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  今日、5月16日は春歌ちゃんの誕生日。
  いつも思うけど、見事に私達姉妹の誕生日はバラバラなのよね。
  つまり私の誕生日以外は毎月出費があるのよね…。
  更に毎月皆のプレゼントで悩むしね…。
  でも……私はそんないつものイベントに慣れちゃってたのかもしれない…。
  そう…最近の私は……。


咲耶の憂鬱 A-part

作者:啓-kei-さん

「え? お誕生日プレゼントですか?」
「そう。あっ、いらないってのは無しよ。私も春歌ちゃんにプレゼント、貰ってるからね」
「う〜ん…でも本当に咲耶ちゃんにあんなもので喜んでもらえたのでしょうか?」
「あんなものだなんて…ちゃんと着てるわよ、あの服」
「そ、そうですか…」
  私は春歌ちゃんと一緒にだんだん暖かくなってきた、というか暑くかな?
  そんな陽気なお天気の中を歩いていた。
  私の唐突な質問に春歌ちゃんは明らかに困ってた。
  そう…最近私は事前に皆に何が欲しいかを聞くようになっていた。
  だって、結局は二度手間になっちゃうかもしれないでしょ?
  でも、よく四葉ちゃんと被っちゃうのよね…。
  四葉ちゃんは意外とお兄様以外の姉妹のことも見てるのよね。
「そうですね…なら、新しい御香がよいでしょうか…」
「御香ぅ? 春歌ちゃんらしいといえばらしいけど…。ま、春歌ちゃんがいいなら構わないか…」
  春歌ちゃん…に限らないけど、春歌ちゃんって元がいいからもっとお洒落してもいいと思うのにな…。
  というより、御香ってベティーズに売ってたかしら?
  春歌ちゃんに聞いてみようかしら…。
「ねぇ、春歌ちゃ……あっ!? 危ない!!?」
「っ!?」
  春歌ちゃんのほうに向き直したときだった。
  私の目にボールを追いかけて車に気付かず道路に駆け出そうとしている子供の姿が映った…!!
  でも、距離があるから間に合わない!!?
  そんな危機的状況の中で私はさっきまで横にいたはずの春歌ちゃんの気配がしなくなっていた事に気付いた。
「は、春歌ちゃんっ!?」
  一体どこに…?
  ま、まさか!?

 ききぃぃぃーーーーーー!!!!

 どんっ!!!

  私がまさかと思い、子供のほうを見たとき……
  歪で不快なブレーキ音の後に大きな何かがぶつかる音が響いた。
  そしてそこからの私の目はスローモーションで、春歌ちゃんが腕に子供抱えたまま飛んでいる姿が……。



「は、春歌ちゃんの様態は?」
  事故のことを聞いて慌ててきたんだろう…可憐ちゃんの綺麗な長い髪は全然まとまりがなかった。
  それにさっきから大きく肩で息をしてるわ…。
「取りあえず落ち着いて、可憐ちゃん。大丈夫だから。春歌ちゃんがちゃんと受身を取ってて、それに当たった場所も悪くなかったみたい…。数ヶ所の打撲ですんだみたい」
「よ、よかった……。あ、それで助けた子は…?」
  さすが可憐ちゃん、他人のことになると取り乱してるようで意外に冴えてるのよね。
  自分はこんなに息を切らしてるのに、春歌ちゃんやあの子のことを心配してるなんてね…。
「春歌ちゃんがしっかり守ったようね。傷の一つもなかったわ。あの子のお母さんも今度お礼に来るって」
「そ、そうですか…。あの…春歌ちゃんに会っても大丈夫ですか?」
「ええ。会ってあげて」
「はい」
  まったく…。少しは息を整えなさいって…。
  本当に優しい子なんだから……。
  ………私はどうだろう?
  今回たまたま春歌ちゃんが目の前で事故にあったからココにいるけど、
  私が可憐ちゃんの立場だったら、あんなになってまでココに来ただろうか?
  ……御香。そうだ…御香を買ってこよう。
  春歌ちゃんのため? 自分のため?
  わからない。でも…春歌ちゃんが欲しいと言ったから…。



