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極月天使の憂鬱

作者:啓-kei-さん

  12月20日、天気は生憎の空模様…。
  そんな今日は私の誕生日。
  でも、今日の予定は…なし。
  私の心は今日の天気と同じで曇っていた。
  お兄様か可憐ちゃんたちから誘いがあるかと思って、少し期待してたんだけど…。
  まさかこうも見事に誰からも声をかけられないなんて思ってもいなかった。
  特にすることもなく、テレビのスイッチを入れてみる。
  画面には、巨大なツリーを準備している様子が映っていた。
  適当にチャンネルをまわしてみる。
  クリスマスイブ直前特集などとやっているけど、
  特に例年と変わっているとは思えない。
  テレビをきって、窓から外を覗いてみた。
  風はなさそうだけど、やっぱり寒そうね…。
「…出かけてみようかな…」



  町はもうすぐ訪れるクリスマスムード一色だった。
  小さな子供の手を引く母親、
  互いに寒い手を取り合って温もりを感じあう恋人たち。
  私はこの雰囲気に乗ることが出来なかった。
「…寒いな」
  モールを曲がった先に見慣れた顔が見えた。
  あれ…あれは…
  可憐ちゃんと白雪ちゃん…?
  白雪ちゃんが小さなバスケットを持ってるようだけど…。
  二人でどこかへ行くのかしら?
「あっ、咲耶ちゃん」
  可憐ちゃんが私に気付いて、こっちに歩み寄ってきた。
  白雪ちゃんもゆっくり近づいてきた。
「二人で、どこか行くの?」
  すると二人は顔を見合わせて、少し困った顔をしたような気がした。
「えっと…咲耶ちゃんはどこか行くんですの?」
「私は…」
  実は何の予定も入ってないなんて、かっこ悪いよね…。
「そ、そうよ。友達と予定があるの」
  何…言ってるんだろ…私…。
  そんなものないのに…。
「あ…そうなんだ…」
「うん」
  すると、また二人は顔を見合わせた。
  白雪ちゃんが小さな声で可憐ちゃんに話し掛けている。
「どうしますの、可憐ちゃん?」
「うん…」
「どうかしたの?」
「う、ううん、なんでもないです。こっちのことだから…」
「?」
  何だか、二人ともずっとばつの悪そうな顔をしている気がする。
「そ、それじゃあ白雪ちゃん…行きましょうか…?」
「はいですの」
  二人は手を振りながら、ゆっくりと離れていった。
「あっ…」
  気付いたら、私は遠ざかる二人の背に手をのばしていた。
  私はのばした手を引いて、そっと胸にあてた。
  本当に…何してるんだろう……。


「アレなんてどうかな?」
「う〜ん…もう少し明るい色のほうがいいんじゃないですか?」
「そうかなぁ…意外とこういう色もいいと思うけどな」
  衛ちゃんと春歌ちゃん?
  何をしてるのかしら?
  二人はショーウィンドーに飾られた服を眺めている。
  二人ともファッションに興味…もってたかな?
「何見てるの?」
  私は沈んだ気持ちを気付かれないように、明るく声をかけた。
「あっ、咲耶ちゃん!」
「咲耶ちゃん…何かお買い物ですか?」
「えっと…私は…こ、これから友達と約束があるのよっ!」
  また…嘘…ついちゃった…。
「そ、それよりも…二人とも何を見てたの? 服?」
「えっと…」
  春歌ちゃんが少し困った顔をしたような気がした。
「へぇ…二人とも服に興味あったんだ」
「え…ま、まぁね…」
「あっ、私が二人に似合いそうな服を選んであげようか?」
「え!?」
  私は二人の返事を待たずにショーウィンドーのほうを向いた。
「あっ、あの服なんかどう? 私は隣の服のほうが色的に好きなんだけど、衛ちゃんはあんな感じの服が似合うんじゃ…」
「さ、咲耶ちゃんっ!!」
「何…?」
  何故か少しムキになったように服を選んでいた私に、衛ちゃんが声をかけた。
「も、もう、服はいいんだっ!」
「え…?」
「私たちもこれから用事がありますので…」
「そう…なの?」
  私は春歌ちゃんの言葉を確認するように衛ちゃんに聞いた。
「え…あぁ、そういえばそうだったねっ!」
「それでは私たちはこれで…」
  変なの…。絶対さっきまで服見てたのに…。
  私…余計なことでもしちゃったかな…?


