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霜月天使の憂鬱

A−part

作者:啓-kei-さん

  11月2日、亜里亜さまのお誕生日。
  今日は皆さまが亜里亜さまのお祝いに来てくださるそうです。
  亜里亜さまも、楽しみにしているはずです。
  私は亜里亜さまのお部屋へ続く長い廊下を歩いておりました。
「!」
  と、足がもつれてしまいました…。
  さすがにこの長い廊下で足が疲れてしまったのでしょうか…?

  亜里亜さまのお部屋の前まで来ました。
  控えめにドアをノックし、ドアを開けました。
「失礼します、亜里亜さま。……亜里亜さま?」
  ……静かですね?
  さすがに今日は起きていらっしゃると思ったのですが…。
「……ん…」
  まったく…まだお休みになっているのですか、亜里亜さま?
  気持ちよさそうに、シーツにくるまってお休みになっていますね。
「亜里亜さま!」
「ん…?」
「起きてください、亜里亜さま!」
「…じいやぁ…?」
  まだ寝ぼけていらっしゃるようですね…。
「今日は皆さんが、亜里亜さまのお誕生日のお祝いに来てくれる日ですよ」
「…お誕生日ぃ?」
「そうですよ、ですから早く起きてください」
「……ぅん」
  亜里亜さまは、ゆっくりと体を起こし、小さな手で眠そうな目をこすっています。
「おはよぉ、じいや」
「…亜里亜さま、私はメイドです!」


「……?」
  着替えを済ませた亜里亜さまは妙にそわそわしています。
  なにか周りを気にしているようですが…?
「どうかしたのですか?」
「誰も…いないの…?」
  あぁ…そういうことですか。
  やっぱり亜里亜さまも楽しみにしていたのですね。
「もうじき皆さん来ますよ」
「本当…?」
「はい」
  ふふ…先程からしきりに窓の外を気にしていますね。
  いつもわがままな態度や驚くような行動で私どもをビックリさせる亜里亜さまですが、
  このような子供らしい態度をされるのを見ると、とても微笑ましく、可愛らしいですね。
「さぁ、朝食の準備ができておりますよ」
「ごはん…?」



  朝食を食べ終えられた亜里亜さまは、待ちきれない、とばかりに外へ出られました。
  そして庭に咲く、色彩鮮やかな花に目を奪われています。
  そこへ…
「おはようございます」
「おはよう…亜里亜ちゃん…」
  可憐さまと千影さまがいらっしゃりました。
  可憐さまは、きちんと整った感じの服装をしており、少し香水のいい香りがします。
  千影さまも、黒を貴重とした服装をしております。
「おはようございます」
「わぁ…」
  お二人がいらしたのがよほど嬉しかったのか、亜里亜さまは挨拶をするのも忘れております。
「亜里亜ちゃん、お誕生日おめでとう」
「おめでとう亜里亜ちゃん…」
「ほら、亜里亜さま?」
「あっ……ありがとうなの…」
  お二人とも、亜里亜さまをみて、優しく微笑んでいらしゃいます。
「さぁ、外は寒いので中のほうへお入りください」
  と、私は邸への入場を促し、歩みかけたところでした、
「っ!」
  また、足元がふらつき、今度はそのまま倒れてしまいました。
  そして、そのまま意識が薄れていきました……。



  可憐たちは倒れたじいやさんを、他の使用人さんたちと一緒に邸内の部屋のベッドに運びました。
「疲労…による熱のようだね…」
「疲労ですか?」
  千影ちゃんが、大体のじいやさんの様態を教えてくれました。
  いつものお仕事に加えて、亜里亜ちゃんのお誕生日会の準備で疲れがたまっていたのでしょう。
「じいや…」
  亜里亜ちゃんがとても心配そうな顔をしています。
  今にも泣き出してしまいそうです…。
「大丈夫だよ…亜里亜ちゃん…」
  千影ちゃんは優しく亜里亜ちゃんに言いました。
「じいやさんは…少し疲れて休んでいるだけだよ…」
「……」
「それより…」
「え?」
「少し…やっておくことがあるよ…」

「やっておくことですか?」
  やっておくこと…?
  可憐は色々考えてみましたが…わかりません…。
「あの…なんですか?」
「…じいやさんが起きたときに…栄養価の高く食べやすいものを…用意しておいたほうがいいだろう」
「あっ…でも、それは他の使用人がもう作ってくれてるんじゃ…」
「ふむ…しかし私の考える薬草がどこにもないのだよ…」
「えっと…何の薬草?」
「フフ…」
  な、なんでしょう…その不敵な笑みは…。
  でも…たしかに、食べやすいものは作っておいたほうがいいと思います。
  ただ、千影ちゃんの言う薬草にこだわらなければ、すぐに用意できると思うのですが…。
  と、さっきから黙っていた亜里亜ちゃんが尋ねてきました。
「…やくそう?」
「ああ…じいやさんの体にとてもいい草のことだよ…」
「草…」
  ふと、草という言葉で思い出しました。
「そういえば…ここのどこかに薬園ってなかったかな?」
「薬園…いいね、それは…」
「千影ちゃん…じいやさんの薬草を探すんだよね…?」
  さっきから不敵な笑みを浮かべ続けている千影ちゃんに不安を感じつつも、
  薬園のある位置を聞くことにしました。



