トップへ  SSの部屋へ


魔界への旅の直前

作者:堕天使シュベルト


 まだ暑い夏休みのある朝

「・・・兄くん・・・朝だよ・・・」
 と少女がベットで寝ている少年に話し掛ける。

「スウ―スウ―スウー」
 兄くんと呼ばれた少年はいっこうに起きようとはしない。いまだに気持ちよさそうに寝息をたてながら寝ている。

「兄くん・・・起きて・・・くれないか・・・」

 今度は手に持った棒のようなもので少年をつつくのだが

「・・・スウースウー」

 少年はいっこうに起きようとする気配を見せない。だが、これはカモフラージュだった。
 少女から見れば少年はまだ寝ているように思われた。がしかし、彼は今つつかれたことによって夢の国から現実世界に戻ってきていた。
 もっとも正確に覚醒したわけではなく、とりあえず誰が起こしに来たのかという事を確認してから次の行動に出ることにした。そのため今はまだ寝息を立てて寝ていると思わせ、次になんと言うのかを探ろうとしているのだ。

「そうか・・・起きないんだね・・・兄くん・・・。それじゃ・・・今日は予定を変更して・・・生贄が必要な方法を・・・とろうかな・・・」

 その声を聞いて少年は飛び起きた。

「お、おはよう。千影」

 飛び起きた少年は即座にベットの横から兄の様子をうかがっている少女に挨拶する。

「おはよう・・・兄くん・・・。やはり起きてたんだね・・・」

 千影と呼ばれた少女、どうやら兄が起きていたことに気づいていたらしい。

「え、いや、その・・・そ、そんなことより、千影。何でここにいるんだい?」

 このままいけば後でものすごい魔術の実験の被験者となると考えた兄はなんとか話題をそらすことをこころみた。

 うまい具合に話題はそれたようだ。そう思いながら兄はベット付近においてある時計を見る。時計は7:30と表示していた。

「そうなんだ。ありがとう千影」

 そう言って彼はベットから降りた。千影は兄がベットから降りるのを確認すると部屋から出て行こうと後ろを向き、歩き出したのだが途中で止まり
「そうそう・・・兄くん・・・今日は私に付き合ってくれないか・・・」
 と言ってきた。

 兄としてはそれは幻聴であってほしかった。しかし、多分今聞いた言葉は幻聴ではないだろう。そう思いなおした彼は最後の試みとばかりに

「ごめん千影。今日はちょっと用事が」
 そう言ってその場を切り抜けようとしたのだが、それを千影が許すはずも無く、兄が言い訳を言い終わらないうちに

「今日・・・予定が何もないことは四葉くんから聞いているから・・・朝食を済ましたら・・・私の部屋に来てくれないかな・・・」

 そう言ってそのまま部屋を出て行った。もちろん扉も閉めたくれた。どうやら逃げられないらしい。

「僕には拒否権がないのか?」

 心むなしく呟いた直後に「多分ないでしょう」っと言う言葉がどこからともなく聞こえたように兄は感じた。神に見捨てられたのは山羊だけではなかったようだ。

 途方にくれても仕方がないので、とりあえず着替えるためたんすから今日着る服を取りパジャマを脱ぎだした。その時

「兄チャマ、おはようのチェキデス」

 その声と共に扉が開きカメラのフラッシュが光った。兄は固まった。セミヌード状態を妹に見られたばかりか、カメラにその姿を移しどられたのだから。しかも固まったのは兄だけではなかった。その写真をとった本人も数十秒固まった後に顔を赤くして

キャ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 派手に大きな声と共に彼女は扉をいきよいよく閉めてそこから消えた。

「・・・叫びたいのは僕のほうだよ・・・」

 顔を赤らめながらそう呟くと、兄は急いで着替え終え、朝食を食べに1階に下りていった。

 

 

