冬の寒さが徐々に揺るぎ始める2月の終わり頃、
白雪と雛子は枯れ葉のつもった道を歩いていた。
寒さが揺るぎ始めたとはいえ、まだ寒いということに関しては変わりないので、
白雪と雛子はしっかりと手をつないで歩いていた。
「ねぇねぇ白雪ちゃん…」
「なんですの?」
雛子は空いてる手をお腹に当てて白雪を上目づかいでみた。
「雛…ちょっとだけお腹すいちゃった」
「う〜ん…お家まで我慢できませんの?」
「雛…もうペコペコだよぉ」
「そうなんですの…? それじゃ、仕方ないから……亜里亜ちゃんを呼ぶんですの」
「あり? なんで?」
「あそこのカフェにじいやさんがいるからですの」
白雪の指差した先のカフェの中の奥のほうにじいやが立っていた。
そのじいやはなぜか申し訳なさそうにしている。
「あっ、ホントだ! でも…亜里亜ちゃんがいないよ?」
「そう言われてみれば…そうですの」
「行ってみようよ白雪ちゃん!」
「う〜ん…いいのかなぁ?」
雛子に腕を引っ張られながら白雪は、
学校帰りに、さらに雛子を寄り道させていいのか悩んでいた。
「こんにちは!」
「これは、雛子さまに白雪さまではないですか。お二人ともお元気そうでなによりです」
「じいやさんこんにちはですの。…あの、こんな奥で何をしてるんですの?」
「あぁ……それは…」
「なんか甘い匂いがするよ?」
「甘い匂い…ですの?」
「はい……」
ずっと肩を落としているじいやを尻目に、二人がキッチンの中を覗いてみると…
中では慌しくキッチンを駆け回るパティシエ…というより店員総動員である。
覗いている二人に目をくれることもなく働いている。
呆然と様子を見る白雪に目を輝かせる雛子、
そして今にも泣いてしまうのではないか思うほど赤面しているじいや…。
雛子が目を輝かしている理由は目の前の食べ物にあった。
「わぁ〜! 大きいよ、白雪ちゃん!!」
「これは……パフェ、ですの…? しかも…」
必死に店員が作っているもの、それは、
ここにいる誰の背よりも高くて大きな巨大パフェだった。
「…なんでこんなに大きいんですの?」
「はい……」
「じいやさんがここにいるということは……もしかして…」
「はい…実は亜里亜さまが…」
じいやがチラッとあるボックス席を見た。
つられて白雪もその視線の先を追って見ると、
そこには笑顔で足を揺らしながら席に座っている亜里亜の姿が…。
二人が亜里亜のほうを見ていることに、雛子は少し遅れて気が付いた。
「あーーっ! 亜里亜ちゃんだよ!!」
雛子は走って亜里亜のところへ行った。
「あっ、走っちゃダメですの雛子ちゃん…」
「実は…」
「え?」
いつの間にかまた沈んでいたじいやが、今までの経緯を話し始めた。
「実は、亜里亜さまが甘いものを食べたいと言いまして…。どうしても駄々をこねるので、それで、このお店に…」
「それで…なんでこんなに……大きいんですの?」
「それは…亜里亜さまが駄々をこねまして…」
「…どんな駄々ですの……」
「はい……」
このままではじいやさんが恥ずかしさと申し訳なささで倒れてしまうのではと白雪は思った。
しかし、白雪には疑問があった。
「こんなに…食べられるんですの?」
「……おそらく…無理だと…」
「ですよね…」
そして…
目の前に置かれた巨大なパフェに言葉を失う二人に、
楽しそうに目を輝かせる二人。
「大きいですねぇ…」
「はい…すいません…」
「わぁ、凄いよ、これ全部雛たちのなの?」
「じいやぁ、もう食べてもいいのぉ?」
「ど、どうぞ…」
「わぁい」
申し訳なさそうにそしてどこか諦めたようにしていたり、
もはやただただ驚くしかなかったり、
どこから食べようか迷っていたり、
とりあえず早く食べたかったり…
各々、色んな種の悩み(?)がある。
その後ろで、総動員された店員達は疲れ果てている。
そのよろよろした感じで、新しく来た客に対応している。
そんな店員の疲れようを、入ってきた客は巨大なパフェをみた驚愕でなんとなく理解する。
そんな接客の様子をみて、またじいやは肩を落とすのであった。
そして…
当然のようにほとんど余るパフェ。
満足そうな亜里亜と雛子に対し、
色んな意味で潰れてしまったじいや、
(と、いうか…これどうするんですの…?)
まさか、これを持ち帰るわけにはいかないだろう、
かといって、ここに放置しておくわけにもいかない。
疲れの回復してきた店員達も、明らかにこっちを見ている。
(姫だけじゃ…食べられないですの…。でも…雛子ちゃんと亜里亜ちゃんは……もう今日は食べそうにないんですの…)
今日は…というのは、明日になったらまた食べたいと言い始めるだろうと思うからである。
早めに打開策を考えないと、じいやが再起不能になると考えた白雪は一人考え続ける。
ふと、他の席を見ると、各々の席の子供はパフェのボリュームに目を輝かせている。
「そうですの…!!」
「………?」
「どしたの、白雪ちゃん?」
「このパフェですけど…」
白雪の打開策は、
この巨大パフェを冷凍保存し、もう一度販売するというものである。
かといって、店としては新鮮な料理を提供しなければならない。
だから、収入は店側でもいいので、パフェに関しては亜里亜側が全面的にバックアップすると言うものだ。
もちろん、問題が起こった場合の責任も全てこちらが負う。
店側はこれでも、やはり、渋っていたが、死にそうなじいやをみて渋々了解した。
裏金も動いていたとかいないとか…。
「もう私がパフェを見たくありません…」
「はは……(お気の毒ですの…)」
白雪は、今日一度も落ち込んでいない姿を見ていないじいやを少し同情した。
そんな二人をよそに楽しそうに会話をしている雛子と亜里亜。
白雪も、まさかここまで帰りが遅くなるとは思っていなかったので、
雛子の家への連絡をするのを忘れていたことに焦りを感じていた。
「じいやぁ」
突然、雛子と話をしていた亜里亜がじいやを呼んだ。
疲れきった顔で、亜里亜を見るじいや。
対照的に満面な笑みを浮かべる亜里亜に、じいやと白雪は嫌な予感がした。
「亜里亜……ケーキが食べたいのぉ…」
「雛も雛も!!」
二人の無垢な天使の笑顔に、
天使のような悪魔、という言葉が浮かんだ白雪であった。
「そういえば…にいやさまの御卒業の日が近づいてきましたね」
「あっ! そうでしたの、そろそろにいさまのために料理の仕込をしないとダメなんですの!!」
「じいやぁ」
「なんでしょうか、亜里亜さま?」
「にいやの卒業式は……」
あとがき
どうも啓−kei−です。
突然ですが、「お前どれだけこのシリーズのSS書けば気がすむねん!」ってツッコミは受け付けておりません(死)
ピピピ電波が僕におとずれたのです。
え〜本作は『卒業〜私達の明日へ〜』『卒業〜やまとなでしこ奮闘中〜』『卒業〜1+2=?〜』の裏にあるストーリーです。
ケーキやパフェがそんなに品質を保持できるのか…しりません(死2)
SSですから、流してください。
各々のキャラの性格や作者の感性にツッコミどころ満載ですが、感想・批判があれば上記のツッコミ以外であれば何でもいいので送っていただければ嬉しい限りです。
啓-kei-さんへの感想はこのアドレスへ
fairytale@mx91.tiki.ne.jp
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