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  冬の寒さが徐々に揺るぎ始める3月の初め頃、
  鈴凛と衛は枯れ葉のつもった道を歩いていた。
「今日ってさ…何か特別なイベントとかあったかな?」
「ん〜、私は知らないよ。資金援助してくれるイベントならアニキのフラグを立てれば起こるだろうけど」
「は、フラグ…? ま、まぁ…ボクら以外誰もいないから、ちょっと気になってただけなんだけど…」
「あぁ、つまり私たちはあぶれたってことだよ」
「一体、何からだよ…」
「違うよ、まもタン、そこは泣くところだよ」
「何で泣かなきゃダメなんだよ…それにタンって…」
「今日はテンション低いねまもタン」
「鈴凛ちゃんのテンションがよくわからないんだよ…」
「実は昨日徹夜で某ギャルゲーを……」
「ちょっと待って!! それはダメなんじゃ…」
「何が?」
「いや、何がって…ほら設定上とかメ○ィアワークス以外のものだと何かと問題が…」
「大丈夫、私たちそこからあぶれてるから」
「………ここが泣くところじゃない…?」
「ああ、なるほど」


卒業 〜1+2=?〜

作者:啓-kei-さん


「さて、と…それで何で今日は朝一緒に学校に行こうと可憐ちゃんに始まり可憐ちゃんに終わるまで誘いに行ったのに誰もいなかったわけ?」
「一人しか訪ねてないじゃん!」
「おっ、徐々にツッコミまもタン復活?」
「意味がわからないよっ!!」
  そんなやり取りをしながら学校に向かっていると、
  しかし、その道の先の途中のところどころに何か変な物体が多く落ちていた。
「何これ? …って人じゃん!?」
  衛がそれを覗き込むとその物体は人間だった。
  しかも漫画の雑魚キャラのような倒れ方をしている。
  倒れている人の共通点、それは……皆、見た目が不良っぽい人たちだ。
「な、何があったのかな…? なにかの抗争でもあったのかな…?」
「これは…!?」
「何かわかったの、鈴凛ちゃん!?」
「あれを見て衛ちゃん!!」
「!?」
  鈴凛が物凄い剣幕で指を指したので、
  衛は何がそこにあるのか、覚悟して見た。
「昨日から一週間あのお店のパフェが安くなってるよ!!」
「そっちかいっ!!」
「さっそく寄らなきゃ!」
「通学中だよ!?」
「だってこのSSに帰りのシーンがあるかわからないじゃない」
「そんな作者事情いらないよ!!」
「今のうちに寄っておかないと、帰りには潰れてるかもしれないよ」
「そんな突然閉店しないよ!」
「別に閉店だなんて言ってないよ」
「え?」
「潰れるって言ったの」
「…………」
「さぁ、はいろうよ?」
「なぜだろう…ホントに潰れてそう…」