 1階にはもうすでに妹たちがきていた。総勢12人の妹たち。兄がこの妹たちと一緒に住むようになったのはほんの5ヶ月ほど前だ。それまでは妹たちの存在すら知らなかった。

 6ヶ月程前のある土曜日、彼に彼の両親から封筒が届いた。封筒の中には手紙が3枚入っていて、内容は次の3つに分けられた。

最初の1枚は現在両親がどこに何をしているのか。2枚目には両親がどれだけ彼の事を心配していてなおかつ信頼しているかが書かれていた。
 2枚目の手紙を見て彼も少し涙ぐんだ。最低でももうすでに10年以上親とは会っていないのだ。時々このように手紙は送ってくるが、今までここまで彼の事を思った事を書いた手紙は一度も送ってきていなかったからだ。だが、その2枚目の手紙は3枚目のためのお膳立てだということがすぐ後になってわかり、いくらかの失望感を彼は抱く事にもなった。

 涙を拭いて3枚目を読もうと3枚目を手にとって驚いた。1行目にでかでかと「実はお前には12人の妹がいる!」と書いてあるのだ。しかも目立つように赤い色でなおかつ他の文字よりフォントが大きかった。
先ほどの感動的な文面を読んでいただけに、彼としてはかなり衝撃的で、なおかつあれだけいろいろ2枚目に書いてあったのはこの事を言うためかと解釈しながらも

(妹?!しかも12人?!?!って言うか最後の「!」は君らが書くべきじゃないだろ!)

 瞬時にそう感じてしまった。微妙に最後感じたのはどうでもいいが、ともかく驚いた事には間違いない。今まで送ってきた手紙にはそんなことは一言もかかれていなかったからだ。しかし驚いてばかりはいてられない。ともかく今は最後まで手紙を読んでおかないといけないと考え、手紙の続きを読み始めた。

手紙「今まで黙っていてすまなかったと思う。私たちもまさかこんな人数になるとは思っていなかったから」

(全員血がつながってるのか・・・。テレビで大家族として出れるじゃん・・・)
 そんなどうでもいい事を思いつつ続きを読む。

手紙「私たちは知っての通り日本全国を回っている。最近では海外にも行く事がある」
(そういえばそんなこと前の手紙にも書いてあったなぁ)
手紙「そのため子供ができても一緒に動くわけには行かない。そのため私たちの知っている信用できる人物たちに私たちの子供を預かってもらっていたのだ」
(ということは僕もその理由からおじさんの所で預けられてるわけか)
手紙「それが2年程前預けた子供たちの保護者から私たちに連絡が届いたのだ。なんでも口を滑らせて兄がいるという事を言ってしまったらしい。そのため全員兄に会いたいと言ったんだそうだ」
(言ったんだそうだって、あんたらの子供だろ・・・)

手紙「それで協議の結果」
(協議って大げさな・・・)
手紙「まず一ヶ月全員で住んでもらうことになった」

 ちょっとした沈黙の後、なにを書いてあるのかを理解した後に

ちょっと待て!!

 彼はそう叫ばざるえないような気持ちに負け、今彼以外家に誰もいない事をいいことにそう叫んでしまった。多分近所の迷惑にはなったとは思われる。

「いきなり妹がいるって言われてそれでいっしょに住めだと!!」

 かなり感情がいらだっているらしく、かなり言葉が暴力的に変わっていたが、手紙にそんな事を言っても仕方がない。10分ほど休憩をとって心を和ませてから手紙を読むことにした。そして10分後

手紙「それで早速だが●月△日からいっしょに住んでもらう。これにはお前の妹たちやその保護者、そしてお前の叔父さんも了承していることだ」
「ちょっと待て!僕の了承は得てないだろ!」

 心を和ませたのも無駄に終わってしまったようだ。結局荒々しい感情が復活したのだから。

手紙「これについての苦情もしくは申し立ては一切受け付けないものとする」
「僕には拒否権はないのか!!」
手紙「拒否権はないのかよと騒ぎ立てるなよ。お前の妹たちはお前に会いたくて毎晩泣いてたという報告も本部は受けているのだから」

