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「クリスマス恒例! 持ち芸披露大会〜!」
     パチパチパチパチ!
「ついにこの時が…来たんだね…」
「一年間の集大成ですわ!」
「修行の成果、見せてやりますの!」
 ってな感じで、我が家では毎年クリスマスに『持ち芸披露大会』が開かれる。
 もちろん、普通は『隠し芸』だろうが! とか、普通は忘年会とか新年会でやるだろう! とかいうツッコミは無しだ。
 ちなみに何をやるかというと、読んで字の如く、みんなに『持ち芸』、つまり得意なことを披露してもらう。
 さ〜て、今年はいったいどんな風になるのやら…


聖夜のお楽しみ

作者:カッツォ


「1番! ヒナと!」
「亞里亞…」
「お歌を歌いま〜す!」
「歌います…」
 しょっぱなは、雛子と亞里亞の『赤鼻のトナカイ』。
 う〜ん、可愛さ大爆発。思わず抱きしめたくなりそうさ。
 去年も同じようなことやってたけど、確実に上手くなってると思う。
「ありがとうございました〜!」
「ありがとうございました…」
 ぺこっと礼をすると、2人は特設ステージ(今日のために用意した)から降りてきた。
「2人とも、上手だったぞ」
「ホント…? 兄や…」
「くししし、おにいたまに褒められちゃった!」
 よし! 出だしは好調!
 確か去年はこの次辺りから妙なムードになり始めたんだよなぁ…千影で。



「2番、花穂。チアの振り付けやりま〜す!」
 音楽に合わせ、花穂がバトンを投げたりする。
 チアっていうよりも、ダンスに近い感じがするが。
 うん、上手い上手い。今日は失敗もしてないみたいだし…
「フィニッシュ! …あ」
   ゴツン!
「ぐはぁっ…」
「ご・ごめんなさい! お兄ちゃま!」
 …はい、お約束をありがとう。
 しかしこのバトン…なんで両端だけ鉄でできてるんだ?
 まるで俺に当てることを前提としたような…いや、深く考えるのはやめとこう…



「3番、可憐。ピアノ演奏をやります!」
 可憐の向かうピアノから、聞いたことのあるメロディーが弾き出される。
 ピアノのことはよくわからん俺だが、これはたぶん客観的に見ても上手いんだろう。
 確かに曲もいい曲だ。
 …しかしクリスマスに『魔王』はどうかと思うぞ?
「まるで…兄くんの未来を…予知しているようだね…」
 嫌なこと言うなよ…っていうか心を読むな。言っても無駄だろうけど。
「…おそまつ」
 いや、褒めてないんだけどね。
「お兄ちゃん、可憐の演奏はどうだった?」
「え? ああ、よかったぞ」
 選曲がわざとでないのならば。
「よかった!」
 ははは…笑顔の向こう側に何かが見えそうで恐いよ…



「4番衛。ブレイクダンスをやります!」
 そう言った直後に音楽が流れ出し、激しくダンスする衛。
 さすがは普段から運動しているだけのことはあり、衛のダンスは男顔負けの迫力だ。
 たぶん、俺がやろうとしてもできないんだろうな。
「衛チャマ、すごいデス!」
「見事ですわ」
 妹達の間でも、賞賛の声があがる。確かにこりゃあ凄い。
「ふぅ…ありがとうございましたぁ〜!」
「すごいぞ、衛。プロでもやっていけるんじゃないか?」
「えへへ、いっぱい練習したからね!」
 よし、雰囲気良好。お次は誰だ?



「5番鈴凛! 新しい発め」
「はい、6番は誰だ〜?」
 うん、雰囲気は良好。お次は誰だ〜?
「ちょっとアニキ! 私を無視しないでよ!」
「言わんでもわかるわ! どうせ『アニキのへそくり探査機』とかだろうが!」
「ふふん、私を甘くみないでよね! 今回の新発明は! 雷と同じだけの電気が流れる、この『サンダースタンガン』!」
 そう言って高らかに自らの発明品を掲げる鈴凛。
 とりあえず俺はスリッパでつっこむことにする。
「そりゃもう犯罪だろうが!」
    スパァン!
    ポチ
「へ? 『ポチ』?」
 それが何の音だったか。皆様もうおわかりですね? そう、『サンダースタンガン』のスイッチです……
「みぎゃ〜〜〜〜〜〜!!!!」
 幸いにもスタンガン自体が数秒で壊れたため、何とか俺は生き延びた。
 …いや、普通は数秒ありゃ十分死ぬんだけどね。
「いった〜い! アニキ! スリッパで殴ることないじゃない!」
「痛いのはこっちだろうが!」
 まあ、痛いですむ俺もどうかと思うが…
「いいじゃん! アニキは雷くらっても死なない、って実証できたんだから!」
「よくない! っていうかそんな実証いらん!」
「ふふ…大変…興味深いね…」
 ほらね…きっと明日から俺に何度も雷が落ちてくるんだ…



