トップへ  SSの部屋へ 


「お兄ちゃん、今日はお兄ちゃんと約束した日ですよ。うふふっ、お兄ちゃん……」
小学校の校庭付近で、外灯に照らされて、一人の少女が、何度も止まっている腕時計を見てつぶやいていた。
周りには人影も見当たらなく、車すら走っていない。
静寂が支配するこの空間で、外灯だけがスポットライトのように、一人の少女を照らしていた………。
来るはずも無い兄を、ただひたすら待ち続ける少女は、今年も小学校の中でつぶやいている……。


ランデウ゛ー

作者:少年Aさん


数年前、この少女、可憐はこの小学校に通っていた。
いつも兄のことを自慢げに語り、友人は興味無い話なので適当に相槌を打っているだけという毎日だった。
学校が終われば、スグに兄のもとへ駆け出していた。
両親は他界して、家には兄と可憐しか居ない。
そんな状況でも、可憐は兄さえ居てくれればそれでよかったのだ。
実際、金に困る事はなかった。親の遺産が結構な額があったためだ。、
かけがえのない家族は兄だけだった。
そんな可憐はずっと兄といっしょに居れると思っていた。
大人になったら兄のお嫁さんになるのは自分しかいない、だから大人になってもずっといっしょだと信じていた。
兄は可憐にとってはそれほどの存在だったのだ。
可憐にとって兄の言葉はどんな国家の法よりも、兄の決定はどんな神の裁きよりも尊いものだった。
休みの日にでもなれば、一日中、兄にべったりとくっつき、そこらへんを散歩するだけでも、世界中で一番幸せ者だと可憐は思っていた。


ところが、そんな可憐も4年生にあがると、状況が変わってきた。
毎年行われるクラス変えで、いままでの友人とは別々のクラスとなった。そのことにより可憐の学校生活はつらいものになった。
親はいなく、いつも兄のことしか言わない。また、普段とてもおとなし性格で容姿もいい可憐を、
男子は構ってもらいたさから、女子は妬みから、ことごとくいじめた。
女子は、可憐のさわったものを、すべて見せ付けるようにゴミ箱へ捨てて、
男子は、可憐の筆記用具などを隠したりし、クスクス笑っていた。

可憐は兄に迷惑をかけたくないため、学校でいじめを受けている事を兄にだけは知られたくないと思っていた。
そのうち、いじめは酷くなっていった。。
可憐は、学校にいる間は、ずっと兄のことだけを考えていた
今日家に帰ったら兄と何しようか? どんな事を話そうか? こんなことは褒めてくれるか? などと、
想像をふくらませ、胸をはずませていた。
いじめが酷くなればなるほど、可憐は想像の世界に浸っていくようになった。

そんな日々が続いていったが、誕生日が連休とかさなってたときは、久しぶりに本当に幸せだと思えた。
連休の初日が誕生日で、一日中、大好きな兄といっしょにいられるのだ。
この日は可憐はおもいっきり兄に甘えた。
兄に、「どこか行こうか?」と聞かれれば、
「それじゃぁ、お兄ちゃんと遊園地にいきたいです。」
と、普段の連休でも迷惑だろうと思い言わなかった事も言えた。

可憐は、久しぶりに思いっきりはしゃいでいた。
兄は、まったく元気がなかった可憐が楽しそうにしているのを見て、ふぅっ、と安心した。
兄の前では笑顔を絶やさなかった可憐だが、やはり、兄には空元気ということがばれていたのだ。

家では誕生日ケーキを二人で食べていた。
「可憐、ほっぺたにクリームついてるよ」
と言って兄はそれをふき取って上げた。
可憐は幸せそうに「えへへ」と笑っていた。
そして、ケーキを食べ終わったとき、兄は可憐に腕時計をプレゼントした。
「どんなプレゼントにしようか迷ったけど、僕は小学生の頃は時計がほしかったし、今後、役に立つと思うから…、気に入らなかったかな?」
可憐は、とても嬉しそうに兄に抱きつき、「お兄ちゃん、ありがとうございます! 可憐、この腕時計、大事に大事にします!」
と嬉しそうに言った。
最近は、兄は高校受験を控えているので帰りも遅く、また、休日も忙しそうだった。
そんな状況だったので、この連休だけは、可憐にとって、とても幸せな連休だったのだ。


そして、その後もいじめは続いたが、可憐が5年生になると、友人と再びおなじクラスになり、
教員のほうも努力し、いじめはなくなっていった。
可憐は、また幸せな日々がもどると思った。
兄のほうも、無事に近くの県立高に入学でき、すべてがうまくいっていた。



可憐が小学校6年になったころ、クラスでのいじめは完全になくなっていた。
友達の数も増え、休みの日は兄と二人でどこかへ出かける。そんな日々が続いた。
「お兄ちゃん、あの、今年の運動会、見に来てくれませんか?」
ある日、可憐は兄にそう頼んだ。
今までピアノの発表会などは頼まれなくても見に来ていた兄だが、
運動会だけは部活の関系や色々な理由により見に行く事はできなかったのだ。
可憐自信も迷惑はかけたくないと、兄の予定を尊重した。それに可憐は運動は苦手なほうで、
100メートル走などではいつもビリっけつだった。
兄は「運動会って、次の日曜日だよね? うん、絶対に行くよ。」といった。
本当は学校でテストがあったが、可憐からのお願いだったので、兄は妹を優先した。