 まるで自分が言おうとしている事を前もって予言させられたような感情を抱き(実際手紙にかかれているのだから予言されているが)、彼も引き下がってこう呟く事しか出来なかった。

「くっ。ちくしょう。しかも本部って書くなよ!お前らはどっかの軍隊か組織か?!」

 それに彼としては「毎晩泣いていた」と書かれては仕方ないと思わざるえないのかとも思ったのだ。
兄自身は子供が結構好きだし(ロリコンという意味ではない)、何より弟や妹たちがいたらなと思ったことがないわけではなかったのだからそれほどいやだと考える必要もないと考え直す事にした。

 ちなみに手紙はまだ続きがあったのでとりあえず読んでしまうことにした。

手紙「全員が住む家をもうすでに買った。そこに荷物を送るように子供たち全員に連絡をしたので、君もこの住所に自分の荷物を持っていくように」
 その文のすぐ下に住所がかかれていた。

手紙「君は全員の兄なのだから、届いた荷物を確保するためにもこの手紙が届いた日にはこの家に移り住んでもらう。君の妹たちには●月△日まではいかないようにと連絡しておいた。まあそれまでは一人暮らしを満喫してくれたまえ」
「満喫って言われてもねぇ」

 どうやら事実を受け取る事にしてしまった彼は、もう怒りよりもあきらめじみた感じでそう呟く事しか出来なかった。

手紙「一ヶ月の間に君の妹たちから私たちのところに手紙を送ってもらうことにしている。内容は君とこれからも一緒に住んでいくかだ。もしこれ以上いっしょには住みたくないというのであればもと住んでた所に戻ってもらう。これからもいっしょに住みたいというのであればそのままということとする」
「要するに一ヶ月って言うのは様子見の日数って事か。ってことは僕も手紙を出してもとの生活のほうがいいといえば」

 彼はそう呟きつつながら手紙の続きを読んでいく事にした。

手紙「ちなみに君がこの件に関することで手紙を送ってきたとしても無効とみなす。」
「ちょっと待てよ、おい!!またそれかい!!」

 また自分の権利を無視されたと感じた彼は、無駄とわかっていても手紙相手にそう叫んでしまった。

手紙「君の妹たちがいっしょに住みたいかどうかが問題なのだから君の意見は意味がない。それとも君がかってにいっしょに住みたくないといって妹たちを悲しませたいのか?」
「くっそー!!何で一緒に住んでないのに僕の性格がこいつらにはわかってんだ!!」

 彼の性格から考えたと思われる手紙の文面になぜかむかついた彼は、言葉荒々しくそう叫ぶ事しかできなかった。

手紙「君達が住むことになる家は君が通っている高校には今君が住んでいる家からよりかなり近いのだから感謝してくれよ。●月△日には君の妹たちが自力でその家に行くから君は家で待機しておきなさい。くれぐれもその日は外出しないように。それじゃ元気でな」
 その文が手紙の最後だった。

 その手紙を読み終えた数分後、叔父夫婦は帰宅した。兄としては手紙がおじ夫婦にばれなければ大丈夫だと考えたときに帰ったきたため、慌てふためき結局手紙のことがばれ、その日のうちに引越しをさせられることとなった。

 叔父夫婦が帰ってきて10分後に運送会社のトラックが来たのには少し驚いた。

 

 住所に書かれた家は大きかった。円柱の形をした3階建てだ。

(まあ13人が住むんだから、これぐらい大きくたっておかしくはないかな。それにしても僕の両親の仕事ってなんなんだろ?)

