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兄の鞠ヱな1日

作者:ATSさん


僕にはちょっと個性的な12人もの妹がいる。

今日は妹の一人である鞠絵のお見舞いのため療養所に行く日だ。

普段一緒にいられない分、兄としてはこういうときくらいは時間が許す限りそばにいて元気付けてやりたいのだ。

「あ、鞠絵ちゃんのお兄さんですね、おはようございます」

「おはようございます。すみません、今日の鞠絵の具合はどうでしょうか?」

「ええ、とりあえずは大丈夫よ。それに『明日は兄上様が来る♪』って昨日から楽しみにしてましたよ」

「そうですか、いつもありがとうございます」

鞠絵担当の看護婦さんの話では、今日は体調も良く面会も出きるみたいだ。

そして鞠絵の病室に着き、軽くノックをする。

「鞠絵?僕だけど入るよ?」

がちゃり、と音をたてながら病室に入る僕。

そのとき僕が鞠絵の病室で見たものは――


「フフフフフ、この密輸入したM16(高性能ライフル)なら兄上様を誑かす女狐を仕留め――」


ばたん、とドアを閉め、とりあえずフリーズ。

その間に思考回路(兄最高評議会)全開で作動させる。

「・・・・・・・・・・・・」

はっはっは、僕は何も見ていないよ。

そう、『黒光りするライフル銃の銃身を、手に馴染ませるように丁寧に磨く妹』なんて見ていない。

数十秒に及ぶフリーズから開放され、改めて鞠絵の病室に入る僕。

「おはよう鞠絵、今日の調子はどうだい?」

「おはようございます兄上様、今日はとても調子が良いようです♪」

さっきの光景が幻だったかのように笑顔で答えてくれる鞠絵。

このとても可愛い笑顔を見るためなら、他の妹の不興を買ってでもそばに居てやりたいとつくづく思う。

この笑顔の前では、枕の下からはみだしている『例のM16』なんかどうでもいいだろう。

・・・・・・いいのかよ?

「それじゃあ鞠絵、少し僕とお話でもしていようか」

「はい、兄上様♪」

それから十数分、僕たちはなんでもないような雑談を交わした。

本当になんでもない雑談だったが、ふと僕の友達に最近彼女ができて自慢している奴がいると話すと真剣な顔で尋ねてきた。

「あの、兄上様・・・」

「ん?なんだい鞠絵?」

「兄上様は・・・やはりお付き合いしている女性が・・・い、いるのでしょうか?」

「ははは、幸か不幸かまだ17年間、誰とも付き合った事はないんだよ」

「あ、あの、その、えと・・・わ、わたくしではダメでしょうか?」

そう答えると鞠絵の顔が見る見る朱くなっていく。

「ははは鞠絵、慰めてくれるのは嬉しいけど兄弟は結婚できないんだよ」

そう言うと鞠絵は信じられない物を見たような顔つきで固まっている。

「そ、そんなっ!!それじゃわたくしと兄上様のこれからの人生設計に狂いが生じてしまうわ!!!」

おい。

「ま、鞠絵?」

突然固まったかと思うと、いきなり叫びだした鞠絵は数秒ののちにやりと笑って喋りだした。

「やはりわたくしたちが結ばれるためにはこの腐りきった行政機構の改革を押し進めなければいけません!
各方面からの援助を基に強力な軍事組織を編成し、まずは中近東を攻め膨大な原油をこの手に収め軍事・政治両面から政府に圧力をかけ、少子化問題を口実に近親婚を憲法で認めさせ、しかるのちにわたくしと兄上様の2人だけのユートピアを必ず実現してみせる!!そのためにはまず世界中でこの計画の賛同者を集めひとつの組織にまとめあげ戦争に勝つために必要な非人道的な大量殺戮破壊兵器を世界中で量産し――」

鞠絵って、そっち系の人だったのかよ・・・

「なんつーか、もうこれ以上聴きたくねぇ・・・・・・」

「というわけで兄上様!とりあえず手始めにわたくしたちの愛にとって障害になると予想される11人の妹をぶっ殺しに行きましょう!!!」

どういうわけだよ!ていうか突っ込む所が多すぎてどこから突っ込めばいいのかわからねぇよ!!