「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ちょっと待って!!」
「はい!? なんでしょうか、お客様…?」
「あ、いや鈴凛ちゃんのほうです…」
「私?」
「道端に倒れてた人たちはノータッチですか!? いきなり場面変わってるけど…!?」
  場面…今、衛と鈴凛は鈴凛の指差したカフェに入っていた。
  ちょうど女性店員が注文をとりにきたところだ。
  衛の必死の訴えに、鈴凛は淡々と答える。
「……まもタン。まもタンは道に落ちてるゴミを逐一気にするの?」
「え…? それなりに気にしてくずかごに捨ててるよ?」
  衛の本来なら普通の答えに言葉をつまらせる鈴凛。
「……………泥水は気にしないでしょ?」
「でもあれは人間…」
「あっ、私コーヒーで!」
「かしこまりました」
「なに頼んでんのさ!! しかもパフェと違うし!!」
「あれあれ〜、まもタン? 学校前なのにそんなもの食べる気だったのぉ?」
「君が言ったんだよっ!!」
「だれも食べるとは言ってないよ」
「じゃあ何でお店に入ったんだよ!!」
「だから徹夜だったから、眠気覚ましにコーヒーを飲もうと思ったんだよ」
「家で飲んでくればよかったのに…」
「いや、まもタンの顔見てたらだんだん眠たくなってきて…」
「それ一応失礼だよ!!」
「それで今日衛ちゃんを誘った理由なんだけど…」
「何で急にそんな深刻っぽいの!?」
  鈴凛は、ふぅ、と一息ついてから、
  神妙な面持ちで話し始めた。
「実は…今日はアニキの卒業式なんだって…」
「な!? 何でそんな大切なこと今まで言ってくれなかったのさ!! しかも今日イベント知らないって…」
「忘れてた、てへ(///)」
  舌を出し頭を少し傾げて謝る鈴凛。
「てへ、じゃないっ!!」
  衛の言葉に、今度は少し目に涙を浮かべながら、
「じ、実は…昨日色々忙しかったから、つい忘れちゃってたの!」
「ギャルゲーやってたんでしょ…」
「…………あぁ、まぁ簡単に言うとそうなんだけど」
「難しく言ってみてよ」
「まもタンのい・じ・わ・る(はぁと)」
「きしょいわっ!!」
  衛は衛の額を一指し指で、ちょん、とつつく鈴凛の腕を大げさに振り払った。
  が、鈴凛はそんな事は気にしていないようにコロコロと表情を変えて話す。
「で、そのギャルゲーのデータをメカ鈴凛に取り入れようとしたの」
「なんてことしてんだよっ!?」
「だってこういうのって、一気にクリアしたいじゃない? だからデータを入れとけばどこでもできるかなって…」
「そういうゲームは家の中だけでしてよ!!」
「それでデータを入れてたら、急に暴走し始めちゃって」
「え? メカ鈴凛ちゃんが? なんで…?」
「うん。うっかり著作権問題に引っかかっちゃって(笑)」
「笑い事じゃなーい!!」
「それでね、急に『メカ等ビーム』撃ちまくられちゃって…」
「漢字! 漢字がおかしいよ!? それだと何体メカがビーム撃ってるのさ!?」
「う〜ん…だいたい13体かな?」
「合ってたの!? …ん? 13って…?」
「確か…メカ鈴凛とメカ桜○姉妹とメカ○条姉妹とメカ白○姉妹とメカ○菊姉妹とメカ千○姉妹とメカ○衣姉妹で13人」
「それは別の世界のキャラじゃん!!」
「さっきはメディア○ークスがどうとか言ってたくせに…」
「う…でも13って言うから…」
「何? アニキも含んでる数字?」
「う、うん」
  少し照れる衛。
「あっそ。それでね、○草恋ちゃんがさぁ〜」
「話が攻略のほうにかわってるし、ボクの話に興味なし!?」
「まぁいいや。ごめんごめん、つい忘れてたよ」
「もうちょっと会話に一貫性をもってよ!!」
「あのぉ…お客さま…ご注文は…?」
「あっ、すいませんっ!! 忘れてました…」


「それで、アニキの卒業式なんだけど…どうする?」
  やはりコーヒーを頼み、そのコーヒーを一口ふくみながら、
  ミルクセーキを飲んでいる衛に鈴凛は尋ねた。
「もちろん行くよ!」
「学校は?」
「あっ……どうしよう…?」
  鈴凛に言われてから気付く。
  衛の学校ではもうじき定期考査試験が迫っている。
  この時期に学校を休むことはあまり芳しくない。
「だから私も悩んでたんだよ」
「そのわりには徹夜でゲームしてるじゃん…」
「それは一○薫子ちゃんのほうがアニキより大事だから」
「さっき千草○って言ってなかった?」
「…だって双子は皆ラブリー…」
「ねぇ…ネタの収拾がつかなくなるから、もうそっちの話はやめようよ…」
「ちぇ……。それで…どうするの?」
「う〜ん…」
「まぁ…どっちにしても、もう学校は遅刻決定だよ」
「え?」
  驚き、店内を見渡して時計を探したが、見当たらなかった。
  そんな衛の目の前に鈴凛が自分の腕時計をみせた。
「ほら」
「ホントだ…ってまさか鈴凛ちゃんワザと…」
「さぁ、何のこと?」
「……ふぅ…まったく」
  少しおどけた様に話す鈴凛に、衛は少し呆れながらも、
  自然と笑みがもれた。
「そうだね。それじゃ、アニキのとこに行こうか」
「うん。そうだね」