 何はともあれ家の中に入る。運送会社の人間には家の外でとりあえず待機してもらうことにした。まずは家の構造をとりあえず見ておこうと思ったからだ。ちなみに手には家の見取り図がある。それは叔父がなぜか持っていたものだ。どうやら叔父はこの事をずいぶん前から知っていたらしい。

 見取り図にはすでに彼が使う部屋が指定されていた。3階の東側の部屋だ。とりあえす自分の部屋に行く。螺旋状の階段を上り3階まで上りきる。

「結構景色いいな」

 外の景色を見て感じた純粋な感想がそれだった。

 廊下にある窓から外を見て兄はそういう。家のすぐ近くに森があり、その奥には海が見えるのだ。緑と青。兄はその2つの色が好きなのだ。

 部屋に入ると彼は少し驚いた。

「だから叔父さんたちは家具とか机は持ってかなくていいって言ってたのか」

 部屋にはすでにかぐ一式が置いてあった。ベッドは兄が叔父夫婦の家で使っていたものといっしょだった。

 彼の部屋となぜかすでに決まっている部屋に入り、その部屋からの景色も眺める事にした。

「ここも景色いいね」

 先ほど廊下の窓から見た景色とほとんど変わらない景色が見れた。違うのは右斜め下のほうに神社が見えることだけだ。

 数分間そこで景色を眺めていたが、よく考えると運送会社の人を待たせているということに気づき、慌てて階段を下りて外に出る。運送会社の人は待たされたことはほとんど気にはとめていなかったのでよかったが、とりあえず謝ってから家の中に荷物を持っていってもらった。
 荷物は服とか本、兄がコレクションしていた物などばかりだったので物の数分で終わった。ただ1つだけ、それらの類とは違うものが含まれていたのだが、運送会社の人はそれが長い箱の中に入っていたために何かの服だろうと考え、気にもとめなかった。

 その日からその家に住むことになった兄にとって幸運だったのは、冷蔵庫や電子レンジ、洗濯機、掃除機、テレビといった家電製品がすでに家に置いてあったことと、水も電気も使える状態になっていたということだった。どうやら両親や叔父達が前もって用意してくれていたようだ。今はまだ使われていないが、後々妹たちの部屋となると思われる部屋にも家具や机といったものがすでに置かれていた。クローゼットと机はみんな同じ物なのだが、なぜかベットだけはまちまちだった。多分それぞれが日頃から使用しているベットを取り寄せたのだろう。

 その日から土日は忙しかった。3〜4社の運送会社がやって来てたくさんの荷物を置いていくのだから。それが妹たちの荷物だと気づくのに最初は少々時間がかかった。

 一人目の妹の荷物が届いたとき、兄はそれを1階の広間に運ぶことにした。叔父から渡された見取り図には彼自身の部屋の位置はかかれていたのだが、他のみんなの部屋割りまでは書かれていなかったからだ。

 妹達の荷物を置き終えた運送会社の人の一人がかえる際、彼らは兄に1通の封筒を渡した。その中には手紙床の家の見取り図が入っていて、見取り図の赤い場所にこの荷物をおけというこということだった。それからもう1つ、封筒の中にはキーワード1とかかれた横に「が」と書いてある紙も入っていた。何のことなのかはわからなかったが、とりあえずは指定された場所に荷物を持っていくことにした彼は、ある1つの事に気がついた。それは荷物がなかなかに重く、なかなかの重労働だっということだった・・・。
 謎のキーワードが書かれた封筒と一緒に到着した荷物は2階の兄の真下の部屋が指定された場所だった。

 荷物を運び終えるとまた荷物が届き、先ほどと同じように最後に封筒を渡された。そこにはやはり見取り図と手紙があり、手紙には同じ文面とキーワード11「る」と書かれてあった。

 結局その日にもう1つの荷物が届いた。そのときも封筒を渡され、見取り図と手紙がその中に入っていた。

 次の週の土曜日には3社の、日曜日にも3社の運送会社が同じようにやって来て、同じように封筒を渡していった。その次の週の土曜日に荷物が3つ届き、すべての妹たちの荷物は届いた。荷物は今までどおりいっしょに渡される封筒の中の見取り図を見ておいていった。

