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宴の後には

作者:窓拭きさん


「……どうするか……コレ」
 死屍累々といった風に見事なまでにくたばっている。
「えと……あ!」
 春歌は名案というように手を叩く。
「それぞれのお部屋に運んであげては?」
「全員か?」
「はい!」
 答えると同時に春歌は白雪を背負う。
 ……はぁ、仕方ねぇか。
 渋りながらオレも千影を担ぎ上げた。
 ……あ、ついでにアレ置いてくるか。

 時はニ時間前に戻る。

 今日は庭で春歌の誕生パーティをやっていた。
 なぜ庭? と思うかもしれないが、それはもちろん春歌を驚かすためだ。
 案の定、彼女は期待以上に驚いてくれた。そして喜んでくれた。
 計画は大成功に終わったのだ。
 夜もふけ、亞里亞や雛子は眠りに落ちて、パーティはお開きに見えたのだが……。
「あぁぁああ、兄くぅん……今宵は満月だねぇ。……見なよ……ウサギが餅をついている……ぺったんぺったん……」
「……それでどうしてお前の両手がオレの背中に回っているんだ?」
「……兄くん……私から言わせる気かい? ……フフフ」
「いや、フフフってアンタ。まわりの視線がめっちゃ痛いんですけど」
 なぜかオレの周りには人だかりが出来ている。
 全員オレの妹なのだが、10人(メカ鈴凛含む)もいればなかなかな圧倒感ありーの。
 ……でも、いきなり千影はどうしたんだ? 意外性がありすぎて驚くことができん。
「兄くぅぅぅん」
「なんか猫にじゃれつかれてるみたいだな」
「ふーん。……それでどうしちゃったのかしらね。千影ちゃんは」
「咲耶、顔が般若だぞ」
 どごっ。
 ……いいボディブローだ。……ってか、悶絶しちゃうよお兄ちゃん……。