「しくしくしく…」
「ほらお兄様、いじけてないで! 次は私よ!」
 …何か俺の扱い酷くないか?
「6番咲耶、瓦割りをやるわ!」
 瓦割り…らしいというか何と言うか…しかもこの瓦、ざっと20枚はあるぞ…
「ハァッ!!」
   バキバキバキ!
 咲耶の気合と共に放たれた一撃に、20枚以上の瓦が全て真っ二つになる。
 …俺はいつもこんな攻撃をくらってるのか。
「どうだった? お兄様?」
「…凄いと言えば凄い(というか恐い)」
 かなり怯えている俺を見て、咲耶が突然笑いだした。
「うふふ…いやね、お兄様! 私にそんなことできるわけないじゃない! 元から割れてる瓦を使ったのよ!」
「何だ…そうだったのか…」
 いやぁ、あまりにリアルだったんですっかり騙されてしまった。
「あの…咲耶ちゃん…」
「なぁに? 花穂ちゃん?」
「ごめんなさい、花穂ドジしちゃって、新品の瓦置いちゃったんだけど…」
「………………(汗)」
 唐突に笑顔が引きつる咲耶。
 ご丁寧に、マンガでよく見る汗マークまで出している。
 …咲耶はあんまり怒らせないようにしよう。



「7番四葉! チェキテクニックをご披露デス!」
 チェキテクニック? 写真の早撮りとかか?
「まずは壁走りデス!」
 …俺が甘かった。
 本当に壁を、しかも横方向に走れるとは…
「続いて、天井待機!」
 うん、これは比較的目にすることが多いな。
 いわゆる、天井に張り付いてる状態だ。 
「さらに、天井移動!」
 カサカサと、張り付いた状態で天井を移動する四葉。
 う〜ん…何かクモみたいだな…
「そして吹き矢デス!」
「待てい!」
 俺の声に驚いてか、四葉が天井から落ちてきた。
 …当然、俺の上に。
「痛いデス! 何デスか兄チャマ!」
「だから痛いの俺だって…で、吹き矢って何なんだよ!」
「チェキ7道具の1つデス! 矢には眠り薬が塗られているのデス!」
「…使用方法は?」
「え〜とぉ…兄チャマを眠らしたり〜、兄チャマを眠らしたり〜、チェキの邪魔になる人を眠らしたり〜、兄チャマを眠らしたり〜…」
 …時々、唐突に眠くなることがあるのはそのせいかい。
「とりあえず没収」
「う〜…まぁいいデス。まだまだスペアはいっぱいありマスから」
 …もういいです。



「8番春歌、居合をやらせていただきます」
 そう言って刀を構える春歌。
 何というか、凄く様になっている。
 …そう、恐いほどに。
「では兄君さま、そこにある木の板を投げてください」
「わかった」
   ポイッ
   ズバッ!
『おお〜!』
 俺が投げた木の板は、春歌の後方で真っ二つに割れた。
 妹達からも、驚きと賞賛の声が上がる。
「他のものも斬れるんデスか?」
「勿論ですわ」
「じゃあ、これなんかどうデスか?」
   ポイッ
   ズバッ!
 四葉が投げた大根も、さっきと同じように真っ二つになる。
「今度は瓦デス!」
   ポイッ
   ズバッ!
「椅子デス!」
   ポイッ
   ズバッ!
「兄チャマデス!」
   ブンッ
「なんですと!?」
   ズバッ!
「ぐはぁ…」
 体は…大丈夫、つながってるようだ。
 どうして無事なのかは聞かないで欲しい。
 …しかし、四葉に投げられる日が来るとは思わなんだ…つーか、春歌もそのまま切り抜くなよ…