「それにしても・・・」

 荷物をすべて置き終えて、広間のソファーに超し置いていた兄は手紙を見ながらそう呟く。

「よくこんなばかばかしいことするよ・・・。」

 手紙にかかれていたキーワードをその番号順に並べた兄が力なくそういう。

「するんだったらもっと面白いことかいててくれたらいいんだけど・・・」

 手紙に書かれていたキーワード。1日目に送られてきた手紙に書かれていたキーワードと番号は「が」が1、「る」が11、「よ」が7。2日目は「ば」が3、「あ」が5、「じ」が9。3日目は「け」が10、「く」が8、「れ」が4。そして最後の日のが「な」が12、「に」が6、「ん」が2だった。つまり

「がんばれあによくじけるな」=「がんばれ兄よくじけるな」っという意味になるのだ。

「そんなことより確か来週の土曜日だよね。●月△日って」

 とうとう来週から妹たちがやってくる日なのだ。期待と不安が入れ混ざったような感情が兄を支配していた。

 そして●月△日。少し曇っているが雨がふりそうな雰囲気ではない。兄はいつもより少し遅めの8:00に朝食を食べ始めた。昨日の夜はなかなか寝付けなかった為少し寝不足なのだ。

(確か妹たちはここに来るから家で待機しとけって手紙に書いてたっけ)

 朝食を食べ終え、食器を洗い終えた9:30ごろ。「ピンポーン」というチャイムの音がした。兄はすぐにインターホンの画面を見る。兄はそこで驚く。そこには12人の女の子が見えるのだ。そこで兄は直感で感じ取った。「この子達が妹なのだ」と。それでも一様念のため

「誰ですか?」

 と聞いてみる事にした。だがしかし

「今のが兄チャマの声デスね。うまく録音できましたデス」
「四葉ちゃんもういいんでしょ。家に入りましょ」
「はいデス」

 兄の一般的な「誰ですか」という質問は聞き流されたかのごとく外の女の子はその画面から見えなくなった。そしてすぐに「がちゃっ」と鍵があきドアが開く。そして

「「「「「「「「「「「「おはようございます(です)お兄様、兄くん、兄君さま、アニキ(以下省略)」」」」」」」」」」」」

 と言いつつ家の中に入ってきた。

 

 

 

「にいさま、ご飯食べてくださらないんですの?」

 ふと過去の出来事を振り返っていた兄を白雪の声が現実世界に呼び戻す。

「え、ああ、ごめんごめん。ご飯ちゃんと食べるよ(汗汗)。だからそのフライパン、どっかにしまってくれないかな・・・」
「それはよかったですの」

 そういいつつ白雪は持っていたフライパンをどこかに隠す。

「いつも食べるの遅いんだから、早く食べ始めなよあにぃ」
「悪かったな、食べるの遅くて。それにちょっと昔の事思い出してたんだから」
「昔のこと?アニキっておじいさんくさい事言うね」
「悪かったな、おじいさんくさくて。これから千影の実験の被害者もとい被験者になるんだから、一応昔の思い出というのを今思い出しとかないと」

兄くんは・・・生贄のほうが・・・いいかい・・・?

 千影がまだ食べ終わっていないという事をすっかり忘れていた彼は、その声に対して額に脂汗をためて首を横に振るだけしかできなかった。

「そ、そういえば四葉は?」

 気を取り直してご飯を食べ始めた兄がようやく四葉がいないことに気づいた。

「四葉ちゃんなら後で食べるといって部屋にもどりました、兄君さま」
「そうか・・・。あ、忘れてた!
 兄はその時になって朝の出来事をようやく思い出したらしく
「早くあのメモリーを消去させないと」
 そう言っていつもの彼らしくない速度で朝食を食べ終える。