 気がついたときは春歌のひざの上だった。
 ばばっ。
 目覚めのコンマ数秒後には、春歌の隣に立っていた。
 ふ……相変わらずな敏捷性。
「うひゃひゃひゃは!! ほあほるぁ、花穂ちゃんもぐぐぐぅいっと」
「兄君さま……もう大丈夫ですか?」
「ああ、いつものことだからな。てゆーか、今の声誰だ?」
 と、聞こうとしたのだが……。
 パタリ。
「兄君さま!?」
「ぅ〜〜、頭が痛ぇ」
「ごめんなさいごめんなさいごめ……」
 春歌は地面に倒れたオレを慌てて抱き起こす。
「もう少し休んだ方がいいですわ。いい角度で入りましたもの、咲耶ちゃんのボディ……ポッ」
「ポッて……」
 再びオレは春歌のひざの上に頭をのせる。
 ……あ〜、柔らけ〜わ。いい気持ち〜。
 体がふわふわと眠りの態勢にはいる。
 しかしオレは見てしまった。
 そら恐ろしか光景を。
 一瞬、思考が完璧に停止する。
「……春歌」
「なんでしょう?」
「……簡潔に答えてくれると助かるんだけどな……」
「はい」
「なぜ、花穂は白雪に『大吟醸』を無理やり飲まされていて、咲耶はひたすら椅子に向かって謝り、衛はローラーブレードを逆立ち状態で乗りまわしてるんだ?」
 他にも、鞠絵と可憐は鈴凛でキャッチボールをしていて、四葉はよれよれと歩いていた。
「兄君さま、それはご自分の胸に問い掛けてみてください」
「は?」
 体を入れ替えて春歌の方を見るが、ニコニコと笑っているだけ。
 答えるつもりはなさそうだ。
 ……自分の胸ったってなぁ。気がついたら、こうなってたわけだし。
 考えていると千影が猫の如く四本足で寄ってくる。しかし途中で四葉にぶつかる。
 刹那。
 ずどんっ。
 四葉は目にもとまらぬ速さで千影にバックドロップを決めた。
 千影は地面に突っ伏して動かなくなり、四葉は『っしゃあ! 次こいやぁあ!!』などと雄たけびを上げている。
「……わけわからんぞ」
「兄君さま、花穂ちゃんをご覧になりましたか?」
「ああ、今自分から銘酒『黒牛』をいっき飲みにかかっ……てる……な……」
 花穂は黒牛(一升瓶)が飲み終わると、どんっと机において『ぷはぁ、なかなかいけるなぁ、姫〜』などとのたまわっていた。
 ……ひょっとして。
「あいつらオレの酒飲んだのか?」
「みんなのいる場所にお酒を持ってきてどうするんですか! だいたい兄君さまだってまだ高校生ではないですか!!」
「ぐぁああ、あんま大きな声だすな。頭に響く」
「そういえば痛いところも頭でしたわね。咲耶ちゃんにお殴りあそばれたみぞおちではなく」
 よく見れば春歌はぴくぴくと頬を引きつらせていた。
「春歌ちゃん怒ってます?」
「当たり前です!!」
 ……頭痛いです。
 でもやっぱりちょっとまずいか、この状況は。
 オレは仕方なくよろよろと立ち上がる。
 足の神経を集中させれば一応まっすぐ立てた。
「とりあえず、静かにさせるか」
「どうするのですか?」
「春歌、水持ってきてくれないか」
「わかりましたわ」
 春歌は台所にダッシュする。
「どうぞ」
 二秒も間がないことに取りたててオレは気にせず、コップを受け取る。
 ……とりあえず千影はダウンしてるからいいとして、まずは……花穂にするか。
 オレは花穂と白雪のいるところに近づいて、コップを渡す。
 ちなみに白雪は完全にグロッキー。
「ほれ、花穂。水だよ」
「おぅおぅ、すまねぇぇなあ、お兄ちゃまぁあ」
「花穂ちゃん……お酒飲むとオヤジに……」
「大丈夫だ。オレは何も聞いてないから」
「ごきゅごきゅ。……ぶはぁあ。お? なんか体が浮いていく……よう……な……」
 花穂が力なく倒れる。
 オレは花穂とコップを見事キャッチする。
「うむ、効果は上々」
「兄君さま……一体何を……」
「お薬」
 花穂をその場にそっと寝かせる。
 さて、次のターゲットは……咲耶にするか。
「咲耶。水だぞ」
「ごめんなさいごめんなさいごめ……」
 今度はテレビに向かって謝っていた。
「咲耶ちゃん、何か怒られるような事をしたんでしょうか?」
「さあ?」
 酔っ払いは何しだすかわかんないものだし。
 オレは咲耶の肩をつかんで、正面から瞳を覗きこむ。
「咲耶。もう、十分だよ。誰も怒ってなんかいないよ」
 咲耶は一瞬?顔をしたが、すぐにぱあっと笑って、
「おじちゃん、ありがとう!」
 と言った。
 ……幼児退行型か。
「泣きつかれただろう? ほら、コレを飲んで落ちついて」
「うん!」
 ぱたり。
 咲耶は一口飲んだ瞬間にあっさりと倒れた。
 もちろん咲耶もコップもちゃんとキャッチしている。
 オレは咲耶を担いで下卑た笑い声を上げる。
「それじゃあ、おじちゃんといいところに行きましょうかねぇ、へっへっへ」
「なにやってるんですか!」
 ごりっ。
 ……春歌、どうやったら扇で『ごりっ』なんて音出せるんだよ。
「痛いぞ、春歌ちゃん」
「兄君さま、そのようなご趣味があったなんて……おいたわしや」
「ほんの軽いジョークだぞ」
「いいえ、今のは本気の目でしたわ。……今度から雛子ちゃんや亞里亞ちゃんとは二人っきりにさせないようにしなくては」
「こら、おもいっきり失礼な事を言うな」
 まあ、とにかく。
 こんな感じでオレは全員を眠らせていった。
 鞠絵の薬はバリ効果あるな〜。
 ちなみに途中、四葉にバックドロップをくらったことを追記。