運動会当日になって可憐はとてもドキドキしていた。
いつもビリっけつだった100メートル走にでることになっている。
兄が見ているのでビリっけつだなんていうかっこ悪いところは見せたくないとあせっていた。
しかし、どこを見回しても兄の姿はなかった。
「お兄ちゃん、遅いな…」
そうつぶやいてるうちに可憐の出る100メートル走なった。
こうなったら遅れてきた兄に褒めてもらえるようにいい順位に入ろうと思った。
結局いつもと同じ順位だった。

お昼になっても兄はいっこうにあらわれなかった。
そのことが可憐をとてもがっかりさせていたが、まだ昼過ぎの6年生の見世物の時には来てくれると思うことで、少し元気がでてきた。
だが、そんな思いも担任からあることを伝えられたことにより、絶望に叩き落された。
「可憐さん! あなたのお兄さんが車にはねられて! とにかくすぐにタクシーを呼ぶから! 帰るしたくして!」

タクシーに乗り20分後、県内のある国立病院についた。
そこでまっていたのは、大好きな兄の死という非常な現実だけだった。
信号無視でさらに制限速度を圧倒的に超えた速度で走っている車は、
お弁当などを作っていて遅れてしまいあせって自転車をとばしていた兄に衝突し、そのまま走り去ったのだ。
ひき逃げ犯はすでに一人ひいたあと、逃げてる途中で兄をひいたのだ。
可憐は何が起きているのかが全く分からなくなっていた。
目の前の光景も分からない。霊安室の中で、いきなり訪れた事実を受け入れられないでいる。
しかし、時間がたつにつれ、兄が、大好きな兄が引き殺されたということを理解していった。
理解していった瞬間、さらに何がなんだか分からなくなり、頭はもの凄く混乱していった。
泣き叫び、暴れまわり、兄からプレゼントされた腕時計をつよく打ち付けて壊してしまい、
そのことによりさらに混乱し、ついに意識がおちた。
その後、ひき逃げ犯の女性が捕まり、裁判で2年の懲役という判決がでた。
可憐は兄の死からも何も無かったかのように生活していた。

そして、兄の死から3年たったある日、ひとつの事件が起きた。
とあるマンションで男性の刺殺体が発見されたのだ。
腹部に9箇所の刺し傷があり、凶器は現場にあった刃渡り18センチメートルの包丁であることが確認された。
さらに、被害者の血液でかかれたと思われるメッセージがあった。
『大切な人を 大好きな人を失った者がどんな気持ちか 分かりました?』

しばらくして、ひき逃げ犯の女性が自宅で首を吊り死んでいるのが発見された。
近所の話によると婚約者が死んでから、日に日にやつれていき、ノイローゼ気味だったそうだ。





可憐の時間は兄の死から腕時計といっしょで、止まっていたのだ。
あまりにもショックな事実を受け入れきれない状態で、
兄の死を理解している一方で、どこかで生きていて、運動会を見に来てくれるという約束を守ってくれると思い、ずっと待っているのだ。
何も無かったかのように生活していたのは、兄はどこかで生きていると思っていたからだ。
しかし、2年たち、兄をひき殺した女が出所したということを知ったとたん、
可憐は再び兄の死を受け入れざる終えない状況に追い込まれ、そして、そのとき、可憐のなかで何かが切れたのだ。
可憐は、普段はとてもおとなしくやさしい性格だが、そんな人ほど切れると何をするか分からないのだ。
兄の死を半分だけ受け入れ、半分拒絶している不安定な状態の可憐が導き出した答えは、相手にも同じ思いをさせる事だった。
その女の周りの人からいろいろと聞き出し、婚約者の存在を知り、またその婚約者がどんな奴なのかも知り、
可憐は家族は兄だけでありその兄も死んでしまい、全てにおいてどうでもいいと思っていると、
今度は婚約者の同情心に訴えかけて近づいたのだ。
そして、その男からターゲットである女のことを教えてもらい、
どのくらい打たれ弱いのかなどを詳しく知る事ができた。
また、ちょうど結婚するのが兄の命日から4日後であることを知り、
計画を完全に練り、何度も兄の命を奪った相手が、苦しむさまを想像し、そのことにより、さらに計画が練られた。
そして、兄の命日に、その婚約者を殺したのだ。




可憐はまた、兄を待ち続ける。
いまだに兄の死を受け入れきれない状態で、今年こそはと、ひたすら待つのだ。
毎年、兄の命日に、約束の小学校で、プレゼントされた大事な、お気に入りの腕時計をして、ひたすら兄を待つのだ。
かけがえの無い、大事な、大好きな兄を、少女は今でも待ち続ける。
「お兄ちゃん、今日はお兄ちゃんと約束した日ですよ。うふふっ、お兄ちゃん……」
小学校の校庭付近で、外灯に照らされて、一人の少女が、何度も止まっている腕時計を見てつぶやいていた。
周りには人影も見当たらなく、車すら走っていない。
静寂が支配するこの空間で、外灯だけがスポットライトのように、一人の少女を照らしていた………。
来るはずも無い兄を、ただひたすら待ち続ける少女は、今年も小学校の中でつぶやいている……。


少年Aさんへの感想はこのアドレスへ
syounen001@hotmail.com

トップへ  SSの部屋へ