「おや…? 実験用のゾンビ達の気配が…まぁ…いいか…」





 次の日、事件は新たな方向に動き始めようとしていた。
「許さない…許さないよ、アネキ…」
 昨日咲耶から、お前もゾンビにしてやろうかぁ! とか、脳みそほじくり出して生きたままミイラにすんぞゴルア! とか言われながら、ものすげぇ仕打ちに合った鈴凛。
 彼女はその時思った。
 脳みそほじくり出したら生きてねぇだろ…と。
 そういうわけで(?)、彼女は新たに復讐を誓いなおしたのだった。
 ちなみに咲耶不機嫌の理由が、自動販売機で『当たり』が出なかったから、というのはナイショのシミツ。
「いよっしゃ! 完成じゃぁ! これで、咲耶アネキもイチコロよん☆」
 何やら妙なテンションになりつつも、鈴凛は嬉しそうに部屋を出て行った…

 同日、キッチンにて。
「完成だ…」
 千影は、大事そうに何かの包みをとり上げた。
 彼女にしては珍しい、ちょっとかわいいラッピングだ。
 そして、ドアに向かって歩き出す。
「ふふ…兄くん…」
「あははは! これでアネキは…」
   バン! 
   ドン!
「「!!?」」
 その時突然ドアが開き、機械を持った(抱えた)鈴凛が飛び出してきた。
 包みに気をとられすぎ、千影も回避が間に合わない。
 2人はぶつかり、それぞれの手にあったものが宙を舞った。
「「あ……」」
 2人とも何もできないまま、2つの物体は落下。
 千影の包みを、鈴凛のビデオデッキぐらいの機械が押し潰す形だ。
「………!!」
「あ゛〜!! ブーブークッションαダッシュプラスが〜!」
 それぞれ、対照的な驚き方をする2人。
 どうでもいいが、なぜにブーブークッションにビデオデッキ並の大きさが必要なのか。
 そもそも、機械な時点で『クッション』ではない。
「ちょっと千影アネ…」
 千影つっかかろうとするも、本人は一点を見つめたまま動かない。
 見つめる先は、さっきまで自分の手の中にあった物体。
 鈴凛も、それを改めて見てみた。
「これ…クッキー…?」
 袋からちょっとはみ出たものは、確かにそう見てとれる。
 しかし機械に潰され、今は原型を見ることは叶わない。
「ま、また媚薬入りのやつでも作ったの?」
「……たまにはいいかと思ったんだ…」
「え?」
「たまには…ちょっと女の子らしいこともしてみようと思ったんだ…」
「あ…」
「…………」
「ご、ごめん…」
 その表情は、一見無表情。
 だが、長くいっしょに暮らしてきた鈴凛には、確かな感情の変化がわかった。
 そして、その無表情すらも崩れ去る時が来る。
「…フフ」
「え?」
「フフフ…」
「ど、どうしたの?(汗)」
「フフフフフフフフ」
 笑ってはいるが、その笑顔が逆に怖い。
「フフフ…なかなか…面白いことをしてくれるね…」
「!! す、すみません!」
「いや…謝る必要は…ないよ…」
「え? じゃあ…」
「お詫びは…直接体でやってもらうことにしよう…」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 その日、鈴凛は千影の部屋から出てこなかったそうな…