「ま、鞠絵!とりあえず落ち着いて!」

「ふふふふふ、この射程距離が千mを越えるM16なら、誰にも気付かれることなくに確実に暗殺ができるわ!!!」

頼むから物騒な事はやめてくれ・・・

「誰かこのZEROシステムの暴走を止めてくれ・・・」

とそこへ僕の悲痛な願いが届いたかのようにドアが開き、救いの手が――

「わうっ!」

って、ミカエルかよ!よりにもよって犬畜生かよ!!しかも全然頼りねぇよ!!!

「ミカエル・・・貴方をこの壮大な計画における統帥本部総長兼統合作戦本部総参謀長に任命します」

「壮大な計画の割りに犬畜生が参謀かよ!!」

「サー、イエッサー!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「なぁミカエル、お前今人語を喋らなかったか?しかも軍隊口調じゃなかったか?」

「・・・わうっ?」

俺の目の前にはとぼけた表情で尻尾を振る畜生が約一匹。

「まずいな・・・幻聴が聞こえてきたのかな?」

現実から逃避するかのようにミカエルから視線を逸らす。

「ジーク!鞠絵!ハーイル!鞠絵!」

「ミカエルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」

「わうっ?」

ヤベェ、こいつすっとぼけてやがるが眼が怪しいほどまで光っていやがる。

そう、あえて効果音を付けるとしたら―――

『キュピーーン』

かなりダメぢゃん!

「大丈夫ですよ兄上様、兄上様は何もせずただ待って―――ごほっごほっ!!」

「ま、鞠絵、大丈夫か!?(むしろ咳より頭の方が)」

「ええ、大丈夫ですよ兄上様」

「しかし、かなり派手に吐血しているようだが・・・・・・」

言ってる割には口の周りはもうスプラッター映画のような血がべっとりとこびり付いてるんだが。

「このくらいの吐血はお薬を飲めば一発ですよ」

「おい、まさかそのお薬ってのは『末端価格がグラム数万円のお薬』、ってやつじゃないだろうな?」

「心配しなくても大丈夫ですよ、どこでも売っているごく普通の市販のお薬ですから」

といって、鞠絵が取り出した薬瓶にはいろいろな種類の薬が入っていた。

「ごくごくごくごく」

「なあ鞠絵、まさかそれを飲んだらいきなりバーサーカーモードが発動する落ちってのも嫌なんだが」

「・・・・・・ハァ、ハァ、ア、アニ、ウ、エ、サ――」

「どこが市販の薬だよ!!十分にヤバイ薬ぢゃねえかよ!!!」

「オクレ兄上様ァァァァ!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ごめん、もう突っ込む気力もないんです」

薬瓶の貼ってあるラベルには『はいぱー・つよしスペシャル(強い体を作る)』の文字。

「トウトウ見つけマシタわ、"ニセ"オクレ兄上様ァァァァ!!!」

「現実がこれだもん、現実逃避くらいしたっていいよね?」

「マイネームイズゥ!オクレェェェ!!」

「嗚呼、そういえば、ZEROシステムとEXAMシステムってどっちが強いんだろう?」

「オクレマッスル・・・マッスルオクレ・・・」

今日はとっても鞠ヱな1日でした。


あとがき
みなさんはじめまして、作者のATSです。
これは他のHPに投稿した作品を少しだけ手直しした物です。
でも99%原文ママだったりしますがね。
なんだかかなり凄い鞠絵になってしまいましたが、私と同じ『たとえこんな鞠絵でも自分なら愛せるぜ!』というとっても"漢"な兄上様は果たして何人いるんでしょうか(爆)
それではみなさん、感想&苦情お待ちしています!
もちろん、コロニー風邪(ウイルス)やトロイのホワイトベース(木馬)はダメダメですのであしからず。

平成14年5月4日 作者ATS


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haraatsu@mail.goo.ne.jp

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