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シスプリ劇場 金魚鉢が観た家族

第1話 『12月の雪の中の悲しい瞳!!』

作者:いちたかさん


閑静な住宅街に、妹達の喧騒の声が響いている。


僕はコタツに潜り込みながら、クラシックを聴くかのようにそれに耳を傾けていた。
今日はこの冬初めて雪が積もったということで、妹達は朝から雪遊びに興じているのだ。

「おー、降ってるなー」

窓を通して、雪の降る様子がうかがえる。
僕はというと、先ほど言った通り。

「こんな日は部屋の中にいる自分が一段と幸せに感じるなー」

こんなくそ寒い日に外に出て、雪と戯れて遊べるほど残念ながら僕は子供ではないのだ。

「・・・・・・いい日曜日だ・・・」


僕達兄妹13人は、養父母が事故で亡くなったのをきっかけに、それまで住んでいた家を売り払い、
2人が所有していた不動産の内の一つのアパートで、新しい生活を始めた。

それが2人の遺言でもあった。
生活費も、他に幾つか所有するアパートの家賃からで充分事足りた。

一番庶民的なこのアパートを選んだのは僕で、塀で囲まれた敷地内には充分遊べるだけのスペースがあり、
またその昔ながらの雰囲気を、妹達も結構気に入ってくれた。

「お兄様ー!私達と外で一緒に遊びましょうよー!」

不意に、そんな声が聞こえてくる。
うーん、ちょっと勘弁してほしい。

「お兄様ー?」

返事を返さなければ、寝ていると思ってくれるだろう。
そんな妹達の優しさを期待しながら、僕はコタツの魔力に打ち克てないでいた。
その時だった。

ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!

「?」

誰かがアパートの階段を、一段飛ばしのような勢いで上がってくる。
そして。

バンッ!!

僕の部屋のドアが、勢いよく開かれた。
渋い表情の咲耶が、そこに立っている。

「咲耶・・・?」

「子供は・・・」

そう言ってツカツカと近づいてくる咲耶。

「?」

呆然としている僕の胸倉をつかむと、

「風の子!外で元気良く遊ばんかい!!」

ぶんっ!!

窓から僕を外に放り投げた。

「うわあああぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!」



「あー!サンタさんだー!」

「えっ、何ですって」

下の方から、雛子と春歌の声が聞こえる。
下というより、このまま行けば僕の着地地点となるところに。

「ほら、あそこだよ」

落下中の僕を指差す雛子。

「・・・・・兄君さまではないのですか?」

「うわあーーーーーーーーーーーー!!」

「えー。ぜったい、ぜーーったいサンタさんだよー」

「いいえ、雛子ちゃん、あれは兄君さまです。惑わされてはいけません」

別に惑わせている訳ではないのだけれど。

「兄君さま!」

そう言うと春歌は、落ちてくる僕をキッっと見上げ、

「サンタのふりなんか、なさらないで下さい!!」

どごーーーんっ!!

タイミングを合わせ、僕を上空に蹴り上げる。

「どわああぁぁーーーーーーーーーーーーー!!」

「ぜったい、サンタさんだもん」



「うわーーーーーーーーーーーーー!!」

「もうすぐ完成ですの!」

「頑張った甲斐あったねー」

遥か上空から、雪だるまを作っている白雪と鈴凛と、それをじっと見ている亞里亞が見える。
例によって、僕のゴール地点となっている所に。

「うわあーーーーーーーーーーーー!!」

「うわーい、完成ですの!おっきいのができましたの♪」

「うーん、我ながら傑作、だね」

ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるる・・・・・

鈴凛がシメに、雪だるまの頭にバケツをのっける。

「わーい、完成ーー♪」

手を取り合って、喜ぶ2人。

どしゃあっ!!

2人の目の前で、僕は雪だるまに衝突した。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

もちろん雪だるまは崩れてしまい、僕は思いっきり雪まみれになったまま2人と対峙している。

「あ・・・あ・・・」

白雪の表情が崩れ、その瞳に涙が浮かぶ。

「いや・・・えっと・・・・」

僕は2人の顔を交互に見る。

「うそ・・・そんな・・・。せっかく・・・」

そう言う鈴凛の声は、震えている。
改めて自分のやってしまったことの重大さを、思い知った。

僕は頬をかきながら、

「あの・・・ごめん・・・雪だるま・・・・」

ひとつひとつ、言葉を選んで言った。

「爆弾仕掛けといたのに」

「可哀想なにいさま」

ボンッ!!