 次の日の夜、草木も眠る丑三つ時。
 千影の部屋に、客人が訪れた。
「千影」
「咲耶くんか…珍しいね…キミが私の部屋を訪れるとは…」
「ねぇ、鈴凛にやられたそうね」
   ピシッ
 その時、部屋の気温が数度ほど下がった…気がした。
「そのことは…言わないでくれ…」
「ふふ…やっぱりまだ引きずってるみたいね」
「キミは…私を怒らせに来たのかい…?」
 さらに空気が張り詰める。
 しかしそれに動じることもなく、ドアにもたれかかった状態で話を続ける咲耶。
 何となく、悪の組織のボスって感じである。
「千影、私と手を組みましょう」
「…………」
「まさか、あの程度の仕置きで満足したわけじゃないんでしょう?」
「…キミのメリットは…?」
「鈴凛は、どうやら私を付け狙ってるみたいなの。ここらで根本から解決しようと思ってね」
「なるほど…」
 場の空気は張り詰めたままだ。
 というか、どう見ても姉妹会話の雰囲気ではない。
 しばしの沈黙。
 やがて口を開いたのは、咲耶の方だった。
「…交渉決裂…かしら?」
「………いや…キミを敵にまわす気は…ないよ…」
「うふふ、そう言ってくれると思ったわ」
 こうして、事件はさらなる拡大を見せた。
 ちなみに根本の原因は咲耶にあったりするわけだが、それを全く出さない辺り、さすがは咲耶さんだ。





 さらに次の日、事件は最終段階へ。
「咲耶アネキ、覚悟! 無差別君DXガンマ改2!」
    ダラララララ…
「何が無差別君DXガンマ改2よ! マシンガン連射してるだけじゃない! 千影、やっちゃいなさい!」
「がってん…」
    ゴォ!
    ジュッ
「キャ!」
「うわ、無差別君(略)が溶けた! って…ちょっと、私を殺す気!?」
「あんたに言われたかないわよ!」
「ところで…さっきの…『キャ!』っていうのは…?」
「ワタクシですわ…」
「春歌…くん?」
「千影さん…ウフフフ…兄君さまのためにと、精魂込めてお作りしたふんどしが燃えてしまったんです…ようやく完成して、今日お渡ししようと思っていたのに…」
「フフ…世の中には…酷いやつもいるもんだね…」
「…許しません!」
   ズバ!
「む…」
「ヤッター! やっちゃえ、春歌アネキ〜!」
「春歌、今千影に刃を向けるということは、私を敵にまわすということよ?」
「咲耶さん…千影さん共々、成敗してさしあげます!」
「上等!」
「滅殺してあげよう…」
「ようし、じゃあ私は援護にまわるからね! 春歌アネキ、頑張って〜!」

 こうして事件は、春歌を巻き込み…

「き、昨日から仕込んでおいたお料理が〜!」
「四葉のアルバム〜!」
「可憐の…可憐の…」

 他の妹達を巻き込み…

「おウチ、ガラガラです…」
「うわ〜! 抜け穴がいっぱいできちゃった!」
「っていうかあにぃ、まだ寝てるんじゃないの!?」
「あら、さすがは兄上様。大物ですね」
「言ってる場合じゃないよ! お兄ちゃま〜!」

 家を巻き込み…

「よし、ハッキング完了! アメリカの全ミサイル発射!」
「こざかしい! 千影、魔界の軍団でも呼び出しちゃいなさい!」
「もう…やっている…」

 やがて、世界(&魔界)をも巻き込んだ。
 食べ物の恨みから始まった事件は、わずか5日で世界を崩壊寸前にまで追い込んだのである。
 後の人々は、この事件をこう呼ぶ。
 『史上最大にして、最凶の姉妹喧嘩』、と…






「…………」
 兄は目覚めた。
 太陽の光が、いつもよりやけに明るく感じられる。
「ふわぁ…変な夢だったなぁ…」
 ベットの感触が、今が現実であることを示している。
 しかし、頭はまだ完全には覚醒していないようだ。
「う〜ん…」
 全てが廃墟と化した光景の中、1つ無事なベッドがやけに不自然だった。
 その上で、大きく伸びをする兄。
 妹達の元気な声は、今日も青い空に響き渡っている…









あとがき
どうも、カッツォです。
このSSは、3つの記念SSとして書かせていただきました。
@『Closed World』10万Hit記念
A『Closed World』さん相互リンク記念
BやまおさんBD記念(笑)

しかしなんというか、ショボショボ&意味不明度バツグンな作品になってしまいました。
まぁ、これはこれで1つの記念です(爆)
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで、何でもいいのでお待ちしております…




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1483sy@hkg.odn.ne.jp

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