12月31日 夕刻
「兄チャマ〜! 兄チャマ〜!」
「なんだ、騒々しい…」
俺が部屋で年賀状を書いていると、突然四葉が入ってきた。
…俺は、年賀状をきっちり元旦に『出す』主義なんだ。
「部屋に入る時はノックしろって言ってるだろ」
「そんなことより兄チャマ! 四葉、ハツモウデに行きたいデス!」
「『そんなこと』じゃないだろ…」
「四葉、ハツモウデに行ったことがないデス! これは絶対チェキデス!」
なんとなく会話がかみ合っていないが、まあ、いつものことなので気にしないでおこう。
どうせ(俺が折れることで)そのうち話がかみ合うんだから…
「兄チャマ〜! ハツモウデ〜!」
「あ〜、わかったわかった。明日晴れたらな」
いい加減終わらせないと年賀状が間に合わないので、とりあえず適当に返事しておく。
繰り返しになるが、俺は『元旦に』年賀状を出す主義なんだ。
作者:カッツォ
1月1日 朝
「何デスかこれは! 四葉への挑戦デスか!?」
「ん…?」
朝っぱらから騒々しい四葉の声。
その声に目を覚ました俺は、とりあえず部屋を出て四葉のいる(と思われる)リビングに向かう。
何となく想像はつくものの、新年の挨拶もしなくちゃいけないからな。
リビングでは、振袖姿の四葉が、何やら叫んでいた。
恐らく、この日のために用意しといた服も着てバッチグーデス! な感じだったのだろう。
「あけましておめでとう、四葉。よく似合ってるぞ」
「あ、あけましておめでとうデス、兄チャマ♪ えへへ…この日のために用意しといたんデス!」
どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
…どうやって俺に気付かれないように用意したのかは不明だが(金銭的に)
「それより兄チャマ! 何デスかこれは!」
四葉が指をさして叫ぶので、とりあえずその先、窓の外を見てみる。
外はこれでもか、ってぐらいの土砂降り。まぁ、音も凄いから、見る前からわかってたけど。
「何って…雨か?」
「そうデス! 何で雨が降るんデスか!?」
「何でって…そりゃ上昇気流によってできた雲が上空で冷やされることによって…」
「そうじゃなくてデスね!」
「残念だったな、四葉。初詣はお預けだ」
そう言っている俺は、内心結構嬉しかったりする。
もともと初詣というものが好きじゃないからだ。
普段神様なんて気にもしないくせに、こんな時だけお願いするっていうのが嫌だ。
わざわざ人ごみの中へ入っていくのも気に入らない。
それより何より、このくそ寒い中外に出るなんて、拷問に等しい。
「う゛〜…兄チャマのいじわる〜…」
まぁ、確かに振袖四葉と歩くのは魅力的だ。
ずっとイギリスにいて、初詣というものを経験したことのない四葉を連れて行ってやりたい気もする。
「兄チャマ〜! ハツモウデ〜!」
「だめだめ。昨日約束しただろ? 『晴れたら』行くって」
が、やっぱり嫌なもんは嫌だった。
ただでさえ寒いのに、雨の中を歩くなんてゴメンだ。
「う〜…行ってくれないと兄チャマの秘密をバラしマス」
「ほう…やってミソ」
残念だが、俺の秘密なんて『アレ』ぐらいだ。
そして『アレ』はそう簡単に見つかるわけ…
「兄チャマの机の2番目の引き出しにはk「わ〜〜〜〜〜!!!」が入ってるデス!」
「わかった! 連れて行くよ!」
ぐ…あの引き出しには鍵がかかってるはずだぞ…
しかもその鍵は俺が肌身離さず持っている。
ってことは…四葉、いつの間にピッキングなんて覚えた…?
「ワ〜イ! じゃあ早く行こ、兄チャマ!」
「了承…」
既に俺に拒否権は無かった…
「兄チャマ、どこに行くんデスか?」
「ん〜、近くの神社。あそこなら人も少ないだろ…」
とまあ、雨の中を歩き始めた俺達。
さすがに、こんな雨の中初詣に行くような根性のあるやつは少ないらしく、道に人はまばらだった。
どうやら、人ごみの心配だけはしなくてよさそうだ。
「それにしても四葉、いつの間にピッキングなんて覚えた?」
とりあえず、さっきから思ってたことを訊いてみる。
「ピッキング?」
「針金とかで鍵を開ける技術だよ」
「う〜ん…それは女の子の秘密デス!」
「あっそう…」
それはいいけど…頼むからそっち系の道へは進まんでくれよ…
「あっ! 兄チャマ、ここデスか!?」
「ん? ああ、そうだよ」
ちょっと(妹の将来について)考え事しているうちに、目的の神社に到着した。
まぁ予想通りというか、小さい神社だけに人はかなり少なかった。
…というか、ぶっちゃけ神主さんと巫女さんしかいない。
一応正月だし、帰るわけにもいかないんだろうが…雨の中突っ立って(無論屋根のある所だが)、見てるこっちも虚しくなってくる…
「えっと…おはようございます」
無視していくのも何なので、とりあえず神主さんに挨拶しておく。
見た目、人のよさそうな老人だ。
「おはようございます。こんな日に初詣とは、なかなかご立派ですな」
「はは、まぁ妹がどうしてもって言うんで」
そう言って、さっきから巫女さんをチェキしている四葉を、親指で指差す。
「ほう、可愛らしい妹さんですな」
「ええ、まあ」
「そういえば、今日はあなた方以外にも1人だけ来た人がいましてな。ツインテールの綺麗な娘さんでしたが…何やらもの凄い形相でお願いしていたかと思えば、急ににやけて腰をクネクネさせたり…」
「へ・へぇ…世の中変わった人もいるんですね…」
っていうか、俺達以外に来た人は1人だけかよ。
この神社、大丈夫なのか?