  兄の卒業式が行われる場所は、学校とは別の会場が設けられている。
  学校をサボった二人は今そこを目指していた。
「で……なんであにぃのいるところの道の至る所に人が…しかもちょっと悪そうな人が倒れまくってるの…?」
「さぁ? あ、そろそろ卒業式の会場だよ」
「興味無しですか…。少しはかまってあげようよ…」
「うわっ!? 見てまもタンっ!! 私たちがこれから歩む道の至る所に避けては通れない泥水共が当たり前のように汚く落ちてるわ!!? なぜこんな物が!? この障害を越えないとアニキと会えないぜ、という神の試練なのかしら…!?」
「……変わった興味の持ち方だね…」
「さ、こんなゴミは放っといて、さっさとアニキに会いにいこう」
「……なんか嫌な予感がしてきたんだけど…」
  徐々に増えていく倒れてる人の数に、衛は一抹の不安を感じ始めていた。


  鈴凛いわく、様々な障害を乗り越えて、二人は兄の学校にたどり着いた。
「やっと着いたね、アニキはどこかな?」
「う〜ん…誰かに聞いたほうがいいかな…?」
「なんで私ってこういうときにアニキ探知機持ってないんだろう…?」
「ホントだよ…いつも変なものは持ってるのに…」
「…いつも…何?」
  目を鋭く尖らせ、衛を睨みつける鈴凛。
  衛は思わず一歩後退った。
「えっ!? いや、どこかに人がいないかなぁって……あれ? あそこにいるのって春歌ちゃんたちじゃない?」
「ん〜? あ、ホントだ」
「皆も来てたんだね」
  鈴凛の圧力から逃れようと目をそらした先に、春歌と四葉と花穂がいた。
「お〜い、皆ぁ…?」
  衛は兄の卒業式が行われているところを聞こうと、
  春歌たちに走って近づこうとした。
  しかし、衛がある程度近づいたとき、何かありえないものが見えた。
  ありえないもの…というよりはありえない光景が。
「な、なんで皆の周りに色んな人たちが倒れてるの…?」
  春歌たちの周りには道で倒れていた人たちと同じ出で立ちの人たちが重なり合うように倒れていた。
「はぁはぁ…まもタン走るの早いよぉ、ただでさえインドア派な私にとっては、かるく光速を超えてたよ…」
「どれだけ動体視力が弱いんだよ…」
「星野○之の球が五十嵐亮○に感じるくらい」
「いや、なぜ野球ネタ…?」
「それよりも…気付いてた、まもタン?」
「へ? 何を?」
「泥水たちのことだよ。全部、キレイに急所にはいってた…あれはプロの技ね…そう、アー○スト・ホーストのような正確な蹴りで殺られてた…」
「鈴凛ちゃんの方がプロっぽいよ…」
「そして私たちの知り合いでこんなことができる人は…」
  衛は自分の知り合いで、そんな芸当ができる人物を考えてみた。
  すると、衛の検索に引っかかる人物が…
「まさか…」
「そう…ミ○コ・クロコップ!!」
「なんでやねんっ!!」
「おぉ!? まもタンが関西ツッコミ!?」
「いや、それは……じゃなくて、もしかして犯人は春歌ちゃん…!?」
「うわ、ひどっ!! 姉妹をそんな風に悪者扱いして」
「鈴凛ちゃんの話し方からそう考えたんだよっ!!」
「いやそこまでキレイに引っかかるとは…」
  鈴凛と衛がそんな会話をしていると、
  突然遠くから、まるでバッファローの大移動のような地響きがした。
  しかもその地響きはだんだん大きく、近づいてきているような気がした。
  実際にそれは近づいていた、ただし、バッファローではなく…
「テメェ、兄貴の敵討ちだコラ(怒)」
「オレ様の縄張りで好き勝手にやってんじゃねぇぞ(怒)」
  …と、どうやら道に倒れていた人たちの関係者のようだった。
  衛は誰に言ってるのかと慌てて辺りを見渡してみたが、
  やはり自分達と春歌たちしかおらず、関係者の皆さんもこちらに向かってきている。
「えええええぇぇぇ!!? こ、こっちに来てるよっ!?」
「みたいだね」
「みたいだねって、どうするの鈴凛ちゃん!」