「ご馳走さま〜」
「おにいたまはや〜い」

 雛子の声をうれしく聞きつつ、急いで四葉の部屋に行こうとしたのだが

「兄くん・・・四葉くんの部屋に行く前に・・・私の部屋に‘自力で行くか’・・・‘私が兄くんを操作して行くか’・・・どちらでいくか決めてからにしてくれないか・・・」

 千影はそう言って懐から藁人形を兄に見えるように持つ。

「ちょっと待て千影」
「・・・なんだい・・・兄くん・・・」

 階段を上ろうとしていた兄は千影を見ながら言う。

「千影の部屋には行かないという選択はないのかい?」
「ある・・・わけない・・・」

 速答だった。まさしく速答だった。兄の質問にためらうことなく千影はそう言ってのけた。

「・・・・・・・・・・・・・・自力で行きます」

 兄は仕方なく2階の千影の部屋へと歩き出した。

「千影、今日は私と買い物行くんじゃなかったの?」
「・・・行くことは・・・行くよ。・・・でも・・・せっかく回ってきたチャンスだからね・・・。すぐに終わるから・・・時間までには間に合うはず・・・」

 千影はそう言って自分の部屋に向かった。

「昨日千影ちゃまが勝ったから文句言えないんだよね」

 この家では日曜日と土曜日の兄を一日中所有(?)するため、妹たちが金曜日の夜に兄には内緒で兄争奪戦ゲームなるものが繰り広げられている。今回の勝利者が千影なのだ。だから誰も文句も言わずに千影の実験に兄を渡したのだった。

「まあ千影アネキだったらまだ大丈夫だね」
「そだね。咲耶ねぇだったらちょっと危ないし」

誰が危ないのかしら?

 そう言って指をぽきぽき鳴らし始める咲耶。もうほとんどの者が食べ終えている。もちろん鈴凛と衛も。だから2人とも逃げようとしたとき階段から四葉が下りてきた。

「みんな、兄チャマの写真買わないデスか?」

 その声に10人が四葉のもとにやってきた。

 

「それで、今日は何をしたらいいの?」

 千影の部屋の前で待っていた兄を部屋に入れた千影は、なにやら分厚い本を片手に持って兄の前に立った。

「・・・今日は・・・いつものような実験の被験者じゃないよ・・・」
「そうか。ならまあいいけど。それで、いったい僕は何を手伝えばいいの?」
「・・・次の実験のための材料を取ってきてほしいんだ・・・。・・・ともかくここに立ってくれないか兄くん・・・。・・・それから・・・これも持っておいてくれないかな・・・」

 そう言って千影は兄をなにやら怪しげな模様の上に立たせ、その兄の手に十字架の形をしたキーホルダーのようなものを持たせる。

「・・・千影、この模様は何?それにこれは?」

 そう言った兄の目の前には何かをぶつぶつと呟いている千影が見えた。

「ちょ、ちょっと、千影さん?」
「・・・それじゃ兄くん・・・よろしく・・・」

 その千影の声と共に兄はその場から消えた。魔方陣から発した淡い紫色の光の中に。

魔界での旅

 

 

あとがき

 初めての人も、初めてじゃない人もこんにちは〜☆このSSの作者の堕天使シュベルトです。

 この「魔界への旅の直前」読んだ事がある人は読んだ事あると思いますが、実はあの有名なシスプリサイト「シスタープリンセスパラダイス」にも投稿させてもらっているSSだったりします。・・・うぅ〜〜〜、同じ物をカッツォさんの所に送るなぁ〜〜〜!!って怒ってる人います?あぅ〜〜。ごめんなさいm(__)mですが、実はこの作品、シスパラに登校されているものとちょっとだけ違うんですよね。何が違うかというと・・・「」の前に名前が書いていない!!おぉ〜〜〜、進歩です〜〜〜(なにが?)
 え〜っと、この作品は基本的に3部作ですので、またこの続きである「魔界での旅」と「写真奪回」を投稿させてもらおうと思ってます。カッツォさん、よろしくお願いしますm__m

 もしこの小説の感想などがあったら、メールで御一報ください。よろしくお願いしま〜す。


堕天使シュベルトさんへのメールはこのアドレスへ
 deathgod4@hotmail.com

トップへ   SSの部屋へ