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退屈な一日

作者:カッツォ


 俺は今、リビングのソファーでボーっとしている。
 特に何かを考えるわけではない。ただボーっとしている。
 …無駄な時間を過ごしてるな、俺。
 ちょっと辺りを見回してみる。
 少し離れた所で、鞠絵が歌を口ずさみながら編み物をしている。何とも平和な風景だ。
 別にすることも無い。鞠絵の歌でも聴いてみよう。
「♪ 兄上様の『あ』はアヘンの『あ』〜♪ 兄上様の『に』はニトロの『に』〜♪」
 ・・・何の歌だ。
『平和な風景とはどこか残酷さを含むものだ』
 そういえば誰かがそんなこと言ってたな。
 その言葉に妙に納得してしまう。もちろん違う意味でだが。
 
 別にすることも無い。鞠絵に話し掛けてみよう。
「鞠絵、何を編んでるんだ?」
「あら、兄上様。今、兄上様のセーター編んでるんです。今年の冬は寒くなるそうなので」
 へえ、俺のセーター? ありがたいねぇ。
 いい妹を持って俺は幸せだよ。
「ありがとう、鞠絵。でも編み物って大変じゃないか?」
「いえ、兄上様のことを考えながら編んでいるので…むしろ楽しいです!」
 少し顔を赤らめながらそう言う鞠絵。
 その言葉と態度だけを見れば可愛い。非常に可愛い。
 が、俺のことって…アヘンやニトロがか?
「ワンワン!」
 突然した犬の声に後ろを振り返ってみると、そこには鞠絵の愛犬・ミカエルがいた。
「おう、ミカエル。どうしたんだ?」
「ワン!」
「きっとお腹がすいたんですね。でも夕食までには時間があるし…そうだ。これを食べておとなしくしてなさいね、ミカエル」
 そう言って鞠絵は棒状のものを差し出す。
「何? それ」
「ビーフジャーキーです」
 ビーフジャーキー…その紫色をした物体がか?
「バウバウ!(はぐはぐ)」
 食ってるな、ミカエル…まあ、嬉しそうだからいっか。
「バウ!? グル…グルル…キャイン!」
 あ、倒れた。
 …つまり、鞠絵の言葉通りおとなしくなったわけだな。
 …わざとかい? わざとなのかい?
「あらあらミカエル、楽しそうね」
「う〜ん、どう見たって気絶したんだと思うがな」
 わざとか? 天然か? ま、どっちにしてもこのままじゃミカエルが危ないな…
「千影〜! ち〜か〜げ〜!」
 こういう類のことは千影にかぎる。
 餅は餅屋。非日常現象には千影だ。
「呼んだかい…? 兄くん…」
「ああ、ミカエルが紫色の物体食べて倒れちゃったんだ。治せるか?」
「紫色の…? そうか…『アレ』を食べたのかい…フフ…楽しみだね…」
 そう言って、ミカエルを抱えたまま姿を消す千影。
 やっぱりあれは千影関係の物体だったか。
 ま、何にせよミカエルは大丈夫そうだな。
 あくまでも『たぶん死ぬことはないだろう』ってレベルの大丈夫さだが。
 


 
 とりあえずミカエルの一件はかたずいた。(ということにしておこう)
 またも俺に退屈な時間が訪れる。
 別にすることも無い。また辺りを見回してみる。
 少し離れたところで、鞠絵が編み物をしている。何も無かったかのように。
 とりあえず鞠絵の観察でもしてみる。たまには妹をじっくり見るのもいいもんだ。
「…な、何ですか? 兄上様…見つめられると恥ずかしいのですが…」
「うん、夏休みの宿題を『妹観察日記』にしようと思って」
「へえ、そうなんですか」
「いや、ここはつっこむ所なんだけど…」
「なんでやねん!」
 うん、確かにつっこんで欲しいとは言った。
 でもそのツッコミ、何の脈絡もないな。
「何だ、その関西人をバカにしたようなツッコミは」
 俺はこういうことに関してはちょっとうるさい。
 別に意味は無い。ただ何となく、だ。
「では、兄上様ならどう言うのですか?」
「いやいや、あんた高校生やがな!」
「全然ずれてます…っていうか、今は夏じゃありません」
「わかってるんやったら、そうつっこまんかい!」
 お、今のナイスツッコミだ、俺。
 微妙に関西弁なのは気にしないでくれ。

 その後も俺達はツッコミ、そしてお笑いについて語り合った。
 何とも不思議な兄妹だ。自分でもそう思う。
 しかし別にすることも無いので、そのまま議論(?)を続ける。




「ハァ…この辺にしとくか」
「そ・そうですね…」
 数時間後、やっと議論は終焉を迎えた。俺達の体力の限界と共に。
 …疲れるほどやるなよ、俺達。
「…もうこんな時間か」
「いけない! 夕食の準備をしなければ!」
「あぁ、そういえばみんな出かけてるんだったな」
 だからこそ、俺がこんなに平和にして退屈な時間を過ごしている、というわけだ。
 ちなみに千影も出かけていたのだが、あいつは呼べば出てくる便利なやつだ。
「えぇ、だからわたくしが食事当番なんです」
 別にすることも無い。たまには料理もいいだろう。
「手伝うよ、鞠絵」
「ありがとうございます。助かります」

「ん? 何だこれ?」
 鞠絵を手伝うためキッチンに行った俺は、机の上の変わった草を発見した。
 どこがどう変わっているかと言うと…とりあえず動いたり、奇声発したりしてるところかな?
「ああ、それは千影さんが『今日の夕食にでも…使ってくれ…』って言ってくれたんです」
 ほぅ…動くような草を俺に食え、と?
「おいしそうでしょう?」
 動いてる上、その辺にいる虫を食ってる草が、か?
「あれ? お砂糖はどこにあるんでしょうか…」          
            ポイッ
 鞠絵がむこうを向いてる間に窓から草を捨てる。
 ありゃ、どう見たって殺傷能力十分だ。
 たぶん正当防衛だと思う。
「あ、ありました。…あら? さっきの草はどこにいったのですか?」
「ああ、帰ったよ」
「そうですか…」
 ふぅ…『帰った』で無くなった理由が説明できる草っていうのもな…
「今日のメインディッシュの予定でしたのに…」
 …どうやら捨てといて正解だったようだな。



「兄上様、夕食ができましたよ」
 手伝うつもりが、結局鞠絵に任せてしまった。
 戻ってきた『草』を処理するのに手間取ってしまったからな…
「さぁ、召し上がれ」
 鞠絵が満面の笑みでそう言う。
 ここで断れば、俺は全国の健全な男子諸君に殺されるだろう。
 しかしながら…さっきの草に勝るとも劣らない物体が揃ってる気がするのは気のせいだろうか?
「…ちなみに材料は?」
「全て千影さんに戴いたものです」
 『全て』ときましたか…やられたな。
 …別にすることも無い。 
 逝くか…




あとがき
何気に気に入っている作品の1つです。
いつもとかなり違った雰囲気で書いてますが、実際どうなんでしょうかね?
これはこれでOKだと、私は思うんですがね。
え〜っと、とりあえず(いろんなことで)ごめんなさい。
感想はもちろん、てめぇふざけんじゃねぇ! というものまで何でもいいので送っていただければ幸いです。(ただしウイルス等はご勘弁)



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