「でも、微妙に私たちとは違うみたいだよ」
「え?」
  よく見ると、その数、その勢いに押されて錯覚してしまうが、
  関係者さんたちは衛たち…ではなく春歌たちのほうへ向かっている。
「…ってやっぱり犯人じゃんかっ!?」
「あぁ、やっぱり」
「ど、どうすんの?」
「…傍観」
「えぇ!?」
  衛の心配をよそに、関係者一同はあっという間に春歌たちを囲んでしまった。
  そして、一斉に飛び掛った。
  衛は思わず目を閉じた。
  が、目を閉じた衛に聞こえてきたのは…
「ぐはっ!?」
「ぐげっ!?」
「ひでぶっ!?」
  関係者共のやられ声だけだった。
  衛はおそるおそる目を開けてみた、するとそこには…
  次々と襲い掛かる関係者の群れを、勇猛果敢に次々と打ちのめしている花穂の姿が…!
「って花穂ちゃん!?」
「おぉ、花穂タン強いねぇ〜」
  乱戦の中、襲い掛かる相手の急所に見事に拳や蹴りをいれている。
  もともと力の弱い花穂は、相手の襲い掛かる勢いを利用してカウンターのごとく打撃を繰り出している。
  必要最小限の力で関係者の集まりを次々と倒していく。
  動きも軽やかで、相手の攻撃はかすりもしない。
「って、花穂ちゃんのことを説明してる文章だよね…?」
「次のエメリ○・エンコ・ヒョ○ドルの挑戦者は花穂ちゃんで決まりだね」
「なんでPRI○Eに参戦しちゃってるのさ!? って、そんなことどうでもいいよ! どうしちゃったの花穂ちゃん…!?」
「それはデスね」
「うわぁ!? よ、四葉ちゃん!?」
  輪の中心に春歌と花穂と一緒に立っていたはずの四葉がいつの間にか衛の背後に立っていた。
  しかも、まったくの無傷で。
「それより、どういうこと四葉ちゃんっ?」
「実はデスねぇ…昨日、春歌チャマと花穂チャマの三人で兄チャマと咲耶チャマと可憐チャマの危機について話し合ってたのデスが…」
「あにぃの…危機?」
「はい。兄チャマは何者からか脅しを受けていたのデス!」
「えぇ!? ウソッ!?」
「衛チャマ…これは揺ぎ無い事実なのデス」
「そんな…」
「それで兄チャマをお守りするために特訓をしたのデス!」
「特訓?」
「そうデス。その結果、花穂チャマは隠された自分の力に目覚めたのデス!!」
「か…隠された力ぁ?」
  四葉の力強い、しかし何か理解できない言葉に、
  思わず間抜けな返事をしていまう衛。
  そして、突然悔しそうな表情をする四葉。
「しかし、うっかり今日がその期限ということを忘れてました…。だから途中で特訓を切り上げて参上したのデス!」
「期限って…お金か何かを渡す期限のこと?」
「そうデス。咲耶チャマと可憐チャマがそう言ってました。……ただ、少し問題が…」
「え? なに問題って?」
「途中で訓練を切り上げてしまったせいで、花穂チャマは目覚めた力の制御ができないのデス」
「何その設定………って、それって今の花穂ちゃんは暴走してるってこと!?」
「平たく言えば」
「ど、どうするのさ!? ハッキリ言って、手当たりしだい見た目悪そうな人を倒してるのは問題あると思うよ…!」
  状況が状況だけに慌てる衛。
  そこに、今までホントに何もせず傍観していただけの鈴凛が、
「ふふふ…」
「鈴凛ちゃん?」
「ここは私の出番ね!!」
「何か花穂ちゃんを止める方法があるの?」
「私の電子辞書に不可能という文字は出ない!!」
「いや、それ単に壊れてるだけだから…」
「見よ! これが昨日徹夜して作った花穂ちゃん暴走時用メカ…」
「いや、ゲームしてたんでしょ…?」
「6組のメカ双子、その名も『ふたなり』!!」
「変な名前を大きな声で叫ぶなっ!!」
「大丈夫! CEROには引っかかってないから!!」
「そういう問題じゃなーいっ!!」
「よし! ふたなり部隊突撃ぃぃ!!」
  メカ双子たちは四方八方から花穂に飛び掛っていった。