・・・・・うーん・・・僕は・・・大丈夫だろうか・・・・・

「もー、アニキ、大丈夫?」

真っ黒焦げになった僕に、鈴凛が言った。

「何で雪だるまに爆弾なんか仕掛けてるんだ!」

「ドロボーよけの為、ですの♪」

なるほど。
いや、納得するところではないな。

「くすん・・・兄や・・・まっくろです・・・」

後ろから、亞里亞の声がした。

「ああ、亞里亞・・・。寒くないかい?」

僕がそう言うと、亞里亞はとたんに笑顔を浮かべる。

「はい・・・亞里亞・・・ぽかぽか・・・」

いくらなんでもぽかぽかはしないだろう。
僕は立ち上がり、身体の黒いすすと、雪を払う。

「まあ、いいや。僕は自分の部屋でコタツで温もってるから。みんな怪我しないようにね」

「えー、にいさま行っちゃうんですの?」

「アニキ、一緒に雪合戦しよーよー」

「ああ?雪合戦?」

冗談じゃない。

「何でこんな寒い中、雪合戦なんてロウレベルな遊びしなきゃならんのだ」

「兄や・・・行っちゃうの?・・・くすん・・・」

そう言って、亞里亞は僕の服の袖を引っ張る。
僕は亞里亞の方に向きなおすと、目線を合わせ、諭すように言う。

「ゴメンね。後で絶対、お家の中で遊んであげるからね。じゃあ、約束」

僕は右手の小指を、亞里亞に向ける。

「はい・・・亞里亞・・・楽しみにしてます」

亞里亞に微かな笑顔が戻った。

「それじゃあね」

3人にそう言うと、僕は階段の方に歩を進める。
うん、上手い具合に撒けた。

「あ、アニキ、そっちは!」

ずぼおっ!!
急に地面がなくなった。

「ドロボーよけの、落とし穴ですの♪」

「・・・・・・・・・・」

僕は無言で穴から這い上がり、今度は慎重に階段の方へ向かった。






「ったく、ひどい目にあった」

アパートの側面に設置されている階段を上りながら、呟く。
踊り場のところまで来て、身体の雪を払っていると、2階の陰からこちらに向かってくる声が聞こえた。
やがてその声の主が、姿を現す。

「あ、お兄ちゃま」

「あにぃ、外に出てたんだ。ボク、ぜんっぜん気付かなかったよ」

僕は返答に困る。

「うーん、・・・まあ、色々ね・・・」

まさか、咲耶に投げ飛ばされたなどとは言えない。
常識的にも、兄としても。

2人が階段を下りてくる。

「ボクたち、あにぃを呼びに行ってたんだよ」

「そうだったんだ、悪いことしたね」

そう言って、僕は笑顔を2人に向ける。

「お兄ちゃま、一緒にあそぼ♪」

「うーん、今はちょっと、ごめんね。それより花穂、あんまり急ぐと転ぶぞ」

「きゃあっ」

案の定、花穂は階段の雪ですべった。
まったく、仕方ないな、受け止めてやるか。

「あにぃ!よけて!」

「ん?」

顔を上げると、目の前に花穂の靴の裏があった。

がすっ!!

僕は勢いそのまま踊り場の柵を乗り越え、頭から下に落ちて、積もった雪に突き刺さった。
改めて、昨日からよく降っているのだなあと思った。






「あにぃ!大丈夫!?」

「ふえーん、お兄ちゃまぁ、ごめんなさーーい」

自力で抜け出した僕の前に、2人が駆けつけてくる。
まあ、きっと僕があそこにいたから悪いんだよね・・・。

「大丈夫、花穂、気にすること無いよ」

半分悟ったような気持ちで、言った。
花穂が、僕の目の前に座り込む。

「・・・・本当?お兄ちゃま・・・・」

僕は花穂に、精一杯の笑顔を向ける。

「本当だよ」

「・・・ごめんね、お兄ちゃま。花穂、ドジだけど・・・見捨てないでね」

「もちろん」

花穂の表情が、ほころんでいく。

「チェキデスぅーー!!」

突然、頭の上の方で声がした。
反射的に上を見ると、また靴の裏が見えた。

ずんっ!!