 んで、現在。
 全員をそれぞれの部屋に寝かせて、居間はとても静かだった。 
 オレと春歌はソファーに陣取り、リラックス中。
「なんかとんでもない誕生パーティになったな」
「そうですわね」
 春歌はちょっとため息をついて、
「でも」
 オレのほうを見てにっこりと笑う。
「ワタクシ、皆さんに祝ってもらえてとってもうれしかったです」
「そっか」
 オレはソファーに身を沈める。
 部屋は祭りの後のように、奇妙な寂しさが渦巻いていた。
 ………。
「兄君さま」
「ん?」
 春歌はオレに体を近づけ、座りなおす。
「ワタクシ、不安だったのかもしれません」
「……何がだ?」
 雰囲気に飲まれているのか、少し春歌の様子がおかしい。
「ワタクシは兄君さまの妹としてここに……ドイツから故郷である日本へ参りました。けれども……」
「他に11人もいたからな。姉妹が」
「ええ」
 春歌は視線を宙にさまよわせる。
「ワタクシ、兄君さまに起してもらった時、お祖母さまの夢を見ていたのです。……少しホームシックにかかっているかもしれませんね……」
 クスッと笑う。しかしそれはひどく弱々しい感じがする。
「兄君さま。ワタクシ、兄君さまの妹としてお役に立っているでしょうか?」
 いつものような覇気はなく、頼りない小動物のようだった。
 こんな春歌を見るのは初めてだった。
「わかんねぇ」
「……え?」
 オレは足を振り上げて、その反動で立ち上がる。
「そりゃあ、白雪はほとんどの日に料理作ってくれるし、咲耶は妹たちの面倒見てくれるし、鈴凛は結構便利なもん作ってくれるし」
「………」
「鞠絵はオレが絶対買わないような本とか貸してくれるし、衛は体鍛えるのに付き合ってくれるし、可憐は頼めばピアノ弾いてくれるし、花穂はいっつも応援してくれる。亞里亞はいらいらした気分とかを吹き飛ばしてくれるし、四葉はウチの事を聞けば大抵教えてくれるし、千影は魔術で壊れたもん直してくれるし、雛子は面白い視点でいろいろな発見をさせてくれる」
「……みなさん、ちゃんと兄君さまのお役に立っているのですね」
「そうか?」
「……そうではないのですか?」
 オレは春歌を見てから、食卓で使うばかでかいテーブルを見る。
「まぁ、役に立っていると言えばそうなんだけど、オレはあんまりそうは思いたくねえな」
「……どうしてですか?」
「自由でいて欲しいから」
 きっぱりと告げる。
「オレはお前たちが安心していられるような、自分らしくいられるような空間を作りたいんだよ。オレはお前たちがいてくれれば十分だからさ」
「兄君さま……」
「それにあきないしな。毎日消滅させられかけたり撲殺されかけたり毒殺されかけたり。文字通り死ぬほどスリリングだ」
「………」
 春歌は頬に一筋の汗をたらす。
「それでもお前らの事」
 にひひひと笑って、
「好きになっちまったからな」
 酒のせいだろうか。いつも言えないような事でも、春歌に話せた。
 ……ひょっとした素直に渡せたかもな。

 ―――――――。

 春歌はベッドに座って、物思いにふけっていた。
(……兄君さま、みなさんのことをちゃんと考えていてくれたのですね)
 凍也は居間で話している間に眠ってしまったので、春歌は申し訳ないとは思いながらもソファーで眠ってもらう事にした。
 春歌の力では兄を背負って階段を上ることなど到底不可能だからだ。仕方がないので毛布をかけてから自分の部屋に戻った。
(お祖母さま……兄君さまはやっぱりとてもお優しい方ですわ)
 思いついたように、あっ、と小さな声をあげる。
(そうですわ! 今日のことを手紙に書きましょう!!)
 机に移動して、便箋と書くものを出そうとして……。
「あら?」
 机に見なれぬ小さな袋があった。下にカードが置かれている。
 春歌はそれを取って見てみる。
『誕生日、おめでと by凍也』
 他には何もかかれていないという、非常にシンプルなカードだ。
 ………。
 春歌はじっとそれを見ていた。
(ああ、どうして……)
 頭の中ががらんどうになっていく。
(どうしてこんなにうれしいのに……)
 目の前の景色が歪んでいく。
(涙が出てくるのでしょう)
 不思議と嗚咽は上がらなかった。
 春歌は落ちついてから袋を開けてみた。
 そこには小さなリボンが入っていた。絹のようにすべすべとしたピンク色のリボンの中央に、小さな太陽の飾りがついていた。
(……これは)
 春歌はほぅっと息を吐き出した。