 どご〜〜〜〜〜んっっ!!!

  メカ双子たちは次々と花穂の前に破壊、爆発していく。
「あれ…?」
「だ、ダメじゃんっ!」
「おっかしいなぁ?」
「そ、それよりちょっと気になってたんだけど…春歌ちゃんはどこに行ったの?」
  衛は花穂と一緒に戦っていた春歌の姿が見えないことに気がついた。
  四葉のように自分の背後にいるわけではなさそうだ。
「あぁ、春歌ちゃんならさっきの爆発で飛ばされたよ」
「何してんだよっ!!?」
「いやぁ、失敗失敗」
「全然反省してないし…」
「な、人聞きの悪い! よ〜し、汚名挽回だ、メカ鈴凛!!」
「挽回してどうするのっ!! ってか、どこからそんなにメカシリーズが出てきたんだよ!?」
「よし、メカ鈴凛! 『メカ等ビーム』だ!!」
「単体で!? いや、それよりビーム撃つこと自体に問題があるような…」

 ビーーーーーーーー…

「うわっショボイ効果音!?」
「ぐはぁぁぁぁっ!!?」
「か、花穂ちゃん!?」
  音はショボイがビームは結構な速さで性格に花穂に直撃した。
「よし命中!!」
「よし、じゃないよ!? なんか敵キャラがやられるときのような声出したよ花穂ちゃん!!?」
「急所ははずしたから大丈夫」
「ビームで!? しかもあんな声出したのに!?」
「それより、泥水共を倒しきる前に花穂ちゃんを撃っちゃったから、花穂ちゃんが危ないよ」
「な!? ど、どうすんのさ!!?」
「そこまで面倒見切れないよ、メカ鈴凛も今ので燃料切れだし」
「面倒って、君が撃ったんでしょ!!」
  突然、色んな機械が爆発し、ビームまで飛んできたことで、
  関係者の面々はしばしの間呆然としていた。
  そして、鈴凛たちを相手にするのは得策ではないと本能的に判断した。
  そして視線は今まで暴れていた花穂に集中する。
「これは……」
「四葉ちゃん?」
「このままいけば年齢制限がかかるシーンに…(わくわく)」
「なに期待してんだよっ!?」
「おぉ、そういえばそうだね」
「デスデス」
「ちょっ…」
「これは今後のために記録しとかないと」
「あとで四葉にも見せてください」
「おい…」
「よかった、こういうときのためにDVDカメラ持ってて」
「さすが鈴凛チャマ!」
「……………」

 ぷち

  わきあいあいとする二人は何かが切れる音を聞いた。
「ねぇ、四葉ちゃん」
「なんデスか?」
「さっきから、私の背後からただならぬ殺気を感じるんだけど」
「奇遇デスね、四葉もデス」
「「………………」」
「このぉ…いい加減にしろぉぉぉぉっっ!!!!」
「やばい、まもタンがキレた!?」
「た、退散デス!?」
「逃がすかぁぁぁっ!!!!!」