「まぁ、とりあえずお参りしてきます」
「ああ、そうしなさいな」
「行くぞ、四葉…どわっ!」
四葉の方へ振り返った俺は、とりあえず驚いた。
さっきまで振袖姿だったはずの四葉が、巫女さんの衣装を着ていたからだ。
「お前、その格好は…」
「余ってるって言うから貸してもらったんデス。似合う? 兄チャマ?」
「いや、そりゃ似合ってるけど…」
まぁ、確かに巫女さん四葉も非常に可愛い。
しかし…今の短時間で、振袖から巫女さん衣装に着替えたのか?
戦隊もののヒーローじゃあるまいし…
「どうしたんデスか? 兄チャマ?」
「いや、何でもない…」
かなり気にはなったが、世の中にはいろんなことがあるんだなぁ…ということで片付けておくことにした。
「よし、じゃあお参りしようか」
「ハイ! じゃあ早速賽銭箱の中身をチェキデス」
「ちょっと待て」
賽銭箱に向かって突っ込んで行く四葉の腕をつかみ、力ずくで引き戻す。
「いきなり何デスか兄チャマ!」
「そりゃあこっちのセリフだ! なんちゅうこと言うんだ!」
神様はあんまり信じない俺だが、さすがにそれはまずい。
というか、それは犯罪だ。
「え? だってハツモウデでは賽銭箱の中身を持っていくって行ってマシタ」
「…誰が」
「イギリスのグランパ」
「何教えてやがんだ、あのくそジジイ…」
とりあえず俺は、まだ見ぬ心優しき四葉の育て親に、そこはかとなく殺意を覚えた。
「とにかく! 賽銭箱はチェキしちゃダメ!」
「え〜? じゃあ何するんデスか?」
…しかも肝心なこと教えてないのかよ。
「賽銭箱にお金を入れて、神様にお願いするんだ」
「へぇ…じゃあ早速チェキデス!」
「こらこら、引っ張るな…」
四葉に引っ張られ、賽銭箱の前までやってきた。
まぁ、10円でも入れて…って、俺の財布がない!?
「えっと、お金を入れるんデスね」
そう言う四葉の手にあるのは…俺の財布。
「ちょ・ちょっと待…」
慌てて止めようとしたが、時既に遅し。
俺の財布は賽銭箱へと吸い込まれていった…
「あ゛ぁ〜…」
「どうしたんデスか? 兄チャマ?」
財布は確かに俺のポケットにあったはず。
ってことは…四葉、スリの技術まで身に付けたのかい…?
「いや、もういい…とにかくお願いしよう…」
どうせたいした額も入ってなかったので、財布は諦めることにした。
しかし…こんなにも恨みを込めてお願いしたのは初めてだ…
「(はぁ…四葉がそっち系の道に進みませんように…)」
…なんかもう、進み始めている気もするが。
神様、財布ごと全部捧げたんだ…ちゃんと叶えてくれよ…
「はぁ…じゃあ帰るか」
「はいデス!」
「っと、その前にちゃんと着替えてこいよ」
「あっ! 忘れてたデス…ちょっと待っててね、兄チャマ」
回れ右をして歩き始めた直後、四葉が巫女さん姿のままなのを思い出した。
四葉が着替えてる間、俺はもう一度神主さんとでも…
「お待たせデス、兄チャマ」
「…はい?」
神主さんとでも話そうかと逆方向に歩き出した瞬間、再び振袖姿になった四葉に話し掛けられた。
今のは1分もたってないぞ…いや、もう考えるのはよそう。
「じゃあ、帰ろうか…」
「ハイ!」
相変わらずの土砂降りの中、俺と四葉は歩いていく。
「なぁ四葉。お前は何をお願いしたんだ?」
「もちろん、『今年も兄チャマをいっぱいチェキできますように』デス!」
「ははは…そう」
ふぅ…今年も騒がしくなりそうだな…
「兄チャマは?」
「え゛、俺? 俺は…えっと…今年も安全にすごせますように、かな」
「ふ〜ん」
本人の前で本当のこと言えるかってーの…
その後は特に会話もなく、聞こえるのは雨の音だけだった。
そんな中、突然四葉が口を開く。
「………兄チャマ、今日はありがとうデス」
「ん? 何だ、急に」
「四葉、兄チャマとハツモウデに行けて、とっても嬉しかったデス!」
満面の笑みでそう言う四葉。
この笑顔を見れただけでも、雨の中出てきた甲斐はあったかもしれない。
「ま、今年もよろしくな。四葉」
ふっ、と小さく笑った後、四葉の頭をなでながらそう言う。
ちょっとくすぐったそうにする四葉。
神様、財布丸ごと入れたんだ。もう1個ぐらいお願いしてもいいよな?
「えへへ…こちらこそよろしくデス、兄チャマ!」
願わくば…来年もこうして四葉と歩けますように…
あとがき
見て分かるかと思いますが、新年SSです。
たっぷり書き直せる時間があった今、構想に時間がなかった、という言い訳はききませんね(汗)
最初はギャグで考えてたわけですが、結局どっちつかずな作品になってしまいました。
ラストも、ギャグオチと両方考えたんですが、こっちの方がしっくり来る気がしたので。
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
では、今日はこの辺で失礼します…
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