 居間に入ると、凍也は静かにソファーで眠っていた。
 春歌は凍也の頭のある方にそっと座る。
「兄君さま、ありがとうございます」
 ささやくように言う。
「この髪飾り、ワタクシのお祖母さまがくださったものと、すごくよく似ているんですよ」
 凍也はすぅすぅと寝息を立てて、なんの反応も示さない。
「けれど、正反対でもあるのです。兄君さまからいただいたものは太陽でしたけど、お祖母さまからのものは月でした」
 春歌は凍也に顔を近づけて問う。
「似合いますか? 兄君さま」
 両側の頬にかかるリボンを交互に触る。
 凍也は答えない。
「もう、一言くらいおっしゃってくれてもいいのに……フフフ」
 春歌は凍也の寝ている毛布に入る。
 さすがに少し狭かった。
「兄君さま……ワタクシ、ずっとこの家に……あなたのそばにいたいです」
 凍也の息遣いがよく聞こえる。
 春歌はゆっくりと目を閉じる。
(……明日も兄君さまと共にありますように)
 月は沈みかけ、太陽は昇る準備をしていた。



 あとがき

筆者「どうも、春歌BDSS、宴の後にはを読んでくだすってありが父さん。すっかり爺の作者でッス!」
春歌「あの〜、作者さん。少しよろしいでしょうか……」
筆「あ、春歌さん。お誕生日おめでとうございます」
春「……ありがとうございます」
筆「で、なんしょうか?」
春「ワタクシの誕生日は16日なのです」
筆「そうですね!」
春「管理人さまの一言はご覧になりましたか?」
筆「ううん、見てないけど」
春「……そうですか」
筆「(はて、何か重大な事でもあったのかな〜?)それじゃあ、今見てみますね。え〜っとぉ、『5/15〜5/17の間、修学旅行に行ってまいります。というわけで、更新&メールの返信はストップいたしますので、ご了承ください』か。……へ?」
春「……16日……更新はないのです」
筆「あ、あら〜。どうしよう〜(汗)」
春「シスパラさまの方に書いてしまいましたね。続きがどうの、と」
筆「……迂闊やったわ」
春「一体どうなさるおつもりですか?」
筆「………(汗)」
春「………(ジト目)」
筆「事故、というわけで。テヘッ♪」
春「……では、コレも事故ですね」

 ずぐしゃあああ。
 室内に破裂音がこだまする。

春「つまらぬものを斬ってしまった」
凍也「……あいつ破裂してたんだけど……斬ったって言うのか?」
春「あ、兄君さま!」
凍「その鉄扇もかなりの凶器になったなぁ〜」
春「まぁ、兄君さまったら……ポッ」
凍「照れるところじゃないって」
春「ところでこのような場所に何かご用なのですか?」
凍「ああ。実はな、前回のあとがきをいつもの調子でやったじゃんか」
春「『一歩前進……かな?』のことですか?」
凍「そうそう。あれでさぁ、この作者のSS初めて読んだ人が混乱をしたみたいでな」
春「……そう言えば可憐ちゃんの兄君さまが兄君さまではなく沙春さんと本編で書かれていたのに、あとがきになると脈絡もなく兄君さまを兄君さまと読んでいて……」
凍「オレはそのときのフォローに来たわけだ」
筆「シスパラさんに掲載されてる長編を読めばナゾは解けま〜ッス」
春「黙れ。おとなしく破裂しとけ」
凍・筆『………』

 凍也、引く。作者、脱走する。

春「でも、長編のあとがきだけ読めばなんとなくわかりますね」
凍「……ああ……そだな……」
春「では、兄君さま。用事も済んだみたいですし行きましょうか」
凍「……そうだね……行こか……」

 春歌、凍也、去る。
 作者が踊りながら舞い戻ってくる。

筆「ふ〜、危うく死ぬところだった。ギャグキャラっていいね! ……それでは、感想、意見、ダメだし等お待ちしておりま〜す」



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yuei5@hotmail.com

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