「それでベティーズに行くつもりかい…?」
「千影ちゃん…」
  病院の入り口に千影ちゃんがいた。
  そして全てを見透かしたように私の考えの的を射ていた。
  そこまでわかるんなら、私の…私の心の悩みも代わりに解いてよ…。
「春歌ちゃんが御香が欲しいって言ってたから…」
「……わかっているのだろう? それで春歌ちゃんが喜ぶはずがない…と」
「…まるで私の全てがわかってるって感じね。なら、次に私は何をしたらいいの?」
「……………」
  何でそこで黙るのよ…。
  私の質問に答えてよ…。
  何でそんな目で見てるの…。
  …………行こう。
  私は千影ちゃんの横を通り過ぎて、ベティーズへ向かった。



「あれ? 咲耶ちゃんだ。すっごい偶然だね」
「鈴凛ちゃん…。こんなところで何をしてるの?」
  ベティーズの入り口前まで来たときに、私は鈴凛ちゃんの姿を見かけた。
「ふっふ〜、実は今日ね、新しいパソコンのパーツが発売されるのよねぇ」
「ってことは、春歌ちゃんのことは聞いてないの?」
「春歌ちゃん?」
  私は春歌ちゃんの事故のことを鈴凛ちゃんに話した。
  最初は聞きながらもパソコンのことを考えているような様子だった鈴凛ちゃんだけど、
  私の話を聞いてるうちにだんだんと表情が強張っていくのがわかった。
  最後のほうは顔が真っ青になり、薄っすらと汗がにじんでいた。
「そ、それで春歌ちゃんは!?」
「今は病院で安静にしてるわ。打撲だけですんだから…」
「わ、わかった。パソコンなんて後でいいや! 今すぐ春歌ちゃんのところに行かなきゃ…」
  やっぱり…。
  そうよね、当たり前よね…。
  多分私も慌てて春歌ちゃんのところに行くかもしれない…。
  けど……私の心はその時どこにあるんだろう?
  いつも冷静な自分が、こういうときは憎い…。
「それで、咲耶ちゃんは何でココに…?」
「え? 私? 私は春歌ちゃんに落ち着いてもらおうと思って御香を買いに…」
「あっ、そうか。さすが咲耶ちゃん。私そこまで考えてなかった…」
「う、ううん。私はもう春歌ちゃんに会ってるから…。鈴凛ちゃんは早く春歌ちゃんに会いに行ってあげて」
「うん。ありがとう!」
  そう言って私達は別れた。
  ……なんだろう…。
  さっきから私…皆の言葉の中に私自信の答えを探してる…。
  それは卑怯だってわかってても……私は……。



「え!? 春歌ちゃんが!?」
  ベティーズの中にはまた見慣れた人がいた。
  白雪ちゃんだ。
  私は白雪ちゃんに春歌ちゃんの事故のことを話した。
  白雪ちゃんも同じように驚いて、持っていた売り物の調理器具を落としかけた。
「たたた大変ですの!! 早くお見舞いに行かないとダメなんですの!!」
「お、落ち着いて白雪ちゃん…。怪我は大した事なかったから…」
「そそそうなんですの? で、でも……そうですの! 今日学校の調理実習で作ったクッキーがあるんですの! これをお見舞い用の袋に包んで持っていけばとりあえずお見舞いの品になるんですの!!」
「と、とりあえず早く行ってあげて」
「はいですの!」
  慌てた様子で本当に袋を売ってるコーナーに向かおうとする白雪ちゃん。
  でも行きかけてすぐにこっちに振り返って…。
「さ、咲耶ちゃんはっ?」
「私は春歌ちゃんのために御香を…」
「それなら姫が一緒に買っていくんですの」
「え?」
「咲耶ちゃんは春歌ちゃんのそばにいてあげてほしいんですの」
「え……なんで?」
「それは簡単ですのよ。咲耶ちゃんがいるだけで落ち着くから、ですの!」
「え?」
  白雪ちゃんはよくわからないことを言ってから本当に行ってしまった。
  落ち着くから…?
  私がいると…?
  まさか、何を言ってるのかしら白雪ちゃん。
  からかわないでよ…。