  やっぱりさっきの二人の様子が気になる…。
  まさか、皆で私のこと驚かせようなんて思ってるんじゃ…?
  …って、そんなわけないか。
  私の誕生日は毎年やってるクリスマスパーティーで、
  一緒に祝ってもらうこともあったし…。
  クリスマスパーティーのときは鞠絵ちゃんも来るし…。
「あれ? こんなところで何してるの、咲耶ちゃん?」
  突然、名前を呼ばれて振り返ると、鈴凛ちゃんが立っていた。
「鈴凛ちゃん…? 鈴凛ちゃんこそ何してるの?」
「私? 私はパソコンのパーツでも買いに行こうかなぁ、って。咲耶ちゃんは?」
「私は…友達と約束を…」
「あっ!?」
  私が少し気まずそうに言うと、
  鈴凛ちゃんは何か思い出したかのように叫んだ。
「な、何?」
「おめでとう、咲耶ちゃん!」
「え…?」
  突然の事に驚いている私に、
「誕生日でしょ! 咲耶ちゃん」
「あ…」
  鈴凛ちゃん…覚えててくれたんだ…。
  ってことは…皆で私を驚かせようなんて考えてるわけじゃないんだ。
  やっぱり、私の思い過ごし…
「あっ!?」
「こ、今度は何っ!?」
「忘れてたっ! 可憐ちゃんの家に行かないとダメなんだった!」
  ビックリした…。
  …あれ? 可憐ちゃん?
「可憐ちゃんなら、さっき会ったけど…?」
「嘘っ!? あぁ、急がないと!」
  そう言って、鈴凛ちゃんは走って行ってしまった。
  パソコンのパーツはどうなったの?



  大きなクリスマスツリーの前に立っていた。
  クリスマスツリーといっても、まだデコレーションの途中だ。
  ツリーの周りにはまだ着けられていない飾りが置いてあった。
  その中から、大きな星が顔を覗かしていた。
  クリスマスがくれば最も輝く存在のそれは、
  ゆっくりと、寂しげに、
  自分の出番を待っているようだった。
  私はその主役が着けられるツリーの先をみた。
  相変わらず空は暗いままだった。
  行く当ても無く家を出てきたから、いきなり暇になっちゃった…。
  いつもならウィンドーショッピングでも楽しむんだけど、
  今日はそんな気分になれない…。
「寒い…」
  時折吹く風に身に震わせながら、
  私は家に帰ろうと思った。
  その時、この時代に、この国にはありえないものが目に入った。
  馬車だ。
  そんなものを使う人なんて……知ってる。
  亜里亜ちゃんだ。
  何処かへ行くのか、その帰りなのかはわからないけど……目立つ。
  ガラガラ…という馬車の音が段々遠ざかっていった。
  私は、意味も無く、それが見えなくなるまでずっと見ていた。