「………何があったの、これ?」
「さ、さぁ…?」
  テスト期間中であったため学校が早く終わり、
  兄の卒業を祝いに急いで駆けつけた咲耶と可憐は目の前に広がる光景に目を疑った。
  校舎は崩れかけ、グラウンドは荒れ、そこら中に人が倒れている。
「ここ…お兄様の卒業式の会場よね?」
「はい……そのはずです…」
「いったい何が……ってあそこに倒れてるのって花穂ちゃんじゃない!?」
「え!?」
  たくさん倒れた人の中にあって、
  なぜかその場所だけ円のように誰も倒れていない中心に花穂は横たわっていた。
  咲耶と可憐は慌てて花穂のもとへ駆け寄った。
「花穂ちゃん!! 大丈夫!?」
「花穂ちゃん!!」
  二人は必死に花穂の名前を呼んだ。
「ん…」
  するとわずかに花穂が声を漏らした。
「花穂ちゃん!?」
「…………さ…くやちゃん?」
「よかった気が付いたのね、花穂ちゃん!!」
「よかった…」
  ほっ、と安堵の息をつく二人。
  徐々に意識が戻っていく中で花穂は、辺りが酷いことになっていることに気が付いた。
「え……? な、何? ここどこ…!?」
  花穂は辺りを見渡してみた、が、なぜ自分がこんなところにいるのかわからない。
「ね、ねぇ咲耶ちゃん…ここ、どこ…?」
「えっと……多分…お兄様の卒業式の会場……のはず…」
  咲耶は辺りの光景から、自信なく答えた。
「………………」
「………………」
「………………」
  三人の間にしばしの沈黙。
  ただ、呆然とするしか出来ない状況で、
  咲耶は救いを求めるように周りを見渡してみた、
  すると…

 ぐうぅぅぅ〜…

「あっ(///)」
「え…?」
「今の…何の音ですか?」
  咲耶と可憐は音の発信源を見た。
  発信源……の花穂は顔を真っ赤にして俯いていた。
  咲耶と可憐は顔を見合わせ、少し考えてから…
「ぷっ」
「ふふふ」
「あっ、笑わないでよ…」
「ごめんごめん…それじゃとりあえず、ご飯でも食べに行きましょうか…?」
「この状況を放っておくのはどうかと思うんですけど…」
「…まぁ、見なかったと言うことで。こんなことになってるくらいだから…お兄様の卒業式も別の場所でやったんじゃない? …たぶん…」
「というか、別の場所でやってないと危ないような…」
「……………」
「……………」

 ぐうぅぅぅ〜…

「(///)」
「……………ねぇ花穂ちゃん?」
「は、はい…?」
「パフェとケーキ…どっちがいい?」
「え?」
「あっ、咲耶ちゃん! 可憐は昨日食べ損ねたミックスパフェDXが食べたいです」
「…………」

 ばしっ!!