  私は白雪ちゃんが御香を買って来てくれるそうだから、言われたとおりに病院へ帰ることにした。
  その途中で通りかかった公園で遊んでいる雛子ちゃんを見つけた。
  砂場で小さなお城を作ってる…。
  雛子ちゃんに……話しても大丈夫なのかな…?
  ……ううん。ちゃんと話さないとダメよね。
「雛子ちゃん…」
「あっ、咲耶ちゃんだ! ねぇ咲耶ちゃんも一緒にお城つくろうよっ!!」
「ごめんね雛子ちゃん、お城はまた今度ね。実はね…」
  私は同じように雛子ちゃんに春歌ちゃんのことを話した。
  ちゃんと無事なことを強調して。
  …あまりヘタに話すと、雛子ちゃんも優しい子だから、泣いちゃうかもしれないから…。
  と、やっぱり、泣いちゃう一歩手前まできてる顔になってた。
  でも、泣かない。
  強いね…雛子ちゃん。
「ねぇ、咲耶ちゃん…ヒナ、春歌ちゃんのところに行きたい…」
「……うん」



  雛子ちゃんと一緒に病院まで帰ってきた。
  出来るだけ急いで春歌ちゃんの部屋まで連れて行ってあげようと思った。
  そこに衛ちゃんが春歌ちゃんの部屋のあるほうからやってきた。
「あっ、咲耶ちゃんに雛子ちゃん」
「衛ちゃんだ!」
「衛ちゃん、何か変わったことあった?」
「ううん。大丈夫だよ」
「そう…。なら悪いけど衛ちゃん…雛子ちゃんを春歌ちゃんの部屋に案内してもらえる?」
「うん、別に良いけど…。咲耶ちゃんは?」
「うん、私はちょっと…」
「?」
  私は衛ちゃんに雛子ちゃんを任せてその場を去った。
  私が向かった先は……



「どうかしたのかい?」
「………ねぇ…聞いてもいい?」
「…………」
  私は千影ちゃんのところに来ていた。
  何となく千影ちゃんは病室にいないような気がしてた。
  思った通り、千影ちゃんは待合室の端の席に座っていた。
「私って……千影ちゃんにとって…ううん、皆にとってどういう存在…?」
  私は今日一日で皆の言葉を聞いて少し考えるところがあった。
  皆の見てる私と、私の思ってる私…。
  皆の期待する私と、私の理想の私…。
  私には何が何だかわからなくなっていた…。
  私の存在って皆にとってどうなんだろう?
  それを聞けるのは……
  それに答えてくれそうなのは……
  千影ちゃんしかいない気がした。
  だから……
「答えて千影ちゃん…」
「…………そうだね…」
  千影ちゃんが口をゆっくりと開いた。
  私は次に千影ちゃんが何を言うのかわからなかったけど、胸の鼓動の高鳴りに気付いた。
「咲耶ちゃんは………咲耶ちゃんだね」
「………は?」
  何を言ってるのかしらこの子は?
  当たり前じゃない…私は私って…。
  私が聞きたいのはそういうことじゃなくて……。
「小さいときから…」
「え?」
「小さいときから皆のまとめ役……雛子ちゃんたちのいいお姉さん…皆の相談にも親身なって聞いてあげる……。そんな咲耶ちゃんは皆が信頼出来る掛け替えのない存在…。咲耶ちゃんが自分に何を求めてるのかわからない……でも…皆はどんな咲耶ちゃんでも…きっと大好きになると思うよ」
「……………」
  な、なんだ…ちゃんと答えてくれるんじゃない…。
  ならもっと早く答えてくれても……。
「……という答えで満足かい?」
「……え? どういうこと…?」
「咲耶ちゃんは自分がどういう存在なのか聞いてどうするつもりだったのか……そこまで考えていた?」
「それは……」
  考えてなかった……。
  私は自分の皆にとっての存在を知ってどうするつもりだったのかしら…?
「他人から自分がどういう役割を果たしてるなんて聞くのは簡単だ…。でも…それで自分を変えられるわけでも…他人をもっと深く知ることが出来る……そんなわけないだろう?」
「………確かにその通りだわ。でも……でも私は…最近、皆と上手くいってるのか不安で…」
「それで……嫌われたくないから…事前に本人に誕生日に何が欲しいか聞くのかい?」
「……だって…欲しいものを上げるのは基本じゃないの…?」
「………例えば…、咲耶ちゃんは私や春歌ちゃんや皆から何が欲しいか聞かれて…答えて…それで欲しいものを手にいれて……満足する?」
「え…そ、それは……」
「四葉ちゃんのアレは一種の特技だからね……それはそれで彼女の個性が出ていていいと思わないかい?」
  個性…。
  確かに私は……大きな間違いをしてたのかも…。
  私のプレゼント……私の存在……私の望む本当の私…。
  本当の私は皆から指示を受けないと動けないような私じゃない…。
「千影ちゃん……私…ちょっと今からベティーズに行ってくるわ!」
「ああ…行ってらっしゃい…」