四葉に顔面を踏まれ、僕はまた雪に身体の3分の2ほど埋まる。
首が・・・・・。

「あにぃ!」

「四葉お姉ちゃま・・・」

四葉は僕にカメラを向けると、

「兄チャマの雪に埋もれてる姿、チェキデス!!」

そう言って、シャッターをきる。

「やめなさい、四葉」

僕はそう言って、雪の中から出ようとする。

「兄チャマの雪から出てくる姿、チェキデス!!」

またシャッターをきる。

「やめなさいって」

「兄チャマの雪にまみれてる姿、チェキデス!!」

「だからやめろって」

そう言うと四葉は、ようやくカメラをおろす。

「チェキチェキー♪今日は幸先いいデス♪」

四葉の笑顔が僕に向けられる。

「しょうがないな、四葉は」

僕はそう言って、苦笑する。

「んふふー♪」

「でも、何で上から?」

僕は当然の質問をする。

「あう、それは・・・。アパートの上から、兄チャマの事をチェキしようと思ってたデス。それで・・・」

「足を滑らせた」

「・・・ごめんなさいデス・・・」

沈みこむ四葉の顔を見て、僕は頭を撫でてやる。

「怪我しなかったか?屋上は本当に危ないんだから、もうするなよ」

「はい・・・兄チャマ・・・ありがとうデス!」

四葉が笑って、八重歯をちらりとのぞかせた。

「ね、あにぃ」

「ん?」

身体を衛の方に向ける。
期待した目で、こちらを見ていた。

「一緒に、雪合戦しよ!」

僕は一瞬、返答に困る。

「んー・・・ごめん、衛、今はおコタで寝かせて」

「えーー」

衛がとたんに、ふくれっ面になった。

「ほんと、ごめん。ね、お願い」

両手を合わせ、衛に頼み込む。

「もー、しょうがないなあ、あにぃは。た・だ・し、今回だけだゾ」

僕はぱっと、表情を明るくする。

「いやー、助かるよ衛。ほんっと、感謝」

「ううん、いいよ。でも運動もちゃんとしなきゃダメだぞ、あにぃ。その時は、ボクも一緒に・・・ネ!」

そう言うと衛は、頬を染めて春歌と雛子の方へ走って行ってしまった。

「あー、待ってー」

「四葉も行くデスー」

花穂と四葉も、その後を追う。

自然と顔をほころばせて見送っていたが、途中で花穂が、落とし穴に落ちた。
やっぱりまだあった・・・。






ため息をつき、雪を払い落とす。
もうこの行為も3度目か。
再び階段を上ろうとすると、一階の一室から鞠絵が出てきた。

「あら、兄上様」

僕は鞠絵の側に寄る。

「鞠絵、寒いけど大丈夫なのかい?」

僕がそう言うと、鞠絵はマフラーをかけ直し、僕に笑顔を向ける。

「ええ、最近調子がいいんです。それに、折角雪が降っているんですもの・・・」

「そうか、この勢いで治しちゃって、早く一緒に遊ぼうね」

僕はそう言って、鞠絵の暖かい手を握る。

「雪にもしっかり、触れておくといいよ」

「兄上様・・・・・・鞠絵は・・・幸せです・・・」

鞠絵の顔が、紅く染まっている。
僕は鞠絵の目を見つめ、うん、と頷いた。

「さて、と。それじゃあ僕は、部屋にいるから」

少し名残惜しいが、鞠絵の手を離す。

「はい、兄上様、それでは・・・」

鞠絵は丁寧に頭を下げ、空を見上げる。
僕はその姿を見つめながら、階段のほうへ戻る。
ふと、言っておかなければならないことを思い出した。

「あ、鞠絵ー」

「はい、何でしょう、兄上様」

鞠絵がこちらを見る。

「鈴凛達の方には、絶対に行かないようにな」

「え?・・・はい、分かりました。兄上様が、そう仰るなら」

「うん、突然変な事言ってごめんね。じゃあ、楽しんでね」

「はい。ありがとうございます」

鞠絵が落とし穴に落ちる姿を想像すると、怖くなる。
僕は鞠絵と同じように、灰色の空を見上げながら、階段を上っていった。






「あー、なんか、疲れたな」

そう呟いて、僕は、自室のドアを開ける。

「一応、ただいま」

「あ、お帰りなさい、お兄ちゃん」

「やあ・・・・兄くん・・・・」

え?