「9番白雪、玉ねぎのみじん切りをやりますの!」
 俺の体が斬られようがどうしようが、どんどん進行は進んでいく(涙)
 次の白雪は大量の玉ねぎを横に置き、包丁を手にとる。
 でも、玉ねぎのみじん切りぐらいなら俺にもできるぞ?
 まあ、確かに気は進まんが…
「いきますの!」
   ズバババババババ…
 …訂正。やっぱり俺には無理です。
 ほぼ1秒に1個のペースで玉ねぎをきざむなんて…
「終了ですの!」
   パチパチパチパチ
 結局数十個あった玉ねぎは、30秒もしないうちに全て細切れになっていた。
 しかしあの大量の玉ねぎ、いったいどうするつもりなんだろう…?
「ありがとうございましたですの。ではにいさま、召し上がれ、ですの」
「なぬ!?」
「このままじゃ余っちゃって勿体無いですの。だからにいさま、しっかり食べてね(はぁと)」
 …こうするつもりだったわけですかい。
「うぅ…辛い…」



「10番、鞠絵です」
 ふぅ…今回はまともそうなのが見れそうだな…しかし、あの金魚の入ったコップは何なんだ?
「人間ポンプをやります」
 …あんまりまともじゃなかった。
 ちなみに『人間ポンプ』とは、何かを飲み込み、その飲み込んだ物をもう1回戻してくる、というものだ。
 これは明らかに『隠し芸』だと思うんだが…っていうか女の子がやるネタじゃねぇよ。
「では、いきます」
 鞠絵がコップの水を一気に飲み干す。当然、金魚もいっしょに。
「ふぅ…では、今の金魚を戻します」
 鞠絵は自分の胸のあたりをポンポンと叩く。
「あ、来てます来てます…」
 鞠絵が金魚を吐き出す場面なんてあんまり見たくないんだが…
「出ます…ぐはぁ」
 …無事、金魚は出てきた。真っ赤な鞠絵の血と共に。
 やっぱりこれは、立派なお前の『持ち芸』だったよ…
 …なぜに過去形なのかは聞かないように。



「みなさん、ここでケーキの登場ですの!」
 鞠絵の出番が終わった後に部屋を出て行った白雪が、ケーキを持って戻ってきた。
「おお! 待ってました! 玉ねぎばっかで嫌気が差してたんだよ!」
 ちなみに俺、さっきからずっと玉ねぎ食べてました。
「あら、にいさまは全部食べ終わるまでおあずけですの」
「…マジか?」
「マジですの」
 みんなが楽しくケーキを食べる横で、1人玉ねぎ(生)を食べる俺。
 いじめだ…



 …どうやら皆食べ終わったみたいだな。…俺はまだ玉ねぎだけど。
 さあ、気を取り直して次にいこうか。
 最後は…千影か。
 また、恐ろしい奴が残ってるな…
「11番千影〜! 悪魔召喚しま〜す!」
 ああ、やっぱり…って、何かやけに明るくないか?
「というわけで、兄く〜ん! 生贄になって〜!(はぁと)」
「お前、何か変だぞ…ん? このシャンパン、アルコール入りじゃないか!」
 千影って酔ったら性格変わるのか…
「おにいたま〜、このジュース、おいしいよ!」
「ん〜?…って、おい! 誰だウォッカなんて持ってきたやつ! っていうか、それをストレートでゴクゴク飲んでる雛子は何者だ!?」
「あにぃ〜」
「兄や〜」
「うわっ! 急に抱きつくな! お前らも酔ってるのかよ!?」
 よく見りゃ全員酔ってるみたいだぞ。
 そういや、さっきケーキ食った時に皆色々飲んでたからな…(俺は玉ねぎのみだったけど)
「出でよ〜! 悪魔さ〜ん!」
    カッ!
「キシャ―――――!!」
 ぐはぁ…ただでさえややこしい状況をさらに悪化させやがった…
「春歌、ぐるぐるですわ〜」
「お兄ちゃま、ファイト〜! あはははは…」
「わはははは! 我は魔王! 人間共、皆殺しじゃぁ!」
 魔王弾いてた可憐に魔王が憑依してるし…
 いろんな意味でシャレになってねぇよ!
「キシャ―――――!!」
「NO〜〜〜〜〜〜!」



 その夜、クリスマスに相応しい12の笑い声と、クリスマスに似つかわしくない1つの叫びが、遅くまで響き渡りましたとさ。

「メ・メリークリスマス…」
「「「「「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」」」」」






あとがき
見て解ると思いますが、クリスマスSSです。
何気に、当時久々に書いたギャグだったり。
やっぱり、12人が出ているショートショート、という感は否めませんね…
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ、というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです。




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1483sy@hkg.odn.ne.jp

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