  まもなく家に着く。
  まだそんなに時間が遅いわけでもないのに、
  すっかり辺りは夜であるかのように暗かった。
  町から離れるにつれて、人の賑わいが薄れてくると、
  また、寂しい気持ちが湧き上がってきた。
  徐々に増してくる寒さも、私の心を凍えさせた。
  家の門をくぐり、玄関の戸を開けようと思ったが、
  玄関の戸の前に何かが積まれていた。
  …なんだろう? 郵便物かな?
  でもこれどこかで……?
  可愛らしいバスケットと綺麗な包装紙に包まれた横長の箱と紙袋だった。
  私は何か違和感を感じながらも、バスケットを開けてみた…。
「あっ…」
  中にはケーキが入っていた。
  『HAPPY BIRTHDAY』の文字と一緒に。
「ま…さか…」
  私は包装紙を剥がし、箱を開けた。
  中には、今日どこかで見た、私がいいと言った、服が入っていた。
「嘘…」
  紙袋の中には、
  『おたんじょうびおめでとう さくやちゃん』
  と隅に書かれた、私の似顔絵が描かれた紙とかが入っていた。
  本当に私を驚かせようと思ってたの…?
  でも、鈴凛ちゃんが……
 『あっ!?』
 『忘れてたっ!』
  って……。
「………」
  何してたんだろう…私。
  皆が私の誕生日を忘れたりするわけけないわよね…。
  …皆。
  アレ? 皆、私の家に来たの?
  家に来ていた皆に、私と会った可憐ちゃんたちが、
  私が友達と会う約束がある、と言っていたことを伝えたはず…。
  それを聞いた皆は…その時、どんな顔をしてたのかな…?
  ……何してんだろ、私。
  ……何がしたかったんだろ、私。
  ……ナニヲモトメテタノ、ワタシ。

  どれだけ時間が経っただろうか…。
  辺りはすでに真っ暗だった。
  私の体はすっかり冷え切っていた。
  私は立ち尽くしたまま、
  皆に何て言おうか、何て謝ろうか、何て言い訳をしようか、
  そんなことばかり考えていた…。
  結局、私は卑怯者だった…。
  自分のことばかり考えてる。
  人の目を気にしていた。
  わかってる…これじゃダメだってことぐらい。
  でも、私は……卑怯だから…どう伝えればいいのかわからない…。
  時間だけが過ぎていった。
「…咲耶ちゃん?」
  私は背後からの聞きなれた声に振り向いた。
「千影ちゃん…?」
  そこには小さな花束を抱えた、千影ちゃんが立っていた。
「一体…何をしているんだい…?」
  千影ちゃんが心配そうに近づいてきた。
  そして近くで私の顔をみた千影ちゃんは顔が険しくなった、気がした。
「何をしているんだ咲耶ちゃん…!! こんなに…冷たくなって…」
  千影ちゃんがいつもより声を荒げているような気がした。
  そう言えば、さっきから視界が上手く定まっていないようだった…。
「取り合えず…早く家の中に…」
  私は千影ちゃんに促されるままに、家の中に入った。



「…38度4分……まぁ…あれだけ冷たくなっていたから…当前だね…」
  千影ちゃんは呆れたような目で、ベッドに寝かされている私を見た。
「そんなにあったんだ…」
  外で色々考えているときにも少しダルさは感じていたような気もする。
「それで…何をしていたんだい…?」
  わかってるくせに…。
  私に何を言わせたいのよ…。
  千影ちゃんに顔を見られないようにそっぽを向いた。
  ふぅ、とため息が聞こえた。そして、
「…そうだ…渡すものがあるんだ…」
  千影ちゃんの足音が少し遠のいて、すぐに戻ってきた。
「ほら…」
  私は少しだけ顔を傾け、横目で千影ちゃんを見た。
  目の前に色鮮やかな世界が飛び込んだ。
  そして心地よい香りがした。
  千影ちゃんが私にさっきの小さな花束を向けていた。
「…何?」
「…今日は…誕生日だろ…?」
「………はぁ…?」
  千影ちゃんの言葉に気の抜けた返事をした私を、
  千影ちゃんが少し目を広げて驚いた様子で見ていた。
「おかしいな…まさか…日を間違えてしまったのか…?」
  もしかして…本当に悩んでいる千影ちゃん?
「……合ってるわよ」
「…そうか…」
「………」
「………」
  気まずいな…。
  早く何処か行ってよ…。
「今日は…皆で外でパーティーでもしたのかい?」
「えっ?」
「違うの…かい?」
  何を言ってるの千影ちゃん?
「いや…外にプレゼントやケーキが置いてあったから…ね」
「……知ってるくせに」
「何を…だい?」
  本当にしらじらしい…。
  私は、千影ちゃんに押し付けるかのように一気にまくし立てた。
「皆で私を驚かせようとしてたんでしょ? 私に内緒で準備をしてたんでしょ、でもごめんね私がいなくてっ…」
「…咲耶ちゃん」
「皆だってわかってるでしょ、クリスマスに一緒にやればいいじゃないっ」
「…咲耶ちゃん」
「それに今日だって私は友達と…」
「咲耶ちゃん!」
「っ!?」
「咲耶ちゃん…どうして泣いているんだい…」
  え…?
  本当だ…私…泣いてる…。
  アレ? 私、何を言おうとしてたっけ?
  友達?
  友達と…何?
「咲耶ちゃん…落ち着くんだ…」
「わ、たし…」
「咲耶ちゃん…君は…何か勘違いをしている」
「え?」
  カンチガイ?
「私は…咲耶ちゃんを驚かすなんて…何も聞いていない…」
「何も…?」
「おそらく…皆が…自分で考え決めた…と私は思うよ」
「…ウソ…?」
  皆…来てくれた? 自分から?
  なら…私は一体何をしていたの…?
  何の言い訳を考えてたの?
「それに私は…鞠絵ちゃんからも預かり物がある…。誕生日プレゼント…だそうだよ」
  私…だって…
「だって…」
「………」
「だって…私……クリスマスの時に集まるから…皆……私の誕生日も一緒だと…大変だし…」
「咲耶ちゃん…やはり…勘違いをしているよ」
「え…?」
「誰も大変だなんて思っていない…。むしろ咲耶ちゃんが望むなら…皆喜んで祝ってあげる…。咲耶ちゃんだけクリスマスと同じなんて…誰も望んでいない」
「千影ちゃん…」
「私たちは…姉妹なんだからね」