  可憐たちは、薬園のある場所を聞き、薬園の前まで来ました。
  鬱葱と生い茂る草木……これが全部薬草なんでしょうか?
「フム…これは…」
「ありますか?」
「…あるとは思うが……気をつけなければ…いけないよ…」
「どういうことですか?」
「私が喜ぶものがある……ということさ…」
  とりあえず、危険、ということですね…。
「……」
  亜里亜ちゃん…さっきからずっと黙ったままですね……。
「亜里亜ちゃん」
「…?」
「頑張って探そうね?」
「うん…」
  早く探してじいやさんに元気になってもらわないと…。

「えっと…これですか?」
「いや…違うね…」
「これぇ?」
「いや…それは私が預かっておこう…」
「千影ちゃん…」
「おや…これは…」
「ありましたか?」
「フフ…」
「…真面目に探してます?」
「これぇ?」
「それは…遠慮しとくよ…」
「え、遠慮…?」

  ここに来てから、30分くらい経ちました。
  一向に見つかる気配がありません…。
  それより、どんな薬草なのかわからないのですけど…。
  亜里亜ちゃんもかなり不安そうな顔をしていま……あれ?
「千影ちゃん、亜里亜ちゃんはどこですか?」
「…いないのかい?」
「はい」
「それはまずいね…ここは色々と…危険だからね…」
「えっ!?」
  た、大変です!
  こんな場所で亜里亜ちゃんを見失ってしまっては、見つけることは難しいです…。
  もう見失っているのですが…。
「亜里亜ちゃーーん!!」
  大声で亜里亜ちゃんの名前を呼んでみますが、返事がありません…。
「いや……よく耳を澄ませてみるといい…」
「えっ?」
  あっ…!? かすかに何か聞こえます…?
  亜里亜ちゃん…の声?
「こっち…だね」
  可憐と千影ちゃんは声のするほうへ行きました。

「あっ…」
「これは…」
  まるできちんと区画されているかのように円状に木に囲まれていて、
  見たことのない背の低い草の中心に亜里亜ちゃんはいました。
「あっ…千影ちゃん…これなの?」
「そうだね…目的のものではないけど…これでもいいかもしれないね…」
  かも、というのが気になりますが…とりあえず亜里亜ちゃんが見つかってよかった…。
  これでじいやさんに元気になってもらえますね…。



「ん…」
  ここは…? 布団?
  なぜ私はこんなところにいるのでしょうか…?
  確か先程まで庭のほうに…
「あっ…」
  何か腰のあたりに少し重みを感じていましたが、
  そこには亜里亜さまが小さな寝息をたてていました。
  亜里亜さまは、なぜか体中汚れています。
  服はところどころ破れてしまっているところもあるようです。
「あっ…気がつきましたか…?」
「はい…。あの、これは一体?」
「働きすぎ…疲労によって倒れてしまったのだよ」
「私が…」
  私としたことが、自分の健康管理を怠ってしまうとは…。
「はい、じいやさん」
「これは?」
  可憐さまが湯気の立つ器を渡してくれました。
  これは…お粥ですね。
「亜里亜ちゃんが作ったんですよ」
「亜里亜さまが…?」
「ああ…どうしても自分が作ると言ってね…」
「可憐たちも手伝ったのですけど…」
「…ん…まぁ亜里亜ちゃんが作ったのには変わりないよ…」
  私は亜里亜さまがお作りになったというお粥を一口食べました。
  …甘い。
  思ったとおり、とても甘いです…。
  でも…
「とても…おいしいです」

「そうですか…それはご心配をかけてしまいましたね…」
  わたしは可憐さまと千影さまからこれまでのことを説明して頂きました。
  そして、私は少し間違っていたようです。
  まだまだ子供だと思っていましたが…、
  いつの間にか亜里亜さまはこんなにご立派になっていたのですね…。
  今日一日、一度も泣かなかったようですし…。
  可愛らしい寝息をたてている亜里亜さまをみていると、自然と笑みがこぼれます。
「ん…?」
「あっ…」
  亜里亜さまが起きられたようです。
「…じいや?」
「おはようございます、亜里亜さま」
「……なんでじいやがいるのぉ?」
「「「え?」」」
「?」



「はぁ〜…そんなことがあったデスか」
「はい、ビックリしました。あのじいやさんが倒れちゃうなんて」
  可憐と千影ちゃんは後から来た皆に、今日起こったことを皆に説明しました。
「亜里亜ちゃんは全く覚えてないんですの?」
「…おそらく…ずっと気を張っていたからね…。じいやさんが助かったことで…一気に気が抜けて…全部…忘れてしまったのではない…かな…」
「そういうものですの?」
「…そういうもの…さ」
「でも…」

「はいじいや、あ〜ん」
「あ、亜里亜さま…」

「とても仲がよさそうデスね」
  料理を食べさせてあげようとする亜里亜ちゃんと、
  少し恥ずかしそうにするじいやさんをみて、四葉ちゃんが言いました。
「そうですね」
  その仲むつまじい二人を見て、皆、自然と笑みを浮かべていました。









あとがき

どうも啓-kei-です。
突然ですが、自分で書いてて寂しくなりました…。
亜里亜…君はそのままでいて…。

ほのぼのを目指しました。
…が、申し訳ありません! 亜里亜の性格とかがうろ覚えになってます…。
いあ、まぁ…全員そういう感じなのが現状ですが…。

しかし…視点が、じいや−可憐−じいや−可憐…と読みにくくなっていますな…。
しかも登場する妹がいつもと変わらない…。

各々のキャラの性格やあれこれ変わる視点にツッコミどころ満載ですが、厳格な感想・批判があれば何でもいいので送っていただければ嬉しい限りです。


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