僕は呆然としながら、台所の前にいる可憐と千影の2人を見る。

「誰を殺る気なんだ?」

部屋に上がり、千影に向かってそう言った。

「・・・・何の話を・・・・してるんだい、兄くん・・・・失礼だね・・・・」

千影はこちらに振り返らずに言った。
何をしているんだろう。

「ごめんなさい、お兄ちゃん。勝手にお台所使っちゃって・・・」

一段落ついたのか、可憐がこちらを向いて言った。

「いや、別にいいんだけど、さ。何してるの?」

「今日は、可憐とお姉ちゃんがお昼のお食事当番なんです」

そういえば土日の昼は、妹達が代わる代わる料理当番をしてるんだった。
でも、皆で食事をする部屋は1階にあるし、どうしてここで作ってるんだろう。

「それで、初めて挑戦するお料理で・・・一番最初に、大好きなお兄ちゃんに食べて欲しくて・・・。
 お兄ちゃん、いけませんか?」

成る程、そういう事か。

「いや、別に構わないよ。でも、部屋に入るときは、入るって言ってね」

別にやましい物はないが、親しき仲にも、というやつだ。

「はい、ごめんなさい、お兄ちゃん・・・」

謝る可憐に、笑顔で応える。

「ところで、何を作っているの?」

「本格的な、ラーメンです」

「さて・・・・私はそろそろ行くよ・・・・」

そう千影が言うと、可憐は千影の方へ身体を向ける。

「はい。千影お姉ちゃん、本当にありがとうございます」

「材料の下ごしらえは・・・・しておいたよ・・・・ふふ・・・・期待しているよ」

千影が僕のほうに近づいてくる。

「じゃあ、兄くん・・・・また・・・・来世・・・・」

「うん、・・・また、ね」

そう僕が言うと、千影は微かな笑みを浮かべ、部屋を出て行った。
僕は苦笑を浮かべながら、再び料理を始めた可憐に近づく。

「ラーメン。ふんふん、寒い日にぴったりだね。ラーメンラーメン・・・・・・ラーメン?」

可憐に近づいていくにつれ、僕はそれが本当に料理なのか分からなくなっていった。
色合いといい音といい、これは本当に料理なのだろうか。

「ラーメン・・・・・・」

僕は自分の中で確認するように、呟いた。

ファラファラファラ・・・ゴシゴシゴシ・・・ファラファラ・・・ゴシゴシゴシ・・・

スープの中で麺が煮込まれている。
なんだか鍋でスープを煮込む音じゃないものが混ざっているような。

・・・・・・・・・・・・

「ミカエルー」

部屋の外に出てそう呼ぶと、ミカエルはすぐに階段を駆け上がってきた。

「おー、よしよし。いい子だ。よーしよしよし」

ミカエルが僕にじゃれつき、僕はミカエルの身体をなでてやる。

「よーしミカエルー」

そして先ほど、可憐の目を盗んで持ってきた麺を2・3本、ミカエルの前に示す。

「喰え」

「ハフハフ、ハフハフ」

勢い良く麺を食べるミカエル。

「・・・・・・」

僕はじっと、反応を待つ。

「ハッ」

突如、ミカエルが目を見開いた。

「ウググググ・・・・」

「やはり・・・・」

僕は白目をむいて泡をふいているミカエルを抱きかかえると、押入れにしまい込む。
すまんミカエル。

「・・・・・・・・」

ゴシゴシ・・・ファラファラファラ・・・

僕は意を決してもう一度、こちらに背を向けて料理を作っている可憐に近づく。

「何ラーメンだい?」

「醤油ラーメンです」

可憐はこちらを見ずに答える。

「何を入れたのかなあ?」

「マヨネーズとカレー粉とらっきょう・・・かな」

・・・醤油ラーメンだろ?

鍋の中を再確認する。

「可憐オリジナルラーメン醤油味なんです♪」

そう言って可憐は、千影が下ごしらえをしていた材料を手に取る。
僕の頬を、脂汗が伝った。

「・・・それは・・・・?」

「千影お姉ちゃんから貰った、白菜です」

「くわーっくわっくわっ」

笑い声をあげる白菜を手にして、そんな普通に言われても。

鍋の前に立ち、ばりばりと、白菜を引き裂く可憐。

「ウンババセクシャラーハーラーハー ウンババセクシャラーハーラーハー・・・」

・・・・・・・・・

「この野菜、なんか呪文唱えてるんですけど」

「はい」

「・・・・・・・・・」

「・・・あの・・・お兄ちゃん」

「ん?何?」

「可憐、恥ずかしいから、お兄ちゃんは出来るのを待ってて下さい。向こうで」

そう言うと可憐は、僕を無理やりコタツに座らせる。

僕は、どうなるんだろう。












「・・・・・・結構、美味い・・・・?」

「でしょ?お兄ちゃん」






第2話に続く




あとがき

最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます!
この『金魚鉢』は、やまおさんのHPで現在進行形で掲載させて頂いています。
本当は別の設定の物語を創りたかったのですが、どうにもネタと時間が・・・あ、いえ、何でもないです。
申し訳程度に、追加や手直しをしています。
とんでもなく長い上に、あまり面白くないのは・・・御免なさい、精進します。
といっても、どうやら僕が書くとどうしても長ったらしいものになってしまうんですが(殴)
皆様の感想、ご意見、批判等頂けましたら、今後の糧になること間違い無しです。
それでは、機会がありましたら又、お会いしましょう。



いちたかさんへの感想はこのアドレスへ
punch99@m17.alpha-net.ne.jp

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