「…落ち着いたかい?」
  千影ちゃんが、薄っすらと湯気のたつカップを渡してくれた。
  中にはホットミルクが入っていた。
「ありがとう…」
  私はカップを受け取り、その温もりを手の平いっぱいに感じていた。
  ずいぶん泣いちゃってたから、ひどい顔だったんだろうな…私。
「私…皆に謝らないと…」
  飾らず、本当の自分の気持ちを…、皆に伝えたいから。
「…そうか……。でも、咲耶ちゃん…」
「うん?」
「決して…無理をしてはいけないよ…。皆に気を使わせないようにすることが…反って皆を心配させることになるから…ね」
「…うん」
  穏やかな表情で千影ちゃんが言った。
  その千影ちゃんの言葉が私の心に響いた。
  千影ちゃんの言葉は飾られていない、
  本当の、千影ちゃんの言葉だからだ…。
「…さて…私もそろそろ帰らせてもらうよ…」
「あっ、そこまで送るわ」
「熱は大丈夫なのかい?」
「ええ。おかげさまで少し楽になったから…」

  家の門まで来たところで千影ちゃんが振り返って言った。
「ここで…いいよ」
「そう…?」
「あぁ…早く熱を下げて…クリスマスパーティーには元気に出られるように…ね」
「うん…」
  クリスマスパーティーまでにやらないといけないことは、
  今年はあまりないようね。
  皆に謝る言葉だって、事前に考えるんじゃない、
  自分を…本当の自分の気持ちを伝えればいいだけだから…。
  クリスマスパーティーに着ていく服も決まってるし…ね。
  だから、早く熱を下げないとね。

  そして…千影ちゃんが門をくぐろうとしたとき…
  空から…白い天使が舞い降りてきた…







あとがき

どうも啓-kei-です。
突然ですが、咲耶は元My Loverです。
シスプリに引き込んでくれたのは咲耶でした。

さてSSは…中途半端。
皆さんに感動を…与えたかったのですが、
自分の中で話がまとまってない状態で書いたので、可憐のBDSSとややかぶってます…。
そろそろ自分に納得のいくSSを書きたかったのですけど…誕生日には間に合わせたかったので。

各々のキャラの性格や過去の類似ネタにツッコミどころ満載ですが、厳格な感想・批判があれば何でもいいので送っていただければ嬉しい限りです。


啓-kei-さんへの感想はこのアドレスへ
fairytale@mx91.tiki.ne.jp

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