「痛〜い…」
「あ、あの……でも花穂…今、ダイエット…」
「へ? 花穂ちゃんダイエットなんかしてるの!?」
「う、うん…」
「花穂ちゃん、可憐ちゃんを見なさい!」
  咲耶は可憐を指差した。
  指された本人は突然のことに驚き、目をぱちくりしている。
「可憐ちゃんを…?」
「可憐…ですか?」
「そう可憐ちゃんを、じ〜〜っと上から下へ見ていく………どう?」
  花穂は言われたとおりに上から下に見ていく。
  が、途中で止まる。
  お腹の辺りだ。
「…………なんか自信が出てきたよ」
「でしょ?」
「な、何でですか!?」
「花穂、ケーキ食べたい!」
「よし、それじゃ行きましょう」
「な、納得できませ〜ん!!」
  一人顔を真っ赤にして反論する可憐の背後から、
  呆れたような声が聞こえてきた。
「……君たち…よくこの状況でそんなに楽しげにいられるね…」
「「「千影ちゃん!?」」」
  呼ばれた千影は、かるく手を挙げて淡々と答える。
「やあ…」
「やあ、ってなんでこんなところに!?」
「……兄くんを祝いにきた君たちに会場変更の知らせを…ね」
「会場変更?」
「……ああ…実は一週間ほど前に突然変わっていたらしくてね…」
「え? そうなんですか? それじゃ、お兄ちゃんは…?」
「そうよ、そんな突然変更だなんて…」
「どこになったの、千影ちゃん?」
「………亜里亜ちゃんの用意した会場……だよ」
  想像していなかった答えが返ってきた。
  全員唖然としている。
「へ?」
「亜里亜ちゃんの…?」
「用意した会場ですって〜〜っ!!!?」
「…私も驚いたよ……急な会場変更に関わらず…結構保護者の皆さんは来ていたからね…」
「いや、それも驚きだけど……」
  何か言いたそうにしている咲耶を、
  千影はチラッと会場の外を見て遮る。
「…あそこに馬車が待ってるから…とりあえず詳しい話は中でしよう…」
「ホントだ…亜里亜ちゃんのところの馬車だ」
「あれに乗ればお兄ちゃんのところに行けるのですか?」
「ああ…そうだよ」
「あ、あの…千影ちゃん…」
  そっと花穂が手を挙げて千影に聞いた。
「ん? どうかしたのかい?」
「そこって…ケーキある?」
「………ああ…まぁ亜里亜ちゃん主催だからね…」
「それってどうなのよ…」

 ぐうぅぅぅ〜…

「「「……………」」」
「(///)」
「フッ…それでは早く行こうか…」
「うん!」
「仕方ないわね…まぁお兄様が無事なら私は文句ないんだけどね」
「パフェが無理なら、そのぶん頑張ります!」
「あんたは少し控えなさい…」
  四人は笑顔で少し足早に馬車に向かって行った。




  その後、残された衛たちは…
「はっ!? ここは…? ぼ、ボクなんでこんなところで寝てるの!?」
  なぜか荒れ果てたグラウンドの真ん中辺りで大の字で寝ていた衛。

  そして…

「いやぁ…最終的に私たちが敵役みたいな感じになっちゃったね〜」
「とりあえず…四葉はここから帰りたいデス…」
「あのぉ…わたくしはなぜここにいるのでしょうか?」
  衛の暴走によって飛ばされ、崩れかけた校舎のコンクリートの上に横たわり、
  さらに故障して自動索敵昨日の発動したメカ鈴凛の脅威に怯え動けないでいた。
「なんでそんな機能つけてるデスか…」
「いやぁ〜、実は一昨日やってたアニメに影響されて……」
「あのぉ…わたくしはなぜここにいるのですか……あっ」

 がたっ

「あ」
「へ?」
「マジデスか…」
  一人状況を理解できず、体を起こそうと手をついたところ、
  その置いた手のコンクリートが崩れ、音を立ててしまった。
  そして、その音をメカ鈴凛は逃さなかった。

 ウィィィ〜ン

『敵発見…攻撃開始』
「チェキ!?」
「あらら…」
「え? わたくし何か…?」

 ビーーーーーーーー…











あとがき

どうも啓−kei−です。
突然ですが、卒業すると今まで必死に勉強していた反動ですか、勉強なんてやる気が起こりません。
でも、今まで勉強していたせいか、やってないと不安になってきます。
僕だけでしょうか?

作風を微妙に変えてみたつもりです。
例えば…暴走花穂ちゃん・ヲタクで冷静沈着な鈴凛ちゃん・リミットブレイクまもタン…など、
あと、やたらめったら人を倒したり物壊したり…書いてて「大丈夫か、これ?」って不安になってました。
まぁ、色んなことに挑戦しないと…。

え〜本作は『卒業〜私達の明日へ〜』『卒業〜やまとなでしこ奮闘中〜』を読んでからでないと理解できないと思います。
読んでても、意味がわからないとも思いますが…。

各々のキャラの性格や作者の感性にツッコミどころ満載ですが、感想・批判があれば何でもいいので送っていただければ嬉しい限りです。


啓-kei-さんへの感想はこのアドレスへ
fairytale@mx91.tiki.ne.jp

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