「はぁはぁ…」
  こんなに汗かいたのって久しぶりかも…。
  取りあえず、落ち着いて…深呼吸でも…。
「すぅ〜……はぁ〜……よしっ!」
  息を整えた私は意を決して春歌ちゃんの病室の戸に手を掛けて……開けた。
  中には可憐ちゃんたちが春歌ちゃんの無事を喜び、そして誕生日プレゼントをそれぞれが渡していた。
  そして突然の私の登場に少し驚いてる……みたいね…。
「なんで咲耶ちゃんが姫より遅れるんですの?」
「凄い汗…咲耶ちゃんどこかに行ってたのですか?」
  あぁ…まるほどね。
  皆が驚いたのは突然の登場…のほうじゃなかったようね。
  ………まぁ、当たり前か…。
  そんなことより……。
  私は一直線にベッドの上の春歌ちゃんの側まで歩いていった。
  そして私はずっと大事に胸に抱えていた小包をおもむろに春歌ちゃんの目の前に突き出した。
  春歌ちゃんは当然目を丸くして驚いている。
  ここまでは予定通り。
「さ、咲耶ちゃん?」
「誕生日プレゼント」
「え…? あ…ありがとうございます…」
「開けてみて」
「は、はい」
  ちょっと強引だけど、春歌ちゃんに小包を開けさせる。
  今しかない…。皆がいる今が絶好のチャンス…。
  そう……
  新生咲耶を皆に見せるのは、ね。
「……服?」
  意外なプレゼントに声も出ないようね。
  まぁ、自分から欲しいものを聞いておきながら別のプレゼントなんて普通はありえないわね。
  しかも御香とは全く関連性のなさそうなもの。
  さて、新生咲耶はこれだけじゃないわよ…。
「春歌ちゃんは元がいいからもっとお洒落してもいいと思うの。真のやまとなでしこになるにはお洒落も欠かせないのよ。そこで私が春歌ちゃんに合うと思う服をコーディネートしてあげることにしたの。これはプレゼントのほんの一部にすぎないのよ。怪我が治ったら春歌ちゃんを素敵なやまとなでしこにしてあげるんだから、覚悟しといてよね」
「……………」
「「「……………」」」
  ……あら?
  ちょっと調子に乗りすぎたかしら…。
  そんな、春歌ちゃん以外の皆まで黙らなくても…。
「……咲耶ちゃん」
「ん? 何、春歌ちゃん?」
「ありがとうございます」
「ぁ……」
  忘れてた…。
  これよ……私が求めてたものは…。
  こんな単純なことを忘れるなんて……。
  新生咲耶というよりも、もとに戻った…ってほうが正しいかもね。
  だって…こんなに綺麗で嬉しそうな春歌ちゃんの笑顔……久しぶりに見た気がするわ…。
  はぁ〜…こんな素敵なことが毎月あるのに慣れちゃうなんて……なんて贅沢なことしてたのかしら私…。
  ううん。
  これからはもっと贅沢させてもらうわよ。
  絶対に毎月皆を笑顔にして……
  その笑顔を一人占めにしちゃうんだから!


  そして、後に気付いたことがあるの。
  それは、
  皆の素敵な笑顔を見ると……
  私もいい顔、素敵な笑顔をすることが出来るってこと!







あとがき

どうも啓−kei−です。
突然ですが、BDSSのSSです。
実は最初は春歌のBDSSのつもりで書いたのですが、春歌がいない!?
全然出番がありませんでした。
まぁ…最初は春歌と咲耶の位置が真逆だったのですが…。それだと話が作り難かったもので…。

さて、上記の通り作り難かった……典型的なダメタイプな気もします…。
各々のキャラを自由自在に操れるようにならないと、上手なSSは書けませんよね。
各々のキャラの性格が曖昧だとこうなるのですね…。まぁ、そんなの関係無しに勢いだけで書いてるだけですからね。
今までの作品がそうだっただけに直すのは難しいのか…!?
まぁ、僕の持ち味ということで…。

各々のキャラの性格にツッコミどころ満載ですが、感想・批判があれば何でもいいので送っていただければ嬉しい限りです。


啓-kei-さんへの感想はこのアドレスへ
fairytale@mx91.tiki.ne.jp

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